(この記事は、2023年8月14日に配信しました第378号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、夏真っ盛りのピアノ教室の様子です。
8月も半ばとなり、連日の猛暑でバテ気味の方も多いかもしれません。
お子様の生徒さん方は、「学校のプールは好きじゃないけど、市民プールは好きで、この前行ってきた」と話してくれたり、習い事の合宿に行く方、キャンプに行ってきた方など、夏休みを大いに満喫しているようです。もちろん「午前中、塾だった。疲れた~」と話している生徒さんもいますが、それでも楽しいイベントもあるようですから、生徒さん方は、いつにも増して充実した日々を過ごしているようで、私もウキウキと楽しい気分になってきます。
夏には、音楽教室のピアノのオーディションがあり、審査員として参加しました。年々参加者が増えているため、どんどんレベルも上がってきており、今回も思った以上にレベルが高くて驚きました。毎年、審査する年代はまちまちですが、今回は高校生の審査をすることになりました。
オーディションは、自由曲のみで審査しますので、参加者が自由に曲目を選んでいます。高校生ともなりますと、演奏する曲もだいぶ弾きごたえのある曲目が並んでいて、モーツァルトなどの古典派の時代からラヴェルなどの近現代まで揃っていました。
審査時間内に、演奏を聴きながらコメントも書き、合否を決めていく作業を繰り返し、審査終了後に投票をしていきます。今回は、曲の難易度はそこまで差がなかったようにも思いますが、それでも、モーツァルトのような比較的音数も少なくシンプルな曲と、ドビュッシーやラヴェルのような音数が多く、複雑に曲が展開していく曲を、演奏の完成度を踏まえながら比較して合否を付けるというのは無理難題で、難しさを痛感しました。
どの参加者も、緊張している様子が感じられましたが、中には、かなり緊張したのか少し調子が崩れた演奏になってしまった方もいました。しかし、その後きちんと普段通りの演奏に軌道修正していて、「よく、この曲で演奏しながら立て直せたなあ」と、かえって感心してしまったくらいです。また、次々と和音が変化していく部分をよく捉えながら弾けていた方や、左手の伴奏部分にもよく気を配って弾けていた方、曲の構成をよく勉強して掴めている演奏をしていた方など、参加者それぞれの努力の跡が見えて、審査しながら私の方も、いろいろと学ぶことが多かったように思います。
このオーディションには、私がレッスンしている小学生の姉妹の生徒さんも参加していました。前々回に初めて参加した際は、お姉さんは不合格、妹さんは合格という、とても気まずい結果になってしまいました。姉妹でこのように合否が分かれてしまうのは、私の力不足もあり大変申し訳なく思っていましたが、妹さんの合格披露演奏会に、不合格だったお姉さんも会場に聴きに来られていて、本当に偉いなあと感心したものです。
その翌年はお2人とも参加せず、やはり前回の結果が尾を引いてるのだろうと思い、今年、参加要項のチラシを配布する際には、「どうしようかなあ。きっと、今年も断られるんだろうなあ。でもチラシを、お渡しだけでもしないと…」と、悶々と思っていました。
そんな時に、急にこの姉妹のお母様から、「子供たちが、今年オーディションに参加したいと言っているんですけれど、参加してもいいですか」とお話をいただきました。私も驚きましたが、前々回のような結果とならないように、その後レッスンを行ってきました。ピアノの発表会で弾く曲をオーディションでも使うのですが、幸いにも姉妹ともオーディションで十分それぞれの持ち味が発揮できる曲でしたので、順調に準備を進めることができました。
そして、オーディションの結果発表の日、ドキドキしながらその時を待っていました。学年順に発表なのですが、先にお姉さんの学年の発表を見ました。そこで名前を見つけた瞬間、「あ~っ、名前があるっ!よかったあ~」とだいぶ大きな声で独り言を言いつつ、すぐに妹さんの学年の発表に移りました。こちらにも、妹さんの名前が見つかり、今年は姉妹揃っての合格となりました。
