(この記事は、第189号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様のコンクールに向けた練習のお話です。

お子様がピアノを習っていますと、定期的に発表会があります。発表会は、音楽教室によって、年に1回の場合もあれば、数年に1回の場合もあります。

広い会場で、聴衆を前にピアノの演奏をしますので、いつも以上に練習して準備しなければなりませんし、普段と違う環境で、いかに自分の力を発揮できるかという自分との戦いも克服しなければなりません。

発表会は、大きな経験となり、成長するための貴重な体験にもなりますが、発表会以外でも人前で弾く経験をすることが出来ます。

その1つが、コンクールです。

現在、レッスンにいらしている一人のお子様の生徒さんが、コンクールに向けた練習をしています。本番まで1か月を切り、刻々と本番が近付いています。

コンクールを受けるときは、生徒さんからお話が出てくるよりも、こちらから「コンクールにチャレンジしてみませんか」とお話することの方が多い気がします。今回チャレンジする生徒さんもそうでした。

コンクールは、演奏に合否や順位が付きますので、そう気軽に参加するものではないと思っています。

他の方と比較されるわけですし、自分が良いと思っても評価が異なる事もあります。(もちろん、その逆もありますが)

普段以上のプレッシャーもかかるので、メンタル的に耐えて克服することもなかなか大変ですし、練習もたくさんするので、特にお子様の場合、ご家族のサポートが重要になってきます。

そして、厳しい事に、その努力が報われるとは限らないのです。

そのような事を踏まえて、覚悟を決めてチャレンジすることが大切です。

この生徒さんは、レッスンの回数も、1回あたりのレッスン時間も増やして頑張っている様子でした。

しかし、最近、そこまで目立った成長がないので、少し疑問に思い、話をしながらその要因を探ってみました。

すると、単純に練習時間が少ないのです。そして、驚いたことに、学校が休みの週末は、更に練習時間が減っている事もわかりました。

しかし、それ以上に改善が必要と思ったことは、生徒さんが話している時の様子で、普段と変わりなく、かわいらしい笑顔で話していて、危機感がなく、事の重大さに気付いていないことでした。

そこで、他者との比較はあまり好ましくないのですが、「コンクールに出る人は、上手な人が多くて、みんな、ものすごく練習してとっても頑張っているのよ」と、少しメンタル的にプレッシャーをかけてみました。

また、練習を始める時間や長さなどを具体的に決めて、紙に書いてくることを宿題にしました。

元々、コツコツと物事を進めるタイプなので、その後は計画通りきちんと実行しているようで、お正月明けのレッスンでは、「休みの間どうしてた?」と聞くと、「練習しました!」と元気よく話していました。

以前は、演奏について聞いてみても、「わからない」という答えがとても多かったのですが、「できた」「できなかった」という答えが即答できるまでになり、自分の演奏を客観的に聴いて、判別して、自分の言葉で発言できるようになってきました。

曲想などについても、これまでは「???」という表情をしていましたが、イメージを膨らませて、具体的に言えるようになってました。

これは大きな成長で、嬉しい驚きでした。

この生徒さんの次の時間にレッスンしている大人の生徒さんも、ドア越しから聴こえてくる音を聴いて、「劇的にうまくなってるよね~」と話されていました。

本番までの時間を有意義に、さらにパワーアップして、自信を持って本番に臨めるように、残りのレッスンを行っていきたいと思っています。

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(この記事は、第185号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、大人の生徒さんの発表会のお話です。

先日、大人の生徒さんの発表会が開催されました。お子様の発表会と同様に毎年開催していますが、今回はピアノの他に、フルートや女声コーラスの生徒さんなどとご一緒の発表会になりました。

私の生徒さんは、月2回のレッスンなのですが、本番1か月前からは毎週レッスンにいらしていて、本番に向けてラストスパートをされていました。

元々、今年の発表会では、新しい曲を1曲決めて練習していましたが、曲が少し短いので、もう一曲追加する話になり、昨年の発表会で思うような演奏が出来なかった事を気にされていたので、「もう一度リベンジとして、同じ曲を弾いてみてはいかがですか?」とお話をしました。

