(この記事は、2024年10月28日に配信しました第408号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「3か月でマスターするピアノ」というテレビ番組のお話です。

真夏のうだるような暑さも過ぎ、朝晩は肌寒く、秋真っ盛りの今日この頃です。秋と言えば「芸術の秋」。私も、気が付けばコンサート3つに映画、そして展覧会へ行く予定をしており、芸術の秋を満喫したいと思います。

そんな芸術の秋を意識してなのか、はたまた偶然なのかは定かではありませんが、NHKで10月からピアノの新番組が始まりました。その名も「3か月でマスターするピアノ」です。番組がスタートする前から気になっていましたが、ピアノ教室にいらっしゃる生徒さんで、「3か月でショパンの革命が弾けるようになるっていう番組が始まりましたよね」と、何人もの方がお話されていました。ご自身がピアノを弾くだけでなく、日頃からピアノや音楽について興味を持たれ、楽しまれている気がして、ちょっと嬉しい気持ちになったものです。

この番組のホームページには、ショパンの名曲「革命」がたった3か月で弾けたなら…とか、全くの初心者でも3か月でジムノペディ第1番をマスターできるとあり、見た瞬間に私も大変驚いたものです。

これまで「革命」も「ジムノペディ第1番」も、何人もの生徒さん方にレッスンをしてきましたが、3か月で「革命」を弾けるようになった生徒さんは、小学生の時から毎週ピアノのレッスンに通って、なおかつ発表会に間に合わせようと頑張って練習をした中学生や、子供の時から中学生くらいまでピアノを弾いていて、いったんはピアノから遠ざかったものの、大人になって時間が取れるようになり復帰された方や、同じく子供の時からピアノを習っていて、音大進学まで考えていたような方などです。「ジムノペディ」についても、ある程度ピアノのレッスンをされてきた方が弾かれることが殆どですし、全くの初心者に「ジムノペディを弾きましょう」と提案するには、結構ハードルが高いと思っています。そのため、本当に3か月で「革命」が弾けるようになったり、全くの初心者が「ジムノペディ」を弾けるようになるのか大変興味深いですし、レッスンをされるピアニストの本田聖嗣さんの最短のマスター法を伝授という文言にもつられて、見てみました。

もう既に第4回を終えているようですが、今回は、第2回目の「楽譜は作曲家からの手紙」という副題の番組を見てみました。

番組では、初心者のレッスンとして、「ジムノペディ」のレッスンからスタートしました。先生が、冒頭部分のメロディーを弾いた後に、ポイントとして「慌てて音符を追いかける前に、楽譜をじっくり味わう」ことを挙げていました。ピアノを弾こうと思うと、まず最初に音を見てしまいますが、楽譜は大事なことから先に書いてあると解説していました。

ちなみに、「ジムノペディ」というよくわからない言葉は、作曲者のサティが作った造語で、古代ギリシャの神々をたたえる祭典「ジムノペディア」に由来すると言われています。そして、楽譜の最初の小節の上に、フランス語で「ゆっくり、そして痛く」と書いてあります。心が痛いという意味なのか、どういう痛さなのか永遠の謎で、サティはよくわからないことを書くことがあるという話をされていました。具体的な例として、「トルコ風チロル舞曲」という曲を作曲していますが、チロルはオーストリアなのに何故トルコなのかと話していて、生徒役の方々も大笑いしていました。「謎は多いけれど、楽譜というものは作曲家からの手紙であると言えますね」という先生の言葉に、生徒役の方が「良い言葉」と感心している様子でした。

作曲家の意図がわかりましたら、音読みに進みます。

「ジムノペディ」の楽譜は6ページありますが、まずは最初の1ページ目であるAパートを習います。楽譜の大譜表の見方を解説して、一音ずつメロディーの音を読んでいました。ここでは、「慣れるまでは、ドレミを書き込んでもOK」「指番号通りに弾くのが上達への近道」と、2つポイントを挙げていました。

