(この記事は、第258号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、コンサートホールのお話です。
以前は、コンサートホールというと、講演会など音楽以外のさまざまな発表の場にも使用できる多目的ホールが主流でしたが、近年では音楽専用のホールがかなり増えてきました。しかも、国際的にみてもよい響きのホールが多いようです。
プロのコンサートもさることながら、音楽教室の発表会やちょっとしたコンサートを開催する際にも、大小さまざまなコンサートホールがあり、選ぶことができるのは大変嬉しいものです。
コンサートを開く際には、来年〇月あたりとおおまかな時期を決めてプログラムを考え、場合によってはメンバーを集めて早速練習を始めます。逆に、曲目を決めて練習を始め、その進み具合を見ながら時期を決めるというパターンもあります。
そして、開催時期を決めた後は、会場選びです。この時に重要なのが、ホールについてのさまざまな情報です。
まず、ホールのサイズが重要となります。いくら良いホールでも、大きすぎて客席がガラガラというのは避けたいものです。
それ以外にも、あそこのホールは音響が良いとか、会場の内装が豪華とか、どこのメーカーのピアノが置いてあるなど、ホールのことだけでなく、ロビーや控室の環境についても情報を収集します。
そして、最終的なホールの候補をいくつか決めて、ホールの抽選会に足を運び、運がよければ希望の日時に使用できるというわけです。
プロの演奏家の場合には、コンサートの主催者が内容やプログラムなどを持ち込み、演奏家と曲目などの擦り合わせを行うわけですが、その時には既にホールは決まっているものです。プロの演奏家やそれに携わっている関係者は、日本全国、またさまざまな国に出かけてはホールでコンサートを行っていますから、各ホールを熟知しているわけです。
では、プロのピアニストや音楽評論家などから高評価を受けているホールはどこかといいますと、東京にある東京文化会館、サントリーホール、府中の森芸術劇場ウィーンホール、津田ホール、浜離宮朝日ホール、紀尾井ホール、東京オペラシティコンサートホール、埼玉県にある川口総合文化センター・リリア音楽ホール、大阪にあるいずみホール、北海道にある札幌コンサートホール kitara なのだそうです。
その理由は、以下の通りです。
東京文化会館は、どんなオーケストラでもきちんと響かすことができるので、オーケストラの実力がわかる。
サントリーホールは、オーケストラの音が美しく響くだけでなく、室内楽やピアノ、声楽にも適していて、残響が良く音に包まれる感覚が味わえる。
府中の森芸術劇場ウィーンホールは、舞台上の響きがよく、残響が客席の後ろまでしっかり響き、特に真ん中から後ろの席の響きがよい。
津田ホールは、直接出てくる音と反響した音のバランスがよく音が明瞭に聴こえてくる。ピアノと声楽が特に良い。
浜離宮朝日ホールは、音が心地よく響いて、ホールのピアノもよい。
紀尾井ホールは、年月を重ねて響きが落ち着いてきて、どこの席に座っても純度の高い音を聴くことができる。室内楽やピアノ、声楽に適したホール。演奏者によって、音の響きの良しあしを助長するホール。
東京オペラシティコンサートホールは、音の透明感と豊醇な響きが魅力的で、よく響いて、演奏の良しあしが鮮明に聴こえてくる。教会の中にいるような空間。
リリア音楽ホールは、どこの客席からでも柔らかく温かい音が聴こえて、まんべんなく残響が響き、一番前の席でも響きがよい。
いずみホールは、ステージ上の音と客席で聴く音の差が少なく天候などの影響が少ない。
札幌コンサートホール kitara は、柔らかく透明で上質な音の響きが聴こえる。音響だけでなく、緑豊かな公園内というホールの立地環境が魅力的。
これらを見ただけでも、ホールによってかなり違いがある事がわかりますね。
演奏を聴く立場としては、どの席からもよい響きというのは魅力的ですが、演奏する立場から見ると、実力がもろにわかってしまうというホールは、かなり怖い気もします。また、大きなホールほど良い席とそうではない席の差が出てきますし、〇〇ホールの〇列の〇番の席に座ると、ある高さの音が聴こえないとか、□□ホールなら1階席が良いとか、△△ホールは2階席の△番がよいなど、かなり細かい話もあったりします。
