(この記事は、第236号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、オルガンのお話です。

先日、テレビで「鈴木雅明のドイツ・オルガン紀行」という番組が放送されていたので見てみました。

「オルガン」と言うと、昔の小学校などに置かれていた足踏みオルガンをイメージされる方もいらっしゃるかもしれませんが、クラシック音楽でオルガンと言うと、パイプオルガンを指します。

教会に讃美歌を歌う時の伴奏楽器として置かれていたり、教会でなくても大きなホールに設置されている事もあります。ピアノが作られる前から存在していた鍵盤楽器ですが、聴く機会はそう多くはないかもしれません。

今回見た番組は、中部ドイツの3都市をオルガニストの鈴木雅明さんが旅をしながら巡り、その土地にあるパイプオルガンでバッハの名曲を演奏して音色を楽しむというものです。

鈴木雅明さんは、オルガニストであり、バッハ・コレギウム・ジャパンを創設して音楽監督を務めているバロック音楽演奏の第一人者です。2012年、ドイツのライプツィヒよりバッハメダルが受賞され、世界的にも活躍している演奏家です。

最初の舞台は、ドレスデン近郊のフライベルクという街です。

フライベルクは、バロック時代を代表するオルガン製作者ジルバーマンゆかりの地で、街の中心にある聖マリア大聖堂には、ジルバーマンが作った最も有名なオルガンがあります。1714年に作られ、鍵盤、パイプなどほとんどの部品が当時のままで、建造された当時の響きを楽しむことができます。

ちなみに、パイプオルガンの鍵盤は、ピアノと反対の配色になっていて、ピアノの白鍵盤に当たる部分が黒く、ピアノの黒鍵に当たる部分は白くなっています。

聖マリア大聖堂は、角ばったカットの細い柱と白い壁が印象的なゴシック様式の建物ですが、ジルバーマンオルガンは、金色をベースに緑と赤の唐草模様のような繊細な装飾がふんだんに使われていて、パイプの両脇と上方には、金色の翼の大きな天使が4体も飾られ、それぞれが楽器を奏でています。

楽器がとてつもなく大きいのが、テレビ画面からも伝わってきました。目の前にしたら圧巻なのではないかと思います。

この楽器を製作したジルバーマンは、バッハの時代に最も有名なオルガン製作者で、このフライベルクのあるザクセン地方の出身ですが、フランスにあった兄の工房で楽器製作の修行をしました。フランスでの修行後に初めて作ったのが、このオルガンなのだそうです。

鈴木さんの長年のご友人でこの教会のオルガニストの方は、「中部ドイツとフランスの様式が取り入れられていて、ジルバーマンらしい重厚で明るい響きがする。でも、きつい音ではなく、耳に心地よい音で、とても柔らかく、低音も良く響く楽器である」と説明していました。

その楽器で、鈴木さんはバッハ作曲の「幻想曲ト長調 BWV572」を演奏していました。バッハが若い時に作られた作品で、鳥のさえずりのような出だしで始まる音楽です。

明るくキラキラした輝かしい雰囲気と、途中ゆっくりなテンポの所では重厚感が感じられ、面白い作品でした。教会のオルガニストの方が説明されていたことが、とてもよく伝わってきます。

番組が始まってまだ最初の部分でしたが、早くも生で聴いてみたいという気持ちが強くなりました。

ちなみに、バッハは、作曲家として名声を得る前にオルガニストとして有名でした。若い時からオルガンの鑑定家としても有名で、新しく作られたオルガンをチェックする役目もしていたそうです。

オルガンの裏側は屋根裏部屋の様な雰囲気になっていて、大きな黒いパネルのようなものが置かれていました。これはフイゴという名前でパイプに風を送り、これによってオルガンの音が出てくる仕組みになっています。金属や木製のパイプも、いろいろな長さで並んでいて、その数があまりに多くてびっくりしました。

その他にも、パイプに風を送り込む弁を制御するトラッカーと言うものがありました。オルガン演奏の映像をよく見ますと、鍵盤の両脇に丸いボタンの様なものが並んでいて、演奏者は弾きながら、そのボタンの様なものを押し込んだり、引っ張り出したりしますが、その先がトラッカーに繋がっています。

フライベルクには、ジルバーマンの工房もありました。ジルバーマンは、フランスでの修行から帰国し、フライベルクに40年間工房を構えましたが、世界各地から寄せられるオルガン製作の依頼を断って、故郷ザクセン地方の仕事に集中したのだそうです。

彼の生まれ故郷は、フライベルクの街に近い小さな村で、生家も残されています。長閑な田園風景が広がり、ジルバーマンの博物館もあるそうです。

ジルバーマンは、生涯で46台のオルガンを製作しましたが、そのうちの31台がこのザクセン地方にあり、フライベルクには4台のオルガンが残されています。フライベルクの聖ヤコビ教会には、聖マリア大聖堂の絢爛豪華なオルガンと異なり、美しい装飾が施された白い小さなオルガンがあり、聖ペトリ教会のオルガンは、同じく小さい楽器ですが金色がふんだんに使われていました。

