(この記事は、第229号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、幼稚園児のスカイプを使ったピアノレッスンのお話です。
友人から、「海外転勤することになった」という話を聞いたのは、確か一昨年だったと思います。ご主人様が、かねてから海外勤務を希望していたそうで、ようやくその希望が叶ったことになります。
「良かったね」と思いつつ、小さいお子さんを連れての海外転勤は、想像以上に大変なのではと少々心配をしていました。しかし、お子さんと楽しく現地の言葉を勉強している事を聞き、少し安堵したことを覚えています。
少し経って、ちょうど現地での生活が落ち着いてきた頃だと思います。その友人から、「スカイプで、子供のピアノレッスンが出来ないでしょうか?」という話がありました。お子さんは音楽が好きらしく、自分の気持ちを音にして、おもちゃのピアノを弾いていたり、音楽が流れると、静かにじっと耳を傾けているそうです。
お子さんは、幼稚園に入る前で、しかも直接レッスンをするのではなくスカイプでという難問に、さすがに即答できませんでした。
「音楽を好きになってくれたらよい」というお考えで、月1回のゆったりとしたペースでのレッスンを希望されていますが、お持ちの楽器が、おもちゃのピアノという前代未聞のケースで、スカイプですと、直接手を使って指の形や姿勢などを直すことも難しく、問題は多々ありました。
しかし、慣れない現地でピアノの先生を探すのも大変でしょうし、考えた上でお引き受けすることにしました。
小さい子供は覚えるのが早い反面、忘れるのも早いので、月1回のレッスンでは、その場の楽しさだけで終わってしまう可能性がある事などはお伝えし、その上で教材を用意して頂いて、春からレッスンが始まりました。
久しぶりにスカイプを通して会うお子さんは、だいぶ大きくなっていました。
レッスンでは友人(お母さん)が横に座り、お子さんに楽譜上の場所を教えてあげたり、出来たところに丸を書いたりして、私が本来レッスンで行う事を代理でしていただきました。お子さんも、ちょっと照れていたのか、最初はハニカミながらという様子でしたが、指の番号を学ぶ所では積極的に答えを言ったり、音を弾く所も一生懸命行っていました。最初のレッスンでも30分間、よく集中していたと思います。
そして、レッスンの最後には宿題を出して終わります。
このようなレッスンを何回か重ねました。自宅でしかもお母さんが常に同席という環境も影響してか、時にはレッスン中に大きなあくびをしたり、「お腹空いた~」と言ったりしますが、だいぶレッスンに慣れてくれました。
不機嫌になってしまったことがあり、どうしたのかと思ったら、レッスンの最後の演奏で間違えてしまい、本人にとって不本意だったとの事でした。しかし、上手くできなくて悔しいという気持ちは、今後の上達にとても大切なものです。
月1回のレッスンで学んだことを忘れないように、「レッスンで弾いている曲、覚えているかな?」と、反復練習をするようにアドバイスもしました。
私自身も、スカイプでもなんとか出来そうだという手ごたえを少しずつ感じてきました。そして、それと同時に、どうしても伝えなければならない事がありました。
お子さんを音楽の道に進ませるわけではなく、音楽が好きになってくれたらよいという方針や、初めての海外生活の事を考えても、おもちゃのピアノを使ったレッスンは、デメリットが大きすぎるという問題でした。
真ん中のド(一点ハ)を弾いても、「ちゃり~ん」というおもちゃの音が鳴り、鍵盤の幅や長さも本物のピアノとは似ても似つきません。当然ながら鍵盤の重さも全く異なります。弾く時の姿勢も整いませんし、そもそも鍵盤数が圧倒的に少ないのです。
耳が成長している時期なので、出来れば本来の音が出せる楽器があると良い事や、今の楽器(おもちゃのピアノ)に慣れてしまうと、あとで楽器を替えた時に、お子さんが苦労することになる事、実際、自宅で電子ピアノで練習している生徒さんも、レッスンや発表会でグランドピアノを弾く時に苦労している方が少なくない事をお伝えし、ご主人様にも、その旨をお話しされてもみてはいかがでしょうかと提案しました。
すると、早速お返事を頂き、私のお話に納得して頂けたようで、また美しいピアノの音を聴きたいという事も話されていました。
現地で調律師さんを探すのは大変なので、生のピアノのタッチに近い電子ピアノを探してみますとのことでした。私からも、何点か電子ピアノを紹介しました。
異国の地でも、少しずつピアノを弾く環境が整ってきて、私も嬉しく感じました。
今月から幼稚園に通うそうで、お子さんも新しい生活のペースに慣れるのに大変かもしれませんが、よりよい環境で、益々楽しくピアノのレッスンが出来ると良いなあと思っています。