そうしますと、間髪入れずに、「そんなこと出来るんですか? 是非、もう一回弾きたいです!」とのお返事でした。

毎回の発表会では、新しい曲を弾く事が多いわけですが、一度弾いた曲や、以前から練習していて、しかし、まだ本番で弾いたことがない曲を弾く事も問題ありません。

むしろ、そのような曲を弾くからこそ、学べることも多いものです。

弾き慣れた曲で、以前発表会の本番で弾いたことがある曲は、その時の経験がありますので、それを踏まえて対策を講じることができます。

例えば、テンポがだんだん速くなってしまったのであれば、どの辺りからそうなってしまったのかチェックし、心がけることもできます。

また、ミスをしてしまったのであれば、「緊張すると、この曲ではこの部分が危ない」とわかるので、もっと重点的に練習しておくことも出来ます。

更にレベルアップした演奏を目指すことになるので、曲をより深く考えて理解して弾く事も出来ますし、「一度弾いたことがあるから大丈夫」という精神的な安心感も持てます。

そして、発表会の当日を迎えました。

当日は、事前にホール近くのレッスン室を開放して、本番直前に少し指慣らしをすることができます。

生徒さんも早く会場入りして、弾いていました。いつものレッスンと違い、朝早い時間帯での本番ですが、なかなかの良い仕上がりで調子が良さそうでした。

そして、本番ですが、1曲目の新しく練習した曲は、直前の指慣らしでの良いイメージのまま弾く事が出来ました。

2曲目の昨年弾いた曲は、気を付けていたテンポ設定もよく、とても良い感じでしたが、途中でまさかのミスが少し出てしまいました。

終わった後、ご本人も、思わぬところでのミスに驚かれ、悔しがっていました。

それでも全体的には、昨年よりも断然素敵な演奏になりました。

ミスのない演奏というのは、本当に難しいものですし、そのためにも練習を積んで弾き込むことが重要になります。

しかし、間違えない事を意識しすぎると、保守的な演奏になったり、機械的な演奏になってしまうという弊害も起こりかねません。このような演奏では、表情豊かな音楽的に素晴らしい演奏とはかけ離れてしまいます。

また、「ミスの仕方」にも、段階があります。

初めの頃は、頭が真っ白になってしまい、ご自分でも何を弾いているのかわからなくなったり、ピタッと止まってしまい、途中から弾き直すことも出来ず、曲の最初から弾き直すことになります。

しかし、本番をたくさん経験してきますと、そのような大きなミスが徐々に少なくなり、小さなミスになってきます。

ミスがあっても、途中から弾き直すことが出来るようになり、また、ミスを気にせず演奏を止めることなく続行することが出来るようになります。そして、ミスの後も、調子を崩すことが少なくなってきます。

ミスの有無よりも、むしろ、ミスの内容とその対処を見て、生徒さんの成長ぶりを感じるものです。

生徒さん自身は、とても悔しそうでしたが、聴いていた私として、生徒さんの確かな進化を確認することが出来ました。

もう、すでに来年の発表会の具体的な曲名まで挙がっていて、生徒さんの向上心にも感激しました。

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(この記事は、第184号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、定年退職後にピアノを始められた男性の生徒さんのお話です。

定年退職されて、「ピアノでも弾いてみるか」ということで教室に通い始め、もう数年になります。

以前はギターを弾いていたとの事で、ト音記号は少し読めるのですが、ピアノは初めてで指番号の確認から始めました。

大人の生徒さんは、月に2回のレッスンの方が多いのですが、この生徒さんは、毎週レッスンに通われています。

女性の生徒さんと異なり、男性の生徒さんは、レッスンで多くを語らず、どちらかというと黙々と弾かれる方が多いように感じていますが、この生徒さんも、レッスンでは、黙々と何回も続けて弾く事が多い方です。

ピアノを始めたころは、焦ってしまい、弾いているうちにテンポがどんどん速くなってしまっていましたが、今では弾いている曲に少し慣れてくると、速くならないようにコントロールすることができるようになってきました。

今、弾いている曲は、かなりミスなく弾けるところまで仕上がってきており、「このくらい弾けていれば OK かなあ」と思う演奏ができるようになって1か月くらいは経っています。

