(この記事は、第82号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、9月8日(木)に東京サントリーホールで行われましたチャイコフスキー国際コンクールの優勝者ガラ・コンサートについて、お話をいたします。

平日の夜ということも影響したのか、座席は大体埋まってはいましたが、ぎっしり満員とまではなっておらず、少し意外に感じました。

優勝者のお披露目コンサートなのですが、声楽部門に関しては、優勝者がスケジュールの都合で来日できず、3位入賞者が演奏しました。

最初は、エレーナ・グーセワさんが、オペラ「エフゲニー・オネーギン」より「手紙の場面」を披露しました。声楽部門(女声)の第3位で、聴衆賞も受賞されています。

優しい声質ながら、曇ったり、こもった声ではなく、透明感があり、高音もきれいに響いていて、とても素敵な歌声でした。これほど上手なのに第3位というのは驚きで、いかにコンクールのレベルが高いのかが、よくわかります。

声のボリュームもありますし、背が高いので舞台映えもします。オペラ歌手の場合、歌だけではなく、演技の要素も要求されますので、舞台映えするというのは大きな強みになります。今後の活躍が楽しみです。

続いて、セルゲイ・ドガージンさんが、「ヴァイオリン協奏曲」を披露されました。チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲は、物凄く有名なので、聴いたことがある方も多いと思いますし、よくご存じの方も多いかと思います。

チャイコフスキーの全作品の中でも代表的ですし、とても人気のある作品です。ヴァイオリン部門第2位ですが、今回のコンクールでは1位が「該当者なし」だったので、最高位になります。合わせて、聴衆賞も受賞されています。

日本国内のコンクールでは、あまり聞いたことがないのですが、国際コンクールでは、時々このように「該当者なし」ということがあります。コンクールで優勝者がいないというのは驚きですが、過去には優勝者どころか2位も該当者なしということもありました。

参加者の中で一番上手でも、歴代の入賞者のレベルと比較して、同じくらいでなければ入賞できないということなのです。ここがスポーツなどの世界と、大きく違う点かもしれません。

ドガージンさんの演奏は、良い意味でよく考えられていて、研究し尽くされたような演奏でした。

通常、演奏するときには、どこからクレッシェンドを始めるとか、注意する部分を色々と考えながら弾いていると思いますが、それだけですと「このように習いました」という演奏になってしまい、自然な音楽に聴こえなくなってしまいます。確かに弾けているけれど、魅力的な演奏にはならないのです。

しかし、ドガージンさんの演奏は、それらをしっかりと消化して、とても自然に演奏されていたのが素晴らしかったです。「とても勉強熱心な方なのかな?」という印象でしたので、今度聴く機会があったら、ヴァイオリンソナタや、無伴奏の演奏を聴いてみたくなりました。

休憩をはさんで、後半はナレク・アフナジャリャンさんが「ロココの主題による変奏曲」を披露されました。チェロ部門の第1位で、聴衆賞も受賞されています。

世界を代表するチェロ奏者であるロストロボーヴィッチさんの財団から奨学金を得ているそうで、既にアメリカのカーネギーホールやケネディセンターでデビューをされている方です。

チェロのあらゆる技術が要求される難曲で、注意深く聴いていると難しい曲だということがよくわかるのですが、それを安定感抜群に、大変そうな感じではなく演奏されていたのに驚きました。

チェロ特有の低音の深い音色と、一瞬チェロだということを忘れそうになるくらいの、ヴァイオリン並みの高音の輝く音色まで出されていて、チェロの良さを十分に発揮されていた演奏でした。

最後は、ダニール・トリフォノフさんが「ピアノ協奏曲第1番」を演奏されました。ピアノ部門の第1位で、聴衆賞のほか、今回のコンクール全部門を通して、最優秀な演奏者に贈られるグランプリも受賞されています。

昨年のショパンコンクールのガラ・コンサートを聴いたときに、将来がとても楽しみなピアニストでしたが、今回の演奏は、急激に進化していたので本当に驚きました。

とても20歳とは思えない成熟した演奏で、もう既に立派なピアニストのようなのです。チェイコフスキーのピアノ協奏曲は、とてもスケールの大きな音楽で、音のボリュームも要求されますが、わりと小柄な体型ながら、オーケストラに負けないパワフルさと華やかさがありました。

そして、とても丁寧でありながら、積極的で勢いもあり、まさに惹きつけられる感動的な演奏でした。

どの演奏者も、演奏後には拍手喝采で、3回ほど舞台でお辞儀をされていましたが、トリフォノフさんの演奏後には、「ブラボー」の掛け声がひときわ多く、またスタンディングオベーションがあちこちで起こり、とても盛り上がっていました。

