(この記事は、第97号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「ピアノ教室の出来事」は、小学生のピアノコンクールのお話です。
先日、生徒さんがピアノコンクールにチャレンジしました。ピアノ教室に入られた時から、教材が驚異的な進み方をしていて、ピアノが好きという気持ちもとても強い生徒さんです。
発表会で中高生の演奏を聴いてはいますが、レベルの高い演奏が出来る同世代のお子様たちから良い刺激を受けることができれば、もっと成長できて、良い経験になるのではないかと思いコンクールをご紹介したのです。
今回参加したコンクールは、地方予選、地方本選、全国大会と3段階になっており、一定以上の点数を獲得できると、次のステップへ進むことができます。
本番ではいつも落ち着いた雰囲気で、割と普段通りに演奏ができる生徒さんなので、予選ではかなり良い感じに演奏が出来ていました。初めてのコンクール参加とは思えない落ち着きぶりに驚いたくらいです。
しかし、次のステップとなる地方本選では、出だしでミスが出てしまい、その後も「あれっ!?」という部分がある演奏になってしまいました。
後になって生徒さんに聴いたところ、これまでに体験したことのない緊張感だったそうで、足が震えたと話していました。いつも、それほど緊張しないタイプだと思いますが、さすがにそうはいかなかったようです。
それでも後の講評を見ますと、これまでかなり練習を積んで弾き込んできた事が評価されていました。
そして、目標であった全国大会へ進むことができたのです。
全国大会は、これまでの点数が加算される訳ではないので、その日のたった1回の演奏で全てが決まります。どれだけ実力を出し切れるかという、自分との戦いになるのです。
全国大会の前に、生徒さんにこんなお話をしました。
「本選の時に、自分で演奏の出来が10点満点の6点って言ってたよね。今度は10点満点で10点になるように、全部出し尽くして、楽しく弾いてね!」
そして、全国大会の本番では、普段の力をかなり出せた演奏ができました。
生徒さんも笑顔で舞台裏に戻ってきたので、「上出来!! とっても素晴らしい演奏だったわよ。よく弾けたわね!」と声をかけました。そして、良い結果をいただけたのです。
生徒さんの出番前までは客席で聴いていたのですが、さすがに全国大会ともなりますと地方本選を勝ち抜いてきただけあって、上手な方が多かったですね。
「小学生でこれだけ弾けたらスゴイ!」という方ばかりでした。
コンクールやオーディションは、演奏に対して合否を付けるので、常に賛否両論があります。私も個人的には、一生懸命頑張って演奏したものに、合否や点数を付けることには、かなりの違和感を持っていました。
しかし以前、先輩の先生から「結果はともかく、参加して成長できる生徒さんもいる」という話を聞いて、少し柔軟な考えを持つようになりました。今回コンクールを紹介した生徒さんは、正にそのタイプに当てはまるのではないかと思ったのです。
今回は、努力が報われる結果となりましたが、そうでない結果となることもあります。そのような時には、ピアノ講師のフォローと共に、ご家族のフォローもとても大切になります。
今回も、そのようなお話を事前にして、ご両親と生徒さんで考えた上で参加することになりましたが、落ち込んだ後に潰れてしまいそうなデリケートな生徒さんには、お勧めできないかもしれません。
コンクールへの参加は、生徒さんやご家族の覚悟も必要となるのです。
桜が咲き始めました。春は、桜だけでなく、さまざまな花が咲き始めます。気分も、なんとなく軽く爽やかになってきますね。
春は、音楽の季節でもあります。タイトルに「春」が付いたクラシック音楽は、たくさんあります。それぞれの音楽家が、「春」をどのように音楽で表現しているのか、聴いてみるのもよいでしょう。(おすすめ音楽CD テーマ「春」)
(この記事は、第96号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ピアニスト達の系譜についてです。
クラシックの音楽家は、作曲活動がメインと思われがちですが、とても演奏が上手だった音楽家もたくさんいます。
昔は「ピアニスト」とか「作曲家」と呼ばずに、「音楽家」と呼ばれていましたが、それは作曲活動や演奏活動といった1つのジャンルだけではなく、音楽全般について活躍していたからです。
例えば、J.S.バッハは、膨大な数の作品を残していますが、当時ピアノが作られる前に広く使われていたチェンバロという鍵盤楽器をお弟子さん方に教えるための教材として作曲した作品も多く含まれています。
現在のように、たくさん、いろいろな教材があったわけではないので、教材を作ることも音楽家の仕事だったのですね。
演奏もピアノだけではなく、モーツァルトのようにヴァイオリンがとても上手だったり、シューベルトのようにとてもきれいな声を持っていたり、バッハやサン=サーンス、フランクのようにパイプオルガンの演奏がとても上手だった人もいます。
「エリーゼのために」「ソナタ悲愴」「ソナタ月光」など多くのピアノ曲を作曲したベートーヴェンも、幼少の頃からピアノの演奏がとても上手でした。
ベートーヴェンは、「ウィーンへ行ってモーツァルトに習いたい」と思っていたそうですが、実際に訪れた時に既にモーツァルトは他界しており、モーツァルトの先生でもあったハイドンに習います。
そのベートーヴェンも、作曲活動や演奏活動の他に、お弟子さんのレッスンをしていました。その一番弟子が、膨大なピアノ練習曲を書いたことで有名なチェルニーです。
ピアノを弾いている人にとって、チェルニーの練習曲は必須の教材ですが、とにかく量が多く、あまり音楽的な感じがしないので(練習曲なので当たり前かもしれませんが)、苦しまれた方、または今苦しんでいる方も多いかもしれません。
当時、チェルニーは音楽教師として、とても有名でした。
バッハと同じく、お弟子さんを育てるためにあの膨大な練習曲を作曲したのですね。
チェルニーが育てたお弟子さんの中で、おそらく一番有名なのが、「愛の夢第3番」や「ラ・カンパネラ」で有名なリストです。
現在でも史上最高のピアニストと称賛されていますが、神業のようなテクニックと華麗な演奏で当時大人気でした。
リストも多忙な演奏活動の傍ら、400人以上のお弟子さんを育てたことで有名です。
そのお弟子さんの中で有名なのが、ザウアー、ル-ビンシュタイン、ハンス・フォン・ビューローです。
このあたりの時代になりますと、録音が残っていますので当時の演奏を聴くことができます。
ザウアーのお弟子さんの、そのまたお弟子さんが、現在活躍されている内田光子さんや、アルゲリッチになり、ルービンシュタインのお弟子さんがネイガウス、そのお弟子さんがリヒテルやエミール・ギレリスになります。
その他にも同じリストの孫弟子として、ラフマニノフやホロヴィッツ、アシュケナージ、ブレンデルなど、現在世界のトップクラスで活躍されているピアニスト達の名前が挙がります。
リストと同時期に活躍し、ピアノの詩人と呼ばれたショパンも、もちろんお弟子さんを育てていました。現在でもショパンの楽譜として有名な「コルトー版」の著者であるコルトーや、フランス音楽の演奏で大変有名なフランソワなどがそうです。
現在活躍されているピアニスト達の先生の先生の・・・と歴史を遡っていきますと、学校の音楽の授業で習ったベートーヴェンやリストなど、有名な音楽家にたどり着くのです。
これらの音楽家が本当に実在していた事を、改めて感じますね。
数百年前の音楽家たちの音楽の真髄は、楽譜という紙の上だけでなく、実際の演奏に脈々と受け継がれているのです。
そう思うと、現在のピアニスト達の演奏の聴き方も、少し変わってくるのではないでしょうか。
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