私もレッスンを行っている時に、生徒さん方に「音が急に高くなったり、低くなったりして音が飛んでいる時や、何回弾いても覚えにくいとか間違える場合には、音名を書いて覚えてしまった方が早く弾けるようになりますよ」とお話をしていますので、同感です。指番号についても、弾く度に変わってしまうと、結局どの指で弾くのかが決まっていないので、いざというときに迷ってミスにつながることがありますし、指番号を守ることで、自然とレガートに弾けたり、次の音を探しやすかったりもします。

番組ではその後、先生が右手をお手本として弾いている映像が流れていました。手元がアップになっているので、初心者の方にはかなり参考になるのではと思います。そして、生徒役の方が弾いていましたが、きちんと指番号を守って弾いていました。「指を準備して、しっかり打鍵して。他の音の時には離すということをすれば、必ず弾けるようになります」と先生が解説をしていて、生徒役の方も少しほっとされている様子でした。

楽に弾けるテクニックとして、「指の持ち替え」についても少し細かく解説をしていました。指の持ち替えは、指替えなどとも呼ばれますが、ある指で打鍵して音を伸ばしたまま他の指に変えるテクニックです。番組では、持ち替えをしないで弾いた場合と、持ち替えをして弾いた場合との比較を、2方向の手のアップの映像を流し、生徒役の方もチャレンジしていました。

そして、ピアノを弾くときの手について、「細いペンがここにあった時に、人間は自然にこのように取ります」とジェスチャーを交えながら説明をしていました。「この動きは、自然かつ一番微細な動きなのです。なので、細いペンを掴むように弾くというイメージで手を動かせばいいと思います」と話をされていて、生徒役の方と同じように私も頷いてしまいました。ピアノを弾くときには、指を丸くしてとか、指先で弾くなどと表現することが多いですが、細いペンを掴むようにという説明の方が、わかりやすい気がして、とても勉強になりました。

その後、次の箇所であるBパートの練習をして終わりました。先生も「1週間練習を積むと、片手なら全然俺、サティ弾けるし、と言えるようになりますよ」と話されると、生徒役の方は満面の笑みで「じゃあ頑張ります」とにこやかに答えていました。

次に、ピアノ経験者向けレッスンとして、ショパンの「革命」のレッスンになりました。「千里の道も一歩からですから、今日はメインテーマの左手を練習していきましょう」という先生のお話から始まりました。先生のお手本の演奏を聞いた後、「同じ音型を使っているところも多く、思ったほどバリエーションも多くないので、ここが弾ければ、ここも、ここも弾けます」という先生の解説を生徒役の方が熱心に聞いていました。よく出てくる2つのフレーズを学んで繰り返すことで、難しそうな「革命」も楽に弾けるようになるというところがポイントなのだそうです。

次に、曲の序奏部分に注目してみると、同じフレーズの繰り返しになっていることに気が付き、生徒役の方にも少し笑顔が出てきていました。「ここまで弾けてしまうと、練習がお得な感じで進む曲ですね」という先生の話に、生徒役の方は笑顔どころか噴き出して笑っている状況でした。

序奏の練習としては、2431という指使いかがポイントで、この指使いで、序奏の左手が殆ど弾けてしまうと解説されていました。つまりパターン化されていることに気が付けば、意外となんとか弾けてしまうということなのですね。

序奏部分を弾くときのポイントとして、「バスのワイパー理論」の説明がありました。鍵盤に対して、まっすぐ手を置いて弾くこと(正対して弾くという言葉を使っていました)で、ポジショニングがよくなり弾きやすくなるというのです。

楽譜についても解説があり、「楽譜には、速く、火のようにと書かれていますが、燃え盛る火みたいに弾くことはプロのピアニストに任せて、火のような心を持ってなるべく速く弾くという事を目指していけばよいのでは」とお話をされていました。

ショパンの「革命」が、見た目より弾きやすい理由は、天才ピアニストだったショパンが、とても考え抜いて、弾きやすいように曲を書いているからなのだそうです。独自の表現を追求していたショパンは、19世紀に主流だった機械的な練習に懐疑的で、指をうまく動かすことだけが目的ではない「革命」などの芸術的な練習曲を生み出したのです。

