(この記事は、第53号のメールマガジンに掲載されたものです)
前回まで、今年10月に行われるショパン国際ピアノコンクールについてお話をしてきました。
今回は、その特異なコンクールであるショパン国際ピアノコンクールに参加したピアニスト達とコンクールにまつわるエピソードについてお話をいたします。
世界には、ショパンコンクール以外にも色々なコンクールがありますが、これだけ話題性のあるコンクールはあまりないのではないでしょうか。コンクールに優勝しますと、一夜にして全世界に名前が知れ渡り、その後も世界一流のピアニストとして認知されます。
このコンクールに優勝した以下のようなピアニストの名前を聞いたことがある方も多いかと思います。勿論今でもコンサート活動などで大活躍されています。
ハリーナ・チェルニー=ステファンスカ(ポーランド)
マウリツィオ・ポリーニ(イタリア)
マルタ・アルゲリッチ(アルゼンチン)
クリスティアン・ツィメルマン(ポーランド)
ダン・タイ・ソン(ヴェトナム)
スタニスラフ・ブーニン(ソヴィエト連邦)
ユンディ・リ(中国)
例えば、ブーニンが優勝した時には、日本でも大ブームとなりコンサートも大盛況だったようです。また、ポリーニが18歳で優勝した時には、満場一致の優勝で、審査委員長をしていたピアニストのルービンシュタインが「ここにいる我々(審査員たち)の中で、彼より上手く弾ける人がいるだろうか」と、大絶賛のコメントをしたという話も残っています。
日本人ピアニストに優勝者はまだ残念ながらいませんが、入賞した方は結構います。
内田光子(第2位)
横山幸雄(第3位)
中村紘子(第4位)
小山実稚恵(第4位)
関本昌平(第4位)
山本貴志(第4位)
高橋多佳子(第5位)
宮谷理香(第5位)
海老彰子(第5位)
佐藤美香(第6位)
遠藤郁子(第8位)
みなさん、ショパンコンクールの入賞をきっかけとして、ピアニストとして活動をされているようです。
その中で、中村紘子さん、内田光子さん、小山実稚恵さんに関しては、日本国内だけでなく世界を舞台に活躍をされています。
中村紘子さんや小山実稚恵さんは、ショパンコンクールの審査員としても活躍されていますし、内田光子さんは、シューマン・モーツァルト・シューベルトの演奏に関しては世界的に評価が高いピアニストで、日本国内でコンサートが行われる時には、チケットが即完売してしまうという、ものすごい人気ぶりです。
また、コンクールには色々なエピソ-ドも残されています。
例えば、マルタ・アルゲリッチは優勝の後、今度はショパンコンクールの審査員になりますが、その時に参加していたイーヴォ・ポゴレリチというピアニストが本選に進めなかった事に異議を唱え、「彼は天才」と言って審査員を辞退しました。しかし別の審査員は、彼が1次予選を通過したことに抗議して審査員を辞任しています。このピアニストは、今でも個性的な演奏で人気のあるピアニストです。
同じように、アシュケナージが第2位という結果に猛抗議した審査員のミケランジェリは、審査結果のサインを拒否し、それ以降のショパンコンクールの審査員を拒否しました。
また、日本人として初出場した原智恵子さんが入賞しなかった事に聴衆が激怒して、警官が出動する程の騒ぎとなったこともあるようです。勿論、審査結果を取り消すことは無かったのですが、特別に賞を送って事態が鎮静したという話もあります。
このようなエピソードを聞きますと、世界一流のピアニストや教授陣達の間でも、音楽については意見が分かれますので、いかに音楽がある意味個人の好みによるものなのかがわかりますね。
今年のショパンコンクールでは、どんなエピソードが生まれるのでしょうか。
(この記事は、第52号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、兄弟・姉妹でレッスンに通われているお子様のお話です。
兄弟や姉妹で一緒にピアノの教室に通うことは、よくある光景です。しかし始めから一緒に習い始めるのではなく、上のお子様が先に習い始めていて、あとから下のお子様が始めるというパターンがほとんどです。
