(この記事は、第85号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、小澤征爾さんのお話です。
先日、小澤征爾さんが、高松宮殿下記念世界文化賞を受賞されました。小澤征爾さんは世界で活躍している指揮者で、新聞記事などでも「世界のオザワ」と紹介されることが多いと思います。
日本人の演奏家や音楽家はたくさんいますが、世界で、しかも巨匠クラスで活躍されている方は、本当に極わずかです。
多くの音楽家を輩出している桐朋学園の前身である「子供のための音楽教室」を開設した一人で、当時の指揮者でチェリストでもあった齋藤秀雄や、カラヤン、バーンスタインなど、世界トップクラスの音楽家達に学んでいます。
主に海外で活躍されていて、ボストン交響楽団の音楽監督を30年ほど務め、その後はウィーン国立歌劇場の音楽監督なども務めています。毎年1月に行われる、ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の「ニューイヤーコンサート」でも、日本人指揮者として初めて指揮を振りました。
日本での活躍も増えており、長野オリンピック開会式での演奏や、サイトウ記念オーケストラの音楽監督、小澤征爾音楽塾での活動などもあります。
そして、3年前には、文化勲章を受賞されました。
音楽に対しとても情熱的で、ほとんどの作品を暗譜して指揮を振っているスタイルは、見ているだけでも全身全霊を込めて音楽と向き合っているように感じられます。
今回受賞された高松宮殿下記念世界文化賞は、絵画、彫刻、建築、音楽、演劇・映像の5つの分野で、世界的に顕著な業績をあげた芸術家に授与されるものです。
音楽部門では、小澤征爾さんが初めての日本人受賞者となりました。この音楽部門の歴代の受賞者を見ますと、以下のようなすごい顔ぶれに驚きます。
・18歳でショパンコンクールに審査員全員一致で優勝し、その後もトップピアニストであるマウリツィオ・ポリーニさん
・ベートーヴェンのピアノ曲を全曲録音した最初のピアニストである アルフレート・ブレンデルさん
・ウィーン・フィル恒例のニューイヤーコンサートで何回も指揮をしているズービン・メータさん
・7歳でピアノコンサートを行った神童で、その後指揮者としてもデビューし、ベルリン国立歌劇場の音楽総監督も務めたダニエル・バレンボイムさん
・女性で初めてショパンコンクールに優勝し、その後も大人気ピアニストであるマルタアルゲリッチさん
・ミラノ・スカラ座の常任指揮者やウィーン国立歌劇場の音楽監督、ベルリンフィルの芸術監督を務め、小澤征爾さんと同じくバーンスタインやカラヤンに見出されたクラウディオ・アバドさん
・ジャズ界の巨匠ピアニストで、グラミー賞を7回獲得し、カルガリー冬季オリンピックの開会式の音楽なども作曲したオスカー・ピーターソンさん
・劇団四季の公演でも有名な「エヴィータ」「キャッツ」「スターライト・エクスプレス」「オペラ座の怪人」など大ヒットミュージカルを次々と作曲しトニー賞やグラミー賞なども受賞したアンドリュー・ロイド・ウェッバさん
・巨匠パブロ・カザルスも絶賛した、20世紀最高のチェリストで、モスクワ音楽院の教授を務め、指揮者としても活躍しつつ、国際人権連盟賞やアルベルト・シュヴァイツァ賞を授与されるなど、数多くの賞を受賞しているムスティスラフ・ロストポーヴィチさん
・指揮者・作曲家でありミュージカル「ウエストサイド物語」でも有名で、小澤征爾さんなども育てたレナード・バーンスタインさん
ちなみに、演劇・映像部門では、映画監督の黒澤明さん、歌舞伎役者の中村歌右衛門さん、坂田藤十郎さん、建築部門では、安藤忠雄さんなどが受賞されています。
小澤征爾さんは、世界で活躍しつつ、いくつもの病気と戦い、昨年は食道癌の手術を受けました。
その後、見事に復活され、ニューヨークで指揮をされたときには、物凄い拍手喝采とスタンディングオベーションで、あちこちのニュースで大きく取り上げられました。
これからも、まだまだ活躍される姿を見たいですし素晴らしい演奏を聴きたいですね。
(この記事は、第84号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「芸術の秋」に聴きたい音楽CDのご紹介です。
昨年はショパンコンクール、今年はチャイコフスキーコンクールと、世界最高峰のコンクールが2年続けて開催されました。
両方のコンクールの歴代優勝者の顔ぶれを見ますと、今も大活躍中のピアニストがたくさんいますし、コンクールが開催された初期の頃に優勝した人たちは、今では巨匠クラスです。
このような一流のピアニストの演奏をぜひ生で聴きたいと思うのですが、世界中で活躍していますので、なかなか日本でコンサートが開かれなかったり、とても人気のためにチケットが入手しにくかったり、中には既に第1線から退いてしまっている方もいらっしゃいます。
そのため、音楽CDで楽しんでみましょう。自宅でくつろぎながら、ゆっくりと一流のピアニストの演奏を楽しむのも良いものです。お気に入りのピアニストを見つけるのも楽しいですし、大ファンのピアニストの演奏を何回も繰り返して聴くのもよいですね。
また、同じ曲を色々なピアニストの演奏で聴き比べてみますと、それぞれの個性がわかりやすいので、新たな発見があるかもしれません。
コンサートで生の音楽に触れるのは、音楽ファンにとって醍醐味ですが、自宅ならではの楽しみ方も、ぜひ味わいたいものです。