まとめコーナーでは、「最初から上手に弾けなくても大丈夫。楽しみながら大人流のピアノを学びましょう」というメッセージも紹介されていました。これで、かなり気が楽になりますね。

生徒役の方も「達成感が生まれて、楽しみになってきて、これぞ大人の学びなのかなと思いました」と感想を話していました。

今後の展開が気になる番組でした。

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(この記事は、2024年10月14日に配信しました第407号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、音楽を習うのにふさわしい年齢についてです。

お子様の習い事を考えるとき、今でも音楽やピアノを挙げる方は多いようです。先日、小学生の生徒さんが、小学校の音楽会の合奏でピアノの伴奏者を決めるオーディションの話をしていましたが、ピアノ伴奏をやりたいと手を挙げた生徒さんがとても多く、まずはクラス内のオーディションをやり、そこで選ばれた人達で学年全体のオーディションをするという話をしていて、大変ビックリしました。

一昔前は、先生ご指名だったり、やりたい人が集まって話し合いやじゃんけんで決めるなどの方法で合奏の楽器担当や、合唱のピアノ伴奏者を決めていたように思いますが、近年ではどこの学校でもオーディションで選んでいるようです。そのため、オーディション自体には驚きませんが、コンクールの予選、本選のように、複数回のオーディションが開催されて、それを勝ち抜いていかないと選ばれないという希望者の多さに驚きました。

そんなときに、『音楽の習いごと ふさわしい「子どもの年齢」と「教室の選び方」を名ヴァイオリニスト・篠崎史紀氏に聞いた』という記事を見つけ、「これは読まなくては」と思い読んでみました。

インタビューに取り上げられていたのは、ヴァイオリニストでNHK交響楽団の特別コンサートマスターをされている篠崎史紀さんで、演奏活動の他、子供に音楽の楽しさを教える活動もされているそうです。今年の4月には、「おんがくはまほう」という絵本も初刊行しています。

篠崎さんは、「音を鳴らして神様に感謝の祈りをささげるために音楽は誕生し、その後自分の感情を伝えるコミュニケーションの手段として発展した。優劣がなく平等なので、大人が手を抜くことなくありのままで子供と向き合えるところが、音楽の良いところ」とインタビューの中で答えていました。また、クラシック音楽だけでなく、童謡や民謡など世代に関係なく同じように感じて演奏できるので、ジェネレーション・ギャップが無いところも音楽の良い点として挙げていました。

考えてみますと、はるか昔の時代にウィーンに生まれたモーツァルトやドイツのベートーヴェン、ポーランド生まれでパリで活躍したショパンなどのピアノ曲を、現代の日本で、いろいろな年代の生徒さん方が「良い曲ですよね~」と感動しながらレッスンしているのですから、ジェネレーション・ギャップだけでなく、国を超え時空まで超えて素晴らしさを共有していることになります。

篠崎さんは、3歳からヴァイオリンを始め、「ヴァイオリンが弾けると世界中に友達ができるよ」と両親に言われて育ったそうですが、「その言葉は本当だったなあ」と感じているそうです。人種や宗教が違ったり言葉が通じなくても、一緒に楽器を弾けば友達になれるので、人類最強のコミュニケーションツールだとも話していました。

小川の音や鳥の声など自然界に存在する共振共鳴音を、人工的に作れるのが楽器や人の声なのだそうです。共振共鳴音は、脳波が安定して気持ちが落ち着いてリラックスするものなので、お子様にはクラシック音楽を聴かせることを推奨しますと、お話しされていました。ただし、このお話には続きがあり、クラシック音楽の良さは、年齢を追うごとにわかるものなので、特にお子様が小さいうちは無理に聴かせる必要はないとのことです。親がクラシック音楽を聴いていれば、お子様もだんだんと興味を持つかもしれないとも答えていました。

