(この記事は、2023年6月12日に配信しました第374号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、お子様のピアノ発表会のお話です。
先日、お子様の生徒さん方のピアノ発表会が行われました。毎年6月か7月に開催していますが、今年は6月に入って直ぐだったので、日程が決まった際は、生徒さん方も驚いていました。間にゴールデンウィークも入りますので、時間があまり無いように感じられましたが、生徒さん方は、いつにも増して練習に精を出してきました。
発表会で弾きたい曲が2曲あった生徒さんは、まず1曲目の練習を始めましたが、練習を始めますとますますその曲が気に入ったようでした。曲の場面ごとに、「ここは、〇〇になっているから、どんな風に弾いたら良いと思う?」と質問を投げかけますと、ポンポンと答えが返ってきて、一緒に個々の場面にふさわしい弾き方を考えて弾くというレッスンも行う事ができました。また、「ここは、段々と音が低くなってきていて、普通は少しずつ音を弱く弾いていくと思うのよね。でもそうすると、その先はフォルテで弾くでしょ?」と話しつつ、この生徒さんの演奏を真似て弾くと、「なんか変」と即座
に答えていました。「でもね、楽譜に書いてある通りに弾くと、こうなるのよね」とまた見本を示しますと、「あ~、こっちの演奏の方がいいね!」と感想を話していて、直ぐに真剣なまなざしで楽譜を見て、「あっ、ここにクレッシェンドが書いてあった。気が付かなかったよ。だから変だったんだね」と納得していました。曲のテンポが速いので、納得できても思ったように弾く事は少し難しく苦戦していましたが、何回も練習をしていくうちにできるようになってきました。
強弱が目まぐるしく変化するところでは、結局どの音が一番重要な音なのか、一番弱く弾く音はどれなのか等、絞り込んで明確にしておくことが大切だなあと改めて気づかされました。レッスンで納得できたことも影響したのか、発表会本番でも、この部分は強弱をしっかりと付けて弾く事ができて大成功だったと思います。
この生徒さんのお姉さんは、今年とても優美な曲を選んでいますが、発表会の曲のレッスン初回から左手の伴奏が正しいリズムで弾けていて、大変感心していました。しかし、テンポを段々と速くしていくうちに、正しく弾けていたリズムが少しずつ不安定になってきてしまいました。生徒さん本人も気が付いていて、気を付けようと思って弾いている事は伝わるのですが、なかなか思うような演奏になっていないようでした。弾いている様子を見てみますと、左手の伴奏のリズムパターンの最初の音の弾き方が適切でないためにリズムが崩れてしまっているようでした。レッスンでは、左手で弾く全ての音を一生懸命に弾くのではなく、重要な音を見極め、フレーズを意識して弾く事を一緒に練習しました。レッスン後には、お母様にも同様に説明をしてレッスンでの様子もお話しましたが、頷きながら、「なるほど~」とおっしゃっていました。発表会本番では、かなりリズムの整った演奏ができていて、ご自宅でもポイントをかなり意識しながら練習をされたようで、凄いなあと思いました。
お友達が発表会で弾いていた曲を弾きたいという事で、その曲を選んだ生徒さんは、たくさん出てくる装飾音符も難なく演奏できていて、着実に進んできていたのですが、曲の後半部分の一番盛り上がる部分、いわゆる「聴かせどころ」で苦戦を強いられていました。急に臨時記号がたくさん出てきたり、これまでとは異なるフレーズの作りなどに、かなり戸惑っている様子でした。4小節くらいの箇所なのですが、小さくフレーズを区切って何回も反復練習をしました。このような部分練習では、おおよそできたらOKとはせず、一瞬でも迷ったらやり直したり、絶対にきちんと弾けているという確信が持てるくらいまで、自分に厳しく練習する事が大きなポイントになります。生徒さんも粘り強く練習を行い、「小さいフレーズごとなら、どのフレーズも弾ける!」というくらいまで完成度を高めていく事ができました。次に、その小さいフレーズを2つ続けて弾くという練習をして、最終的には4小節全てをすらすらと流れるように弾く所までできて、完成させることができました。
「一番難しいところが、一番上手に弾けるようになったわね。自分でも自信を持って弾けるでしょ?」と聞きますと、即答で「はいっ!ここが一番自信があります」と、非常に頼もしい言葉も出てきて安心しました。発表会本番が迫ってきている時期に、1週間ほど学校の宿泊行事があり、なかなか思うように練習できないのではと心配しましたし、本番の出番直前では、緊張して顔が引きつっている様子さえ見せていましたが、舞台上では堂々と演奏していました。生徒さん自身が話していた、一番自信があるところも、きれいに弾けていてよかったと思いました。
