(この記事は、第224号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノの新しい可能性についてのお話です。

先日、「題名のない音楽会」というテレビ番組で、「反田恭平ピアノリサイタル」を放映していたので見てみました。

以前、このコーナーで反田さんについて、お話したことがありますが、「情熱大陸」というテレビ番組で取り上げられて以来、あっという間に大人気ピアニストの仲間入りをされました。よく、タレントさんが、テレビ CM などをきっかけに一気にブレイクしていく様子と似ていますね。ファンクラブもあり、チケットもなかなか入手が大変なようです。

さて、「反田恭平ピアノリサイタル」では、3曲演奏されました。

一番最初に演奏されたシューマン=リストの「献呈」は、反田さんがブレイクするきっかけとなった演奏です。

ちなみに、作曲者の「シューマン=リスト」という表記は、なかなか見慣れないので、なんだろうと首を傾げた方も多いと思います。これは、シューマンが原曲を作り、リストがアレンジしたというものです。

この曲は、元々シューマンが「献呈」という声楽の曲を作り、後にリストがピアノ用にアレンジしました。この2つの曲を聴き比べるのも、面白いと思います。

リストの曲は、とても華やかなテクニックのものが多いため、音楽的な内容よりも、テクニック重視と捉えられてしまう事があります。しかし、反田さんの演奏は、とても繊細で内容の深い音楽表現をされていて、もちろんリストらしいキラキラした華麗なテクニックも表現されていますが、これまでよりもずっと、この作品の素晴らしさを感じさせてくれる演奏でした。

その次には、ラヴェルの「夜のガスパール」より「スカルボ」を、打楽器奏者の池上英樹さんと共演されました。

演奏前に、ピアノの音色の新しい可能性を探るという事で、「内部奏法」のお話をされました。内部奏法とは、ピアノの弦の上に物を置いたり細工をして、ピアノの音色を変化させることなのだそうです。

今回は、消しゴムを低音部の弦の間に挟み、ステンレスのマドラーを中音域のピアノの弦の上に横に並べ、プラスティックの定規とビス(ねじの様なもの)も入れていました。

通常、ピアノの中に何かを入れるのはご法度ですし、触る事さえ弦が錆びるので避けるのが当たり前と思っていたので、大変驚きました。

現代音楽では、よく使われる手法なのだそうですが、これを使用して近代の作曲家ラヴェルの音楽を演奏するというのです。

ちなみに、消しゴムを挟みますと、音が響かなくなり、定規を置いたところでは、ジジジジという感じの音になり、マドラーを並べたところでは、金属的な音になり、まるでチェンバロのような音にも聞こえます。

この内部奏法を使用して、反田さんの頭の中にある「夜のガスパール」を表現するという事で、とても興味深く聴いてみました。ちなみに、「スカルボ」と言う曲ですが、スカルボという名の小悪魔が、現れては消えて、人々を怖がらせるという様子を描いた音楽です。

打楽器との共演だけでも、とても新鮮ですが、内部奏法を使用したピアノと合わさる事で、より変化に富んだ幅広い表現になっていて、とても面白い演奏でした。最後の方では、反田さんが演奏しながら、ピアノの中に向かって、カラフルなスーパーボールを投げ入れていたのも驚きでした。

打楽器も、物凄く大きな太鼓や銅鑼など、色々な楽器を使用していて、シンバルを床に落とすなど、見た目にも面白いので、小さいお子様や普段あまり音楽を聴く機会がない方でも、これはとても楽しく聴けるような気がしました。

3曲目のササスの「マトルズ・ダンス」も、同じく打楽器奏者の池上さんとの共演ですが、ピアノの打楽器としての可能性を探るというものでした。

司会の方が、「まるでレスリングの試合の様な共演です」と話されていて、どういうことなのかと思っていましたが、聴いてみるとなるほどと思いました。とてもリズムの面白い音楽ですが、常にピアノと打楽器が絡み合っていて、両者が共に一歩も引かず、ある種戦っているかのような感じさえしました。また、ピアノは鍵盤楽器の仲間ですが、音階を伴った打楽器の一種でもあるという事を、改めて感じました。

クラシック音楽のピアノ演奏から、ピアノソロ用の曲をいつもと違う奏法を用いて打楽器と共演、そして最後は、ピアノの違う一面を楽しめるという3種類のとても魅力的なコンサートでした。

クラシック音楽のコンサートも素敵ですが、このような遊び心のある見ても楽しいコンサートも、気軽に足を運べそうでいいですね。

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