(この記事は、2023年5月15日に配信しました第372号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノが上達する効果的な練習方法や上手なピアノ演奏のお話です。
福井新聞のオンライン版で、ピアニストであり作曲家でもある榎 政則さんが、音楽についてプロの目線で書かれている記事を見つけたので読んでみました。
こちらのページです。
2023年の1月から連載がスタートしたそうで、「ピアノが上達する効果的な練習方法」や「上手なピアノとは」、また「ピアニストはなぜ両手をバラバラに動かせるのか?」など、タイトルを見ただけでも惹きつけられる連載です。
「上手なピアノ」の記事では、クラシック音楽の3大コンクールの話題から始まり、ピアノのコンクールとフィギュアスケートなどスポーツ大会との比較に話が進んでいます。技の難易度に応じて成功したら加点、失敗したら減点して総合点で争うのが体操やフィギュアスケートなどの審査方法で、分かりやすい気もしますが、成功や失敗のランク分け自体、どうしても審査員の主観がある程度は入ってしまいます。
ピアノのコンクールの場合、ピアノ演奏のテクニックだけでも様々な種類があり、このテクニックが弾けたら凄いというわけでもなく、また減点方式で、ミスなく無難に弾いた演奏が高得点というのも相応しいとは思えないと書かれていました。私自身も、コンクールやオーディションに参加したり、審査員になったこともあり、審査される側、審査する側の両方の立場を経験していますので、この問題はとてもよくわかります。ほとんどの参加者が似たり寄ったりの実力である事が多い中で、合否を決めることは難しく、テクニック的に難しい曲をミスはあるけれど積極的に頑張って弾いた演奏と、テクニック的にはそんなに難易度が高くない曲を、とにかくミスしないように守りに入って弾いた演奏の比較など、元々無理があります。
記事では、演奏に得点を付けることは無意味という意見に対して、やはり良いピアニストを客観的に評価できることは大切と話しています。
もし、コンクールのような場がなかったとしたら、売り込むことが上手な人だけが有名になってしまい、無名の天才が世に出て来れない危険性があると指摘しています。「○○コンクール優勝のピアニスト」などとチラシや広告に書かれていたら、1回聴きに行こうかなと思いますからね。前回のショパンコンクールでは、既にピアニストとして活躍している方が何人も参加していましたが、多くのコンクール参加者は、参加してある程度の成績を収め、それをきっかけに有名になる登竜門と捉えていると思います。
「音をコントロールすること」については、楽器の構造を理解して、鍵盤をどのように弾くのか、どのようにペダルを操作するのかを工夫し、1曲の中にある何万個の全て音に、このコントロールを行い、しかもタイミングや曲の場面に応じた音色を使い分けることも大切と書かれています。ちなみに、ピアニストでもある榎さんが演奏する時に大切にしている事として、曲の伝統的なスタイルを把握し、研究してそれを生かして弾く事や、演奏中のお客さんの反応を見ながら、ライブならではの遊び心を持ち、演奏に取り入れる事を挙げていました。
音色も弾き分けて使いこなす事、曲のスタイルを踏まえて弾く事、ライブ感を大切に遊び心を持って弾く事が、上手なピアノ演奏のポイントのようですね。普段のピアノの練習では、音を間違えないようにとか、指番号を注意したり、強弱を忘れないなど、楽譜に書かれていることを忠実に守って弾くことに注力しがちですが、それを踏まえた上で更に、曲想に合った弾き方や、自ら音楽を楽しむ事など、楽譜に書かれていない事にも目を向けてピアノを弾いていきたいですし、本番でもそのようにピアノが弾けることを目指したいものですね。
「ピアノが上達する効果的な練習方法」では、「長時間の苦しい練習と生まれ持った才能があって、ようやくプロの世界で戦える」イメージがありませんかと言う問いかけからスタートしています。
ピアノの練習の目的は2つあり、「体を柔軟にすること」「脳を鍛えること」と書かれています。体の動きを効率よく音に結び付けて、全身を柔軟にして、少ないエネルギーでピアノを弾けるような状態を目指し、その動きを記憶に留めることを目指すと良いそうです。「そうは言っても、それ以前に、いつも間違えるとか、強弱を忘れるとか、楽譜通りに弾けないことが悩みで、そんなレベルまで行っていない」と言う声も聞こえてきそうですが、体に力が入っているために音を間違えてしまう事はよくありますし、楽譜をよく読んで音の進行を理解することで、暗譜の間違いを防げたりもしますので、ピアニストではない私達も、実は大いに参考にできることだと思います。