ちなみに、よく知られているところでは、ピアノリサイタルの場合、ホール向かって右側の席がよいと言われています。ピアノの蓋が開いている方向なので、音が飛んでくるのですね。ピアニストの指の動きを見たいという方が多いらしく、チケットは左側の席から売れていくそうですから、ちょっと通っぽい買い方になるかもしれません。
コンサートは、日時や曲目、演奏家、アクセスなどを見て出かけるわけですが、ホールそのものにも注目しながら音楽を聴くのも、また違った視点で楽しめるのではないでしょうか。
いろいろなホールのいろいろな座席を試してみながら、ご自身の好みの音が聴こえる席を探していくのも楽しそうですね。
(この記事は、第257号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「ピアノは楽器の王様」のお話です。
先日、大人の生徒さんが、「この前、ピアノのことをいろいろと説明している番組を見ましてね。ピアノって、本当にすごい楽器ですね。」と感心しながら話していました。たまたま、その番組を録画してあったので、早速見てみました。
10月7日に放送された「関ジャム 完全燃SHOW」で、この回は、ピアニストの清塚信也さんが登場し、「ピアノは楽器の王様なんです」とピアノの魅力について実演を交えながら楽しく解説しました。
清塚信也さんは、以前クラシック音楽ブームとなった「のだめカンタービレ」のテレビドラマで、主人公「のだめ」が尊敬する千秋先輩のピアノ演奏の吹き替えを担当したことで、一躍有名になりました。
清塚さんは、「ピアノは楽器の王様」という理由を、3つに分けて説明していました。
1.オーケストラ全楽器の音域が出せる
ピアノは、88鍵あります。鍵盤数を、これ以上増やすことも可能ではありますが(現に97鍵のピアノも存在します)、人間の耳には聞こえにくい音域になっていくため、この鍵盤数で落ち着いています。
他の楽器の音域を見てみますと、フルートは3オクターブ、ヴァイオリンは4オクターブ、チェロは3オクターブと5つ、ハープはかなり音域が広いのですが、それでもピアノにはかないません。
ピアノは、他のどの楽器よりも音域が広く、オーケストラ全部の楽器の音域を網羅しているのです。この音域を利用して、モーツァルトやベートーヴェンなどは、オーケストラの曲を作曲する時も、ピアノを主に使っていたと言われます。
番組では、ピアノの音域を生かした曲として、リスト作曲「カンパネラ」の一部を演奏していました。広い音域で演奏しますと、とてもゴージャスな感じになります。
2.音量を自由自在に変えられる
音量を変えられるということは、表現の幅が広がることに繋がります。これを生かした曲として、サラサーテ作曲「ツィゴイネルワイゼン」の一部を演奏していました。ピアノが出せる音量をヴァイオリンで出そうとしたら、40人から50人は必要になるのではないかとのことです。
3.同時に複数の音が出せる
ピアノ1台で、メロディーも伴奏も演奏できることになります。ピアノ曲を演奏することは、メロディーと伴奏を一人で二役こなしていることになります。ちなみに、ピアノの一度に弾ける音の数は、鍵盤の押さえ方によって、さまざまなヴァリエーションがあります。
続いて番組では、ピアノの誕生について話していました。
ピアノが誕生したのは、1800年代~1900年代です。ヴァイオリンの誕生が1500年代ですから、ピアノは意外に歴史が浅いことになります。
しかし、鍵盤を押して音を出す楽器の総称である鍵盤楽器は、紀元前からあり、最古の鍵盤楽器は、水力を利用して音を出すオルガンでした。加圧した空気をパイプに送って音を出す仕組みになっているため、長く音を出すことが可能ですが、音の減衰が遅く、素早く音を出すこともできません。かなり大型の楽器で、当然持ち運びもできませんでした。
ヴァイオリンと同じ1500年代には、チェンバロという鍵盤楽器が誕生します。チェンバロは、弦を弾いて音を出しますので、オルガンと異なり短い音を出すことが可能になり、音の減衰も早くなります。持ち運びも可能です。
ちなみに、チェンバロの鍵盤は、ピアノの鍵盤と色の配置が真逆になり、黒い鍵盤が多くなっています。その理由については、演奏する貴族の令嬢の手がきれいに見えるようにとか、黒い鍵盤の材料となる黒檀が多く採れていたなど諸説あります。