上のお子様がレッスンに通うときに、一緒に来て終わるまで待っていたり、また送り迎えの時に下のお子様も一緒に来ていて、段々とピアノのレッスンが身近に感じるようで、「僕も(私も)、ピアノをやりたい」と言い出すのだそうです。
親御さんは、上のお子様だけをピアノ教室に通わせようとは思っていないようで、いずれは下の子も習わせようと思っていることがほとんどです。
では、「下のお子様をいつから習わせるのか?」ということですが、お子様本人が、「ピアノをやってみたい」と言い出した時ではなく、ある特定の時期に集中しているように思います。
それは、幼稚園/保育園の入園時、または小学校の入学時です。
例えば、お姉さんのレッスンのお迎えに来ている弟さんが、毎週必ず「僕もピアノやりたい~」と言って、半分ぐずってしまう程でしたが、幼稚園の入園と共に習い始めました。
またお兄さんがピアノを習っていて、お迎えの時にいつも幼稚園生の弟さんが来ているケースもありました。同じように「ピアノやりたい」と言っていましたが、いつもお母様が「小学校に入ったらね」となだめていて、小学校の入学と共にピアノを始められました。
こうして、兄弟・姉妹が揃ってピアノの教室に通うことになるわけですが、レッスンに関しては2つに分かれることになります。
同じ時間に同時に習えるように、別々の先生に習うケースと、続きの時間に同じ先生に習うケースです。中学生のように大きくなりますと、兄弟や姉妹でも生活のペースが異なりますので、バラバラの曜日や時間になることがほとんどですが、小学生のうちは、なるべく送り迎えが同時に済むようにと親御さんは考えているようです。
送り迎えが無くなっても、いくら近所とはいえ、お子様が一人で通うのは、なにかと心配も多くなります。兄弟が一緒に通えば、少しは安心という事もあるようです。
私がこれまでに見させていただいた生徒さんの場合、兄弟・姉妹を揃って見させていただくことが殆どでした。
兄弟が揃ってレッスンに通うのですが、いざレッスンを始めてみますと、下のお子様の進むペースが速い事がよく起こります。
随分スラスラとよく弾けるので、「ピアノをやりたい」とずっと思っていて、熱意が強いから頑張って練習をしているのかと思っていました。もちろんそれもあるのですが、それ以外の要因もあるのです。
それは、上のお子様の練習をずっと聴いてきたので、自然と耳で曲を覚えているのです。
よく「耳コピ」などとも言います「耳で曲を覚えて弾く」ことは、ピアノや音楽を楽しむ一つの方法ですが、賛否両論があることも事実です。
特にクラシック音楽を演奏する場合には、「楽譜に書かれている事を忠実に守る」ことが重要で、耳で覚えた場合、曖昧な点があったり、聴き間違えたまま覚えてしまう事もあるからです。
モーツァルトを始め、いろいろな音楽家の天才ぶりにまつわる話に「一度聴いた音楽を完璧に覚えて楽譜に書いた」とか「一度聴いた音楽は、すぐに何でもピアノで弾けた」というものがありますし、辻井伸行さんを始めとする盲目の演奏家の方々の活躍ぶりを考えますと、個人的には音楽の一つの立派な能力だと思います。
それに加えて、楽譜から色々なことを読み取って演奏できれば、更に演奏の力も付きますし、演奏できる曲の幅も広がり、より音楽を楽しむことに繋がっていくのではないかと思います。
このように、下のお子様が次々と進むことに、上のお子様はあまり良い顔をしない事もありますので、そこはきちっとしたフォローが必要です。
兄弟や姉妹が、それぞれのペースで、またお互いに良い刺激を受けながら、楽しくピアノを弾き続けられるといいなぁと思っています。
(この記事は、第52号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、「ショパン国際ピアノコンクール」の第3話です。前回は、第2次予選までお話をしました。
第2次予選を通過しますと、次の日には第3次予選が始まります。セミファイナルなので、ここを通過しますといよいよ本選へ出場することができます。