筋肉を鍛えるとか反復練習は、場合によっては逆効果とも書かれていて、確かにピアノを上手に弾くために筋トレするというのは聞いたことがないですし、やみくもに反復練習をしても、頑張っているのに大して効果がないどころか、無理な練習をし過ぎて指を壊してしまう事にもなりかねないので、気を付けないといけないですね。
ちなみに、最新の記事では、クラシック音楽の歴史をそれぞれの時代ごとにコンパクトに解説されています。いつも、ご自分が弾いている曲がどのような時代背景を元に作られた曲なのかを知ることができて、曲への理解も深まるかと思いますし、これまでとは違った感じの曲を弾いてみたいと思った時に、大まかな時代ごとの音楽の特徴を知っておくと曲探しのヒントにもなるかと思います。
先日亡くなった坂本龍一さんにも触れていますので、ご興味のある方は読んでみたらいかがでしょうか。
(この記事は、2023年5月1日に配信しました第371号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、芸術の都パリのお話です。
「クラシックTV」というテレビ番組で、「アンミカさんと!芸術の都パリ」というタイトルのエピソードが放送されていたので見てみました。コロナの影響で、海外旅行へ行けない状況がしばらく続きましたが、このような番組で旅行へ行った気分に浸れたら嬉しいですね。
番組の司会者でもある、ピアニストの清塚信也さんが弾く「オー・シャンゼリゼ」の音楽から番組はスタートしました。もう一人の司会者である、歌手でモデルの鈴木愛理さんも、にこやかな笑顔で音楽に耳を傾け、「パリに行った気分!」と感想を話していました。番組のテーマがパリなので、パリと言えば誰もがイメージする音楽ですね。
番組のゲストは、パリコレのモデルをされていたアンミカさんで、パリコレのランウェイでのウォーキングを見ているかのような、きれいな歩き方で登場しました。
パリと言えば、「芸術の都パリ」という事で、音楽、美術、グルメ、ファッションなどが有名ですが、このような大都市になったきっかけは、フランス革命だったようです。「今では当たり前ですが、自由・平等というものは、この革命の時の人々のおかげですね」とアンミカさんがコメントされていて、司会者のお二人も頷いていました。この革命後、パリは人口が爆発的に増えて、新しいものが生まれていったという経緯があるのですね。
その中で、才能ある芸術家たちもパリに集まってきて、サロンで活躍をしていました。サロンは、芸術家たちが自分の才能を売り込む場でもあったのです。「サロンって、感化されたり刺激を受けて、切磋琢磨していった場でもあったんですかね」「サロンなくしては、その後の文化も生まれないものがいっぱいあったんじゃないかな。ハイクラスなホームパーティーとも言えるかな」「ホームパーティーと思うと、親近感が湧きますね」と、次々にコメントと笑いが飛び出していました。
このようなサロンを上手に利用していた音楽家として、ショパンの話題へと移りました。ショパンは、コンサートホールなどでの演奏は数えるほどしか行っておらず、サロンを一晩に何軒もはしごして生きていたのだそうです。ショパンと、ショパンのライバルであり親友でもあったリストが、サロンで弾いていた曲を番組で紹介していました。
ショパンの「ノクターン作品9-2」の演奏では、ピアニストの仲道郁代さんが、ショパンが当時愛していたプレイエル社のピアノで演奏していました。えんじ色っぽい木で作られたピアノで、ピアノ側面の金属の装飾や譜面台の透かし彫りがとても美しく、少し素朴な雰囲気のある音色が印象的です。清塚さんが、「ショパンの作品は、曲によっては大ホールで弾くと合っていないなあと思う事があり、もっと演奏者の近くで聴いてもらう音楽だなあと思う事が多々あります。繊細な強弱の違いとかを、堪能していただきたい」とピアニストならではのお話をされていました。ちなみに、この作品はショパンのパリでの生活を支えたマリーへ捧げられた音楽です。
また、リストの「セレナード」は、シューベルトの歌曲の作品をリストがピアノ曲に編曲したものですが、当時のサロンでは、ワインを飲みながら、また会話を楽しみながら思い思いに耳を傾けていたようです。ショパンがパリに来た当時、既にリストはサロンの大スターでした。ショパンは神経質な性格もあり、なかなか苦戦していたようですが、リストは、そんなショパンをいろいろと支援して、社交界にもデビューさせてあげたようです。ショパンの才能を高く評価していたのですね。
