(この記事は、第84号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「芸術の秋」に聴きたい音楽CDのご紹介です。
昨年はショパンコンクール、今年はチャイコフスキーコンクールと、世界最高峰のコンクールが2年続けて開催されました。
両方のコンクールの歴代優勝者の顔ぶれを見ますと、今も大活躍中のピアニストがたくさんいますし、コンクールが開催された初期の頃に優勝した人たちは、今では巨匠クラスです。
このような一流のピアニストの演奏をぜひ生で聴きたいと思うのですが、世界中で活躍していますので、なかなか日本でコンサートが開かれなかったり、とても人気のためにチケットが入手しにくかったり、中には既に第1線から退いてしまっている方もいらっしゃいます。
そのため、音楽CDで楽しんでみましょう。自宅でくつろぎながら、ゆっくりと一流のピアニストの演奏を楽しむのも良いものです。お気に入りのピアニストを見つけるのも楽しいですし、大ファンのピアニストの演奏を何回も繰り返して聴くのもよいですね。
また、同じ曲を色々なピアニストの演奏で聴き比べてみますと、それぞれの個性がわかりやすいので、新たな発見があるかもしれません。
コンサートで生の音楽に触れるのは、音楽ファンにとって醍醐味ですが、自宅ならではの楽しみ方も、ぜひ味わいたいものです。
「おすすめ音楽CD」のコーナーの「コンクール歴代優勝者の音楽CD」で、それぞれのコンクールの歴代優勝者の音楽CDを紹介していますので、ご覧ください。
お気に入りの音楽CDが見つかるといいですね。
(この記事は、第83号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、新しいピアノメーカーのお話をいたします。
ピアノというと、スタインウェイや、ベーゼンドルファー、ベヒシュタイン、ヤマハ、カワイ、プレイエルなど色々なメーカーが製作していますが、どのメーカーも歴史があり、ピアノ作りに長く携わっています。
そんなピアノ業界に、新しいピアノメーカーが誕生しました。
Fazioli(ファツィオリ社)というピアノメーカーです。
以前から存在は知っていましたが、実際に見ることもなく、どこのホールに置いてあるのかも知りませんでした。しかし、「そのメーカーのピアノはペダルが4本ある」というインパクトがとにかく強烈で、強く印象に残っていました。
創業してからまだ30年くらいしか経っていない新しいピアノメーカーなのですが、世界的に人気が高まっているのです。まだあまり歴史がないことは、デメリットに聞こえるかもしれませんが、見方を変えますと、創業者が今なお製造に携わり続けている唯一のメーカーとも言えます。
35人の職人により、手作りで製作されていて、 一台のピアノが完成するまでに約3年もかけているそうです。完成したピアノは、創業者のパオロ・ファツィオリさん自身が全て試弾して、最終チェックを行ってから出荷しているそうです。
創業者のパオロ・ファツィオリさんは、1944年にローマで生まれました。彼の父は家具工場を営んでいたそうです。
ロッシーニ音楽院やローマ音楽院でピアノや作曲の勉強をしていましたが、その頃、彼の兄弟は家業を拡大させて、世界中で家具の販売をしていました。そして、音楽的な知識と、家具作りに必要な木材加工や設計の知識を融合させて、グランドピアノ作りを始めることにしたのです。
1978年に、ベネチアから少し離れたところにファツィオリピアノ工房が生まれました。
ピアノはすでに何百年も前からあり、それほど変わらない、ある意味とても古典的で伝統的なものですが、それを約30年前に、これから新しく作ろうと思ったこと自体、すごいことだと思います。
ピアノは精密機械でもありますので、ピアノが好きな方はたくさんいても、ピアノを作りたいと思う方は、ほとんどいないのではないでしょうか。
グランドピアノのみを作り、生産量を増やすことは考慮せず、最高のクオリティを目指して一つ一つ手作業で作っています。他のメーカーのピアノを真似ることなく、独自の音作りをして、常に最先端技術を駆使してピアノを改良していくというポリシーなのだそうです。
ピアノの命とも言える響板には、弦楽器で大変有名なストラディバリと同じ木を使っているそうです。かなりの「こだわり」が伝わってきます。
そのこだわって作られたピアノは、年間で100台ほどしか作られていませんが、すでにアシュケナージやアルゲリッチなどの世界一流のピアニスト達も注目し、コンサートで使っています。ブーニンもコンサートで使用し、自宅用にも購入したそうです。
先日行われたチャイコフスキーコンクールで優勝し、前年のショパンコンクールでも第3位となったトリフォノフさんも、両方のコンクールで Fazioli(ファツィオリ社)のピアノを弾いて、素晴らしい成績を収めました。
ピアニストを多く輩出している世界屈指の名門校であるアメリカのジュリアード音楽院や、中国の音楽院などでも、すでに導入しているそうです。
私も最近になって何度か、Fazioli(ファツィオリ社)のピアノの音を聴きましたが、とても明るく透明感のある音色が印象的でした。まるでイタリアオペラの可憐な歌声を思わせる音です。
