(この記事は、第96号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、この時期のお子様の生徒さんのお話です。
3月は、卒業のシーズンです。
今年も小学校や中学、高校を卒業される生徒さんが何人もいますが、生徒さんもご家族の方も、卒業式や謝恩会などで忙しくされているようです。
生徒さん方に聞いてみますと、寂しい気分よりも、新しい学校に通う事への不安と期待の方がはるかに大きいようです。
先日も高校を卒業した生徒さんに、「まずは、高校卒業おめでとうございます。卒業した心境は? やっぱり少し名残惜しいかな?」と聞きますと、すぐに「いや、それはない」と言うのです。
「あら、そうなの。もしかして、清々したという感じなの?」
「あぁ~、まあね・・・」
「へぇ、そうなんだ。それなら、4月から大学に行くのが楽しみでしょう?」
「いや、それもあんまり・・・」
「あら~、あまり知っている人がいないから、お友達関係が心配なのかな?」
「そうそう」
大学の授業の内容やレベルなどよりも、やはり人間関係についての不安が大きいようでした。
「大丈夫よ、大学の時に出来たお友達って、一生のお友達になるわよ。私もね、とても仲の良いお友達って大学の時の友達だから。しかも、必修科目が違うクラスの人で、大学に来る前まで全然違う感じの環境だったのよ。なんだか面白いご縁よね。そういう人と出会えるかもしれないって思ったら、とっても楽しみになるわよ」
「あぁ~、なるほどね。そう考えればいいんだぁ」
ついつい昔話をしてしまうのですが、私が経験したことをお話しすることで、少しでも不安が少なくなればと思っています。
また、この時期に新しいことにチェレンジする生徒さんもいます。
小学生の生徒さんは、初めてグレードの試験を受けます。
試験前の最後のレッスンで、「本番みたいに1回通して弾いてね。私は、もうお口にチャックして静かに聴いているからね」と話し、弾いてもらいました。
すると、出だしは調子良かったのですが、途中でメロディーの音が1つ思い出せなくなり、パッタリと止まってしまったのです。
しばらくして、少し前から弾き直したのですが、それでもどうしても1つの音が思い出せなくて、立ち往生してしまいました。
なんとか続きを弾くように促して、最後までたどり着いたのですが。
これまで何回も発表会などの本番を経験していますし、今回弾く曲でもこのようになったことは一度もなかったので、私もとても驚きました。
どうしたの?という気持ちを抑えて聞いてみました。
「○○ちゃん、ちょっと緊張した?」
「うんっ、すっごく緊張した。本番と同じくらい緊張した」
「そうだったの。それなら今日レッスンがあってよかったわ。本番で緊張したらどうなるのか、本番前にわかるからね。こうならないように練習をすればいいからね」
よくよく話を聞いてみますと、この生徒さんにとって、ピアノの演奏に点数が付く(合否が付く)というのは初めての経験なので、少しどうしていいのかわからなかったようなのです。
「グレードはね、お客様の中に試験の先生が2人くらいいるだけだから、発表会と同じなの。だから、発表会と同じように弾けばいいのよ。では、ここで質問ね。弾いていたら次の音がわからなくなりました。どうしたらいいでしょうか?」
「飛ばして、どんどん先に行く(先を弾く)」
「そう、大正解。発表会の時と同じでいいのよ。気にしないでどんどん弾いていくの。そして、本番では女優さんになるのよ。あっ、なんだっけ?って思っていいけれど、顔に出しちゃダメね。全然平気!っていう顔をして弾くの。そういう風に見えるように演技をするのよ」
「そっかぁ、女優さんかぁ」
「そう、だってピアノを弾く人が緊張して青ざめて舞台にいたら、見ているお客様が、あらっ、この人大丈夫かしらって不安になって、楽しく音楽が聴けなくなっちゃうでしょ。」
「うふふ(笑)、そうだよね~」
思った以上に弾けなかったショックから、一転して晴々したいつもの笑顔に戻り、私もとてもホッとしました。
そしてお迎えにいらしたお母様の前で、最後にもう一つお話しをしました。
「○○ちゃんね、本番前に言っちゃいけない言葉があるの」