きっとここまで進んだ方全員が、「ここまで来たんだから最後まで進みたい」と思うのでしょう。第3次予選では、マズルカとソナタが課題曲になります。
マズルカもソナタも、ショパンの作品の中で、最も難しいとされている曲です。
マズルカは、ただ単に弾くだけなら、テクニック的には小学生でも弾ける位なのですが、ポーランドの民族音楽を取り入れていますので、そこをどれだけ表現できるのかという点が非常に難しいとされています。
ソナタは、技術的にも音楽の内容的にも大変難しいとされていて、ピアニストのリサイタルでも最後に演奏する曲として選ばれます。「いかにショパンの音楽の真髄を深く理解して、表現するのか」を競うショパンコンクールのセミファイナルの課題曲として、ふさわしいとも言えます。
前回は12人中、半分の6人が、この第3次予選を通過しました。
第3次予選が終わりますと、10月17日はショパンの命日です。この日はコンクールもお休みとなり、コンクールの参加者や審査員などが、ショパンの心臓が埋め込まれている聖十字架教会で行われるショパンのミサに参列します。
そして次の日から、いよいよ本選となります。
本選は、オーケストラとのコンチェルト(協奏曲)が課題曲です。これは、ショパンコンクールだけではなく、他の大きなコンクールでもよくある課題曲です。
ピアニストとしてコンサートを行う場合、一人でリサイタルを行うことが多いのですが、それだけではなく、他の楽器やオーケストラとの共演もよくあります。オーケストラの演奏会にゲストとして呼ばれるということです。
そのため、オーケストラや指揮者と一緒に、一つの音楽を作り上げる事も、ピアニストとしての重要な能力と言えます。しかし、なかなか普通はオーケストラと演奏できるチャンスが無いので、コンクールの本選で初めてオーケストラと演奏するという事も多いようです。
そうなりますと「練習の時には、どうするのか?」「どうやって練習するのか?」という疑問が湧いてくるかと思います。
実は協奏曲には、2台のピアノで演奏できるように編曲された楽譜があるのです。そして、オーケストラの部分をピアノで弾けるようになっています。(ピアノのパートは、もちろん編曲されておらず、オリジナルのままです)
オーケストラの部分を誰かに弾いてもらって練習をしたり、先生に弾いてもらって合せながら練習をします。
コンクールでは、リハーサルがありますが、オーケストラとの練習は時間が決まっているので、そうたくさんは一緒に練習が出来ません。限られた時間で、自分が表現したい音楽を指揮者やオーケストラに伝えつつ、指揮者やオーケストラが感じる音楽を理解して、織り交ぜて一つにまとめていくことになります。これは、想像するだけでも大変なことですね。
他のコンクールでは、ベートーヴェンのコンチェルトやラフマニノフのコンチェルトなど、さまざまなコンチェルトが弾かれるのですが、ショパンコンクールでは、当然ショパンの作品だけを弾くので、ショパンのコンチェルトだけが弾かれます。
しかし、ショパンはコンチェルトを2曲しか作っていません。以前、このコーナーでも触れましたが、他にオーケストラと一緒に演奏する作品もありますが、それも数曲しかなく、またそれほど有名ではないので、おのずと一番有名なコンチェルト第1番を弾く人が多くなります。
マズルカやポロネーズ、練習曲などは割と曲数が多いですし、一度に色々な曲を弾きますので、他の人と少し曲が重なるくらいで済むかもしれませんが、コンチェルトはこのような状況なので、最後の本選になって「すぐ前の人が同じ曲を弾く」とか「次の人も同じ曲を弾く」ということが起こりうるのです。
とてもリアルに比較されそうですし、プレッシャーも相当なものでしょうね。
こうして、ようやくショパンコンクールの優勝者やその他の順位、入賞者が決まります。今年はどんなピアニストが優勝するのか、楽しみですね。
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