初めてリストの曲に挑戦した生徒さんは、リストの作品によく出てくる即興的な部分の音符の細かさと音数の多さに、びっくりしていましたが、パターンがある事をなどをアドバイスして練習をしていくうちに、かなり手慣れて弾けるようになりました。難しいところや、ややこしいところ等は、単に練習量を増やすだけでは苦労した割にたいした成果が出ないので、細かく楽譜を見て、丁寧な練習が有効であることを、私自身も再認識させられました。その後、かなり弾けるようになり、暗譜の練習も始めたのですが、覚えにくいところがあるようで、大変そうな様子でした。弾いている様子を見ますと、左手が高音部に移動して、伴奏の和音を弾くときに音を迷っていて、しかもいつも同じような状況でした。生徒さんには、右手のフレーズとの関連を見ていくと、左手の和音の音が覚えやすいことや、和音のうち、一番意識して弾く音に注目すると、残り2つの音は難なく弾けることをお話しました。アドバイスを踏まえて何回か弾いてもらいますと、かなり腑に落ちたようで、今までの覚えにくさがすっかり消えたようですし、とても安定して弾けるようになったようでした。
他にも、同じフレーズを挟んで、1回目と2回目で迷うという生徒さんもいましたが、その時には弾きながら「1回目」「2回目」などと合図をして、今、自分が何回目のフレーズを弾いているのかを、指任せではなく、意識して弾く事をお話して練習をしました。「エリーゼのために」など同じメロディーが何回も出てくるロンド形式で書かれている作品の暗譜には、有効な練習かもしれません。
「本番で緊張することは当たり前で、練習通りに弾けたら凄いこと。練習の8割くらい弾けたら上出来」とおっしゃっていた先生もいましたが、正にその通りだなあと常々私も感じています。そのため、「朝起きて、まだ頭がボーっとしている時に、発表会の曲を弾いてもバッチリ弾けると言えるくらいまで練習する」と生徒さんにお話したこともあります。今回の発表会では、生徒さん方が本番直前まで練習に精を出して励んでいた成果がよく発揮できたように思いました。もちろん、改善点もいろいろとありましたので、今後のレッスンに生かしていきたいと思います。
(この記事は、2023年5月29日に配信しました第373号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、「音楽家のマリアージュな世界」という本のお話です。
最近、音楽之友社から出版された「音楽家のマリアージュな世界」というムック本を読みました。クラシック音楽ファンだけでなく、食べることが好きな方、お料理が好きな方にも、自然な形でクラシック音楽に耳を傾けてもらえるような、音楽家の食や趣味に特化した業界初の試みなのだそうです。クラシック音楽の堅苦しさや、長くて退屈、理解しにくいという固定概念を覆して、食や趣味で読者を引き込みたいという事で、様々な魅力あふれるコーナーが掲載されています。
音楽家とお酒のステキな関係を紹介している「マリアージュなこの1本」というコーナーや、大作曲家たちが食したであろう料理を再現した「歴史的大作曲家たちの食卓」、演奏家や音楽家のお宝にフォーカスした「コレクションのマリアージュ」、演奏家たちの演奏から受ける印象、インタビューなどから受ける人柄から考案されたオリジナルレシピを紹介する「30人のアーティストに捧げる口福レシピ」など音楽と食と趣味のコラボレーションで、気になるコーナーから読めるような作りになっています。
「マリアージュなこの1本」では、ヴァイオリニストや指揮者、ピアニストにチェリスト、オーボエ奏者などが登場し、音楽の事やお酒のこと、選んだお酒に合う料理のことなどを語っています。フォルテピアノの演奏家である川口成彦さんは、高校時代にスペイン音楽に興味を持ち、20歳の時に初めてスペインを旅行して、その時にシェリー酒に魅了されたというお話をしていました。演奏会の後にシェリー酒を飲みたくなるそうで、スペインの空気、歴史、文化とも密接に繋がるシェリー酒が音楽にも繋がり、スペインの音楽ともリンクするのだそうです。
ピアニストの入江一雄さんは、国内外のクラシック演奏家が集う行きつけの寿司屋さんで、ミュンヘンのビアホールでもらったジョッキで、エビスビールを飲みながら、お店のスペシャリテのお料理を食すのだそうです。お店の店主は、何を作っても最上級のものに仕上げていて、この姿勢が音楽にも通じるものがあり、様々な分野の音楽全てにおいて最高のものを目指したいとお話されていました。
