(この記事は、2021年11月8日に配信しました第334号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、大人の生徒さんの発表会のお話です。
朝晩の冷え込みが感じられるようになりましたが、それでも日中は秋晴れが続いています。各地で紅葉も始まっていますが、暦の上ではもう立冬なのですね。先月くらいから、レッスンの時に、「今年もあと数ヵ月で終わってしまうのですね」としみじみと、でも多少の焦りを感じながら話しています。
お子様の夏の発表会が終わり、秋は大人の生徒さんの発表会の季節です。
やっと緊急事態宣言が解除され、やれやれという気もしつつ、それでも昨年同様にコロナ対策を最優先にしながらの開催です。1ステージの出演者を最大10人として、密を避けるために集合時間も設けず、ご自身の出番に間に合うようにいらして頂くことにしました。付き添いやお客様は、出演者1人につき2人までという人数制限を設け、観客が集まりやすいので講師演奏は無し、集合写真も無しです。司会者席には、飛沫防止のパネルを立て、お一人弾き終わるごとに、鍵盤や椅子を拭くことも欠かさず行いました。
だいぶ味気ない感じですが、出演される生徒さん方も、すっかりこのような発表会の進行に慣れてくださり、ありがたく思っています。
今回出演された生徒さんは、ヤマハのグレード受験を見据えたかのように2曲弾いた方や、大好きなバッハにチャレンジされた80代後半の方、有名な「きらきら星」をご自分でジャズやボサノバ風にアレンジして弾いた方もいらっしゃいました。
私がレッスンを担当させていただいている生徒さんは、まだピアノを始めて3年経っていないのですが、昨年は趣味のコーラスで歌っていた曲のピアノアレンジ版を弾いて初参加されました。今年は、ベートーヴェン作曲の「エリーゼのために」にチャレンジしました。
大人の生徒さん方は、コツコツ練習を積まれる方がとても多いのですが、この生徒さんは、毎回「結構練習はしたんですが…」とおっしゃるくらい、本当にご熱心に日々の練習をされている方です。小さい頃にピアノを習っていたわけでもなく、定年を機に生まれて初めてピアノを習う事にしたという方ですが、毎週レッスンの度にぐんぐん進むのでいつも驚いてばかりです。「エリーゼのために」も、難しいと話しつつも着々と進めていました。
前半部分は、一番有名なメロディーが出てくるところなので、割と早い段階で弾けるようになりますし、後半部分は、左手に3連符がずっと鳴り続けるのですが、単音ですからそれほど苦でもなく、右手に出てくる和音が弾けるようになれば、何とかなるものです。
一番の問題は中間部で、前半部分の暗い音楽から明るい音楽へと変わり、伴奏系も変わり、装飾音符や32分音符なども出てくるので、リズムや早く指を動かさなければならない等、難しいところがいろいろと出て来るのです。
この生徒さんも、さすがに苦戦していましたが、一箇所ずつ取り出して丁寧に部分練習をされていましたし、また、焦ってしまうと余計に指のコントロールが難しくなるので、曲の出だしと同じように落ち着いて弾くように心がけていただいたおかげで、段々と弾けるようになってきました。
発表会当日の開場時には、「まだまだ、ちゃんと弾けないんですよ」とおっしゃっていましたが、本番では落ち着いて弾き始めることができ、難関の中間部も大切な音により意識を向けて、焦らないように気を付けながら弾いていました。発表会前の最後のレッスンから数日しか空いていませんが、終わってみればその時よりもはるかに良く弾けていて驚きました。
今回は、コーラスの先生が応援に駆け付けていて、本番前に「ちゃんと弾けるとか、そんなことを気にしないで、楽しく弾けばいいんだよ」とアドバイスをされたそうで、その声援も後押しとなったのでしょう。
どの生徒さんも、精一杯の演奏をされていて、終演後に司会のスタッフさんと、「演奏された皆さんが本当に素晴らしくて、素敵な会でしたよね」と感想を話し合いました。
帰りがけに、ある生徒さんが、「いや~、ちょっと失敗しちゃったよ。やっぱり難しいねえ~」とご友人と話されていましたが、満足感も得たようで、「よし、これから飲みにいくかっ!」と笑いながら話していたのが、とても印象に残りました。
お子様の発表会は、演奏される生徒さんの緊張感だけでなく、「うちの子、大丈夫かしら?」というご家族の心配もあって、どこか緊迫感が漂うものですが、大人の生徒さんの発表会は、あくまでも楽しむという雰囲気なのが大きく異なるところです。