今は、秋に受ける別のコンクールの練習と、オーディションの合格披露演奏会の練習、そして、お姉さんは更に、学校の連合音楽会のピアノ伴奏オーディションの練習と、それはそれは忙しい日々になっています。お母様も、「子供たちに、今年はピアノ・イヤーだねって話しているんです」と、とても嬉しそうにお話されていました。すべてのイベントが終わった時に、生徒さんやご家族が、良いピアノ・イヤーだったと思っていただけるように、私も責任を持ってしっかりとレッスンを行っていきたいと思います。
次は、大人の生徒さん方のお話です。
夏休みに、お子様ご一家が、総勢13人も泊まりに来る予定の方がおられます。
「全部で、13人も集まるのよ。毎日13人分の食事を3食考えて用意しなくちゃいけないくて本当に大変だし、私も、もう歳だから、今年で最後だからねって、子供たちに話しているんです」と、既に少しうんざりしているかのような表情でお話をされていました。「そうしたらね、子供たちがすぐにね、お母さんはまだまだそういう歳じゃないからって言うのよ。調子いいわよね」と、笑いながらお話をされていて、私も笑ってしまいました。今、正に多忙の日々の真っ最中ですが、次回のレッスン時に、その後のお話が伺えることを、ちょと楽しみにしているところです。
ご夫婦でピアノのレッスンに来られている方は、ご自宅では小さめの電子ピアノで練習をされているそうですが、レッスンの度に「うちの楽器には、この音が無いんです」とおっしゃっていて、「あら~、そうなんですか。なかなかすぐには難しいかもしれませんが、今後もますます演奏で使う音域は広がってきますから、88鍵ある楽器がご自宅にあるとよいですね」と私もお話をしていました。特に、ご主人様は、小さい頃にピアノを習っていた事もあり、とりわけ熱心に練習をされているようで、「いつも、ピアノのレッスンの後に、うちの楽器とレッスン室のグランドピアノは、全然違うよね~と、妻と話しているんです」とおっしゃっていました。
奥様も、「いつも旦那が、やっぱり、ちゃんとしたピアノっていいよね。欲しいなあって、ずっと家で言っているんです。思い切ってピアノを買うのか、または、全部の鍵盤がある電子ピアノを買って、ピアノが置ける環境を整えてからピアノを買うか、毎日悩んでいるみたいです」ともお話されていました。
ご主人様は、段々と音の感度も磨かれているようで、ご自宅の楽器では満足できず、手軽な価格でピアノが弾けるスタジオを探して、練習に行ったり、レッスン前には早くピアノ教室に来て、お部屋ををレンタルしてピアノの練習をしてから、レッスンにいらっしゃる日々になっています。今、練習をしているショパンの曲が大変お好きなようで、YouTubeで前回のショパンコンクールの演奏者の曲を聴いては、弾く人によって同じ曲でも全然違う演奏になっているとか、この部分を凄い速さで弾いている人がいて驚いたことなど、いろいろと感想もおっしゃっていました。だいぶ、ピアノの面白さを感じているようで、私としても、とても嬉しく思います。
既に、ピアノについてインターネットでいろいろと調べたり、実際にピアノを試弾しにお店に足を運んだりしているそうなので、ご自宅にピアノが来る日も、そう遠くはないかもしれません。ご夫婦で満足できるピアノに出会う事ができればと願っています。
(この記事は、2023年7月31日に配信しました第377号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノメーカーのお話です。
先日、ニューズウィーク日本版に、日本のピアノメーカーであるヤマハとカワイの記事が掲載されました。
ニューズウィーク日本版:ヤマハとカワイ「日本製ピアノ」が世界の舞台で愛される理由とは?
