(この記事は、第52号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、「ショパン国際ピアノコンクール」の第3話です。前回は、第2次予選までお話をしました。

第2次予選を通過しますと、次の日には第3次予選が始まります。セミファイナルなので、ここを通過しますといよいよ本選へ出場することができます。

きっとここまで進んだ方全員が、「ここまで来たんだから最後まで進みたい」と思うのでしょう。第3次予選では、マズルカとソナタが課題曲になります。

マズルカもソナタも、ショパンの作品の中で、最も難しいとされている曲です。

マズルカは、ただ単に弾くだけなら、テクニック的には小学生でも弾ける位なのですが、ポーランドの民族音楽を取り入れていますので、そこをどれだけ表現できるのかという点が非常に難しいとされています。

ソナタは、技術的にも音楽の内容的にも大変難しいとされていて、ピアニストのリサイタルでも最後に演奏する曲として選ばれます。「いかにショパンの音楽の真髄を深く理解して、表現するのか」を競うショパンコンクールのセミファイナルの課題曲として、ふさわしいとも言えます。

前回は12人中、半分の6人が、この第3次予選を通過しました。

第3次予選が終わりますと、10月17日はショパンの命日です。この日はコンクールもお休みとなり、コンクールの参加者や審査員などが、ショパンの心臓が埋め込まれている聖十字架教会で行われるショパンのミサに参列します。

そして次の日から、いよいよ本選となります。

本選は、オーケストラとのコンチェルト(協奏曲)が課題曲です。これは、ショパンコンクールだけではなく、他の大きなコンクールでもよくある課題曲です。

ピアニストとしてコンサートを行う場合、一人でリサイタルを行うことが多いのですが、それだけではなく、他の楽器やオーケストラとの共演もよくあります。オーケストラの演奏会にゲストとして呼ばれるということです。

そのため、オーケストラや指揮者と一緒に、一つの音楽を作り上げる事も、ピアニストとしての重要な能力と言えます。しかし、なかなか普通はオーケストラと演奏できるチャンスが無いので、コンクールの本選で初めてオーケストラと演奏するという事も多いようです。

そうなりますと「練習の時には、どうするのか?」「どうやって練習するのか?」という疑問が湧いてくるかと思います。

実は協奏曲には、2台のピアノで演奏できるように編曲された楽譜があるのです。そして、オーケストラの部分をピアノで弾けるようになっています。(ピアノのパートは、もちろん編曲されておらず、オリジナルのままです)

オーケストラの部分を誰かに弾いてもらって練習をしたり、先生に弾いてもらって合せながら練習をします。

コンクールでは、リハーサルがありますが、オーケストラとの練習は時間が決まっているので、そうたくさんは一緒に練習が出来ません。限られた時間で、自分が表現したい音楽を指揮者やオーケストラに伝えつつ、指揮者やオーケストラが感じる音楽を理解して、織り交ぜて一つにまとめていくことになります。これは、想像するだけでも大変なことですね。

他のコンクールでは、ベートーヴェンのコンチェルトやラフマニノフのコンチェルトなど、さまざまなコンチェルトが弾かれるのですが、ショパンコンクールでは、当然ショパンの作品だけを弾くので、ショパンのコンチェルトだけが弾かれます。

しかし、ショパンはコンチェルトを2曲しか作っていません。以前、このコーナーでも触れましたが、他にオーケストラと一緒に演奏する作品もありますが、それも数曲しかなく、またそれほど有名ではないので、おのずと一番有名なコンチェルト第1番を弾く人が多くなります。

マズルカやポロネーズ、練習曲などは割と曲数が多いですし、一度に色々な曲を弾きますので、他の人と少し曲が重なるくらいで済むかもしれませんが、コンチェルトはこのような状況なので、最後の本選になって「すぐ前の人が同じ曲を弾く」とか「次の人も同じ曲を弾く」ということが起こりうるのです。

とてもリアルに比較されそうですし、プレッシャーも相当なものでしょうね。

こうして、ようやくショパンコンクールの優勝者やその他の順位、入賞者が決まります。今年はどんなピアニストが優勝するのか、楽しみですね。

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(この記事は、第51号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、前回お話をした「ショパン国際ピアノコンクール」の続編です。

一般には、ショパンコンクールと呼んでいますが、このコンクールは他のコンクールと違い、「いかにショパンの音楽の真髄を深く理解して表現するのか」という点を競うコンクールです。これだけを競うコンクールと言ってもいいかもしれません。

普通のコンクールは、ショパンを始め、ベートーヴェン、モーツァルト等々「あらゆる音楽家の作品を、どれだけ素晴らしく演奏するのか」という点を競います。

それは、ピアニストにとって、いろいろな作品を演奏できる事が重要だからです。「○○の音楽しか弾けません」ということでは、ピアニストとしては成り立たないのです。

そのためコンクールでは、当然いろいろな時代の、いろいろな音楽家の作品が課題曲として指定されますし、そのコンクール用に新しく作曲された現代音楽が課題曲になることもあります。

新しく作曲された曲は、当然その時点ではまだ誰も演奏したことが無く、CDなどで聴くことも出来ません。限られた準備期間の中で、そのような曲の練習もするのですから、コンクールを受けるだけでも大変なことなのです。

そのようなことを考えますと、ショパンコンクールはちょっと特殊なコンクールなのかもしれません。

ショパンコンクールは、ショパンの音楽だけを素晴らしく演奏した人を選ぶわけですから、当然課題曲も全てショパンの作品になります。

予備選考では、前回ご紹介した作品を弾くのですが、予備選考をめでたく合格しますと、いよいよ予選となります。10月3日から行われる第1次予選では、ノクターンとエチュード(練習曲)を2曲の他に、舟歌、バラード、幻想曲から選んで弾きます。

