(この記事は、第213号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、「エリーゼのために」がなぜ名曲なのかというお話です。

昨年春に出版され話題となっている、「音楽の大福帳 クラシックの真実は大作曲家の「直筆譜」にあり!」という本を読んでみました。

ヨーロッパへ旅行に行った時に、よく作曲家の生家や住んでいた住居、博物館などを訪れますが、その時に色々な展示物と共に、直筆譜や初版の楽譜を見ることがあります。

直筆譜は作曲家自らが書いた楽譜なので、手紙などと同じように「その人らしい」雰囲気が漂っているものです。バッハですと、いかにもカチッとした感じ、ショパンは、どこかのご令嬢が書いたような、柔らかくしなやかな感じがしています。

それぞれの作曲家の音楽とリンクする気がして、見ているだけでも興味深いものですが、その直筆譜には、演奏する上でも、鑑賞する上でも重要な情報がたくさん盛り込まれているものです。

この本は、元々「音楽の大福帳」というタイトルのブログで書かれていた記事を抜粋して本にまとめたものなので、それぞれの項目が読みやすい長さになっています。バッハの音楽についてインターネットで調べているうちに、こちらのブログにたどり着き、そして本の存在を知りました。作曲家が書いた本なので、作曲家から見たクラシック音楽の解釈や楽譜の読みとり方、名演奏の解説などが書かれています。

一生忘れない暗譜の方法や、松尾芭蕉の「奥の細道」の自筆とバッハの直筆譜の共通点、作曲家から見た浅田真央さんとキム・ヨナさんの演技の感想、どの出版社の何版を使うべきか?など、気になる項目が並んでいますが、その中で大人の生徒さんにもお子様の生徒さんにも、すぐに取り入れたくなるようなお話が掲載されていました。

それが、ベートーヴェンの名曲「エリーゼのために」についてです。

これまで多くの生徒さんのレッスンを担当してきましたが、昔から根強い人気を誇るのが「エリーゼのために」です。

発表会のプログラムでは、かなりの確率でこの曲を弾かれる方がいらっしゃるので、選ぶ際には、事前に「とにかく有名な曲なので、もしかしたら他の方も弾くかもしれません」とお話をしておかなければならない曲です。ピアノ名曲集にも、必ずといってよい程掲載されていますし、ピアノを始めたばかりの方に、将来弾いてみたい曲を聴くと、生徒さんも、また親御さんからもよくこの曲の名前が挙がります。200年以上前に書かれた曲が、遠く離れた日本で、現在でも人気があるとは本当にスゴイですね。

さて、この本の中では、最初に「エリーゼのために」の7小節目のメロディーの音について、書かれていました。

弾いたことがある方や楽譜がお手元にある方は、お分かりになると思いますが、ミドシラと書かれている楽譜もあれば、レドシラと書かれている楽譜もあります。たった1音の違いで・・・と思う方もいらっしゃるかもしれませんが、音楽全体に大きく影響する問題なのです。

正解は、レドシラの方で、「ミ」と書かれている方は誤りと言う事になります。

本の中では少し専門的な事が書かれているので、ここでは省略しますが、ミで弾いてしまうと、スッキリしすぎてしまい、わかりやすい音楽になってしまうというのです。レは、この部分では、一つ低いドの音にとても進みたくなるような性格を持っています。専門的には「解決する」という言葉を使うのですが、解決しますと、その場面が終わるので落ち着く訳です。

レドシラと弾いたときに、最後のラの音と一緒に、解決するためのドの音が出てくるはずなのですが、それが無いのです。解決しそうで解決しないという、なんとももどかしい感じのまま、ご存知のように何回も同じメロディーが出てきます。

本の中では、「何回も何回も、美人が横顔をのぞかせる事により、その美しく切ない気分が横溢(おういつ)する」と書かれていました。なるほどという感じがしますね。

また、2小節目からの右手のメロディーの各小節の最後の音が、ラ、シ、ドと3つ並んでいる事や、9小節目から始まる右手のメロディーの音(各小節の最初の伸ばす音)が、ミ、レ、ド、シと4つ下降して並んでいている事も、名曲たる大きなポイントであるそうです。

そして、「エリーゼのために」を作曲したベートーヴェンは、同じドイツ生まれの大先輩の作曲家であるバッハを尊敬して、彼の作品をよく勉強していました。

「エリーゼのために」は、現在でも大変よく弾かれるバッハの「平均律クラヴィーア曲集」第1巻の16番を勉強した成果を基に生まれた曲であるとも書かれていました。

ピアノの曲を練習している時には、間違えないようにとか、強弱をしっかりと付けてなど、いかに楽譜通りにミスをしないように弾くかという点に注力してしまいがちですが、楽譜を正しく読み取り、どのように曲が作られているのかという構造をよく勉強して(アナリーゼ)、その背景も知ることが、本当に曲を理解して演奏することに繋がっていくのだと改めて感じました。

色々な角度から学ぶことで、練習している曲の素晴らしさがますます理解できますから、弾いていてより楽しめるのではないでしょうか。

本の作者である作曲家の先生が行っている講座に参加する予定なので、後日その時のお話も出来ればと思います。

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