(この記事は、第195号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、コーヒーと音楽のお話です。
目覚めの時や食事の時、お仕事や家事の合間のちょっとしたブレイクタイムに、コーヒーを飲まれる方も多いと思います。
色々なフレーバーがある薫り高い紅茶も好きですが、ほろ苦いコーヒーは、私も大好きな飲み物です。
昔から喫茶店での定番の飲み物ですが、いつの頃からか、シアトル系のカフェチェーンが日本に上陸して外資系のコーヒー店が浸透しました。そして近年では外資系のカフェチェーンでも、日本の喫茶店のように、昔ながらの一杯づつ抽出したコーヒーを出すお店が増えてきました。
コンビニでも本格的なコーヒーを販売していますので、とても身近な飲み物ですね。
西暦900年頃から飲まれているコーヒーは、イスラム教の僧侶が眠気覚ましに飲んでいたそうですが、その後西暦1600年過ぎに、イタリアのベネチアへ輸入されヨーロッパ各地に広まっていきました。
クラシックの音楽家達にとっても、コーヒーは、とても身近な飲み物だったようです。音楽の神様であり、舞踏や芸術の神様である「ミューズ」は、実はコーヒーの神様でもあるという話もあるくらいです。
以前、「音楽とグルメの切っても切れない関係」でお話しましたが、ヨハン・セバスチャン・バッハは、コーヒー好きが高じて「コーヒーカンタータ」を作曲しました。
バッハはドイツの作曲家ですが、ドイツと言えばビールが有名ですね。昔から飲まれているビールですが、1730年頃からコーヒーが人気となり、コーヒーの擁護派と反対派が生まれ、それを題材にした作品が生まれたのです。
バッハと同時期に活躍し、しかも同じドイツ出身でありながら、ほとんどバッハと交流がなかったヘンデルも、コーヒーが好きだったようです。ヘンデルの音楽活動の大半はイギリスで、後にイギリスに帰化しました。
ヘンデルの代表作と言えば、ハレルヤで有名な「メサイア」ですが、その作曲活動は、外の世界を遮断して行われていたと言われています。ある朝、ボーイがコーヒーを部屋に運んでいくと、ヘンデルは、昨夜の夕食にも一切手を付けず、部屋の一角を見つめて涙を流していたそうです。満足のいく作曲が出来た安堵なのか、やりきった充実感なのか、どのような心境だったのでしょうね。
ヘンデルは、コンサートのチケットを、コーヒーショップでも販売していたようです。
そして、クラシック音楽界最高の天才と言われているモーツァルトは、ヨーロッパ中を演奏旅行していましたので、各地のコーヒーを堪能していたことでしょう。
モーツァルトは、神童として知られますが、コーヒーを飲んだのは、5・6歳だったと言われています。
ロンドンで、ヨハン・セバスチャン・バッハの息子に会った時に、ロンドンの感想を聞かれ、動物園に行ってコーヒー色のロバを見た話をしたそうです。
それから14年ほど経ち、パリのお店でモーツァルトがコーヒーを飲んでいるとき、偶然隣の席でコーヒーを飲んでいるバッハ(ヨハン・セバスティアンの息子)と再会しました。
モーツァルトは、亡くなる数時間前にもコーヒーを飲ませてもらっていたそうで、よほどのコーヒー好きだったのでしょう。
バッハと同じドイツの音楽家であるベートーヴェンは、毎回コーヒー豆をきっちり60粒挽いて飲んでいたという、こだわりがあったそうです。少しマニアックな感じもしますが、現在飲まれているコーヒーの平均抽出量と同じなのだそうで、美味しいコーヒーの味を自分で見つけていたという事になりますね。
コーヒーを飲みながら、そんな音楽家の事を思い出しつつ音楽を聴くと、いつものコーヒーの味も、聴き慣れた音楽の感じ方も、また違ってくるかもしれません。
(この記事は、第191号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、恩師から受けたレッスンのお話です。
先日、久しぶりに学生時代の先生のご自宅に伺い、ピアノのレッスンをして頂きました。
音楽大学に通っていた時の先生で、卒業してからは、年賀状でのご挨拶くらいしかできていませんでした。
当時は大学の教授をなさっていて、私が卒業してからは大学院の教授になり、お弟子さんも当時から学内トップ、次席など、優秀な方が多く、なんとなく敷居の高さを感じてしまい、気軽に伺うのは気が引けてしまっていたのです。