(この記事は、第228号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ヴァイオリンのお話です。
習いたいとか弾いてみたい楽器の中で、ヴァイオリンは、ピアノの次に挙げられるほど人気があります。
1人で弾くソロだけでなく、オーケストラの花形楽器でもあり、オーケストラをまとめるコンサートマスターもヴァイオリン奏者が務めます。
私も含めてピアノを弾く人から見ると、自分の楽器を持ち運ぶことができ、色々な場所で自由に練習したり、本番の演奏も自分の楽器で出来るところは常々羨ましいと思ってしまいます。
先日、ヴァイオリンの歴史を、ヴァイオリニストとヴァイオリン修理職人、研究者が探っていく「ヴァイオリン500年の物語」というテレビ番組を見ました。
ピアノはイタリアで生まれ、ショパンが活躍していた1800年代前半に現在の形とほぼ同じになったと言われていますから、今から200年くらい前に完成したことになりますが、ヴァイオリンはもっと古く、今から500年ほど前に、ほぼ完成されています。ピアノよりも長い歴史があるのですね。
ヴァイオリンの話になりますと、「ストラディヴァリウス」という名前がよく挙げられます。聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
ストラディヴァリウスは、1644年生まれのイタリアの楽器職人「アントニオ・ストラディヴァリウス」の事で、ヴァイオリンやヴィオラ、チェロなど弦楽器を製作しました。そして、彼が製作した楽器は世界最高の名器として、大変貴重な存在になっています。家を売ってストラディヴァリウスを手に入れたヴァイオリニストがいるほどです。
これだけ技術が発達した現在でも、ストラディヴァリウスの楽器には多くの謎があり、これを超える楽器を作る事が出来ないと言われています。
今回のテレビ番組では、このストラディヴァリウスの楽器の謎にも迫っていますが、カナダ出身のヴァイオリニスト ジェームズ・エーネスが演奏するヴィヴァルディの「四季」やパガニーニの「24の奇想曲(カプリース)」など、ヴァイオリンの数々の名曲をたっぷり聴く事も出来ました。リサイタル1回分のボリュームがあった気がします。
ストラディヴァリウスの楽器は、音色の美しさが他のヴァイオリンとは比べものにならないほど際立っていて、日本を代表するヴァイオリニストの徳永二男さんもインタビューの中で「色で音色を例えるなら、ゴールド」と話されていました。
では、実際に何が違うのかという事を科学的に分析し研究している方がいます。その研究に、先ほどのヴァイオリニスト ジェームズ・エーネスさんも協力していました。
ヴァイオリンは、中が空洞になっていて、上の板(弦が貼ってある方の板)と下の板、それを繋ぐ横板、魂柱(楽器の中に付いています)、低音を出す弦の下(上板の内側)に響きを支える板から出来ています。
一般的に、高い音は上板から、低い音は下板から響いていくのだそうですが、ストラディヴァリウスの楽器は、1キロヘルツ辺りの周波数の音が横にも響き、「音の揺らぎ」という現象も起きているのだそうです。これが、あの豊かな音色の秘密だったのですね。
ヴァイオリン修理職人の久保田さんは、近年自身でもヴァイオリン製作をしていて、科学的にストラディヴァリウスの音色にかなり近い楽器を生み出すことに成功しているそうです。
ピアノも長年使用していますと、弦が切れたり、中のフェルトなどが消耗するので修理が必要になりますが、ヴァイオリンは長年使用しますと、楽器が割れてきたり、表面に塗ってあるニスがはがれてきたりします。割れた所に小さな木の板を貼って補強したり、ニスを上から塗って直したりするそうですが、そうすることで元々の楽器の良さが損なわれてしまう事があります。
久保田さんは、古いバイオリンの修理を数多く手がけており、楽器の板の厚みやニスを工夫して、オリジナルの良さを取り戻すことをされてきました。その経験を元に、ストラディヴァリウスに近い音色のヴァイオリンを製作されたのですね。
自分自身だけでは、作り出せる楽器の数が限られてしまうので、できるだけ情報を公開して、良い楽器を世の中にたくさん出していきたいと話されていました。
ストラディヴァリウスは、現存する楽器の数が限られていますし、大変高価ですから一流の演奏家しか手にすることができません。しかし、同等の音色を気軽に楽しめる機会が増えれば、ヴァイオリンを弾く方にとっても演奏を聴く方にとっても朗報ですね。
日本のクラシック音楽界が、益々盛り上がる事にも繋がりそうですし、小さいお子様が、そのような音色が出せる楽器でヴァイオリンを習い始めたら、どのように成長していくのか考えるだけでもワクワクしてきます。
今後のヴァイオリン界も、目が離せませんね。
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