ちなみに、共振共鳴音の反対は、強制振動音で工事現場の音などが当てはまります。気持ちがイライラして脳が疲れてしまい、心もストレスを抱えてしまうのだそうです。コンサートなどで、座り心地の良いシートで美しい音楽を聴いて、ついウトウトしてしまうのは、共振共鳴音で究極にリラックスしているわけですから、仕方がないことなのかもしれませんね。

さて、音楽を習い始めるのに適した年齢とは?という質問に、篠崎さんがどのように答えたのか気になるところですが、「何歳から始めてもいいし、大人になってからでもいいと思います」とのことでした。音楽は、誰もがプロを目指すためにやるのではなく、コミュニケーションツールであり、音楽を始めるに遅い年齢はないのだそうです。

ピアノ教室にいらっしゃる生徒さん方を見ていますと、以前ピアノを習っていた方よりも、ピアノを初めて習う方のほうが多く、幅広い年代の方がいらっしゃいます。60代、70代の方が初めてピアノを習いにいらっしゃる事も、よく見られる光景です。私も、このように生徒さんに話していますが、やはり長年ヴァイオリン界の第1線で活躍されている篠崎さんがお話されますと、がぜん説得力がありますし、励まされる方も多いのではないでしょうか。

篠崎さんは続けて、次のようにもお話されています。「子供が、音楽と出会うチャンスは親が作るもので、クラシックコンサートに連れてい行ったり、目の前で楽器を演奏したり、音楽を好きになるきっかけを親がたくさんちりばめたら、子供は興味を持って動き出します。うちの子にはまだ早いなど、親がタイミングを見極めていたら、いつまでたっても出会いのチャンスはめぐってきません。」

このお話を聞きますと、思い当たる節がある方もいらっしゃるかもしれませんし、私も実際に体験レッスンなどでレッスンを始める年齢について時々聞かれます。今、気になった時がチャンスと捉えて、フットワーク軽く、とにかく始めてみる事が大事なのですね。

インタビューの最後には、先生との相性も大事で、直感でしかないけれど、子供と合う先生であれば、憧れの対象ができるから楽しく音楽を続けられると思います」と話をされていました。レッスンをしている立場からすると、憧れの対象になるべく、日々精進の大切さを改めて感じました。

インタビュー記事は連載になっていて、練習しない等、子供が音楽の壁にぶつかった時の親の対応についても書かれているようなので、また読んでみようと思います。

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(この記事は、2024年9月30日に配信しました第406号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、クロード・ドビュッシーのお話です。

クラシックTVというテレビ番組で、クロード・ドビュッシーを取り上げていたので見てみました。司会者の清塚さんがアレンジしたドビュッシー作曲「月の光」のピアノ演奏で、番組はスタートしました。

番組ゲストは女優の成海璃子さんで、映画でピアニスト役をされていた時に、ピアノの指導が清塚さんだったという関係があるそうです。大の音楽好きと紹介されていました。成海さんは、5歳くらいからピアノを習っていたそうですが、数年で止めてしまい、その後はピアノを弾く機会がなかったそうです。しかし、コロナが流行した時にピアノを再開し、ラグタイムを練習しているという成海さんに、清塚さんが「え~っ!」と言って、ちょっと話が盛り上がっていました。ラグタイムは19世紀末頃、北アメリカで生み出された黒人音楽に影響を受けた音楽ジャンルで、スコット・ジョブリン作曲の「エンターテイナー」がとても有名な作品です。清塚さんがラグタイムもクラシックに取り入れたのは、ドビュッシーではないかという話をしますと、もう一人の司会者で歌手・モデルの鈴木愛理さんと成海さんがとてもびっくりしていました。

ドビュッシーの印象について、成海さんは、「テレビやコマーシャルで何回も聴いたことがある有名な曲ばかりで、有名な曲が多くて聴き覚えのある曲ばかりだなあという印象がある」と答えていました。

