(この記事は、第191号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、恩師から受けたレッスンのお話です。

先日、久しぶりに学生時代の先生のご自宅に伺い、ピアノのレッスンをして頂きました。

音楽大学に通っていた時の先生で、卒業してからは、年賀状でのご挨拶くらいしかできていませんでした。

当時は大学の教授をなさっていて、私が卒業してからは大学院の教授になり、お弟子さんも当時から学内トップ、次席など、優秀な方が多く、なんとなく敷居の高さを感じてしまい、気軽に伺うのは気が引けてしまっていたのです。

今年の年賀状に、「コンクールの本番が控えているので、レッスンをお願いします」とさらっと書きましたら、返事のおハガキを頂き、「レッスンにいらっしゃい」と書かれていたので、早速電話をして、レッスンを受けることになりました。

学生時代には、夏休みなどの長期の休みや試験前に、学校でのレッスンとは別に、先生のご自宅でレッスンを受けていました。

もう何回も伺っているご自宅ですが、久しぶり行ってみますと付近の様子が結構変わっていて、少し迷ってしまうほどでした。

ご自宅のレッスン室に入りますと、スタインウェイのピアノが2台並び、所狭しと色々な写真や資料が置かれ、棚には膨大な量の楽譜が納められています。

当時とあまり変わらない風景に、学生時代の事が一気に思い出されました。

久しぶりにお目にかかる先生は、少しにこやかな表情でした。学生時代の時は、どちらかと言うと厳しいタイプの先生でしたので、ちょっと緊張がほぐれました。

少しこれまでの経緯をお話して、さっそくレッスンの始まりです。

先生は、応接セットのソファに座り、私は先生に背を向けるようにピアノに向かい演奏しました。割と長く練習している曲なのですが、久しぶりにかなり緊張しました。

先生は、楽譜に色々と書き込みをしながら聴き、演奏が終わると、その楽譜を持ちながらピアノに向かいました。

そして第一声が、「あなたの一番の問題は音色ね」と、そのものズバリのご指摘を頂きました。

そして、冒頭部分から、具体的なレッスンが始まりました。

思えば学生時代、練習曲が試験曲の1つになっていて、ショパンの「革命」を選んだのですが、一番最初の和音を弾くと、すぐに先生のストップがかかり、溜息の後に「あなた、もうちょっとなんとかならない? もう一度」と言われ、何回も最初の和音を弾きなおし、その都度、色々なアドバイスを頂きつつ、気が付けばレッスン時間内に、1段目も全部弾かせてもらえなかった事がありました。

今回も、最初の単音からストップがかかり、弾き方や強さ、拍の捉え方など事細かいアドバイスがあり、最初の4小節に、かなりの時間をかけてレッスンをしてくださいました。

また、指使いや間の取り方、脱力などのアドバイスもあり、あっという間に1時間半が経ってしまいました。

元々、私は、あまり音量が出ないタイプなので、少しか細い演奏になりがちなのですが、今回のレッスンでは、「あなた、もうちょっと頑張って(音を出して)」と激励される場面もあったり、「あなただったら、ここはフォルティッシモくらいでも大丈夫よ」というお話もありました。

その後、頑張って音を出して弾き続けたので、レッスンが終わった頃には、ヘロヘロになるくらい疲れ果てた状態でした。

レッスン後に、ジュースをご馳走になりながら、「もう1回レッスンに来れない? 私も気になるから」とお話があり、急遽、本番前にもう一度レッスンを受けられることになりました。

後日、もう一度レッスンに伺いましたが、その時は大学院の終了試験が近いお弟子さんがレッスンを受けていました。

とても上手な生徒さんでしたが、やはり細かい指示があり、「もうちょっと、宗教的なものも勉強しないと」というアドバイスもされていました。

そして、私のレッスンです。間の取り方と拍の捉え方が中心のレッスンになり、最後には「これで、そんなに変な所はなくなったわよ」という、なかなか率直な感想を頂きました。

学生の時は、厳しさが一番印象強かったのですが、時が経ち、ピアノを指導するという立場にもなって改めて恩師のレッスンを受けますと、一つの音へのこだわりの大切さや、妥協しないで諦めないという姿勢の大切さを痛感させられました。

大変ではありますが、厳しいレッスンや練習があってこそ、上を目指すことができ成長できるものです。

色々な意味で、とても収穫の多い時間でした。

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