日本には、まだわずかしか導入されていないようですが、東京の仙川アヴェニューホールにあります。こちらでは、ピアノのフレーム(ピアノの中に見える金属の部分)がシルバーになっている、とても珍しい型番のピアノが置いてあります。
また、渋谷教育学園・幕張中学・高等学校には、フルコンサートピアノが置かれているそうです。音楽大学ならともかく、そうでない学校にこのようなピアノが置かれているのはすごいことですし、学校行事などで弾かれるのかと思うと羨ましいですね。
冒頭でお話した「4本ペダル」ですが、Fazioli(ファツィオリ社)が開発し特許も取っているのだそうです。
一番左に新しいペダルが追加されていますが、このペダルは、音色を変えずに音量だけを変えることができます。
通常のピアノにも「弱音ペダル」はありますが、弱音ペダルは、踏みますと鍵盤が右側に少しずれて、音が弱くなり、同時に少し柔らかい、こもった様な音になります。しかし、この4本目のペダルは、鍵盤が手前に斜めに傾くので、ハンマーが弦に近づき、鍵盤が3,4ミリくらい浅くなることで、音量を変えることができます。速いパッセージを弾く時などに、素早く対応できるそうです。
(この第4ペダルは、コンサートグランドピアノにのみ標準装備で、他のピアノではオプションで付けることができます)
コンサートシーズンに入りましたが、ピアノリサイタルやコンサートへお出かけの際には、使われているピアノにも意識を向けてみましょう。
(この記事は、第83号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、ピアノ教室で開催されたコンサートのお話です。
どのピアノ教室や音楽教室でも、年に一度は発表会が開催され、日頃の練習の成果を発揮する場があると思います。
本番に向けて、何か月も前から練習をして、時には壁にぶつかりながら成長していく姿は、レッスンを担当している立場から見ましても、「すごいなあ」と思いますし、成長していく様子に嬉しくなったり、また「自分も頑張らないと」と励まされたりもします。
生徒さん方も、本番は自分のことで精一杯かと思っていると、きちんと他の方の演奏を聴いていて、「○○ちゃんが、すっごく上手でびっくりした」とか「私も、○○の曲が弾けるようになりたい」と、とても良い刺激になっているようです。「自分の直前に弾いていた人が上手で、すっごく焦った」という生徒さんもいましたね。
生徒さんのご家族も同様で、「○○の曲を弾いた生徒さんって、何歳なんですか?」と聞いてきたり、「○○くん、上手になっていた」と、ご自分のお子様だけでなく、他の生徒さんの成長ぶりまで見ていらっしゃるのが、とても嬉しく思います。
先日、ピアノ教室では、オーディションに合格した生徒さん方のコンサートが開かれました。一般の発表会とは異なり、審査に合格した方だけが出られるコンサートです。
そのオーディションの審査員も務めたのですが、その時はかなり心中複雑でした。
一生懸命練習して、「オーディションを受けるからには合格したい」と全員が思っているはずです。そのような演奏に合否を付けるのは、とても難しく、また色々と考えさせられます。
特に自由曲の場合、少し易しい曲を手堅くまとめて弾くのと、少し難しい曲をある程度まとめて弾いた演奏を、どのように比べて合否を付けるのかは、かなり意見の分かれるところです。
バロック期の作品の演奏と、近現代の作品の演奏を比べるのも、かなり難しいと思いました。
抜群に上手な生徒さんというのは、限られているので、殆どは接戦になります。そのような中、見事に合格した生徒さん方が、本番の舞台で演奏するのです。
オーディションの時にも、すでに完成した演奏でしたが、そこから更に練習を積んでいますので、さらに進化して深みのある演奏になっていました。安定感も更に増していますので、心地よく聴くことができます。
色々な先生の生徒さん方が出演されますので、曲選びから曲の解釈、まとめ方などが様々で、指導している立場から見ても、とても勉強になりました。
有名な曲では、曲が重なることもありました。弾いているご本人は、心中穏やかではないのかもしれませんが、それぞれ独自の音楽になっていて、興味深く聴くことができました。
普段のレッスンでは、なかなか1曲にずっと関わることは難しいものです。
発表会の曲の練習でも、3か月くらいですので、それ以上の月日をかけて1曲を練習し続けることは、コンクールやオーディションの参加以外にはないかもしれません。
音楽はとても不思議で、「弾けた」とか「完成した」と思っても、次々に課題が出てきて、いつも悩むものです。正解がないので、常に「これでよいのか」「もっと上手に弾けるのではないのか」と思えてくるのです。
しかし、そう簡単に進歩できない部分もありますので、時にはずっと停滞したままになってしまうこともあります。
そのように、色々試して、工夫して、苦労して、乗り越えると、音楽に深さや味わい、その人らしさが生まれるのだと思います。
また、「やりきった」という達成感も大きいようで、演奏した生徒さん方は、みなさん晴々とした顔をしていたのが、とても印象的でした。
そのような経験も、ピアノの上達には大切なのかもしれませんね。
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