「言っちゃいけないこと?」
「(音を)忘れそう、弾けなさそうっていう言葉よ。私ね、すっごく昔に本番前に、そう思って言っちゃったことがあってね。そうしたら、本当に音を忘れちゃって、暗譜が飛んじゃったの。○○ちゃんには、私と同じ間違いをしてほしくないから、失敗した時のお話をしたのよ」
「うん、絶対に言わないね」
本番で、いつもの力が十分に発揮できるように、後は祈るのみです。
(この記事は、第95号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、定年退職を機にピアノを習い始めた生徒さんのお話です。
この生徒さんは、昨年からピアノ教室に通われており、まだ半年未満です。
昔からピアノに憧れていたという感じではなく、「時間が出来たので、ちょっとやってみようかな」と思われたようです。
学生時代に少しギターを弾いていたそうで、少しだけ楽譜が読めるという状態でレッスンがスタートしました。
大人の初心者用の教材では、始めの方は連弾曲になっていて、両手を使うのですが同時に使うことはなく、どちらかの手だけを使って弾く曲になっています。
少し音が読めましたので、すぐに弾けるようになり、しかも恐る恐るゆっくり弾くという事ではなく、すらすらと軽やかなテンポで弾いていました。
たまに指番号を間違えてしまうことはありましたが、結構よいペースで教材を進められそうだと思っていました。
教材も進み、少しづつ曲も長くなり、いよいよ両手で同時に弾く曲に入りました。
最初は、両手とも同じ音を弾くような練習曲でしたので、大した問題もなくすぐに仕上がり、次の曲以降は両手で同時に違う音を弾いたり、それにプラスして両手で違う長さの音を弾くような曲(右手と左手が違うリズムの曲)になっていきました。
通常、ピアノの曲はこのような曲が殆どなのですが、初心者の方には、これがとても難しく感じるものなのです。
どちらかの手の音を伸ばしておくことはわかっていても、いざその個所になると手を間違えてしまったり、固まってしまうこともありますし、うっかり忘れて通り過ぎてしまうこともあります。
この生徒さんの場合は、焦ってテンポがとても速くなり、難しい個所でつまずいた後は、そのまま ずるずると弾けていた所まで弾けなくなってしまう状況でした。
続けて何回か弾きますと、曲の弾き始めからテンポが速くなっていて、勢いで弾いてしまおうという感じにも見受けられました。
しかし、たまにとても上手に弾ける時もあるのです。
実は、有名な曲を弾く場合、曲をご存じの事もあり、なんとなく「こんな感じかな」という雰囲気で弾いて、たまにスラ~と弾ける時があるのです。
「あっ、今、とてもよく弾けましたね」という事にはなるのですが、本当に理解した上で弾いているとは言い難く、その後似たようなリズムの曲を弾く時に、同じように弾けるのか、少し不安が残るのです。
この生徒さんは、ゆっくりなテンポで弾いてみますと、左右の手が混ざらずに、しかも正しいタイミングで弾けていましたので、とにかくゆっくりなテンポで練習をするようにお話をしてみました。
「ゆっくりなテンポですと、しっかりと弾けていますので、ご自宅でも速くならないように気を付けて見てくださいね。ただ、ゆっくり弾くのは、わかっていても結構難しいですし、曲のイメージからしますと速く弾きたくなってしまうと思います。慣れるまでは相当な忍耐力が必要なので、あまりストレスが溜まらないようにして下さいね。」
ゆっくり弾くということは、次の音やリズムなどを考える時間ができますから、本来は簡単なはずなのです。速く弾く方が、指が上手に動かせなかったり、リズムを間違えてしまったりと難しくなります。
しかし、頭で理解して意識して指を動かしていない場合、ゆっくり弾くと曲のペースが狂ってしまい、これまで弾けていた所までわからなくなってしまう事になるのです。
小さいお子様の生徒さんでも、「この速さじゃないと弾けない!」と話されることがたまにありますが、それもコントロールして弾いていないという事ですので、改善が必要
になります。
