(この記事は、第243号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、福間洸太朗さんのピアノリサイタルのお話です。

先日、友人と福間洸太朗さんのピアノリサイタルへ行ってきました。私は、福間洸太朗さんというピアニストを知りませんでしたが、評判が良く人気もあるとのことで、楽しみにしていました。

少し早めに会場に着いたのですが、すでに多くの方が入り口に列を作っていて、福間さんの人気ぶりに驚きました。

開演時間になりますと、かなり大きなホールが、ほぼ満席の状態になりました。

光沢感のある黒いジャケットを着た福間さんが舞台に登場し、バッハのカンタータの1曲を弾きました。「羊は安らかに草を食み」という曲で、とても美しく厳かな雰囲気の音楽でした。

この日は、東日本大震災からちょうど7年目だったこともあり、追悼の意を込めて選曲したのだそうです。

その後は、ベートーヴェンの「テンペスト」全楽章と、スメタナの「モルダウ」を演奏されました。

「テンペスト」は、ベートーヴェンのピアノ曲の中では有名な作品で、ピアノ教室にいらっしゃる生徒さんにも人気の曲です。ベートーヴェンの激しい感情が表れている音楽で、ある意味ベートーヴェンのイメージ通りの音楽かもしれません。

1楽章の途中には、静かでゆったりとした部分があり、この部分をきれいに弾く事はなかなか難しいわけですが、さすがピアニストが弾きますと魅力的に聴こえてきます。

前半のプログラムの最後は、スメタナ作曲の「モルダウ」です。プログラムのほとんどがピアノ曲なのに、なぜオーケストラの作品が1曲混ざっているのか疑問に思っていましたが、福間さんご自身がピアノソロ用に編曲したのだそうです。

以前、あるコンサートの主催者から「モルダウ」をピアノソロに編曲して演奏してほしいというリクエストがあり、そのコンサートで弾くためだけに編曲したそうですが、それが大変好評だったため、その後何度となく弾かれているそうです。

演奏前に、そのようなお話をされ、「今日は、ロビーでも楽譜販売されるそうで・・・・。ちょっと、宣伝みたいになっちゃいましたが・・・」と少しお茶目な表情で話された時には、会場からクスッと笑い声が起こっていました。

オーケストラの演奏で有名な「モルダウ」ですが、福間さんの編曲したピアノ曲は、オーケストラの迫力も、ピアノで表現できる繊細さも見事に表現され、素晴らしい作品になっていました。演奏後に友人と、「オーケストラの原曲より、福間さんの編曲した方が好みかも」と話していたくらいです。

その後休憩時間になり、「モルダウ」の演奏を大変気に入った友人が、CDと楽譜が欲しいという事で、すぐにロビーに行きました。すると、すでにCD販売の場所も楽譜販売の場所も、商品が何も見えないくらいに多くの人が集まり、大混雑していました。まだ、前半の演奏が終わっただけですが、この休憩時間に全ての商品が完売してしまうかもと思うくらい、まさに飛ぶように売れていました。

なんとかCDと楽譜が購入できて、満足そうな表情をしていた友人ですが、演奏を聴いてすぐにCDなどを購入したのは今回が初めてかもとご自分でも驚かれていました。もう、すっかりファンになったようでした。

休憩時間が終わり、後半が始まりますと、黒いシャツに鮮やかな青系のベストに衣装替えをした福間さんが、颯爽と舞台に登場しました。

ショパン作曲の「前奏曲集」や「幻想即興曲」「英雄ポロネーズ」、リストの「愛の夢 第3番」「ラ・カンパネラ」など、名曲が勢ぞろいというプログラムでした。前半と同じく、曲の間には福間さん自身で、曲目の解説などがありました。

「幻想即興曲」の演奏前には、この曲との思い出を話されていました。小学校4年生くらいで弾いていたというお話をされた時には、そんな小さい時に、この曲を弾いていたなんてスゴイというどよめきが湧き起こっていて、思わぬ反応だったのか福間さんも驚き、「あっ、いや、そういうのではなくて・・・」と後ずさりしながら、はにかんだ表情で少し照れ笑いをしていました。福間さんの謙虚さや親近感を覚える瞬間でした。

ピアノリサイタルは、もちろんピアニストの演奏を聴きに行くわけですが、このようなお話もありますと、ピアニストの人となりが垣間見えて、遠い存在のピアニストが少し身近に感じられるものですね。

演奏後には、会場中が大盛り上がりで拍手喝采でした。

福間さんは、すぐに舞台に戻ってこられてマイクを手に取り、「会場の都合で、5時までには外に出ないといけないのですが・・・」とお話をされ、「でも、アンコールで弾きたい曲が3曲あるんですよね。では1曲目!」とお話された時には、会場中が大きな笑いに包まれました。

小さい頃にコンクールで弾いて、すごく緊張して予選落ちした曲を「今日は挽回したい」と茶目っ気たっぷりなお話の後に、とても美しく弾かれていました。2曲目、3曲目もとても魅力的に演奏され、リサイタルが終わりました。

物凄いテクニックを見せつけるような弾き方ではなく、良い意味でごくごく普通に弾かれていたので、生徒さん方やピアノを弾かれている方には、とても参考になる所がたくさんあるように感じました。

また、今回かなり前方の席だったので、ペダルさばきを大変よく見ることができました。とても細かく踏み替えている所もあれば、大胆に長めに踏んでいたりしていましたが、一番驚いたのは、ウナコルダという一番左にあるシフトペダルをよく使っていたことです。

通常、このペダルを踏みますと、踏んだ瞬間に音色が変わり、音が弱くなるだけでなく、柔らかい少しこもったような音になります。今、シフトペダルを踏んだとか、シフトペダルを踏み続けていることが、すぐにわかる踏み方になります。しかし、福間さんは、音楽を聴いているだけでは、いつシフトペダルを踏み始めたのかわからないくらいに、徐々に踏み込んでいて、着物などのぼかしの技術の様な、絵画などのグラデーションのような、段差や境目がわからないような踏み方をしていて、このようなシフトペダルの使い方があったのかと驚きました。

福間さんは、ピアノリサイタルだけでなく、フィギュアスケートの羽生選手やパリオペラ座バレエ団のダンサーとのコラボレーションなど幅広い分野で活躍されているようです。今後の活躍も目が離せないですね。

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