(この記事は、第277号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、知人のピアノリサイタルのお話です。

最近、知人の松岡直子さんのピアノリサイタルへ行ってきました。松岡さんは、現在でも私が定期的にレッスンに通っている先生に師事している門下生です。

先日、いつものようにレッスンに行ったときに、「こういうのがあるんだけど」と先生に頂いたのが、松岡さんのリサイタルの案内でした。

松岡さんとは、2回ほど発表会でご一緒したのですが、とても素敵にピアノを弾かれていたので興味を持ちました。

また、リサイタルの会場が「クロイツァー豊子音楽サロン」で、先生からサロンの写真を見せていただいたところ、ロココ調を思わせる優雅な空間になっていて、ますます興味を持ちました。

直接、松岡さんに連絡して、チケットを用意していただき、行ってみることにしました。

西武池袋線の大泉学園駅から歩いて7、8分の住宅街の中に、突如、街路樹で覆われた一角が現れます。

クロイツァー豊子音楽サロンの名前にある、クロイツァー豊子さんは、日本の音楽界に多大な影響を与えたピアニストであり指揮者でもあったレオニード・クロイツァーの奥様で、自身もピアニストであり、東京芸術大学を始めとする音楽大学で教鞭をとっていました。

晩年の住まいを姪が引き継ぎ、一流の演奏家の生演奏を至近距離で楽しむために、音楽サロンとして使用しているものです。

広い玄関は、ヨーロッパの調度品で飾られ、すでに優雅な空間になっていました。玄関を入って、すぐ左側のドアの先がサロンになっています。

明るく、しかし落ち着いたサロンにはシャンデリアが飾られ、透かし彫りの譜面台のあるスタインウェイが置かれていました。その前に、ロココ調のソファや椅子が並べられて、壁際には、別の3台のピアノと、クロイツァーご夫妻の写真やパネルなども飾られていました。

昔、ショパンなどの作曲家がサロンで演奏していた雰囲気を彷彿とさせる空間です。

会場には、松岡さんのお弟子さんらしき小学生とお母様、サロンのコンサートの常連らしき方々、松岡さんのピアノのファンらしき方々などが集まっていました。

私がレッスンに通っている先生もいらっしゃり、同じ先生の門下生の方々にもお会いすることができました。

今回のリサイタルは、「レオニードクロイツァー校訂譜シリーズ ベートーヴェン『ワルトシュタイン』」というタイトルで行われ、シューベルト作曲の即興曲 Op.142-3 の次に、ワルトシュタインが演奏されました。

最初に演奏されたシューベルトは、音大を目指す方々が、中学・高校生くらいで弾くことの多い曲目です。

裾に大ぶりのバラの装飾が施された緑色のドレスで登場した松岡さんは、シューベルト特有のとてもロマンティックな甘いメロディーを美しく奏でて、少し長めの曲なのですが、聴いている方を飽きさせないどころか、惹きつける演奏をされていました。

同じ門下生の方と、「昔、弾いたけど、こんなにいい曲だったっけ?」と話したくらいです。

次に演奏された曲は、今回のメインである、ベートーヴェン作曲のピアノソナタ『ワルトシュタイン』です。

ワルトシュタイン伯爵に献呈されたので、通称として「ワルトシュタイン」と呼ばれている作品で、ベートーヴェンのソナタの中でも有名です。

曲の出だしや、1楽章に何回も同じような連打が出てくるので、印象的な作品とも言えます。

近年、いろいろな出版社の楽譜がありますが、ベートーヴェンの曲を弾くときには、ヘンレ版を使用することが多いものです。

クロイツァー版を使用した松岡さんの演奏を聴きますと、そこまでの大きな違いはなかったのですが、ところどころで解釈の違いがあるように感じました。ヘンレ版よりも、もっと早く音楽的な解釈がわかるようです。

その後、休憩の後は、リスト作曲の「巡礼の年 第1年『スイス』より、1・2・3・4・5・6・9の曲が演奏されました。

「巡礼の年」は、4集までありますが、今回演奏された「泉のほとりで」の他に、「エステ荘の噴水」「ダンテを読んで」が有名です。あまり知らない曲もありましたが、壮大なスケール感やキラキラしているロマンティックなフレーズ、大変高度なテクニックを要するものなど、リストの魅力がたっぷりと味わえました。

松岡さんの演奏は、大きくフレーズを感じて、フレーズの最後の音まで気を配って弾かれていて、惹きつける魅力がありました。超絶技巧の曲も、圧倒的な迫力で弾かれていて、テクニックも素晴らしいと思いました。

同じ先生の門下生で、発表会もご一緒したことがある少し身近に感じられるピアニストで、「私も頑張らなくては」と、良い刺激にもなりました。

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