この生徒さんは、先日のレッスンでは少しミスがあったものの、随分とコントロールして弾くことが出来るようになり、音楽の安定感も少しづつ見えてきました。
「この1週間で、随分と変わりましたね、びっくりしました。結構大変な練習だったと思いますが、相当練習をなさったのではないですか?」とお話しますと、
「それほどでも・・・。でも、ゆっくり弾くように気を付けてやっていました」と、少し照れながら話されていました。
テンポの安定やコントロールして弾くことが定着するまで、まだしばらく時間がかかると思いますが、焦らずに良い意味でマイペースに進めていければと思います。
また、大人の生徒さんですので、難しいことを習う時の説明や共感、フォローも欠かさないようにしようと、改めて感じました。
(この記事は、第94号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、先日行われた「リトルピアニスト」というコンサートのお話です。
「リトルピアニスト」は、ヤマハ主催の小学生によるピアノコンサートで、3日間で全9ステージのコンサートが行われました。
関東甲信越の33の楽器店から推薦された小学生たちが、ピアノソロや連弾を披露しました。会場は、銀座にあるヤマハホールで、小ホールの規模ながら2階席まであり、かなり天井が高いホールです。
同じ音楽教室でも、他のクラスの生徒さんの演奏を聴く機会は少ないのですが、今回のコンサートのように他の音楽教室の生徒さんとなりますと、ますます聴く機会は少なく、そのような意味でも貴重な体験でした。
曲目なども、とてもバリエーションに富んでいて、コンサートを聴く前から興味が湧いていました。
ギロックや湯山昭、平吉毅洲さんの小品やブルグミュラー25の練習曲、ソナチネアルバムなど定番の曲目もあれば、ショスターコーヴィッチやグラナドス、ガーシュイン、シャブリエ、バルトークなど、少し珍しい作曲家の作品も並んでいました。
また、このコンサートは、最年長でも小学6年生になりますが、モーツァルトやベートーヴェンのソナタ、ショパンのワルツや幻想即興曲など、難しい曲も並んでいるのにはビックリしました。
それだけではなく、さらに難曲であるショパンの練習曲やリストの練習曲(3つの演奏会用練習曲、2つの演奏会用練習曲)までもが並んでいるので、驚きを通り越してしまったくらいです。
演奏する立場から見ますと、天井が高いホールは、音がよく響きますので、響きに耳が慣れると弾きやすいのですが、会場の大きさに圧倒されてしまうものです。
ましてや、銀座のヤマハホールとなりますと、国内外で活躍している演奏家も利用するトップクラスのコンサートホールですので、そのようなホールで弾く機会があるのは素晴らしいと思う反面、プレッシャーに感じる部分もあると思います。
それでもコンサートを聴きますと、緊張はしていても、深刻そうな顔や雰囲気の生徒さんはおらず、なかなかすごいなあと思いました。
どの生徒さんも、かなりしっかりとまとめてきている感じの演奏で、完成度は高かったと思います。後日、出演した生徒さんとお母様に感想を聞いたところ、「他の生徒さん方が、すごく上手で、ビックリしました」とおっしゃっていたくらいです。
演奏を聴いていますと、生徒さんの個性が演奏に表れると共に、教えている先生の指導方針や個性もよく表れていました。
きっちりと音楽の構成やリズムなどを教えていて、「楽譜に書かれていることを、しっかりと教えているんだなあ」と好感を持つ事もあれば、逆にやりすぎてしまっていて、少しオーバーに感じたり、クセがあるように感じてしまう事もありました。
クラシック音楽の場合、楽譜に忠実に弾くことが大前提ですので、しっかりと守って弾くのですが、いかにも「このように習いました」という演奏では、面白みがなく感動する演奏にはなりません。しかし、個性ある演奏と勝手気ままな演奏を混同してしまうことも避けなければならないのです。
基本を守りつつ、いかに生徒さんの個性を引き出す演奏にしていくのか、とても難しいテーマですが、改めて考えさせられたコンサートでした。
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