「おすすめ音楽CD」のコーナーの「コンクール歴代優勝者の音楽CD」で、それぞれのコンクールの歴代優勝者の音楽CDを紹介していますので、ご覧ください。
お気に入りの音楽CDが見つかるといいですね。
(この記事は、第83号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、新しいピアノメーカーのお話をいたします。
ピアノというと、スタインウェイや、ベーゼンドルファー、ベヒシュタイン、ヤマハ、カワイ、プレイエルなど色々なメーカーが製作していますが、どのメーカーも歴史があり、ピアノ作りに長く携わっています。
そんなピアノ業界に、新しいピアノメーカーが誕生しました。
Fazioli(ファツィオリ社)というピアノメーカーです。
以前から存在は知っていましたが、実際に見ることもなく、どこのホールに置いてあるのかも知りませんでした。しかし、「そのメーカーのピアノはペダルが4本ある」というインパクトがとにかく強烈で、強く印象に残っていました。
創業してからまだ30年くらいしか経っていない新しいピアノメーカーなのですが、世界的に人気が高まっているのです。まだあまり歴史がないことは、デメリットに聞こえるかもしれませんが、見方を変えますと、創業者が今なお製造に携わり続けている唯一のメーカーとも言えます。
35人の職人により、手作りで製作されていて、 一台のピアノが完成するまでに約3年もかけているそうです。完成したピアノは、創業者のパオロ・ファツィオリさん自身が全て試弾して、最終チェックを行ってから出荷しているそうです。
創業者のパオロ・ファツィオリさんは、1944年にローマで生まれました。彼の父は家具工場を営んでいたそうです。
ロッシーニ音楽院やローマ音楽院でピアノや作曲の勉強をしていましたが、その頃、彼の兄弟は家業を拡大させて、世界中で家具の販売をしていました。そして、音楽的な知識と、家具作りに必要な木材加工や設計の知識を融合させて、グランドピアノ作りを始めることにしたのです。
1978年に、ベネチアから少し離れたところにファツィオリピアノ工房が生まれました。
ピアノはすでに何百年も前からあり、それほど変わらない、ある意味とても古典的で伝統的なものですが、それを約30年前に、これから新しく作ろうと思ったこと自体、すごいことだと思います。
ピアノは精密機械でもありますので、ピアノが好きな方はたくさんいても、ピアノを作りたいと思う方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
グランドピアノのみを作り、生産量を増やすことは考慮せず、最高のクオリティを目指して一つ一つ手作業で作っています。他のメーカーのピアノを真似ることなく、独自の音作りをして、常に最先端技術を駆使してピアノを改良していくというポリシーなのだそうです。
ピアノの命とも言える響板には、弦楽器で大変有名なストラディバリと同じ木を使っているそうです。かなりの「こだわり」が伝わってきます。
そのこだわって作られたピアノは、年間で100台ほどしか作られていませんが、すでにアシュケナージやアルゲリッチなどの世界一流のピアニスト達も注目し、コンサートで使っています。ブーニンもコンサートで使用し、自宅用にも購入したそうです。
先日行われたチャイコフスキーコンクールで優勝し、前年のショパンコンクールでも第3位となったトリフォノフさんも、両方のコンクールで Fazioli(ファツィオリ社)のピアノを弾いて、素晴らしい成績を収めました。
ピアニストを多く輩出している世界屈指の名門校であるアメリカのジュリアード音楽院や、中国の音楽院などでも、すでに導入しているそうです。
私も最近になって何度か、Fazioli(ファツィオリ社)のピアノの音を聴きましたが、とても明るく透明感のある音色が印象的でした。まるでイタリアオペラの可憐な歌声を思わせる音です。
日本には、まだわずかしか導入されていないようですが、東京の仙川アヴェニューホールにあります。こちらでは、ピアノのフレーム(ピアノの中に見える金属の部分)がシルバーになっている、とても珍しい型番のピアノが置いてあります。
また、渋谷教育学園・幕張中学・高等学校には、フルコンサートピアノが置かれているそうです。音楽大学ならともかく、そうでない学校にこのようなピアノが置かれているのはすごいことですし、学校行事などで弾かれるのかと思うと羨ましいですね。
冒頭でお話した「4本ペダル」ですが、Fazioli(ファツィオリ社)が開発し特許も取っているのだそうです。
一番左に新しいペダルが追加されていますが、このペダルは、音色を変えずに音量だけを変えることができます。
通常のピアノにも「弱音ペダル」はありますが、弱音ペダルは、踏みますと鍵盤が右側に少しずれて、音が弱くなり、同時に少し柔らかい、こもった様な音になります。しかし、この4本目のペダルは、鍵盤が手前に斜めに傾くので、ハンマーが弦に近づき、鍵盤が3,4ミリくらい浅くなることで、音量を変えることができます。速いパッセージを弾く時などに、素早く対応できるそうです。
(この第4ペダルは、コンサートグランドピアノにのみ標準装備で、他のピアノではオプションで付けることができます)
コンサートシーズンに入りましたが、ピアノリサイタルやコンサートへお出かけの際には、使われているピアノにも意識を向けてみましょう。
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