(この記事は、第56号のメールマガジンに掲載されたものです)
ピアノ教室の出来事、今回は、子供の生徒さんのお話です。
ピアノのレッスンで週に1回、また2週間に1回、生徒さん方とお会いするのですが、毎回見ていますと、段々と生徒さんのことがわかってくるものです。
ピアノのレッスンにいらっしゃる大人の生徒さんは、いつも楽しそうにいらしています。暑い、暑いとおっしゃりながら、汗をかきつつ、でもお元気そうです。
お子様の場合、そういう時も多いのですが、ぐったりしていたり、ムッとした表情で来られることもあります。
「どうしたの?今日は元気が無いねえ」と言いますと、「今日は部活でずっと走っていた」とか「1時限目からプールの授業なんだもん」「○○の授業が2時間も続けてあったから・・・」などなど。プールの授業があった時や、運動会の練習をしているときには、「疲れた~」とヘロヘロになっている小学生もいました。
そうなると、これからピアノのレッスンをするのが、少々かわいそうな気分にもなってしまいます。
このような肉体的な疲労だけではなく、精神的にストレスを抱えたままレッスンに来るお子様もいます。
「あら~、今日はどうしたの?何かあったの?」と聞きますと、
「だって、帰りのホームルームで先生がまたお説教するんだもん。しかも長いし。他のクラスはとっくに帰っているのに」
「やりたかったクラスの係が、人数が多くてなれなかった」
「部活で、やりたかった楽器が出来なくて、別の楽器になっちゃった」などなど。
お子様ですと、やはり学校関係の悩みは尽きないようです。「そうだったの」とお話を聞いて気持ちを理解しつつ、時には励ましたりもしています。
もっと軽くて、お子様らしい反応は、「お腹すいたぁ。今日、学校が終わるのが遅かったから、急いで帰ってきて、急いで来たの。だからおやつ食べられなかった..」
育ち盛りですから、このような事を言っているお子様が多い気がします。「腹が減っては戦は出来ぬ」という言葉もありますが、ピアノを弾く時も、満腹では弾けませんが、お腹がすいてペコペコな状態ですと、それもまた集中力が低下するものです。
しかし、時にはお家の出来事を引きずったままレッスンに来るお子様もいます。
同じように聞いてみますと、わぁ~っと泣き出して「お母さんに怒られた」と言うのです。こうなりますと、即レッスンという訳にはいかなくなり、よく話を聞いてあげます。
「そうだったの。お母様もね、別に○○ちゃんのことをキライになったわけじゃないのよ。大好きだから、○○ちゃんのことをすごく心配していたのよ。大丈夫、大丈夫、お家に帰ってもう1回ちゃんと謝ったら、お母様もわかって下さるわよ。」
鼻をズルズルさせながら「うん」とうなずき、何とか少しピアノを弾くことができ、落ち着くことができました。
他にも「ピアノ辞めたい・・・」と言って泣き出してしまったお子様もいました。
ピアノのレッスンは好きだけど、あまり練習がはかどっていないようで、親御さんに注意され、喧嘩になったらしいのです。ちょうど同じ頃、学校で進級して、クラスの雰囲気があまり良くないと言っていたので、かなりストレスが溜まっていた中での出来事でした。
この生徒さんも、気分を少し落ち着かせて、1回だけ弾いて帰って行きました。
ピアノのレッスンは、生徒さんがピアノを上手に弾けるようにレッスンをする場なのですが、時にはその前にメンタル面を落ち着かせてピアノを楽しめる状態に整える必要もあるのです。
そうしないと、弾けるものも弾けなくなりますし、指導する立場から見ましても、メンタル的に集中力が低下していて、その時だけミスをしているのか、元々譜読みの段階で間違えているものなのか判断がしにくくなります。
そして、なによりも生徒さんとのコミュニケーション作りや、信頼関係に大きく影響することになります。
いろいろな問題を抱えつつレッスンに来て、それを話してくれる訳ですから、こちらもしっかりと受け留めて、対応することもピアノレッスンには大切なのだと思っています。
(この記事は、第55号のメールマガジンに掲載されたものです)
ピアノ教室の出来事、今回は、大人の生徒さんのお話です。
この生徒さんとは、かれこれもう10数年のお付き合いになります。昔ギターを少し弾いていたそうですが、ピアノは全く弾いたことが無い方でした。しかし、たまたま知り合いからピアノを貰ったことがきっかけで、体験レッスンにいらっしゃいました。
今でこそ多くの音楽教室で、大人の初心者の方のレッスンを行っていますが、当時はまだそれほどでもなく、ましてやピアノを貰った事がきっかけで、お子様や奥様ではなく、ご主人様がピアノを始めるということに、少々驚いた記憶があります。
その時は、リチャード・クレイダーマンの易しくアレンジされた曲集をお持ちになり、「こういうのを弾けるようになりたい」とお話をされていました。
まだ30代で、ギターを少しやっていたこともあり譜読みも速く、比較的早い段階で、憧れだった「渚のアデリーヌ」を弾けるようになり喜んでいました。
その後、リチャード・クレイダーマンの作品を数曲弾いたり、映画の音楽を弾いたりしていましたが、そのうちに「クラシックを弾いてみたい」と話されるようになりました。