ノクターンは、中級者の方がよく好んで弾く「ノクターンOP9-2」などが有名です。エチュードは、「革命」「黒鍵」「別れの曲」「木枯らし」「蝶々」などが代表的で音楽大学のピアノ科の課題曲にも指定される事が多い作品です。

前回のショパンコンクールは、2000年に行われたのですが、その時は98人の参加者が演奏し、第1次予選を通過したのは38人という結果でした。半分以上の方が敗退した事になりますので、なかなか厳しいですね。

第1次予選が終わりますと、すぐに第2次予選が始まります。

ここでは、ポロネーズ、スケルツォ、ワルツの他に、プレリュード(前奏曲)、子守唄、タランテラ、ロンド、即興曲などから選んで弾きます。

この第2次予選から、いよいよショパンの音楽の特徴である「ポーランドの音楽を織り交ぜた作品」を弾くことになります。

クラシック音楽に自国の民族音楽を取り入れて、それを芸術の域にまで高めた作曲家は、ショパンが初めてと言っても過言ではないと思います。当時は、本当に斬新なアイディアで大変珍しかったのではないかと思われます。田舎のお祭りなどで踊ったりするときの音楽を、クラシック音楽に取り入れたという感じですね。

小さい頃からそのような環境で親しんでいると、とても上手に演奏出来そうなので、やはりポーランド人が有利なのではないかと思ってしまいますが、実際には、どうもそうでないようです。

日本でもそうですが、田舎そのものに接する機会が少なくなってきていますので、もはやどこの国の人でも難しさは同じであると、以前 審査員をされていたピアニストの中村紘子さんがインタビューでお話をしていました。

ポロネーズは、ショパンのピアノ曲全体の中でも有名な「英雄ポロネーズ」の他、「軍隊ポロネーズ」などもあります。

ワルツは、小・中学生から大人の方まで幅広く弾かれる曲で「子犬のワルツ」や「ワルツ第7番」「子猫のワルツ」「別れのワルツ」「華麗なる大円舞曲」などが有名です。プレリュードは、「太田胃酸」のCMでお馴染みの曲も入っています。

この第2次予選では、前回は38人から12人が通過しました。3分の2は敗退したということになります。勝ち進むと、どんどん厳しくなり、狭き門になっていきます。

(次回へ続く・・・)

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今回は、ショパンコンクールについてです。

音楽のコンクールは、日本国内だけではなく、世界中で行われています。

小さなお子様を対象としたコンクールでは、優秀な奏者を選ぶという目的以外に、日頃の練習の成果を発揮する場であったり、コンクールに参加する事で、さらなる成長を期待したり、経験を積むという目的で参加されることもあります。

しかし、大人が対象のコンクールになりますと、コンクールで良い成績を収めて、更に難しいコンクールへのステップとしたり、ピアニストとしてデビューするきっかけを作る目的で参加される事が多いようです。

個人的には、演奏に善し悪しを付けるというコンクールそのものに少々抵抗を感じるのですが、逆にそのようなチャンスが無いと、演奏家としてデビューする事は、よほどの事がない限り難しくなります。

私が知っている限りでも、コンクールの入賞歴が無くて、世界の第一線で活躍をされている方は、ヴァイオリニストの五嶋みどりさんくらいしか思い浮かびません。

そう考えますと、コンクールは、客観的な評価や知名度を得て、その後にピアニストとして活躍する為には大変重要なチャンスとも言えます。

ピアノのコンクールの中で、世界最高峰に挙げられるのは、やはりショパンコンクールです。ピアノの詩人と呼ばれ、誰もが憧れるショパンを記念した国際ピアノコンクールで、5年に一度、ショパンの故郷であるポーランドのワルシャワで行われます。

1927年から開催され、今年は第16回目となりますが、ショパンのメモリアルイヤーと重なる為、さらに盛り上がること間違いなしです。

コンクールと言うと、その場で1・2曲くらい弾いて順位がつくというイメージを持たれるかと思いますが、そんなに簡単ではなく、スタートラインに立つまでも、実は大変だったりします。

ショパンコンクールは、第1次予選・第2次予選・第3次予選・本選と言う流れになっています。本選へ行くためには、予選を3回も勝ち進まなくてはなりません。これだけでも、先は長いと思いますが、なんとその前に予備選考があるのです。

以前は、書類選考とテープ審査で行われていましたが、前回のコンクールから変更され、ワルシャワに行って審査員の前で演奏をするスタイルになりました。予選に立つために、ワルシャワまで足を運ぶということになります。

今年は4月12日から30日までこの予備選考が行われ、色々な国から多くの参加者が集まりました。日本人は、40人が参加するというダントツの多さになりました。

練習曲、マズルカ、ノクターンをそれぞれ弾き、その他にバラードやスケルツォ、舟歌、幻想曲から1曲弾くので、一人30分ほど弾きます。ちょっとしたミニコンサートのようですね。

この予備選考で、81人の合格者が決まりました。

気になる日本人の成績ですが、17人が合格し、国別では一番多い合格数となりました。

その他はロシア、中国が約10人づつくらいで、ショパンの故郷であるポーランドは7人の合格者が出ました。

ポーランド人にとっては、やはり自国を代表する作曲家ですし、そのコンクールですから、思いの強さはどこにも負けないのでしょう。また、前回久しぶりにポーランド人が優勝しましたので、「今年もまた優勝を」と思っているポーランド人が殆どなのではないかと思います。

(次回へ続く・・・)

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