(この記事は、第79号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、テクラ・バダジェフスカについてです。
今年(2011年)は、フランツ・リストの生誕200年で、リストの作品を扱ったコンサートなどが開かれています。8月7日夜には、BSジャパンで「フランツ・リストの栄光と謎」という番組も放送される予定です。
「なぜ、史上最高のピアニストと言われるのか?」という副題を見ますと、ますます興味が湧きますね。
音楽は、生身の人間の様々な思いが音に込められるので、その音楽家の人物像や育った環境、考え方などを把握することは、とても大切だと思っています。それらを知ることで、より深くその音楽が理解出来たり、表現できると思うからです。
ところで、以前の「たのしい音楽小話」でも取り上げましたが、今年は、リストだけではなく、他の多くの音楽家が記念の年を迎えています。
その中で、曲のタイトルや曲そのものは、「エリーゼのために」に匹敵するほど有名ですが、作曲家本人については、あまり知られていないのが、テクラ・バダジェフスカです(バダルジェフスカとも呼ばれます)。
バダジェフスカは、1829年にポーランドで生まれました。彼女は、1861年に亡くなっているため、今年はバダジェフスカの没後150年となります。
ポーランド生まれの作曲家と言いますと、ショパンがとても有名ですが、ショパンが生まれてから約20年後にバダジェフスカが誕生した事になります。父は警察官をしており裕福な家庭だったようです。
バダジェフスカは、22歳の時に「乙女の祈り」を自費出版しました。そして、自ら楽譜を、いろいろなお店に売り歩いていたそうです。その後、地元の新聞にも広告が掲載され、人気が出てきて出版社から正式に出版されることになりました。
その7年後、パリの有名な音楽雑誌「ルヴェ・エ・ガゼット・ミュジカル」から、雑誌の付録として掲載したいというオファーが舞い込み、掲載されるとすぐに大人気となりました。フランスだけではなく、いろいろな国で人気となり、2年で100万部の大ヒットとなりました。
バダジェフスカは、プロの作曲家でなかった事や、32歳の若さで亡くなってしまった事、その後の世界大戦で資料が消失したこともあり、明確にはわかっていませんが、40曲ほど作曲しているようです。
「乙女の祈り」の他、数曲のみが生前に出版され、多くはバダジェフスカの死後に出版されました。しかし、それらの作品を見ますと、バダジェフスカの作曲能力の進歩は目覚ましく、もし長寿だったらポーランドを代表する作曲家になっていただろうとも言われています。
「乙女の祈り」は、元々は組曲の中の1曲です。「乙女のささやき」「乙女の誓い」「乙女の恥じらい」と続き、「乙女の祈り」は最後の4曲目として登場します。
その他にも、「乙女の祈り」の返歌と言われている「かなえられた祈り」や、「乙女の感謝」「第2の乙女の祈り」など、関連した作品があります。
これだけ素晴らしい功績があるにも関わらず、「乙女の祈り」は日本、韓国、中国以外では、ほとんど知られていないそうです。しかし近年、日本でこれだけ有名で親しまれている事がポーランドで話題となり、見直されてきているようです。
バダジェフスカの作品だけを収録したCDも出版されていますので、彼女の色々な作品を聴いてみて下さい。(以下の Amazon のページで、試聴ができます)
![]() |
かなえられた乙女の祈り~バダジェフスカ作品集 チャプリーナ(ユリヤ) キングレコード |
なお、中級者向けの「ピアノ曲・ワンポイント攻略法」のコーナーでは、バダジェフスカの「乙女の祈り」の攻略ポイントについて説明していますので、合わせてご覧ください。
ピアノ曲・ワンポイント攻略法:テクラ・バダジェフスカ「乙女の祈り」
(この記事は、第77号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「音楽とグルメの切っても切れない関係」の第2弾です。第1弾を読んでいない方は、以下のブログで読むことができます。
今回登場する作曲家は、モーツァルトです。
クラシック音楽史には、天才と呼ばれる作曲家が何人もいて、私達から見ますと全員が天才と思うのですが、その天才の中の天才と言われているのがモーツァルトです。
音楽を専門に勉強する人にとっては、必須の作曲家です。音楽大学の入試では出てきませんが、それは、既に勉強している事を前提にしているからではないかとさえ思えます。
私が音大に通っていた頃、珍しく学校内の試験曲にモーツァルトの作品が出された事がありました。
単に弾くだけであれば、テクニック的には大して難しくないのですが、シンプルな音楽だからこそ、解釈や素晴らしさを表現する事がとても難しかったことを今でも鮮明に覚えています。
また、卒業試験でモーツァルトの作品を弾こうかと先生に相談した友人は、すぐに却下されたそうです。それだけ、モーツァルトの音楽を素敵に演奏することが難しいという事なのです。
そんなモーツァルトは、ご存じの方も多いと思いますが、短い生涯の約3分の1を演奏旅行に費やしました。7歳の時から、海外で活動をしていたのです。
当時は飛行機や特急電車もありませんから、何カ月もかけて馬車で旅をしていたのです。
現在のドイツやイタリア、イギリスなどに出かけていたのですが、演奏旅行へ行く時には、主にお父さんが同行していました。今で言う、「ステージ・パパ」ですね。
単にモーツァルトを貴族の前で演奏させて、次に繋がる仕事を貰うという役目だけではなく、モーツァルトの健康面にもとても気を配っていました。
そのため、アイドルのあらゆる面をサポートする「マネージャー」と言った方がピッタリかもしれません。
たくさん演奏旅行をしていたので出費も多く、倹約に努めていたので、食生活はわりと質素だったようです。それでも、国王や貴族の館で演奏を披露していましたので、晩餐会にも呼ばれ、当時のとても豪華な食事も堪能していました。
庶民の味と、国王の味を知っていたという事ですね。