しかし、大人の生徒さんの発表会のたびに感じることですが、私が80代後半になった時に、果たして毎週教室に通ってレッスンを受け、1年に1度の自由参加の発表会を申し込んで出演するのかと考えると、出演されている生徒さん方は凄いなあと尊敬の念を抱きます。でも、私も負けられませんので、これからもより良いレッスンを目指しながら、自分自身の演奏も磨き続けたいと思っています。
(この記事は、2021年9月27日に配信しました第331号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、ショパンコンクールとオーディションの合格者コンサートのお話です。
朝晩が涼しい日も少しずつ多くなり、外を歩くと彼岸花が咲いていて、すっかり秋になりました。秋と言えば、音楽ファンにとっては「芸術の秋」ですが、昨年開催される予定だったショパンコンクール(ショパン国際ピアノコンクール)がコロナの影響で1年延期となり、今年の10月に開催されます。
5年に1度という、オリンピックよりも開催頻度が少ないのには驚きますが、今回は6年ぶりということになりますから、首を長くされていた方も多かったと思います。もちろん、私もその一人です。
今年7月には、ショパンの故郷であるポーランドのワルシャワで予備予選が行われました。ポーランドのワルシャワは以前訪れたことがありますが、ヨーロッパの華やかで趣のある雰囲気がありつつ、絢爛豪華なフランスとは異なり、どこか素朴なぬくもりと落ち着ける雰囲気を感じました。
そのワルシャワで、7月に12日間かけて予備予選が開催されました。世界中から151人が参加しましたが、日本人は14人が通過し予選へ進みます。予選は、トータルで87人が参加しますが、中国22人、韓国7人などアジア系がなかなか多いですね。地元ポーランドからも16人通過していますから、本家本元のショパンの演奏が聴けるのかと思うと今からワクワクします。また、キューバやラトビアなど、ちょっと珍しい国の参加者の演奏も注目したいですね。
日本人の顔ぶれを見てみますと、前回のファイナリストや他の国際コンクールで入賞している方、既にショパンの作品でアルバムを発売している方、ユーチューバーとして活躍している方、会社の起業家、医学部在籍の方など、まさに多彩です。
もう既にピアニストとして十分活躍されている方々ですから、コンクールの覇者という肩書は必要ないような気もしますが、やはりショパンコンクールは最高峰ですし、そこで優勝すると一躍世界中に知れ渡りますから別格ということなのか、または、そんな事よりも、純粋に今の実力が世界に通用するのか挑戦してみたいという気持ちなのでしょうか。
予備予選の審査委員長が、予備予選の総括として「ピアニストとして非常に高いレベルの技術と形式的な理解が示されていて、作品の形式上のスタイルを満たさなかったり、作品のオリジナルのアイディアを歪めることなくアプローチしていた」とコメントを発表していたそうです。その選ばれた方々の中で、頂点に立つピアニストはどなたなのか、是非注目していきたいものです。
ショパンコンクールの予選・本選は、10月2日から始まります。以下に、ショパンコンクールのホームページとライブ配信のリンクを掲載しておきます。
ショパンコンクール公式ホームページ
ショパンコンクール ライブ配信
次は、前回お話したオーディションの合格者コンサートのお話です。
8月にオーディションの審査、9月に試演会を経て、合格者コンサートが先日開催されました。
私の生徒さんで、合格したものの、曲に飽きてしまって弾きたくないと一時期お母様に言っていた生徒さんは、レッスンではそのような様子や発言もなく、コンサート本番前の最後のレッスンでも、しっかりと弾けていて暗譜も大丈夫そうでした。2曲目が若干テンポが遅くなってしまっていたので、「アウフタクト部分で、もっと楽しく張り切って拍子を数えてそれに乗って弾いてみてね」と伝えますと、直ぐにウキウキするような華やかな音楽が演奏できるようになりました。
コンサート当日は、午前中に短いながらもリハーサルが行われ、生徒さんはご家族で会場に来られました。ステキなワンピースを着て、ほんの少し緊張しているくらいの様子に見えました。
今回の出演者の中でも、一番学年が低いので、プログラム1番での登場です。発表会では、演奏する直前までご家族や私が横にいることが多かったのですが、今回は一人で舞台袖に待機するということになりました。
