(この記事は、第199号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、色々な顔を持つピアニスト、パデレフスキのお話です。
ピアニストは、コンサートホールなどで演奏活動をするわけですが、それだけではなく、他の事もしているピアニストは少なくありません。
その中で一番多いのが、お弟子さんをとって指導することだと思います。個人的に指導したり、音楽大学や音楽セミナー、講習会などで指導することもあります。また、コンクールの審査員などを務めて、講評することもあるでしょう。
また、ピアノとは別の音楽活動をされる方もいます。例えば現代ですと、バレンボイムやアシュケナージ等は、ピアニストでありながら指揮者としても大活躍しています。
これらは、本来の演奏活動に直結した仕事なので、イメージしやすいと思いますが、ピアニストは昔も今もたくさんいるので、もっと他のジャンルで活躍している方もいます。
その中でも、特に異色の存在と言えるのが、パデレフスキです。
パデレフスキは、ピアノの詩人と呼ばれたショパンの没後11年の1860年に、同じポーランドで生まれました(現在はウクライナ領となる村が生地)。
ワルシャワ音楽院の前身で学び、卒業後は母校で教鞭をとりました。
その後、ベルリンやウィーンに留学し、パリのデビュー・リサイタルを成功させ、フランスやドイツ、ロンドンやニューヨークでもコンサート活動を行いました。それと共に、作曲活動も行いますが、多忙のせいかスランプに陥ってしまいます。
スランプは辛いものですが、ちょうどその頃、政治に興味を持ち始めます。ヨーロッパは、第一次世界大戦の激動の時代でした。
パデレフスキは、とても演説が上手だったようで、第一次世界大戦後、ポーランド共和国となった際には、ポーランドの首相と外務大臣を務めました。
約1年、首相を務めた後は、現在でも大変有名なアメリカのカーネギーホールで復活コンサートを行い、演奏活動を再開させ、後進の指導も再開させます。
そして、ショパン全集であるパデレフスキ版の校訂を始めます。
ショパンの曲には、多くの種類の楽譜があり、かなりの違いがあります。ある楽譜には、小さいスラーがたくさん書いてあり、アクセントもたくさん書いてありますが、他の楽譜では、小さいスラーが無く、アクセントもだいぶ少なく書かれている事があります。装飾音符やペダルの指示も変わっている事が少なくありません。
どちらも同じショパンの作品でありながら、楽譜がかなり違うというのは不思議ですよね。
このような違いは、ショパンの楽譜が色々な国で出版されたことや、校正がショパン自身だけでなく、弟子や弟子以外の人でなされた事も要因となります。
ショパンについては、たくさんの資料があるため、むしろ色々な解釈があり、色々な楽譜が生まれるという事なのかもしれません。
ショパンの曲は、弾く人によってかなり表現に差がありますが、このような楽譜による影響も少なくないと思います。
ちなみに、パデレフスキ版は、ショパンの直筆譜と初版に基づいて作られた楽譜なので、ショパンの意図するものが読み取りやすい楽譜かもしれません。
ショパンの曲を弾いたり聴いたりする時に、同じポーランドのピアニストというだけでなく、ポーランドの独立のために活躍したパデレフスキを思い出してみましょう。
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