私としては、大体出来てきたので、この曲は合格と思っていたのですが、弾いているご本人は、どうも納得していないのです。

毎回レッスンの度に、弾いては、「う~~ん」と小さく唸り声をあげ、時にはため息を付いたり首を傾げたり。

このような状態では、「弾けるようになった」という嬉しさや達成感がありませんので、無理に次へ進む訳にもいきません。

生徒さんに聞きますと、「何か違う。何か自分のイメージする音楽と違う気がする」とおっしゃいます。

最初のころは、弾きなれていない3拍子の音楽への違和感かなと思ったのですが、練習を始めてある程度経った今でもおっしゃっているという事は、別の要因と思われます。

そこで、メロディーよりも伴奏の音が強くなってしまう点が原因かなと考えました。

初心者の生徒さんで、5・60代以上になりますと、指の関節が少し硬くなり、指がスムーズに動きにくい事があります。

そのために、指のコントロールが難しく、本来あまり主張しないように弾く伴奏で、音を弱くすることができず目立ってしまうのです。

この生徒さんも、当初から少し関節が硬い印象があり、そのため少し弾きにくい所で音のミスが起こってしまう事もありました。

伴奏を少し弱く弾くように、そのために指を鍵盤からあまり離さずに、常に鍵盤を触っているイメージで弾くようにとアドバイスしました。

「メロディーを少し強く弾いて目立たせ、伴奏は弱く弾く。」

これは、言葉でいうのは簡単ですが、実際にやるのは難しいものです。

私も小さい頃、なかなか出来ずに苦労した経験があるので、その大変さはよくわかります。

考えてみますと、同時に左右の違う指で、違う音を、違うリズムで、違う音の強さで弾くのですから、かなり難解な動作と言えます。

それを、次々と考える間もなく、曲の最後までやり続けるのですから、難しいと思うのは当然です。

だからこそ、ピアノ演奏は、脳の広範囲に刺激が起き、脳の活性化に良いといわれるのでしょう。

この生徒さんも、「あ~、それが、これまで感じている違和感の原因かも」とおっしゃり、気を付けて弾くようになりました。

ただ、難しい技術のため、練習してすぐに出来るようになるものではなく、少し長期的に気を付ける課題となります。

1週間後のレッスンでは、少しメロディーと伴奏のバランスがよくなってきましたが、相変わらず、すっきりしない表情なのです。

そして、たどり着いたのが、好きな音楽のタイプと、自分の持ち味とのギャップです。

今、練習している音楽は、元々ギターで演奏される曲で、以前ギターでも弾いたことがあり、お好きな曲なので曲想もバッチリ出来ています。

哀愁漂う音楽で、少し曇ったような音色で弾くときれいな音楽です。

しかしながら、この生徒さんは、パッと明るくはっきりした音が出せる持ち味なのです。

そのため、何回弾いても、何か違うと違和感を感じていたのです。

生徒さんにお話したところ、熱心にお聞きになっていて、「あ~。なるほど。それかも」と納得していたようでした。

ピアノという楽器は、弾く人によって音色が異なる不思議な楽器です。

この生徒さんのように、「パッと明るく華やかな音が出せるタイプの人」、また、「いぶし銀のような、どっしりとした音が出せるタイプの人」、「軽やかで繊細な音が出せるタイプの人」など、人によって音色が異なってきます。

そして、どれもが素敵な音なのです。

例えて言うなら、バラ、ひまわり、桜、朝顔、ユリ。どれもが、それぞれきれいな花であり、それぞれの良さがあるのと似ています。

時には、他のタイプが良いと憧れ、なんで自分はこういう音色なんだろうと思う事もあるでしょう。

しかし、他のタイプの方も案外同じことを考えていて、それぞれ別のタイプに憧れているように思います。

ご自分の持ち味を受け入れ、そして、違うタイプの音色づくりにもチャレンジしていく。それも、ピアノ演奏の面白さと捉えられたらと思います。

この生徒さんが、次のレッスンで、どのような表情で演奏されるのか、お気持ちがどのように変化しているのか楽しみです。

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