(この記事は、第196号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、電子ピアノのお話です。

近年の科学技術の発達は目覚ましく、電子ピアノの世界でも格段に技術アップされた商品が出てきています。そんな中、以前から話題になっていた、電子ピアノ2品を実際に試弾する機会がありました。

一つは、カシオの CELVIANO (セルヴィアーノ)という電子ピアノです。テレビコマーシャルをご覧になられた方もおられるかもしれませんが、上位モデルは、カシオがベヒシュタインとコラボレーションして開発した音源が搭載されています。

電子機器のカシオも、すっかり電子ピアノの世界でお馴染みになりましたね。

世界三大ピアノ(スタインウェイ、ベーゼンドルファー、ベヒシュタイン)の中の一つであるドイツのベヒシュタイン社とのコラボレーションで誕生した電子ピアノは、最新テクノロジーで時間が経つごとに変化していくピアノの音色を、三次元で表現できるそうです。

今回試弾したのは、AP-700 です。

弾き心地は電子ピアノそのものですが、白鍵盤の象牙や黒鍵盤の黒檀に似た触り心地や、すっきりとした透明感ある上品なベヒシュタインの音色が出るのは驚きました。

思った以上に、音色のクオリティーは高いと思います。

また、ベヒシュタイン以外の世界三大ピアノの音(に似た音)も出せるので、曲目に合わせて楽しめそうです。

オープン価格ですが、お店で値札を見ますと結構お手頃価格でした。

そして、もう一つは、ヤマハのハイブリットピアノです。

ハイブリットピアノは、生のピアノのタッチ感を追求した電子ピアノで、簡単に言うと電子ピアノの中に生のピアノのアクション(鍵盤の動きをハンマーに伝えて打弦する機構)を入れたものです。

グランドピアノバージョン(AvantGrand)とアップライトピアノバージョン(NU1)の2種類があり、生のピアノと同じ鍵盤を使用しているので、鍵盤の触り心地は生のピアノそのものですし、弾いた感じも、確かに生のピアノに近いです。

ペダルについても、半分だけ踏み込むハーフペダルが可能なので、細かいペダリングにも対応できる気がします。

生のピアノのように、ハンマーで弦をたたくわけではなく(ハンマーの先の部分は無い)、音はあくまでも電子音なので、調律は必要なく、メンテナンスは数年に一回、アクションの調整だけでよいそうです。

「ピアノ」という楽器と「電子ピアノ」は、名前こそ似ていますが似て非なる楽器です。

ピアノに興味を持って弾いてみたいという時には、もちろん生のピアノが一番良いのですが、楽器不可という環境だったり、深夜や朝にしかピアノを弾く時間が取れないという、お忙しい方がたくさんいらっしゃることも事実です。

そのような場合には、電子ピアノという選択もあるのかと思いますが、電子ピアノにも、いろいろな電子ピアノがありますので、じっくりと研究してみるとよいでしょう。

宣伝となりますが、「後悔しないピアノ選び」という解説書も販売しています。

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(この記事は、第195号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、コーヒーと音楽のお話です。

目覚めの時や食事の時、お仕事や家事の合間のちょっとしたブレイクタイムに、コーヒーを飲まれる方も多いと思います。

色々なフレーバーがある薫り高い紅茶も好きですが、ほろ苦いコーヒーは、私も大好きな飲み物です。

昔から喫茶店での定番の飲み物ですが、いつの頃からか、シアトル系のカフェチェーンが日本に上陸して外資系のコーヒー店が浸透しました。そして近年では外資系のカフェチェーンでも、日本の喫茶店のように、昔ながらの一杯づつ抽出したコーヒーを出すお店が増えてきました。

コンビニでも本格的なコーヒーを販売していますので、とても身近な飲み物ですね。

西暦900年頃から飲まれているコーヒーは、イスラム教の僧侶が眠気覚ましに飲んでいたそうですが、その後西暦1600年過ぎに、イタリアのベネチアへ輸入されヨーロッパ各地に広まっていきました。

クラシックの音楽家達にとっても、コーヒーは、とても身近な飲み物だったようです。音楽の神様であり、舞踏や芸術の神様である「ミューズ」は、実はコーヒーの神様でもあるという話もあるくらいです。

以前、「音楽とグルメの切っても切れない関係」でお話しましたが、ヨハン・セバスチャン・バッハは、コーヒー好きが高じて「コーヒーカンタータ」を作曲しました。

バッハはドイツの作曲家ですが、ドイツと言えばビールが有名ですね。昔から飲まれているビールですが、1730年頃からコーヒーが人気となり、コーヒーの擁護派と反対派が生まれ、それを題材にした作品が生まれたのです。

バッハと同時期に活躍し、しかも同じドイツ出身でありながら、ほとんどバッハと交流がなかったヘンデルも、コーヒーが好きだったようです。ヘンデルの音楽活動の大半はイギリスで、後にイギリスに帰化しました。

ヘンデルの代表作と言えば、ハレルヤで有名な「メサイア」ですが、その作曲活動は、外の世界を遮断して行われていたと言われています。ある朝、ボーイがコーヒーを部屋に運んでいくと、ヘンデルは、昨夜の夕食にも一切手を付けず、部屋の一角を見つめて涙を流していたそうです。満足のいく作曲が出来た安堵なのか、やりきった充実感なのか、どのような心境だったのでしょうね。