番組では、ドビュッシーの代表曲として「ベルガマスク組曲」から「月の光」のピアノ演奏を見ながら、「メロディーとも言えないような音楽で、口ずさむような音楽でもないし、不思議な感じがする音楽ですね」と清塚さんが解説していました。確かに、ベートーヴェンやモーツァルトのように覚えやすいメロディーという訳ではないですね。また、ハープ演奏で「アラベスク第1番」、ピアノ演奏で「亜麻色の髪の乙女」が流れますと、「美術館に行っているような気分がしますね」という解説や「天才だなっと思いますね」という感想も出てきていました。

ドビュッシーがどんな作曲家なのかという質問に、清塚さんは、とても困っている表情を浮かべつつ、「一言で説明するのは難しいよ。だけど、テレビだから仕方なく一言でいうと、音楽で絵を描いた人」と答えていました。司会の鈴木さんが、笑いながら直ぐに「えっ、どういうことですか?」と聞き返し、成海さんは、「絵を描く?!」と不思議そうな表情を浮かべていました。確かに、「?」と思う方も多いかもしれません。「音楽を鑑賞しているというより、映像を観ているような気分に不思議となっていますよね。ビジョンやイメージで、絵を音で描くところが、ドビュッシーのすごいところだなあと思いますね」という清塚さんの言葉に、「うん、映像が浮かんできますよね」「目を閉じたくなる感じ」と鈴木さんも成海さんも頷きながら感想を話していました。

ドビュッシーは、1862年にパリ近郊の町で生まれましたが、この頃のパリは経済的にも政治的にも不安定だったそうです。ドビュッシー家の生活も影響を受けていたようです。ドビュッシーは内気で不愛想な性格だったそうで、番組では幼少期のドビュッシーの写真も紹介されていましたが、少し気難しそうな雰囲気でした。学校帰りに、同級生が安いお菓子を一杯買って、ほおばる中、ドビュッシーはおしゃれなパイやキャンディーを少量だけ買うような子供だったそうです。

ドビュッシーに運命の転機が訪れたのは、カンヌに住む叔母の家を訪れた時です。そこで、これまで触れたことがないピアノに出会い、叔母がコレクションしていた絵画なども初めて目にし、ドビュッシーは大きな感銘を受けたそうです。そして、パリに戻ると、ピアノを始めてわずか10ヵ月でパリ国立高等音楽院に入学したそうです。すごい天才ぶりですね。しかし、気難しい性格だったために音楽院に馴染むことができず、友達も音楽家ではなく別のジャンルの人ばかりだったそうです。叔母の影響で目覚めた美術への興味と、音楽以外の交友関係がドビュッシーの音楽に重要なものだったようです。

番組では、ドビュッシーの交友関係をまとめて紹介していましたが、特に美術界では、ドガ、ルノワール、ドニ、ロダンなどの名前が挙がっていました。有名人ばかりで驚きますね。この頃のパリは、芸術家たちが集まっていた時代で、カフェで朝から晩までずっと芸術談義をみんなでしていたそうです。成海さんに交友関係について聞きますと、「ミュージシャンの方で、仲良くさせてもらっている人が多いですね」と答えていました。直ぐに、「じゃあ、女優仲間はそんなにいないの?」と冗談で聞くと、成海さんは大笑いしながら「うん」と頷いていて笑いが起きていました。「ドビュッシーと一緒だね」「別のジャンルの友達が多いんですよね。なんでですかね」と成海さん自身も驚いていました。「別のジャンルの方のお話を聞いている方が、勉強になったりするよね」「なんかわかる気がしますね。違うところからもらう感性の方が、吸収できたりしますよね」と話がどんどん盛り上がっていました。

番組では、ドビュッシーの音楽と絵画の深い関係について、当時ドビュッシーが出版した楽譜の表紙を3つを紹介していました。

1つ目は「選ばれた乙女」という作品の楽譜で、この作品自体も絵画から着想されたもので、画家のドニに表紙の絵を発注する程こだわりがあったようです。2つ目は「交響詩 海」という作品の楽譜で、日本の浮世絵を表紙に使っています。ドビュッシーは、自分の書斎にも同じ浮世絵である葛飾北斎の作品を飾ってました。3つ目は、「子供の領分」という作品の楽譜で、この表紙はなんとドビュッシー自身が描いたのだそうです。この「子供の領分」の作品の中にも、成海さんが練習しているラグタイムの音楽に通じるものがあるという感想も飛び出していました。