音楽の歴史では、科学や楽器の発展と共に、音楽家のスターも誕生しました。
チェンバロが登場した当時の偉大な作曲家というと、バッハです。トリルなどの新しいテクニックも誕生し、ショパンなど後の作曲家の作品にも生かされています。
1700年代には、フォルテピアノが誕生しました。構造的に現代のピアノとほとんど変わらず、弦をたたいて音を出す構造なので音の伸びも長くなり、音の強さも変えられるようになりました。
ちなみに、フォルテピアノという楽器の正式名称は、「クラヴィチェンバロ コル ピアノ エ フォルテ」となり、強弱をよりつけられるチェンバロという意味になります。
強弱がつけられるようになったことで、表現の幅が広がり、ベートーヴェンが誕生しました。番組では、音の強弱を生かした曲ということで、ベートーヴェンのピアノソナタ「悲愴」の一部が演奏されました。
1800年代に入り、産業革命により鉄の普及とともに、現代のグランドピアノが誕生します。グランドピアノの弦を張る力は、1台でおよそ20トンあり、当時は木や真鍮、銅などで支えていたのですが、思いっきり強い音を出すとすぐに破損していたそうです。しかし、産業革命によって鉄が普及し、ピアノのボディと素材が強化されていきました。
ピアノの弦を思いっきり引っ張っても大丈夫になったことで、より高い音が出せるようになり、弦を思い切りたたいても大丈夫になったことで、より強い音が出せるようになりました。
その後、番組では、ピアノのスーパープレイが披露されました。
まずは、高速連打ですが、清塚さんは1秒間に約12回もの連打をしていました。さすが凄いテクニックのピアニストです。
アルペジオという和音を1つずつばらして弾くテクニックを披露する時には、X JAPAN の「Forever Love」の曲を、目をつぶって演奏していました。
グリッサンドという、鍵盤を滑らせて音階を上げ下げして弾くテクニックを披露する時には、オクターブの重音でも披露されていました。これもかなりの高度なテクニックです。
ちなみに、グリッサンドというと、白鍵で弾くイメージがありますが、黒鍵でも弾きます。白鍵よりも、より華やかな音が出てきます。
清塚さんは、先日フィギュアスケートの羽生結弦選手と共演されたそうですが、その時には羽生選手のスピンに合わせて、白鍵のグリッサンドと黒鍵のグリッサンドを同時に、しかも3回連続して演奏したそうで、番組でも披露していました。ゴージャスそのものという感じでした。
番組を見て、生徒さんと同じく、ピアノという楽器の素晴らしさを改めて感じました。
当時、最先端の楽器と、それを最大限に生かしたテクニック満載の音楽を作曲した音楽家の両方が揃って、ピアノは進化してきたのですね。
ピアノの魅力をさらに感じながら、常に新鮮な気持ちで、演奏をしていきたいと思いました。
(この記事は、第254号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、バレエとオーケストラのコンサートのお話です。
先日、「青島広志のバレエ音楽ってステキ!」というコンサートに行ってきました。
青島さんは、東京芸大・同大学院を主席卒業され、「題名のない音楽会」「世界一受けたい授業」「たけしの誰でもピカソ」など、数々のテレビ番組にも出演されている作曲家&演奏家で、マルチアーティストとも紹介されています。個性的な衣装と、少々早口で人柄の良さを感じさせる話し方は、印象が強く、お名前や顔をご存知の方も多いと思います。
今回のコンサートは、バレエ付きなのですが、バレエを披露されるのはKバレエカンパニーのダンサーです。
Kバレエカンパニーは、イギリスのロイヤルバレエ団のプリンシパルを務めていた熊川哲也さんによって創設されたバレエ団で、古典バレエを重点にしつつ、新作も毎年発表されています。
熊川さんは、若手バレエダンサーの登竜門といわれているローザンヌ国際バレエコンクールで、日本人初の金メダルを受賞し、東洋人として初めてイギリスのロイヤルバレエ団に入団、史上最年少でソリストを務め、その後プリンシパルに昇格しました。5年ほどプリンシパルを務められたのちに退団し、自らのバレエ団(Kバレエカンパニー)を創設し活躍され、紫綬褒章も受賞されています。多くのメディアにも出演されていますので、熊川さんをご存知の方も多いと思います。
