(この記事は、2024年11月25日に配信しました第410号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、クラシック音楽を支えるプロフェッショナルたちのお話です。
音楽雑誌「音楽の友」11月号に、「クラシック音楽を支えるプロフェッショナルたち」という特集記事が掲載されていましたので読んでみました。
音楽業界で働くことを考えますと、演奏家、調律師や楽器制作、コンサートホールのスタッフ、音楽事務所など音楽系企業での勤務、音楽教室や音楽系の学校などでの指導やスタッフくらいしか思いつかないのですが、実はもっと様々な職種があり、なかなか表立って活躍しているわけではないのですが、なくてはならない重要な仕事をしています。
特集記事は、インタビュー形式になっており、最初に取り上げられていたのはアーティスト・マネージャーです。音楽事務所専属のアーティストの営業やスケジュール管理、企画立案、秘書役までを担当するようで、思った以上に幅広くアーティストに関わっている仕事なのだそうです。株式会社KAJIMOTO(旧社名:梶本音楽事務所)副社長の薮田益資さんがインタビューに答えていて、マルタ・アルゲリッチやクリストフ・エッシェンバッハ、ダニエル・バレンボイムなど世界の巨匠たちを招聘した時の話や、小澤征爾さんが梶本音楽事務所の専属アーティストになった時の話など、興味深いお話が書かれていました。
次に、ステージマネージャーの記事が対談形式で掲載されていました。対談されていたのは、NHK交響楽団の特別コンサートマスターである篠崎史紀さんと、ステージ・マネージャーで姫路市文化国際財団などで音楽プロデューサーもされている多戸章人さんです。篠崎さんがステージセッティングの重要性についてお話をされていました。演奏者が本番に演奏するまでには、実は膨大な準備があり、どこに何を配置するかによって全然違う響きになります。それを整えるのがステージマネージャーの仕事で、篠崎さんから見ると、ステージ・マネージャー多戸さんの仕事は神業のように見えるそうです。
多戸さんは、四六時中演奏者を見ていて、全てのリハーサルに立ち合ってオーケストラの音の響きを確認したり、演奏者の体調を察して背もたれの準備やステージ上の譜面台の高さを変えたりもするそうです。確かに言われてみると、コンサートやリサイタルの舞台上で、演奏者が譜面台の高さや椅子の高さを変えたり、場所を変えたりしているところは見たことがありません。既に演奏者にとって、完璧な配置になっているのですね。
ピアノを弾く方にとっては、あまりピンとこないかもしれませんが、舞台上のピアノは、横から見たときの鍵盤の位置が客席の中央に揃うようにセッティングしますが、本当にそこに置いてベストな響きなのかは、ホールによっても異なりますし、舞台は奥行きがありますから、どのくらい客席側に近づけてピアノをセットするのか考えなくてはなりません。私自身も、ヴァイオリンとのデュオの時に、ヴァイオリン奏者が使う譜面台の位置と高さが適切でなかったために、ヴァイオリン奏者の指の動きが見えず、合わせるのが大変だったことがありました。改めて、舞台のセッティングの大切さを感じました。
多戸さんは、演奏者と同じように楽譜を読んで実際の音の響きをイメージしているそうです。その結果、ホールでの椅子の配置などのセッティングが頭の中に浮かぶのだそうです。これは確かに篠崎さんが話している神業という事なのかもしれません。
レセプショニストとバーテンダー(バーコーナースタッフ)の仕事も紹介されていました。
レセプショニストは、お客さんがホールに来て、チケットをもぎり、客席に案内してホールで気持ちよく過ごしてもらう様に気を配ることが基本的な仕事ですが、それだけではなく、音楽を聴きに来ているお客さんがそれぞれ求めていることを想像して対応することが本当の仕事とレセプショニストの米盛さんがインタビューに答えていました。レセプショニストのヒールの底に吸音材を張ったり、ゴム底の靴を履いて足音を立てないようにしたり、制服の衣擦れの音を立てないように立ち振る舞いを検証して細心の注意を払っているそうです。
バーテンダー(バーコーナースタッフ)は、コンサートの開演前や休憩時間などに、飲み物や軽食を取るときに利用するバーコーナーのスタッフです。そこへ行けば、誰かに会えるという社交サロンのような一面もあります。出演するアーティストによってお客さんの雰囲気も変わりますが、最近では一人で楽しまれる方も多くなったそうで、バーコーナーでお客さん同士が親しくなるという事もあるそうです。私も、休憩中のバーコーナーで、偶然再会した知人がいて本当に驚いたものですが、そのような方が他にもたくさんいらっしゃるのかもしれません。それぞれのコンサートの客層を考慮して、メニューの準備をされるそうですが、欠品は許されないですし、接客の時間が限られるため、その時間に集中して対応することも大切なのだそうです。
制作プロデューサーは、コンサートを企画したり、場合によっては経営にも関わる、裏方の中でも花形と言える仕事です。制作プロデューサーの渋谷さんは、音楽事業の長期的なプランニングが主な仕事だそうで、クラシック音楽だけでなく、バレエやオペラなど多彩なジャンルをまんべんなく取り上げているそうです。その他にも、ホールのブランディングや音源制作の企画からリリースまで関わる仕事もしています。音源を作る時に、演奏家やエンジニア、マーケティングなどの人たちとチームで仕事をする面白さを感じているという話や、コロナの影響で海外での収録業務の提携が無くなり、自身もコロナになったことで人生観が変わった話、そんな中地元の委託事業をしている方からの声がけで仕事の道が開けた話など、興味深い話がいろいろと書かれていました。
その他にも、チケットセンター業務や、音楽ライターのインタビュー記事も掲載されていました。
ここまでは、何となくでも仕事内容が想像できるのですが、特集記事の最後に出てくるオーケストラ・ライブラリアンという職種は知る方も少なく、仕事内容もちょっと想像しにくい気がします。かつて一世を風靡した「のだめカンタービレ」という漫画や、今年テレビで放映されたドラマ「さよならマエストロ」でもオーケストラ・ライブラリアンが扱われたので、その時に知った方もいるかもしれません。ステージマネージャーと肩を並べるくらい、裏方の要となる仕事です。
オーケストラの楽譜を全て準備して、演奏者に提供するのが主な仕事ですが、オーケストラの公演が決まり、プロデューサーから演奏曲の話が出た段階で、実現できるか相談があるのだそうです。楽譜がレンタルで入手できるか、著作権の問題、費用の問題など、いろいろ面で調査して返事をするのだそうです。東京都交響楽団のオーケストラ・ライブラリアンの糸永さんによると、楽団には6000~7000ピースの楽譜が在庫としてあり、基本的にはプロフェッショナルのオーケストラ限定のレンタル楽譜を使うそうです。1曲ずつカルテを作って、どこから届いたのか、前に使用した団体がどういう状態で使用したのかなどをチェックし、今回の演奏ではどのような作業が必要になるのかを確認して、演奏者の手元に届けるそうです。
「オーケストラ・ライブラリアンは、演奏者としての視点、ソルフェージュの能力、音楽理論、音楽史、著作権など、あらゆる知識を使って行う仕事で、自分の人生を豊かにしてくれるすごく面白い仕事」と糸永さんがインタビューで答えているのが、とても印象的でした、
コンサートやリサイタルなど演奏を聴きに行った時には、その公演を裏で支えている方々の存在を忘れてはいけないと改めて思いました。公演が素晴らしかったとしたら、演奏者の練習の賜物だけではなく、公演を裏で支えた方々の尽力の賜物でもあるのですね。
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