「楽譜の表紙にもこだわるという点でも、ドビュッシーの美的感覚と、絵で作品の内容を象徴している事がわかりますね」という清塚さんの解説に、成海さんも頷いていました。絵画と曲が強く結びついているドビュッシーは、異国への興味も持ち合わせていました。先程紹介した書斎に浮世絵を飾るだけでなく、仏像まで所有していたそうで、エキゾチックな要素を自身の作曲に取り入れていました。例えば、「金色の魚」という作品は、日本の絵画で、金で描かれた魚から影響を受けたそうですし、「アラベスク第1番」は、イスラム美術のアラベスク模様から着想を得て作曲したのだそうです。

番組では、いろいろな文化を音楽に取り込んでいる異国情緒を投影している部分を、清塚さんが生演奏しながら紹介していました。「アラベスク第1番」では、曲線が連なるアラベスク模様を作品で表していて、清塚さんの演奏を聴いて「出口のない感じ」「糸を巻いているような感じ」「細い感じ」と次々と成海さんと鈴木さんが感想を話していました。

「塔」という作品は、パリ万博でドビュッシーがインドネシア・ジャワのガムラン音楽に感銘を受けて作られた作品です。番組では、なんとドビュッシーがパリ万博で聴いたとされる「クボギロ」という作品を生演奏で披露していました。初めて聴きましたが、音楽の雰囲気が「塔」のピアノ曲の雰囲気に通じるものがあるなあと感じました。とても癒される音色でした。ガムラン音楽の演奏者が、使用された楽器についても解説していました。青銅という金属で作られた楽器で、ひとつずつの楽器の調律をわざと微妙にずらしていて、それによって全体の余韻に「うねり」を生み出しているのだそうです。「そのうねりが、西洋音楽には無いエキゾチックさを生みますよね」と清塚さんも感心しながら感想を話していました。「高音で細やかに旋律を描き、時々低音でゴーンという名前の大きな鐘のような楽器を叩くのを、この様に表現しているのではないか」と、清塚さんがお話しながら演奏していました。「これを聴くと、確かにガムラン音楽を表そうとしていることがわかりますね」と話をしていて、私も頷いてしまいました。

「亜麻色の髪の乙女」や「雨の庭」についても、清塚さんは以下の様に語っていました。

「亜麻色の髪の乙女の冒頭のように、メロディーでもあり和音でもあるものが一本に繋がり、それが細くなびいている感じがして、行ったり来たりしている様子も情景が浮かびます。この冒頭部分を聴くだけで、あたたかい色に包まれた絵画で、繊細で美しい方がたたずんでいる様子が、共通のイメージとして浮かびますね。これがドビュッシーのすごいところなんだよね」

「版画という組曲の中に「雨の庭」という曲があるのですが、結構雨が降っている感じで、床にたたきつけるような雨の感じで、絵画でいうと、土とか床に雨が降っている一瞬の様子を表していて、マイナーな和音を使って、同じ音を連打で使う感じが、バタバタとした躍動感を感じて、音楽でビジョンを表現していて、すごいね」

「絵画を観るときの感覚までをも音楽で表現していて、まさにデザインや絵を描くように音を配置していて、これまでになかった作曲方法を使用して、音楽でイメージを与えてくれていて、こういう和音やリズムの作り方がジャズやロックやポップスにも影響を与えたんですね」と清塚さんが熱く語ると、成海さんも「ドビュッシーって偉大ですね。ピアノという楽器で、ここまで表現できる、表現の可能性に刺激を受けた」と感想を話していました。

西洋の音楽に、東洋の音楽を取り入れたり、絵画的な要素を取り込んで新しい音楽作りをしたドビュッシーの素晴らしさを改めて感じた番組でした。

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