(この記事は、第172号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ラ・フォル・ジュルネのお話です。
毎年、ゴールデンウィーク期間に開催されている ラ・フォル・ジュルネ・オ・ジャポン「熱狂の日」音楽祭に行ってきました。
フランスのナントで1995年に誕生した音楽祭が日本に上陸して、今年で10年目になります。すっかり認知度も上がりました。
近年では、東京国際フォーラムだけでなく、琵琶湖や新潟、金沢でも開催されています。
これまでは毎年、音楽家や地域などをテーマにしてきましたが、日本開催が10年目の節目となる今年から、もっと普遍的なテーマに方向転換しました。今年のテーマは、「パシオン」です。ポスターも涙を流す女性の顔の一部が使用されていました。
「祈りのパシオン」「恋のパシオン」「いのちのパシオン」の3つにジャンルを分けて、各種コンサートが紹介されていました。
ちなみに、本場フランス・ナントでは、「心」と「魂」の2つにジャンル分けされていたようです。
たくさんあるコンサートの中で、今回は「いのちのパシオン」から、バッハ・コレギウム・ジャパンの演奏で、J・S・バッハ作曲の 2台のチェンバロのための協奏曲第2番、第3番、フーガの技法よりコントラプンクトゥスを聴いてみました。
会場に入りますと、約1500席のホールは空席が見当たらない程の満席でした。
そして、開演前に、通常のコンサートにはない風景を目にしました。舞台前に人が集まり、記念写真を撮っているのです。
舞台上には、これから演奏に使用されるチェンバロが2台置いてあるのですが、チェンバロはピアノと異なり装飾的な要素が高い楽器です。一台一台に美しい装飾が施されており、その美しさを近くで見るために人だかりが出来ていたのです。
この満席の会場で、演奏が始まりました。
演奏したバッハ・コレギウム・ジャパンは、バッハなどバロック期の演奏を、当時の楽器で演奏する目的で1990年に結成されたグループで、バロック音楽の演奏団体では真っ先に名前が挙がるほどの人気と知名度があります。
今回は、総監督の鈴木雅明さんのチェンバロと指揮に、同じくチェンバロ奏者で横浜シンフォニエッタの主席指揮者でもある息子の鈴木優人さんのチェンバロという、親子競演も大きな話題となる演奏会でした。
協奏曲は、ソロを受け持つ楽器とオーケストラの競演なので、ソリストとオーケストラの息がピッタリと合わないと演奏できない作品です。
ソリストは、普段一人で演奏活動することが多いわけですが、このような作品を演奏する際には、事前に何回かオーケストラと合わせる練習をして本番を迎える事が殆どです。
少ない時間でお互いの演奏を理解し、一つの音楽にまとめあげていくのは、とても難しい作業なのです。
しかし、オーケストラの総監督が指揮をしながらチェンバロも演奏する弾き振りというスタイルですし、しかも、もう一台のチェンバロは、総監督の息子さんが担当されているので、音楽が無理なく自然に一体化されていて、完全に調和されていました。
これほど息が合った演奏は、他には無いという気がしました。
オーケストラと言っても、弦楽器が約10人の小編成なので、調和された音だけでなく、個々の楽器の音色も聴く事が出来ました。
2台ピアノですと、舞台の中央に向かってピアノを配置する事が殆どで、ピアノの前に座ると、お互いの顔が見えるようになっています。
しかし、今回のチェンバロでは、ピアノに比べて音のボリュームが少ない事もあり、同じ方向にチェンバロが置かれていました。
そのため、後ろを振り返らないと、もう一方のチェンバロ奏者の顔が見えないという配置になります。
演奏しながら後ろを振り返ることはできませんが、それでも難なくタイミングを合わせて演奏していました。
演奏後は拍手喝采で、アンコールの拍手まで湧き上がるほどの大盛況ぶりでした。フランスでも、初登場ながら同じように拍手喝采だったそうです。
あっという間に演奏会が終わってしまった感じですが、このような素晴らしい演奏を3歳から聴く事が出来るのは、ラ・フォル・ジュルネだからこそと改めて感じました。
バッハの音楽は、どちらかと言うと大人好みで難しいというイメージがあるかもしれませんが、モーツァルトやベートーヴェン、ショパンなど、その後のクラシック音楽を代表する音楽家の誰もが、バッハの音楽を尊敬し勉強して、自分の創作活動に生かしてきました。正に、お手本としてきた音楽家です。
「音楽の父」と呼ばれているバッハの音楽の素晴らしさを再認識した演奏会でした。
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