大人の生徒さんは、初心者や中級者などレベルに関わらず、以前からクラシックが好きな方が多いようで、この方のように色々なジャンルを弾いていても、「いつかはクラシックを弾いてみたい」というお気持ちを持たれているようです。
そして、易しくアレンジされたクラシックの作品を弾くようになり、その後原曲も弾けるようになってきました。
ベートーヴェンの「エリーゼのために」やモーツァルトの「トルコ行進曲」という、大人の生徒さんの憧れであり人気がある曲や、ショパンの「ノクターン第2番」なども弾いてきました。
ショパンに関しては、これまでよりもかなり難しい曲なので、いつも以上にご自宅での練習を熱心にされていて、レッスンも補講を入れて、発表会直前までレッスンをしていました。相当難しかったそうですし、ご苦労もされてたかと思いますが、演奏後に満足そうな笑顔をされていたのが印象的でした。
今は、秋の大人の発表会に向けて頑張っておられます。
大人になってからピアノを始めた生徒さんでも、このようにクラシックのピアノ曲を原曲で弾けるようになることは多々あります。目標の一つにしてみても良いかもしれません。
(この記事は、第54号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、お子様のピアノ発表会のお話です。
毎年夏に行われる、お子様を対象としたピアノ発表会が先日無事に終わりました。
生徒さんも終わってほっとしていると思いますが、一番ほっとされているのは、親御さんを始めとするご家族の皆様かもしれません。
「なんとか無事に終わってよかったです」と安堵の表情でお話されている、お父様やお母様方が何人もいらっしゃいました。
小さなお子様が、恥ずかしそうに舞台に上がり、お辞儀も忘れてぼーっと立ったままというかわいらしい姿に、会場がふと和やかな雰囲気になった時もありました。
また、中高生が難しい曲を一生懸命弾いている姿に、会場全体が引き込まれ、釘づけになっている時もありました。お子様が舞台の上で、緊張と戦いながら頑張っている姿は、毎年のことながら感動を覚えずにはいられません。
ピアノを指導する立場になって、もう10数年経ちますが、慣れていることがある半面難しさを痛感することも多々あります。その1つを挙げますと、「生徒さん全員が、一番良い状態のときに発表会を迎えること」です。
ピアノに限ったことではないのですが、何かを習得するまでには、「上手にできる、上り調子の時期」と「調子が今一つになる、崩れる時期」がやってきます。
この上り調子の時期に発表会が重なると、当日満足いく演奏ができるものですが、時期を合わせるのがとても難しいのです。
今年も、発表会前の最後のレッスンで、ちょっと崩れ始めた生徒さんがいて、レッスン内で調整をしたのですが、当日ちょっと惜しいミスが出てしまいました。全体的には良かったので、尚更「発表会が数週間早かったら・・・」と思ってしまいました。
逆のパターンもあります。数週間前のレッスンでは、「弾けてはいるけれど、もう一段内容の深い演奏が出来れば・・・」という生徒さんがいましたが、最後のレッスンでは上り調子になってきて「当日、この演奏をもう一回聴きたい」という状態でした。そして、発表会本番では、最後のレッスンと同じく、またそれ以上に深みのある演奏が披露出来たのです。
発表会本番では、普段の演奏にプラスして、臨機応変さも大切です。何かアクシデントが発生した時に、どう対処するかで全体の演奏に影響が出るからです。これは、本番を想定した練習と、ある程度の場馴れで習得できるようになります。
私自身も振り返ってみますと、小さい頃は、ガチガチに緊張していました。
よく「頭が真っ白」になるという例えをしますが、あれは本当に頭が真っ白になるんですよね。本当に驚いたのですが、その時はなんと、気が付いたら曲の終りのほうに進んでいたので、ちゃんと弾いていたようです。記憶がないので、演奏としてはあまり良い出来ではないと思いますが、一応なんとか乗り切りました。
また、ピアノの試験中に停電になったこともあります。弾きながら「あれっ、なんだか暗くなった!」と思ったら停電だったのです。「真っ白」ではなく「真っ黒」ですね。そんなアクシデントがあっても、弾き続けました。もし、停電だからと言って止まったら、おそらく不合格になっていたと思います。本番は、本当に何が起こるか分からないものです。
今回の発表会でも、間違えてしまった生徒さんがいましたが、それでもどんどん先を弾けた生徒さんと、止まってしまって前から弾きなおした生徒さんがいました。当然止まらない方がよいので、全員がこの対処方を身に付けてくれたらと思いながら聴いていました。
最後に、発表会などの本番で絶対にしてはいけないことを一つだけお話いたします。
これは、昨年の「ピアノ教室の出来事」でも書きましたが、ネガティブなことを言わないことです。「(暗譜を)忘れそう」「間違えそう」などと声に出さない事です。
本当にそうなってしまった生徒さんが何人もいます。私自身も、ずいぶん昔に一回そうなってしまったことがありました。
これを覚えておくだけで、本番上手に力が発揮できると思います。
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