こういう演奏者が、数十年後には巨匠と呼ばれることになるのかと思いますと、今後の活躍をしっかりと見ていきたいと思いました。本当に満足感のあるコンサートでした。

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(この記事は、第80号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、6月14日から行われた「第14回 チャイコフスキー国際コンクール」についてです。

チャイコフスキーコンクールは、1958年に創設されて、4年に1度開催されています。
ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門がありますが、ピアノに関しては、ショパンコンクールと並ぶ世界最高峰のコンクールです。

これまでに、ヴァン・クライバーン、ウラディミール・アシュケナージなど、トップスターも数多く輩出しています。

日本人の活躍もめざましく、上原彩子さん(ピアノ)、諏訪内晶子さん(バイオリン)、神尾真由子さん(バイオリン)、佐藤美枝子さん(声楽)が、これまでに優勝しています。

今回のチャイコフスキーコンクールは、これまでと大きく変わったことでも注目を集めました。

これまでは、モスクワで開催されていましたが、今回は、モスクワとサンクトペテルブルグの2都市開催になり、また、ロシア人の音楽院教授などが多かった審査員も、過去の優勝者や現役のピアニストを多く起用しました。

「審査員を務める教授に習っていないと、良い成績が得られない」などの噂もあったので、今回の改革で、審査の公平性は随分高くなったと言えます。

どの部門も、事前にDVD選考をして、応募者の4分の1だけが第1次選考に進めるという、かなり厳しい選考にもなったようです。

ピアノ部門では、第2次予選が2つある2段階方式になり、今回のコンクール用に作曲されたロシア人作曲家の現代曲が課題曲になったり、ファイナル(最終選考)では、これまでコンチェルト(ピアノ協奏曲)を2曲続けて演奏していましたが、1日1曲づつ(2日後にもう1曲)演奏するようになりました。

そして、今回のチャイコフスキーコンクールのピアノ部門では、20歳のダニール・トリフォノフさんが見事 優勝されました。彼は、モーツァルト協奏曲最優秀演奏者賞、聴衆賞にも選ばれました。

トリフォノフさんの名前に聞き覚えがあったり、ピンときた方もいらっしゃると思います。昨年ワルシャワで行われた「ショパン国際ピアノコンクール」で第3位になったピアニストです。

この時のガラコンサートでは、フレッシュな生き生きとした演奏と、とても繊細な表現力が素晴らしく、まだ19歳でしたが、彼が10年20年と経った時に、どんな演奏をするのか、将来がとても楽しみなピアニストでした。以前、「たのしい音楽小話」で紹介しています。

ところが、わずか8か月で、世界最高峰のコンクールで優勝するほどの進化をしていたとは驚きです。

国際コンクールに参加するには、膨大な数のピアノ曲を練習して、完成させておかなければなりません。

例えば、今回のチェイコフスキーコンクールでは、第1次予選で、ハイドンやモーツァルト・ベートーヴェンなどのソナタ、チェイコフスキーの作品、自由曲を組み合わせて1時間弱のプログラム(リサイタル形式)をこなします。

第2次予選のフェーズ1では、課題曲(コンクール用の新しい現代音楽)と自由曲(第1次予選で弾いていない曲)を組み合わせて、1時間のプログラム。第2次予選のフェーズ2では、指定されたモーツァルトのピアノコンチェルトの中から1曲を弾きます。

ファイナルでは、チャイコフスキーのピアノコンチェルトと、自由に選んだピアノコンチェルトを弾きます。

これらを全て完成させてから参加するわけですから、かなり長い時間をかけて練習を積む必要があるのです。

ショパンコンクールから8か月しかなく、しかも今年5月に行われたルービンシュタイン国際ピアノコンクールにも参加していて(見事に優勝しています)、コンクール後は演奏ツアーもあります。そんな多忙なスケジュールの中で、今回のコンクールの練習までしていたとは、「すごい」の一言しか言葉が思い浮かびません。

音楽ジャーナリストや、審査員のコメントなどを読みますと、トリフォノフさんの演奏は誰もが絶賛していて、第1次予選の段階で早くも優勝を予感した人もいたそうです。

演奏した曲目を見ますと、第1次・第2次選考の自由曲では、ショパンの舟歌やエチュード(練習曲)を、ファイナルでは、他の参加者がチェイコフスキーと同じロシアの作曲家ラフマニノフのコンチェルトを選んでいる中、ただ一人ショパンのコンチェルトを選んでおり、ショパンコンクールで得たものを確実に次に繋げているようです。