まずは、ピアノの歴史から始まります。17~18世紀に活躍をしたJ.S.バッハの時代には現在のようなピアノは存在せず、19世紀に入ってから本格的にピアノが使われるようになりました。19世紀当時は、いろいろなピアノメーカーがありましたが、オーストリア皇帝フランツ・ヨーゼフ1世によって、ピアノ制作技術者として初の「宮廷及び王室御用達ピアノ製造技師」の称号を与えられたのがベーゼンドルファー社でした。
以前、生徒さん方に、いろいろなメーカーのピアノの弾き比べをしていただき、どのメーカーのピアノの音色が一番好みなのかと聞いたことがありました。スタインウェイがダントツで人気なのではと思っていたのですが、結果はベーゼンドルファー社のピアノがダントツで人気でした。木の温かみやぬくもりが感じられる柔らかい響きが、よかったそうです。
かのフランツ・リストは、ベーゼンドルファー社のピアノの頑丈さと高品質を絶賛したそうで、リストが大勢の観客の前でピアノを弾いている様子を描いた絵画のピアノも、リストが晩年住んでいた家に置かれているピアノもベーゼンドルファー社のピアノです。リストが大変好んでいた様子が伝わってきます。
フランス音楽の大家でもあるドビュッシーは、ベヒシュタイン社のピアノを絶賛していましたが、ベーゼンドルファーもベヒシュタインも、著名人に使ってもらったことで知名度やブランドの価値が上がったという事になります。
現在ではどの業界でも行われている事ですが、この手法を戦略的に使ったのがスタインウェイ社でした。ニューヨークとハンブルクに工場を持ち、現在ではピアノと言ったら、どこのホールにも必ずと言っていいほど置いてあるのがスタインウェイ社のピアノです。発表会などで弾いたことがある方も、多いかもしれません。ラフマニノフやルービンシュタイン、ホロヴィッツにグールド、アルゲリッチなどなど歴史上の大ピアニストたちがこぞってスタインウェイ社のピアノを使用していて、大ホールでも大きな音量で音が響き、華やかな音色が特徴のピアノです。
第2次世界大戦でドイツが敗戦し、ベーゼンドルファー社やベヒシュタイン社のピアノが衰退したことも影響して、現在のような、どこのホールにもスタインウェイ社のピアノが置いてあるという状況になったのだそうです。
日本では、医療器具の修理をしていたエンジニアの山葉寅楠(とらくす)が起こしたヤマハ社が、1900年にアップライトピアノの製造を開始します。それから100年後の2002年に行われたチャイコフスキーコンクールのピアノ部門で、上原彩子さんが日本人で初優勝を果たしましたが、その時に使用されたのがヤマハ社のピアノでした。上原さんがヤマハ音楽教室の出身という事もあって、ヤマハは大々的に広告を出して大きな話題となりました。そして、2010年に開催されたショパン国際ピアノコンクールでは、アヴデーエワがヤマハのピアノを弾いて優勝します。ピアノメーカーにとって、世界が注目するコンクールで、自社のピアノを弾いて優勝してもらう事は大変な宣伝になります。
ちなみに、前回2021年のショパンコンクールでは、ブルース・リウさんが、イタリアのファツィオリ社のピアノを弾いて優勝しました。大変こだわったピアノ作りをしていて、そのために生産台数もかなり少なく、歴史が浅いにもかかわらず知名度や人気が急上昇しているピアノメーカーです。私の周りでも、ファツィオリ社のピアノの評判は高く、日本でも少しずつホールに置かれるようになってきていますので、これから弾く機会も増えてくるのかもしれません。
ヤマハは、ショパンコンクール後に新モデルのピアノを発表し、コロナ禍においても売り上げを伸ばし、気が付けば現在世界のピアノシェア第1位はなんとヤマハなのだそうです。「ヤマハは、品質が安定していて、どこか不具合があっても、部品を取り換えれば直るけれど、海外のメーカーは1台ずつ個性的だから、どこか不具合があった時に、部品の入手や本体の楽器との相性などで、直すことが簡単ではない」と、以前調律師さんが話していたことを思い出しました。
世界各国で気温や湿度など、ピアノを置く環境も違いますから、メンテナンスのしやすさは、世界シェアを広げる一つの要因になったのかもしれません。
このニューズウィーク日本版は、最後にヤマハ、カワイ、スタインウェイ、ファツィオリ各社のピアノで演奏している YouTubeの動画が掲載されています。いずれも、ショパンコンクールで優勝および好成績を残したピアニストのコンクール本番の演奏で、当然ながら演奏されているホールも同じという事になります。ピアニストの技術の高さや演奏解釈などではなく、ピアノの音色に注目をして聴き比べをしてみると、メーカーによってこんなにも音色の違いがあるのかと驚くかと思います。
ご自身の好みのピアノが見つかると面白いですね。
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