鈴木さんはインタビューの中で、オルガンには人格の様な「オルガン格」というものがあり、この聖マリア大聖堂のオルガンは、じわっと攻めると輝かしく鳴るそうです。オルガンは人を見るので、こちらのアプローチの仕方によって上手く響いたり、逆に鳴らなかったりして、面白い楽器であると話していました。また、オルガンを弾いていると、人と会話しているような感覚になってくるとも話していました。

オルガンに比べると、ピアノは構造もシンプルになっていますが、それでも、弾く人や弾き方によって美しい音が出たり、そうでなかったりします。やはり、ピアノも弾く人を見ているのかもしれませんね。

このあと第2・第3の都市へと続きますが、次回お話したいと思います。

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(この記事は、第235号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ジョイントコンサートのお話です。

先日、ジョイントコンサートを行いました。私が、中学・高校生時代に師事していた先生の門下生7人で開いたものです。

大学入学後も、まれにこの先生のレッスンに通ってはいましたが、一昨年、先生がご自宅で開催している勉強会に誘っていただき、そこから定期的に伺っていました。

そこで或る時、先生から「皆さんでジョイントコンサートをやったら?」と提案をいただき、最初はみんな驚きましたが、いつしか前向きになり、コンサートを開催することになりました。

まずは、1人あたり何分くらいの長さの曲を弾くのかを決めて、それぞれ弾きたい曲を挙げていきました。7人もいますと、例えばショパンだらけになる可能性も大いにあるわけですが、いざ話をしてみますと、全員違う作曲家の作品を挙げていて、すんなりと決定しました。もちろん偶然の出来事ですが、みんなビックリしました。

曲によっては、小品をもう1曲追加して2曲弾く事にして、おおよそ全員が同じくらいの長さになるようにしました。

そして、それぞれが練習を始め、先生のアドバイスを受けながら準備を進めました。

しかし、コンサートの準備は、曲の練習だけではありません。

コンサートを開催するホールを決めて、予約しなければなりません。客席数や希望日などからホールを選び、予約をしました。

その他にも、演奏順を決めたり、チラシやプログラムの準備も必要です。

演奏順については、いろいろな決め方がありますが、それぞれが弾く曲の長さから2グループに分け、前半をどちらのグループにするのか決めていきました。そして、前半・後半の中で、作曲家の古い順に弾いていく事に決めました。

コンサートのチラシについては、メンバーの一人が、いつもコンサートなどで利用している印刷屋さんに依頼してくれることになりました。チラシとチケットの枚数やサイズを決めたり、チラシのデザインの希望や、出演者のプロフィールを掲載するかどうか、掲載する場合一人何文字くらいに収めるか、顔写真は掲載するか、カラーにするか白黒にするかなど、その都度みなさんと相談をしながら決めていきました。

出来上がった見本を見て、カラーなどを再度リクエストして、コンサート1カ月前くらいに完成したチラシを生徒さんや友人などに配りました。配ったその日に、チケットのお申し込みをしてくださる方もいらっしゃいました。

衣装についても、同じ色が何人も重なる事がありますが、曲目の時と同じく、ほとんど色合いが重ならずビックリしました。

本番前に、コンサートと同じホールを借りて、リハーサルを行いました。

朝から先生も立ち会って下さり、舞台上のピアノの位置や照明の加減、舞台の高さを決めたり(今回のホールでは、舞台の高さが自由に変えられるのです)、録音やマイクの使用方法、楽屋の下見なども行いながら、当日と同じピアノで練習をして、先生からアドバイスを頂きました。

そして、本番当日。調律後に最終リハーサルを行い、午後からコンサートが始まりました。

開演30分前に開場でしたが、その時から予想を超える大勢のお客様がいらっしゃり、空席を探している方もいらしたほどでした。

本番前の楽屋は、ピリピリと張りつめた感じではなく、いつもの勉強会と同じような、和やかな雰囲気でした。偶然にも同じドレスショップで購入した方がいて、その話で盛り上がったりしました。

後半の最初が私の出番でした。

朝から妙な緊張感がありましたが、お昼くらいにはほぐれてきた感じで、このまま緊張せずに弾けるのでは?と思ったりもしましたが、実際にはそのような事はなく、曲の最後の方まで緊張したままでした。

ピアノのレッスンで、大人の生徒さん方が「普段の方が、もうちょっと上手なのよ」とお話されるのですが、その気持ちがよくわかります。

いつも本番を終える度に、思ったように弾く事は難しいと感じたり、もっと練習しておけばよかったという気持ちにもなりますが、今後の練習方法の改善点なども見つけられ、収穫の多いものでした。

コンサート終了後に、舞台上で集合写真を撮り解散となりました。

今回のコンサート会場は、普段私がピアノのレッスンをしている教室から結構遠い場所にありますが、生徒さん方もいらして下さり、友人にも久しぶりに会えて、楽しいひと時にもなりました。チケットを買って足を運んで頂いたわけですから、本当にありがたいものです。