第2位にはソン・ヨルムさん、第3位にはチョ・ソンジンさんと、韓国のピアニストが選ばれました。ソン・ヨルムさんは、2009年に行われたヴァン・クライーバーン国際ピアノコンクールで辻井伸行さんが優勝した時に第2位になった方です。チョ・ソンジンさんは、まだ若干17歳という若さです。

韓国は、声楽部門では、女声・男声共に優勝しており、今回は大躍進だったのではないでしょうか。

日本人は、ピアノ部門で第1次選考に進めたのは一人だけで、その方も残念ながら第1次予選で敗退しています。

来月には、優勝者のガラコンサートが日本で開催されます。どんな演奏が聴けるのか、とても楽しみにしています。

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(この記事は、第79号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、テクラ・バダジェフスカについてです。

今年(2011年)は、フランツ・リストの生誕200年で、リストの作品を扱ったコンサートなどが開かれています。8月7日夜には、BSジャパンで「フランツ・リストの栄光と謎」という番組も放送される予定です。

「なぜ、史上最高のピアニストと言われるのか?」という副題を見ますと、ますます興味が湧きますね。

音楽は、生身の人間の様々な思いが音に込められるので、その音楽家の人物像や育った環境、考え方などを把握することは、とても大切だと思っています。それらを知ることで、より深くその音楽が理解出来たり、表現できると思うからです。

ところで、以前の「たのしい音楽小話」でも取り上げましたが、今年は、リストだけではなく、他の多くの音楽家が記念の年を迎えています。

たのしい音楽小話:クラシック音楽家の記念の年

その中で、曲のタイトルや曲そのものは、「エリーゼのために」に匹敵するほど有名ですが、作曲家本人については、あまり知られていないのが、テクラ・バダジェフスカです(バダルジェフスカとも呼ばれます)。

バダジェフスカは、1829年にポーランドで生まれました。彼女は、1861年に亡くなっているため、今年はバダジェフスカの没後150年となります。

ポーランド生まれの作曲家と言いますと、ショパンがとても有名ですが、ショパンが生まれてから約20年後にバダジェフスカが誕生した事になります。父は警察官をしており裕福な家庭だったようです。

バダジェフスカは、22歳の時に「乙女の祈り」を自費出版しました。そして、自ら楽譜を、いろいろなお店に売り歩いていたそうです。その後、地元の新聞にも広告が掲載され、人気が出てきて出版社から正式に出版されることになりました。

その7年後、パリの有名な音楽雑誌「ルヴェ・エ・ガゼット・ミュジカル」から、雑誌の付録として掲載したいというオファーが舞い込み、掲載されるとすぐに大人気となりました。フランスだけではなく、いろいろな国で人気となり、2年で100万部の大ヒットとなりました。

バダジェフスカは、プロの作曲家でなかった事や、32歳の若さで亡くなってしまった事、その後の世界大戦で資料が消失したこともあり、明確にはわかっていませんが、40曲ほど作曲しているようです。

「乙女の祈り」の他、数曲のみが生前に出版され、多くはバダジェフスカの死後に出版されました。しかし、それらの作品を見ますと、バダジェフスカの作曲能力の進歩は目覚ましく、もし長寿だったらポーランドを代表する作曲家になっていただろうとも言われています。

「乙女の祈り」は、元々は組曲の中の1曲です。「乙女のささやき」「乙女の誓い」「乙女の恥じらい」と続き、「乙女の祈り」は最後の4曲目として登場します。

その他にも、「乙女の祈り」の返歌と言われている「かなえられた祈り」や、「乙女の感謝」「第2の乙女の祈り」など、関連した作品があります。

これだけ素晴らしい功績があるにも関わらず、「乙女の祈り」は日本、韓国、中国以外では、ほとんど知られていないそうです。しかし近年、日本でこれだけ有名で親しまれている事がポーランドで話題となり、見直されてきているようです。

バダジェフスカの作品だけを収録したCDも出版されていますので、彼女の色々な作品を聴いてみて下さい。(以下の Amazon のページで、試聴ができます)



かなえられた乙女の祈り~バダジェフスカ作品集
チャプリーナ(ユリヤ)

キングレコード

なお、中級者向けの「ピアノ曲・ワンポイント攻略法」のコーナーでは、バダジェフスカの「乙女の祈り」の攻略ポイントについて説明していますので、合わせてご覧ください。

ピアノ曲・ワンポイント攻略法:テクラ・バダジェフスカ「乙女の祈り」

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