舞台に出てきた生徒さんは、いつもと変わらない様子でしたが、やはり緊張していたのか、いきなり椅子に座り弾き始めようとして、(お辞儀、お辞儀)と内心ハラハラしてしまいました。
でも、ふと思い出したようで立ち上がりお辞儀をして、また椅子に腰かけて…といつもの流れに戻していました。それが、また自然に見えて、物怖じしない様子に感心すらしてしまいました。
演奏の方は、いつもと変わらない滑り出しで、前半部分の強弱がやや平坦になってしまったり、細かい音符の弾き始めがややフライングぎみになってしまってはいましたが、きちんと弾き始めに楽しい気分で拍を数えて弾いていましたので、最初から良いテンポ感で弾けていました。試演会で間違えてしまった音も、しっかりと修正できていました。本番までいろいろとありましたが、締めくくりの演奏としては上出来だったと思います。
演奏後に、早速生徒さんに「よく頑張ったね~。とっても素敵な演奏だったよ」と声をかけますと、満面の笑みを浮かべていて、本人も満足そうな表情をしていました。また、お母様も当日まで心配しつつ、楽しく弾けばいいのよと励まし続けてくださっていたので、とてもほっとされているように見えました。
他にも、試演会で演奏していた生徒さんのお一人が、同じステージになっていました。試演会の時に、私が講評とアドバイスをした生徒さんです。
試演会でも3曲弾いたのですが、2曲目と3曲目は作曲された時代がかなり異なり、曲想もガラッと変わるものでした。しかし、2曲目が終わって、3曲目を直ぐに弾き始めてしまったため、3曲目のはじめ辺りが、2曲目の曲想と混ざってしまっていて、イメージがしっかりと定まっていない演奏になっていました。また、3曲目の終わり辺りになると集中力が切れてしまうのか、フレーズの表情があまり付かなくなってしまい、曲がまとまらないまま途中で切れてしまうような終わり方になっていました。
しかし、コンサート本番では、しっかりと作り直していて、3曲目を弾き始める前に適切な間を取って、3曲目の曲のイメージを掴んでから弾き始めていたので、最初の音から曲のイメージが伝わっていました。また、曲の終わりの方も、表情を丁寧に付けていて、最後の音の切り方まで配慮されていました。試演会からそれほど期間があったわけではないのですが、だいぶ磨かれていて驚きました。
今回のコンサートは、大学生までが対象なのですが、高校生・大学生ともなりますと、プログラムには大曲が並んでいて、それだけでも感心してしまいます。ほとんどの方が、一般の大学に通う学生さんのようですが、音楽大学のピアノ科の学生さんではないのに、これだけの大曲を弾きこなすのですから凄いなあと思いますし、小さい生徒さんにとっては、大いに刺激になったのではないかと思います。
ほっとするのも束の間で、これから大人の生徒さんの発表会やグレード試験など、まだまだイベントが続きます。これから本番を迎える生徒さん方が、満足できる演奏となるように、引き続き気を引き締めてレッスンを行っていきたいと思っています。
(この記事は、2021年9月13日に配信しました第330号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、オーディションと試演会のお話です。
近年は、一つの産業になっていると思えるほど数多くのコンクールやオーディションが開催されるようになりました。
以前は、コンクールやオーディションと言うと、将来ピアニストになりたい人が、キャリアを積んだり、箔を付けたり、腕試しの目的で参加するイメージでしたが、今ではもっと身近なものとなり、発表会の延長のような感覚で受けられるようになりました。
毎年、ピアノ教室では、生徒さん方のみを対象としたオーディションを開催しています。昨年は、コロナの影響で開催できませんでしたが、今年は大きく形を変えて、というよりも進化させて開催することになりました。
これまでは、審査員が会場に集まって審査する形でしたが、今年からはクラウドでの審査です。事前に録音された参加者の演奏がインターネットのクラウド上に置かれ、その演奏を聴いて審査をする形式です。
コロナ以前から、ビデオ審査や YouTube での審査は、一部のコンクールで行われていて、私自身も参加したことがありますが、審査員としてクラウドでの審査は初めてです。事前に練習用のテスト音源で確認して、当日の審査に支障が出ないようにしました。