ショパンやリストは、19世紀の作曲家ですが、20世紀に入ってもサロンの文化は続きます。フォーレは、サロンの女性たちに旅費を出してもらったり、ラヴェルがローマ賞に応募して予選落ちした時には、サロンの女性たちが新聞の紙面で非難をして、炎上させたこともあったそうです。貴族や富裕層の芸術家たちだけで、芸術論をぶつけ合うようなサロンもあり、音楽家としては、その唯一のメンバーがドビュッシーでした。そのサロンでは、物事を断定的に捉えず、曖昧さなどを好んでいたそうで、ドビュッシーの作品作りにも大きな影響を与えました。確かに、ドビュッシーの音楽は、浮遊感やグラデーションのような雰囲気があるように思えます。
アンミカさんも、「眠気のような、けだるさのような、でも心地よいような」と例えていましたし、清塚さんは、「物事をはっきりと断定的に言わないけれど、でもしっかりとした背景や物語がある。ドビュッシーは、そういう事を音楽で表現する天才だと思う。そして、私たちが思うフランスらしい音楽というのは、こういう音楽を指すことが多い」とも話していました。
サロンに入れるような後ろ盾が無い芸術家や、サロンで求められる華やかさや堅苦しさを嫌う芸術家たちは、カフェやキャバレーへと向かいます。そこでピアノを弾いていたのが、サティです。異端児とも呼ばれたそうですが、ドビュッシーやラヴェルも影響を受けており、ドビュッシーはサティの「ジムノペディ」がとても気に入り、オーケストラ用に編曲したくらいです。
いろいろなジャンルの芸術家が集まると、コラボレーションも生まれるもので、1924年に上演されたバレエ「青列車」は、衣装デザインをガブリエル・シャネル、舞台担当をジャン・コクトー、音楽をダリウス・ミヨー、舞台の幕を描いたのはパブロ・ピカソと、ありえないくらいの豪華メンバーで作られています。若者のトレンドを描いたバレエで、番組でも映像が流れましたが、私達がイメージするバレエとは全く異なり、「こんなバレエは見たことがない!」というほどの斬新さで、大変すばらしいものでした。「今見ても、モダン!」と、アンミカさんが話すほどです。
新しいものを見せていくのが、当時のパリのトレンドであり、パリで初演や発表することはステータスでした。そして、熱心に見たり聴いてくれる有識者が集まっていて、芸術への愛が強いところがパリなのだそうです。
番組の最後には、清塚さんが、サティの「あなたが欲しい」をアレンジして、パリの空気感を表現しながら演奏していました。
久しぶりに、海外にいるかのような雰囲気を味わうことができ、また、パリで活躍した芸術家たちの事をいろいろと学べました。当時の芸術家たちが集っていたカフェなどは、まだお店が残っているようですし、パリへ行く機会があったら、是非訪れてみたいと思いました。
(この記事は、2023年4月3日に配信しました第369号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、初めてのパイプオルガンの発表会のお話です。
昨年からオルガン(パイプオルガン)のレッスンを受けていて、先月初めての発表会がありました。「まさかオルガンを習うとは」と自分でも驚いていて、「ピアノを弾いて、チェンバロにも興味があって家に欲しいと話していて、それで今度はオルガンを始めるとは、本当に鍵盤楽器が好きなんですね」と友人に言われ、そこで初めて確かにそう見えるなと、自分でもますます驚いている次第です。
発表会には、ピアノでは数えきれないくらい参加してきましたが、オルガンの発表会はもちろん初めてなので、いつもとは異なる緊張をしていました。お客さんの前で弾くという点では、ピアノもオルガンも変わらないのですが、ピアノの場合、本番で初めてホールにあるピアノを弾くので、ホールの大きさや響き、ピアノのサイズや弾き心地などが、普段のレッスンで使用しているものと異なる事が緊張に繋がっている気がします。
今回のオルガンの発表会の場合、普段のレッスンでも2000人くらい収容できる大ホールでレッスンをしていましたので、楽器の大きさや音の響き、鍵盤の弾き心地などは、いつもと変わらないことになりますが、なんといっても、足鍵盤への不安が大きかったように思います。オルガンを習い始めて、一番苦労している所が足鍵盤です。ピアノでは、音を響かせるときに主にペダルを踏むくらいですが、オルガンでは、大抵両手+足鍵盤というスタイルで演奏することになります。2オクターブほどの足鍵盤を両足を使って踏みつつ、両手でも鍵盤を弾き、曲や使用する音色によっては、左右で使用する鍵盤も異なるので、これが緊張したらどうなるのか未知の世界でした。
以前から習っている方は、「手で弾く所は覚えて、足鍵盤を見て演奏している」とおっしゃっている方もいるくらいです。ちなみに、先生曰く「慣れると、足鍵盤を見なくても弾けるようになる」とのことですが、なかなか1年習ったくらいでは難しいものです。