モーツァルトの父レオポルトは、薬膳料理の本をとても参考にしていて、色々な病気の症状が出た時に食事療法を取り入れていたそうです。
家庭では、スープをよく食べていたそうで、薬草を入れたものや牛肉を使ったものなどを食べていました。形こそ変化していると思いますが、牛肉のスープは現在でもオーストリアではよく食べられているそうです。
モーツァルトの好物は、カフェで食べるいちごのシャーベットやチョコレート、ローストビーフ、チキン、レバーの肉団子、ワインやシャンパン、ビールなどで、晩年借金に苦しんでいた時には、友人にビールをねだる手紙を書いていた程です。
また、当時高価だったココアやコーヒー、それまで飲んだことのなかった炭酸水や、パンチというインドの温かい飲み物、スイカ、キジ料理、牡蠣なども食していました。
海外でそれまで見たことも無かった料理を色々と食べていたのですから、なかなかのグルメかもしれません。
しかし、一人で食事をすることがとても苦手だったようで、必ず誰かを誘ったりしていたそうです。ちょっと意外な一面という気もします。
ロッシーニのように、モーツァルトが料理をテーマにした音楽を作曲していたら、どんな楽しい音楽になっていたのだろうと、想像すると楽しくなりますね。
(この記事は、第75号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、フジテレビの「ホンマでっか!?TV」という番組のレギュラーで話題の脳科学者 澤口俊之さんの講演会に行ってきましたので、その内容についてお話いたします。
講演会のタイトルは、「子供の脳をいかに育むか ~ピアノが脳に良い理由とは~」です。
元々、この番組を見ていた時に、ある芸能人が「たくさんある習い事の中で、子供に何を習わせると良いのか?」という質問をしていて、脳科学者の澤口さんが「ピアノです」と答えていたので、興味を持っていました。
「子供のためのピアノ教育」でも説明していますが、ピアノのレッスンに通われているお子様は、とても頑張り屋で、学校の勉強も楽にこなしている子が少なくないのです。
また、殆どの場合、志望する学校へ進学していますし、一流大学へ進む子も少なくありません。
そのような事を、脳科学から見るとどうなのか、とても興味深いお話を聞く事が出来ました。
澤口さんは、人間性知能 HQ (Humanity Quotient)の研究で有名です。
HQ は、人の社会的成功と強く結びついていますが、学校教育では、鍛えられていないという話から始まりました。
HQ は、大脳の前方にある「前頭前野」(前頭連合野)がもたらす機能です。前頭前野は、脳全体の15%を占めています。
脳は、部分によって、それぞれ異なる働きをしていますが、前頭前野は、脳全体をコントールする監督の役割をしています。
HQ には、「未来志向的行動力」と「社会関係力」という大きな要素(能力)が含まれます。
「未来志向的行動力」には、主体性、独創性、やる気、集中力、好奇心、探究心などが含まれ、「社会関係力」には、対人能力、交渉能力、意思伝達力などが含まれます。
HQ と社会生活の関係については、いくつか独自の調査結果を示していました。
例えば、入社直後の社員と、入社2年目の社員で HQ を比べてみると、入社2年目の方が高いのだそうです。これは、1年間会社で訓練されたからではなく、HQ が低い人は、入社1年以内に辞めてしまうことが多いため、このような結果になるそうです。
職種別に見ても、一般社員よりも管理職の方が HQ が高く、HQ が高い程、高度な職に就く可能性が高いという調査結果になっていました。
私生活でも、HQ が高い人は、5年以内の離婚率が低く、うつ病になる確率も低いそうです。
このような結果から、HQ が高い程、経済的に成功し、夫婦仲も良く、長生きして、社会的に成功し幸福になれる可能性が高くなるのだそうです。
なお、このような能力は、以前 EQ (こころの知能指数, Emotional Intelligence Quotient)と呼ばれていましたが、澤口さんのお話では、最近の欧米式の IQ テストは改善されており、社会的能力なども測れるようになったので、脳科学では EQ はあまり論じられていないようです。
次に、HQ とピアノの関係ですが、HQ を伸ばすのにダントツで効果を発揮するのが、ピアノのレッスンなのだそうです。
両手の指を細かく動かし、少し前の音を保ちながら、その先の音を先読みし、その記憶を適切に出力(演奏)する訓練は、HQ の基礎能力をかなり使うことになりますし、状況に応じて演奏を変化させることで、独創性や創造性の発達にも有効と説明していました。
このような事をあまり意識しないでピアノを弾いていますが、脳には相当良い刺激になっているようです。
また、前頭前野だけでなく、ピアノの練習を続けることで、右脳と左脳をつなぐ脳梁(のうりょう)も太くなり、記憶力をつかさどる海馬も発達することが確認されているそうです。
なお、人間の一般的な器官(臓器)は、20歳頃までに完成されますが、人間にとって一番大切な脳は、早く成長する特徴があります。8歳までに 95%が出来上がり、前頭前野の発達も、8歳でピークを迎えます。
そのため、成長段階の子供の頃に、訓練することが重要となります。音楽教育も8歳までに始めた方がよく、絶対音感に関しては、8歳以降に始めた場合、身に付く可能性が 3% に落ちてしまうという話もありました。
ピアノのレッスンを通して、ピアノや音楽をより楽しめるだけではなく、社会で生きていくための様々な能力を伸ばすことにもなり、生徒さん方が将来幸福に暮らせるという脳科学の研究結果は、ピアノのレッスンをしている身にも、大変励みになるものでした。
子供のピアノ教育の効果については、コン・ヴィヴァーチェでも「子供のためのピアノ教育」の解説書で詳しく説明しています。ご参照ください。
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