審査当日は、自宅でパソコンとストップウォッチを用意して、決められた時間内の演奏を聴き、その後、コメントを記入して合否を決める作業を行いました。審査の場所には、自分一人しかいませんので、集中して演奏を聴くことができ、ある程度自分のペースで進められますので、コメントを記入する時間も十分に取れて、時間はかかりましたが良い審査ができたのではないかと思います。
後日、他の審査員の結果と合わせて、最終的な合否が発表されました。
私の生徒さんも、姉妹で2名参加していたので、その結果を配りましたが、他の審査員の方々も、私と同じようにたくさんコメントを書かれていて驚きました。中には、音符を書いて説明している方もいました。オーディションの1つの進化と言えるのではないでしょうか。
合否に関わらず、このようなコメントを貰えることは、参加された生徒さんにとって、これまでの練習方法の振り返りや今後の注意点などが見えて、参考になるのではないかと思います。
合格された方々は、後日コンサートに出演することになりますが、先日、その試演会が行われました。
試演会は、オンラインではなく、実際に集まってもらいました。コンサート本番と同じように演奏をしてもらい、私も含めて4人の講師がメモを取りながら演奏を聴きました。そして、全員の演奏が終わってから、座談会のような形で、お一人ずつの演奏について感想を伝え、本番までの練習方法をアドバイスし、質疑応答を行いました。
コロナ禍により、換気や消毒に最大限配慮しつつ、それでも、あまり長い時間は取れませんので、限られた時間でしたが、本番さながらの演奏を生で聴くことができて嬉しいひと時でした。
参加された生徒さんも、本番と同じドレスを着て参加された方もいて、緊張感を持って参加できたようですし、他の生徒さんの演奏を直接聴いたり、アドバイスを聞くことで、今後の練習の糧になったのではないかと思います。
試演会の後、他の講師の方と反省会も含めて少し話をしました。とても久しぶりに会った方もおられます。今回の試演会の話以外に、最近のコンサートやコンクールの審査方法など、有意義な情報交換ができました。最近は、オンラインで話すことが多いので、「なんだか、こういうの久しぶりだなあ」と、ちょっと感慨深い気持ちになりました。
姉妹で参加された私の生徒さんですが、お姉さんは残念ながら落ちてしまい、妹さんは合格という結果になりました。レッスンの時に、どのように対応しようかと悶々としてしまいましたが、姉妹揃って普段通りにレッスンに来てくれたので、少しほっとしました。
お姉さんには、次の目標としてグレード受験のご紹介を改めてしてみました。今練習している曲を自由曲にして、同じ楽譜の中に課題曲が複数入っているので、それを練習すると受験曲が全て揃い、年内の受験も可能というお話です。今後、ご家族とも、課題曲の選曲や受験の時期について相談しようと思っています。
妹さんは、合格で喜んでいるのかと思っていましたが、オーディションの曲に慣れきって飽きてしまっていると、レッスンの際にお母様から相談がありました。ご自宅では、「(この曲はもう)弾きたくない」と、泣いてしまったこともあるようです。
レッスンで生徒さんに、「この曲ずっと弾いているから、慣れちゃったでしょ。もうつまんなくなっちゃったかな?」と聞いてみましたが、その時は、首を横に振っていましたし、特別演奏が崩れている感じはしませんでした。
お母様には、レッスンでの生徒さんの様子をお伝えしつつ、「確かに年齢を考えますと、新鮮味はなくなっているのかもしれませんね。今日から数日間、本番で弾く曲を練習しないようにしてみたらいかがでしょう。今日のレッスンでは、暗譜のミスが少しありましたが、一応弾けていましたし、本番まで少し時間がありますから、2、3日あえて弾かないようにしたら、また新しい気持ちで弾けるようになると思います」とお話をしま
した。
翌週のレッスンでは、前回よりも前向きな気持ちで弾いているようにも感じられました。
試演会では、結構緊張したようで、曲の終わりの部分で音の高さを間違えてしまうミスが出てしまいましたが、その後のレッスンでもしっかりと再確認できましたので、生徒さん自身も一安心できたかと思います。
コンサート本番では、また楽しくステキな演奏ができるように、フォローしていきたいと思います。
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