ピアニストの小川典子さんは、川崎市のミューザ川崎コンサートホールのホールアドバイザーを務めていることもあり、ホール近くのホテルのダイニングレストランを選んでいました。リーズ国際ピアノコンクール第3位をきっかけに、たくさんのコンサートのお仕事が舞い込んできたそうで、今もイギリスを拠点に日本と行き来しながら演奏活動をされているそうです。英国では、ローストビーフが最高のごちそうで、特別な食事に欠かせないそうで、それに赤ワインを合わせて楽しんでいるそうです。
その他にも、ピアニストの伊藤恵さんは、行きつけのビストロに家族や音楽仲間と訪れて、ブルゴーニュの赤ワインを楽しむそうですが、音楽のインスピレーションをもらいに来ていると言ってもいいかもしれないと話されていたり、バーンスタインの愛弟子である指揮者の大植英次さんは、バーンスタインを思い出すというウイスキーのソーダ割や、洋食屋さんの名物「カツカレー」の話など、普段舞台の上で演奏している姿しか見ない演奏家の、演奏後の過ごし方などが垣間見えるようで、なかなか興味深く読めました。
お酒好きな方で、特にワイン好きでしたら、「ワインと音楽のマリアージュ」のコーナーがピッタリかと思います。ショパンコンクール日本人最年少入賞者であり、ショパンの全曲演奏でギネス世界記録も持っている横山幸雄さんは、ワインエキスパートの資格を持ち、イタリアンレストランも経営されているというピアニストです。フランスに留学している時からワインに親しんでいるそうで、日本でワインエキスパートの資格が始まった第1回目の試験で合格して、資格を取得したそうです。それぞれのワインがどのように違うのか、どのような好みで人はワインを選ぶのか、おいしさの違いはどこから来るのかなど、たくさんの書物を読んで研究し、実際に様々な種類のワインを飲んできたとのことです。その横山さんが、比較的リーズナブルなワイン2本と、多少値が張るワイン2本から、イメージするショパンのピアノ作品を選定して紹介しています。ワインについての話と、イメージされるショパンのピアノ作品の話と細かく解説が書かれていますので、ワインを飲んで音楽を聴くもよし、音楽を聴いてからワインを楽しむもよしと、それぞれの楽しみ方ができると思います。記事の最後には、「次回は、ショパン以外の作品にも合うワインを聞いてみたい」と書かれていましたので、続編が出るとしたら楽しみです。
「コレクションのマリアージュ」では、長らくNHK交響楽団の顔として国内外で活躍されてきたヴァイオリニストの篠崎史紀さんが、ご自身のコレクションから、マイセンの「ミュージッククラウン」シリーズを紹介していました。型を用いない製作技法で、様々な楽器をピエロが演奏しているシリーズです。もともと、食器を集めるのが趣味で、よく入り浸っていたお店のすぐそばにあるマイセンのお店を覗いて、一目で欲しくなったのだそうです。そこそこ値が張ることもあって悩んだそうですが、結局は購入して、その後は、欧州に行くたびに購入して少しずつ集め、12年から13年かけてコンプリートしたそうです。ユーモラスで且つ美しく、ピエロの表情に、人間の感情の全てがあるところがお気に入りなのだそうです。
他にも、スワロフスキーのスターウォーズのオブジェや、デュポンのスターウォーズ リミテッドエディションの万年筆を紹介していました。どれも、とても思い入れが強い様子が手に取るように伝わってきて、とても面白かったです。ご自宅は他にもステキなもので溢れていましたが、ちょっとだけ背伸びしたら手の届くようなお気に入りを少しずつ集めて、それを並べるのが至福の時間で、そのために仕事も頑張れるというお話が、とても印象的でした。
この本の最後のコーナーには、「30人のアーティストに捧げる口福レシピ」があり、様々な演奏家の紹介と共に、お料理のレシピが掲載されています。なるほどと思う演奏家と料理の組み合わせもあれば、意外と思う組み合わせもありましたが、料理の写真も大きく掲載され、実際に作って食べることができるのは興味をそそられます。
和食、洋食、ヨーロッパの郷土料理、ジャム、サラダなど、お料理の種類もいろいろありますので、このコーナーのレシピだけで、立派な献立が作れそうな気さえします。「歴史的大作曲家たちの食卓」にも細かいレシピが書かれていますので、実際に作って食しながら、その演奏家の作品を楽しむという贅沢な時間が楽しめそうです。
大変画期的で、音楽とグルメをここまで融合させた本は初めてでした。軽く読めるのに情報量が多く、なにより読んでいて大変楽しいものでした。早速、大人の生徒さん方におススメしたいと思いました。
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