ヘンデルは、コンサートのチケットを、コーヒーショップでも販売していたようです。

そして、クラシック音楽界最高の天才と言われているモーツァルトは、ヨーロッパ中を演奏旅行していましたので、各地のコーヒーを堪能していたことでしょう。

モーツァルトは、神童として知られますが、コーヒーを飲んだのは、5・6歳だったと言われています。

ロンドンで、ヨハン・セバスチャン・バッハの息子に会った時に、ロンドンの感想を聞かれ、動物園に行ってコーヒー色のロバを見た話をしたそうです。

それから14年ほど経ち、パリのお店でモーツァルトがコーヒーを飲んでいるとき、偶然隣の席でコーヒーを飲んでいるバッハ(ヨハン・セバスティアンの息子)と再会しました。

モーツァルトは、亡くなる数時間前にもコーヒーを飲ませてもらっていたそうで、よほどのコーヒー好きだったのでしょう。

バッハと同じドイツの音楽家であるベートーヴェンは、毎回コーヒー豆をきっちり60粒挽いて飲んでいたという、こだわりがあったそうです。少しマニアックな感じもしますが、現在飲まれているコーヒーの平均抽出量と同じなのだそうで、美味しいコーヒーの味を自分で見つけていたという事になりますね。

コーヒーを飲みながら、そんな音楽家の事を思い出しつつ音楽を聴くと、いつものコーヒーの味も、聴き慣れた音楽の感じ方も、また違ってくるかもしれません。

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(この記事は、第191号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、恩師から受けたレッスンのお話です。

先日、久しぶりに学生時代の先生のご自宅に伺い、ピアノのレッスンをして頂きました。

音楽大学に通っていた時の先生で、卒業してからは、年賀状でのご挨拶くらいしかできていませんでした。

当時は大学の教授をなさっていて、私が卒業してからは大学院の教授になり、お弟子さんも当時から学内トップ、次席など、優秀な方が多く、なんとなく敷居の高さを感じてしまい、気軽に伺うのは気が引けてしまっていたのです。

今年の年賀状に、「コンクールの本番が控えているので、レッスンをお願いします」とさらっと書きましたら、返事のおハガキを頂き、「レッスンにいらっしゃい」と書かれていたので、早速電話をして、レッスンを受けることになりました。

学生時代には、夏休みなどの長期の休みや試験前に、学校でのレッスンとは別に、先生のご自宅でレッスンを受けていました。

もう何回も伺っているご自宅ですが、久しぶり行ってみますと付近の様子が結構変わっていて、少し迷ってしまうほどでした。

ご自宅のレッスン室に入りますと、スタインウェイのピアノが2台並び、所狭しと色々な写真や資料が置かれ、棚には膨大な量の楽譜が納められています。

当時とあまり変わらない風景に、学生時代の事が一気に思い出されました。

久しぶりにお目にかかる先生は、少しにこやかな表情でした。学生時代の時は、どちらかと言うと厳しいタイプの先生でしたので、ちょっと緊張がほぐれました。

少しこれまでの経緯をお話して、さっそくレッスンの始まりです。

先生は、応接セットのソファに座り、私は先生に背を向けるようにピアノに向かい演奏しました。割と長く練習している曲なのですが、久しぶりにかなり緊張しました。

先生は、楽譜に色々と書き込みをしながら聴き、演奏が終わると、その楽譜を持ちながらピアノに向かいました。

そして第一声が、「あなたの一番の問題は音色ね」と、そのものズバリのご指摘を頂きました。

そして、冒頭部分から、具体的なレッスンが始まりました。

思えば学生時代、練習曲が試験曲の1つになっていて、ショパンの「革命」を選んだのですが、一番最初の和音を弾くと、すぐに先生のストップがかかり、溜息の後に「あなた、もうちょっとなんとかならない? もう一度」と言われ、何回も最初の和音を弾きなおし、その都度、色々なアドバイスを頂きつつ、気が付けばレッスン時間内に、1段目も全部弾かせてもらえなかった事がありました。

今回も、最初の単音からストップがかかり、弾き方や強さ、拍の捉え方など事細かいアドバイスがあり、最初の4小節に、かなりの時間をかけてレッスンをしてくださいました。

また、指使いや間の取り方、脱力などのアドバイスもあり、あっという間に1時間半が経ってしまいました。

元々、私は、あまり音量が出ないタイプなので、少しか細い演奏になりがちなのですが、今回のレッスンでは、「あなた、もうちょっと頑張って(音を出して)」と激励される場面もあったり、「あなただったら、ここはフォルティッシモくらいでも大丈夫よ」というお話もありました。

その後、頑張って音を出して弾き続けたので、レッスンが終わった頃には、ヘロヘロになるくらい疲れ果てた状態でした。

レッスン後に、ジュースをご馳走になりながら、「もう1回レッスンに来れない? 私も気になるから」とお話があり、急遽、本番前にもう一度レッスンを受けられることになりました。

後日、もう一度レッスンに伺いましたが、その時は大学院の終了試験が近いお弟子さんがレッスンを受けていました。

とても上手な生徒さんでしたが、やはり細かい指示があり、「もうちょっと、宗教的なものも勉強しないと」というアドバイスもされていました。

そして、私のレッスンです。間の取り方と拍の捉え方が中心のレッスンになり、最後には「これで、そんなに変な所はなくなったわよ」という、なかなか率直な感想を頂きました。

学生の時は、厳しさが一番印象強かったのですが、時が経ち、ピアノを指導するという立場にもなって改めて恩師のレッスンを受けますと、一つの音へのこだわりの大切さや、妥協しないで諦めないという姿勢の大切さを痛感させられました。

大変ではありますが、厳しいレッスンや練習があってこそ、上を目指すことができ成長できるものです。

色々な意味で、とても収穫の多い時間でした。

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