以前先生が、「私もコンサートをやった時には、お客様にはチケット代をお返しするだけでなく、お弁当も出したいくらいの気持ちよ」と仰っていましたが、本当によくわかる気がします。

感謝の気持ちを忘れずに、これからもピアノレッスンの指導だけでなく、自分の演奏技術向上にも精進したいと思います。

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音楽界の神童たち


2017年11月27日


(この記事は、第234号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、音楽界の神童のお話です。

先日、テレビの「題名のない音楽会」という番組で、「神童たちの音楽会2017」と題した内容が放送されました。音楽の世界で幼くして才能を開花させた「神童」たちを紹介するものです。今回は、2人の小さな演奏家と神童からステップアップした1人の若い演奏家を取り上げていました。

最初は、ヴァイオリンの大久保瑠名さん、11歳の小学校6年生です。

大久保瑠名さんは、小学校4年生の時に、全日本学生音楽コンクール小学校の部で第3位に入賞しました。全日本学生音楽コンクールは、日本のジュニア・クラシック音楽コンクールでは最高峰で、小学校5・6年生も参加できる部門で第3位に入ったとはすごいですね。

この全日本学生音楽コンクールは、大変歴史のあるコンクールで、今年で71回目になります。

これまでに、ピアノ部門では、左手のピアニストとして有名な舘野泉さん、日本人で唯一ショパンコンクールとチャイコフスキーコンクールで入賞した小山実稚恵さん、先日逝去された世界的ピアニストの中村紘子さん、ショパンのピアノソロ曲全166曲コンサートを行い、ギネス世界記録に認定された横山幸雄さん、「のだめカンタービレ」の吹き替え演奏で一躍注目された清塚信也さん、前回のショパンコンクールで日本人唯一のファイナリストである小林愛実さんなど、そうそうたるメンバーが、このコンクールで優勝しています。

ヴァイオリン部門では、長年 NHK交響楽団でコンサートマスターを務めていた徳永二男さん、東京芸術大学学長の沢和彦さん、千住3兄弟の千住真理子さん、チャイコフスキーコンクールで優勝した諏訪内晶子さん、パガニーニ国際ヴァイオリン・コンクールに同コンクール史上最年少で、しかも日本人として初めて優勝した庄司紗矢香さんなどが優勝されていて、ピアノもヴァイオリンも大変豪華で、現在第一線で活躍されている演奏家ばかりです。

番組の話に戻りますと、大久保瑠名さんは、演奏曲に合わせて、カルメンを思い出させるような赤と黒の華やかなドレス姿で登場しました。とても小柄で華奢に見えますが、演奏は、とても音楽的で堂々としたものでした。まだ楽器も大人のサイズではなく、少し小さいものでしたが、音がしっかりと鳴っていて、オーケストラに負けないくらいでした。

ヴァイオリニストの徳永二男さんも、「表現力が素晴らしく、音楽に自主性があり、世界に羽ばたけるヴァイオリニスト」と絶賛されていました。

元テニス選手である松岡修造さんの日めくりカレンダーの名言がお気に入りだそうで、特に、「緊張感、万歳」のページがお気に入りという話も紹介されていました。その言葉もあってなのか、演奏時も緊張している様子があまりなく、楽しく演奏が出来たと感想を話していました。

松岡さんの日めくりカレンダーは、松岡さんらしいユニークな熱いメッセージが、発売当時とても話題になりましたね。「緊張感、万歳」という言葉は、「緊張しているという事は、それだけ本気になっている証拠であり、本気で努力してきたからこそ、失敗したくないと思っている。緊張して力が発揮できないのはもったいない。緊張を心から喜び、力に変えよう」という意味なのだそうです。

長年、世界トップクラスのテニス大会で多くの緊張する場面を経験してきたからこそ生まれた言葉なのかもしれません。これからピアノの発表会やコンクール、また学校のテストや受験など、いろいろな本番を迎える方々には、心強いエールですね。

そして、番組で紹介されたもう一人の小さな演奏家は、チェロの北村陽さん13歳です。

北村陽さんは、指揮者の佐渡裕さんが率いるスーパーキッズ・オーケストラに8歳の最年少で入団し、今年6月に開催された「若い音楽家のためのチャイコフスキー国際コンクール」で優勝しました。17歳まで参加できる最高峰のジュニアコンクールで、13歳での優勝は、すごいとしか言えません。

3歳でチェロに魅せられ、ご両親と段ボールでチェロを作って遊んでいた逸話も写真付きで紹介されていました。

人懐っこい雰囲気ですが、演奏が始まりましてもニコニコと笑顔で演奏していて、本当に心から楽しんでいる様子が大変印象的でした。司会者も話していましたが、段ボールで作ったチェロを演奏(?!)していた時の楽しそうな顔つきと、全く変わらないのです。

演奏も大人顔負けの大きなスケールで、とても有名な難曲をひょうひょうと弾きこなしているので、こういう人が世界を舞台に活躍していくのかなあと思いました。

お二人の名前と演奏をしっかりと覚えつつ、これからのさらなる成長と活躍を心から応援したいと思います。

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