11月くらいから発表会の曲の練習を始め、だいぶ弾けるようになってきたのですが、先生に「先日、録音をしてみたら、想像以上に酷い出来で…」と話したところ、「練習室のオルガンで録音しました? あそこは響きがないので、みなさん同じような事をおっしゃるんですが、ちゃんと弾けてますから大丈夫ですよ」と励ましてくださいました。このセリフ、私がピアノのレッスンの時に、生徒さんにお話ししている事ととてもよく似ていて、びっくりしましたが、私もオルガンでは生徒という立場なので、普段のピアノの生徒さんの気持ちが、よくわかるよう気がしました。
普段のレッスンとは別に、本番前には2回ほど大ホールでの自主練習を行い、1日前には大ホールでリハーサルがあり、そして発表会本番の日を迎えました。
朝からゲネプロ(最終リハーサル)があったのですが、既にホールのスタッフさんが慌ただしく、いろいろな箇所のセッティングをしていたり、舞台袖にはタイムスケジュール表が張り出され、名前、曲目、使用する音色、演奏開始時間、演奏終了時間などが書かれていました。全ての演奏者が全部異なる音色で演奏することになっていて、「楽器の王様」とも呼ばれるオルガンの多彩な音色に早くも驚きました。
ゲネプロでは、本番用のスポットライトが当たっていたのですが、これがまたピアノの発表会とは大きく異なりました。ピアノの場合、客席に対して横向きで演奏しますので、右側からスポットライトが当たるのですが、オルガンの場合、客席に対して後ろ向きで演奏しますので、背中からスポットライトが当たります。なので、自分の頭の影が、楽譜の右端などに映るのです。そんなにたいしたことではない気もするのですが、本番当日に初めて分かったことなので、他の方と「ビックリするよね」と話していました。
ちなみに、譜面台についてもピアノとは異なり、ピアノの場合には、アップライトピアノよりもグランドピアノの方が、譜面台が高い場所にあり、しかも遠くにあります。オルガンの場合には、手鍵盤の数が多いと、その先に譜面台があるのでかなり遠くに感じます。今回の大ホールのオルガンは、手鍵盤が4つありましたので、グランドピアノの譜面台よりさらに遠くに譜面台があり、近眼の私には、かなり楽譜がぼやけて見にくかったです。なので、楽譜を拡大コピーしたとおっしゃる方もいました。
一日前のリハーサルは、なんだか緊張して散々たる演奏でしたが、ゲネプロではまずまずの演奏ができ、これなら本番はちゃんと弾けるかもと思ったのですが、ゲネプロの演奏後に先生が「もっとたっぷりと」とおっしゃるので、慌てて楽譜を広げながら「どの箇所ですか?フェルマータの箇所でしょうか?」と聞きますと、「お辞儀です」とおっしゃり、演奏以前のステージマナーについて指摘されるという大変恥ずかしい思いもしました。
先生方も、合間を縫ってゲネプロで演奏したのですが、その時には次々と生徒が集まり、舞台袖にかぶりついて聴いていました。なかなか普段、オルガニストの先生の演奏をこんなに近くで聴くことがないので、ますます興味津々でした。
ゲネプロが終わり、いよいよ本番です。私は出番が早めでしたので、開演前から楽屋で準備をして控えていました。みなさん、堂々と演奏をされていましたが、演奏を終えて楽屋に帰ってくるなり「う~ん、なんとも言えない演奏だった」と感想を漏らしている方もいました。
いよいよ、次は自分の出番です。
ピアノの発表会と同じような流れで、アナウンスの後にオルガンの鍵盤がある演奏台に向かい、お辞儀をして演奏を始めました。楽譜を見て弾くのは安心ではありますが、なにしろ足がちゃんと動くのかが最大の心配ごとでした。
何箇所かミスが出てしまいましたが、練習してきたものは、ある程度は出せたかなという出来になりました。最大の心配ごとであった足鍵盤については、若干隣の鍵盤をかすってしまったところはありましたが、大体はちゃんとできたと思いました。ピアノを弾くときと同じように、次々と音を出して「横の流れと響き」を大事にしつつ、両手と足が同時に音を出した時の「縦の響き」を何回も確認して練習をしたので、ミスが出ても、この箇所で全てのパートの音を揃えて弾くということはできたので、その個所で立て直すことができ、大きなミスにならなかったのかもしれません。
とはいえ、「普段は、もうちょっとマシに弾けたのになあ…」という思いが強く残り、終演後に、隣のクラスの先生が開口一番に「演奏に不本意だった人も…」と話されていて、思わずドキッとしてしまいました。
まだ1年ほどしかオルガンを習っていませんが、同じ鍵盤楽器であるピアノと比べて、いろいろな違いがあり、楽器演奏は面白いものだなあと改めて感じました。オルガンを弾く事で、ピアノの楽器の素晴らしさにも改めて目を向けることができました。野球の大谷翔平選手ではありませんが、ピアノとオルガンの二刀流ができたら…と夢も膨らむ一日にもなりました。
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