今年の年賀状に、「コンクールの本番が控えているので、レッスンをお願いします」とさらっと書きましたら、返事のおハガキを頂き、「レッスンにいらっしゃい」と書かれていたので、早速電話をして、レッスンを受けることになりました。
学生時代には、夏休みなどの長期の休みや試験前に、学校でのレッスンとは別に、先生のご自宅でレッスンを受けていました。
もう何回も伺っているご自宅ですが、久しぶり行ってみますと付近の様子が結構変わっていて、少し迷ってしまうほどでした。
ご自宅のレッスン室に入りますと、スタインウェイのピアノが2台並び、所狭しと色々な写真や資料が置かれ、棚には膨大な量の楽譜が納められています。
当時とあまり変わらない風景に、学生時代の事が一気に思い出されました。
久しぶりにお目にかかる先生は、少しにこやかな表情でした。学生時代の時は、どちらかと言うと厳しいタイプの先生でしたので、ちょっと緊張がほぐれました。
少しこれまでの経緯をお話して、さっそくレッスンの始まりです。
先生は、応接セットのソファに座り、私は先生に背を向けるようにピアノに向かい演奏しました。割と長く練習している曲なのですが、久しぶりにかなり緊張しました。
先生は、楽譜に色々と書き込みをしながら聴き、演奏が終わると、その楽譜を持ちながらピアノに向かいました。
そして第一声が、「あなたの一番の問題は音色ね」と、そのものズバリのご指摘を頂きました。
そして、冒頭部分から、具体的なレッスンが始まりました。
思えば学生時代、練習曲が試験曲の1つになっていて、ショパンの「革命」を選んだのですが、一番最初の和音を弾くと、すぐに先生のストップがかかり、溜息の後に「あなた、もうちょっとなんとかならない? もう一度」と言われ、何回も最初の和音を弾きなおし、その都度、色々なアドバイスを頂きつつ、気が付けばレッスン時間内に、1段目も全部弾かせてもらえなかった事がありました。
今回も、最初の単音からストップがかかり、弾き方や強さ、拍の捉え方など事細かいアドバイスがあり、最初の4小節に、かなりの時間をかけてレッスンをしてくださいました。
また、指使いや間の取り方、脱力などのアドバイスもあり、あっという間に1時間半が経ってしまいました。
元々、私は、あまり音量が出ないタイプなので、少しか細い演奏になりがちなのですが、今回のレッスンでは、「あなた、もうちょっと頑張って(音を出して)」と激励される場面もあったり、「あなただったら、ここはフォルティッシモくらいでも大丈夫よ」というお話もありました。
その後、頑張って音を出して弾き続けたので、レッスンが終わった頃には、ヘロヘロになるくらい疲れ果てた状態でした。
レッスン後に、ジュースをご馳走になりながら、「もう1回レッスンに来れない? 私も気になるから」とお話があり、急遽、本番前にもう一度レッスンを受けられることになりました。
後日、もう一度レッスンに伺いましたが、その時は大学院の終了試験が近いお弟子さんがレッスンを受けていました。
とても上手な生徒さんでしたが、やはり細かい指示があり、「もうちょっと、宗教的なものも勉強しないと」というアドバイスもされていました。
そして、私のレッスンです。間の取り方と拍の捉え方が中心のレッスンになり、最後には「これで、そんなに変な所はなくなったわよ」という、なかなか率直な感想を頂きました。
学生の時は、厳しさが一番印象強かったのですが、時が経ち、ピアノを指導するという立場にもなって改めて恩師のレッスンを受けますと、一つの音へのこだわりの大切さや、妥協しないで諦めないという姿勢の大切さを痛感させられました。
大変ではありますが、厳しいレッスンや練習があってこそ、上を目指すことができ成長できるものです。
色々な意味で、とても収穫の多い時間でした。
(この記事は、第187号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ベヒシュタインのピアノとフォルテピアノの弾き比べのお話です。
先月、赤坂でピアノの弾き比べができるイベントに行ってみました。
世の中では、というよりも日本では、よく「3大○○」という言い方をしますが、ピアノの世界にも「世界3大ピアノ」と言うものがあります。
この世界3大ピアノとは、スタインウェイ、ベーゼンドルファー、そしてベヒシュタインの3メーカーのピアノの事を言います。