青島さんの司会と指揮、10年以上もKバレエカンパニーと共演されているシアターオーケストラトーキョーのオーケストラ演奏、熊川さん監修による、Kバレエカンパニーのダンサーによるバレエと、なかなか豪華なメンバーのコンサートと思い行ってみました。
この日は大変な猛暑日でしたが、会場に着きますと、1300人ほど入れる大きな会場は空席が見当たらないほどの満員状態で、大変な熱気に包まれていました。夏休み中で、しかもお子様の観覧も可能なコンサートでしたので、1、2歳くらいの赤ちゃんなどお子様もたくさんいらしていました。
演奏された作品は、「眠れる森の美女」「白鳥の湖」「くるみ割り人形」という3大バレエと呼ばれるものの他、ヨハンシュトラウス2世のオペレッタ「こうもり」序曲、「ロミオとジュリエット」「タイスの瞑想曲」などが披露され、オーケストラの音楽のみで楽しんだり、バレエとの共演で楽しめるようになっていました。
その他、観客がその場で立ち上がり、オーケストラの演奏に合わせてステップを踏んだり、指揮者体験コーナーでは観客の中から選ばれたお子様3人が舞台に上がり、オーケストラの指揮を振る企画もありました。
司会は、青島さんとダンサーの宮尾俊太郎さんにより進められましたが、和気あいあいの二人のかけあいも楽しく、作曲者についての説明では、青島さん自ら描いたという人物画も披露されました。
演奏が始まる際には、青島さんは指揮者台へ移動し、宮尾さんは舞台袖に下がるのですが、宮尾さんの背筋の良さと美しい足さばきに「さすがバレエダンサーだなあ」と感心してしまいました。
ピアノのコンサートや発表会などを見学したり、私自身も舞台に立つことがありますが、人それぞれいろいろな癖があるものです。下を向いてとぼとぼ歩いていたり、左右の手の振りがアンバランスだったり、だいぶ速足になってしまうこともあります。バレエダンサーの体の動きは、ちょっとした場面でも美しく、引き付けられるもので、同じようにはできなくても、せめて背筋を伸ばして歩くことだけは意識してみようと再認識しました。
バレエ音楽は、知ってはいても、どうしてもピアノ曲と比べますと聴く機会が少なくなってしまい、かなり久しぶりに聴くことができました。演奏のみの時は、バレエが付いていなくて少し残念と思っていたのですが、演奏を聴きますと、音のみでバレエの世界が表現されていて十分楽しめ、やはりステキな音楽だなあと改めて感じました。
その後、バレエとの共演が始まりますと、イメージしていたバレエの世界が目に見える形で表現され、ダンサーの表現力、技術の高さ、音楽との一体感、照明や衣装も合わさって、見事に総合芸術になっていました。
バレエのことは、詳しくはないのですが、まさに指先から足先まで全てに意識が向けられていて、「すごい」という言葉しか思い浮かばず、惹きつけられてしまいました。
プログラムを見ますと、バレエの振り付けは、熊川さんの再振り付けと書かれていましたので、オリジナルの演技になっていたようですね。
オーケストラも、Kバレエカンパニーの他、ウィーン国立バレエ団やパリオペラ座バレエ団との共演もされているだけあって、バレエとぴったり合っていて、ずれてしまいそうな危うさが全くなく、さすが合わせ慣れていると思いました。
通常のコンサートは、2時間くらいかかるもので、オーケストラのみ、ピアノのみというパターンが多く、お子様だけでなく大人にとっても、なかなかハードルが高く感じるかもしれませんが、今回のコンサートは、バレエとの共演や楽しいトークもあり、また、ちょっとした体験コーナーもあったりで、飽きることなく、お子様も最後まで楽しめたのではと思います。
バレエも、有名な作品をいろいろ楽しめましたので、今度は1つの作品を全編見てみたいと思いました。
自宅や電車の中で気軽に音楽を楽しめるご時世ですが、やはり生の音楽に触れる事でしか得られない感動もあり、それが、ご自身の演奏にもきっと繋がると思います。
9月になり芸術の秋になりますので、コンサートに足を運んでみてはいかがでしょうか。
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