スタインウェイ社のピアノは、ピアノを弾いている方にはお馴染みだったり、弾いたことがある方も多いと思います。ピアノを弾かない方でも、名前を聴いたことがある、また見たことがある方も多いのではないでしょうか。ホールなどに置かれているピアノは、ヤマハまたはスタインウェイという事がとても多く、ピアノリサイタルへ行きますと、大抵使用されているピアノはスタインウェイです。
ベーゼンドルファーは、音楽の都ウィーンで生まれたピアノで、2008年にヤマハの傘下に入りました。ピアノ教室の生徒さん方にお聞きしますと、「スタインウェイより、ベーゼンドルファーの音が好き」とおっしゃる方も多いです。ピアノは木でできている事が、とてもよくわかる、温かみのある音が特徴です。
ベヒシュタインは、スタインウェイと同じくドイツで生まれたピアノで、とにかく透明感のある音色が特徴です。
昔、調律師さんが「家で練習するには、ベヒシュタインのピアノが一番良い」とお話されていました。スタインウェイのように響きが多いと、なんだか自分の演奏が上手に聴こえるものですが、ベヒシュタインのピアノは、タッチの良しあしが、とても分かりやすいピアノなので、音に対して敏感な耳になる気がします。
しかし、残念な事に、ベヒシュタインのピアノは、思ったよりも弾く機会が少ないものです。今回のイベントは、このベヒシュタインのピアノと、フォルテピアノが弾き比べられるという珍しいイベントでした。
フォルテピアノは、大雑把に話しますと、モーツァルトやベートーヴェン辺りの時代によく使われた鍵盤楽器で、この楽器が進化して現在のピアノが作られました。
現在では、フォルテピアノは、プロの古楽器演奏家でもない限り、なかなか弾く機会がないと思います。フォルテピアノは、古い時代に作られたものがそのまま使用されていることもありますが、今回のフォルテピアノは、1790年頃のフォルテピアノのレプリカで、1970年に作られたものでした。
フォルテピアノは、鍵盤が短く、幅も少し狭く、そしてなにより鍵盤が軽いのが特徴です。
鍵盤のサイズ(長さと幅)については、特に黒鍵部分(フォルテピアノでは鍵盤の色が逆転していますが)がとても狭く感じ、手の大きな男性の方は、ちょっと弾きにくさを感じるかもしれません。
また、鍵盤が軽いので、次々と音が出しやすく、トリルなど速く指を動かさないといけない部分が、とても速く弾けます。なんだか自分の指がよく動くようになった気がして、ちょっと気分が良いものですが、強い音で弾く部分では、フォルテピアノが壊れてしまいそうな気もします。
普段のピアノで、低音部分の和音を弾くと、音が響き過ぎて聴き取りにくかったり、音の厚みが出過ぎてしまう経験がある方も多いと思います。しかし、フォルテピアノで弾きますと、音の重なった厚みはありつつも、どこかすっきりとしているのです。ベートーヴェンのソナタなど、和音の連続した部分が、現在のピアノとはまるで違った印象になり、ベートーヴェンもこのような響きをイメージしながら作曲したのかと、感慨深くなります。
モーツァルトを弾いてみても、普段以上に軽やかでキラキラした音楽になり、モーツァルトの魅力がより伝わってくるようでした。
その隣に置いてあるベヒシュタインは、もちろん現在のピアノですが、一番小さい型のグランドピアノでした。
ピアノ教室などでよくある小型のグランドピアノと比べても、その小ささがわかる感じですが、サロンの部屋の広さを考えると、ぴったりのサイズでした。
まだ、出来立てのピアノで、このサロンに届いてからも、1週間しか経っていないとのことでした。
作られてまだ日が浅いピアノは、本来の音色が引き出されていないので、今回のピアノもベヒシュタインらしい透明感のある煌めくような音は出ていませんでした。この後年月をかけて、ピアノを弾き込んでいくと、どんどん音色が良くなり変化していきます。これが、ピアノを持つ大きな喜びの一つと言えるでしょう。そんなスタートラインに立っているピアノを弾けたのも、久しぶりです。今後、このピアノがどんな音を奏でるようになるのか、楽しみに感じました。
弾いているうちに、どんどん楽しくなってしまい、気が付けばあっという間に時間になってしまいました。
現在のピアノの魅力も改めて感じることが出来たイベントでした。
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