(この記事は、第256号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、ピアノ教室に通う「きっかけ」についてです。

ピアノ教室には、幅広い年代の生徒さんがいます。未就学児から80歳代まで、教室によっては、90歳以上の方もいらっしゃるようです。

一昔前は、小学校入学と同時にピアノを始める方が多かったと思いますが、現在では低年齢化が進み、大手音楽教室のヤマハでは、1歳からレッスンが受講できるようになっていますし、お子様を対象としたピアノコンクールでは、未就学児の部門が設けられているところもあります。

情操教育の一環であったり、音感などを身につけさせたいという教育熱心な親御さんが多くなっているのかもしれません。

小学校入学前のお子様の場合、3、4歳あたりが「何か習い事をさせたい」と考える時期のようで、それがピアノ教室に通う「きっかけ」となっています。いろいろな種類の習い事がありますから、熾烈な競争となっていますが、それでもピアノは、まだまだニーズが高いように思います。

小学生の生徒さんは、入学前に始められた方と、小学生になってしばらくしてから初めてピアノを習う方に分かれます。

小学生になってから初めてピアノを習う方は、ピアノを習っているお友達が「きっかけ」となるようで、自らピアノを習いたいと親御さんに相談してピアノ教室に来られます。

以前から始めている同年齢のお友達は、ずっと先の教材の曲を弾いているわけですが、自分と比較して「あんなには弾けない」とあきらめたり、気落ちして自滅することは少なく、マイペースに進めていることが多いものです。

周りの目が気になる年代で、結構意外な気もしますが、思った以上に「周りに影響されない自分」をしっかりと持っているので感心させられます。

また、このくらいの年代は、兄弟・姉妹一緒に習っていることも多いものです。下のお子様は、お兄さん、お姉さんのピアノレッスンに一緒に付き添って来るので、小さい頃からピアノに関心を持ち、「いつか自分も」と思うようで、「きっかけ」というよりも、習うことを当然と思うのかもしれません。

自宅でも、お兄さん・お姉さんが一生懸命練習しているのを見たり、聴いていますので、いざピアノのレッスンが始まりますと、結構進度が速いこともあります。

ちなみに、兄弟・姉妹で、どちらがより弾けるようになるかは、一概には言えず、また、どちらが長く楽しみながら続けられるかも、ケースバイケースです。

以前、引越しを機にピアノ教室に入会された小学生の姉妹がいました。他のピアノ教室から移られてきたわけです。

同じ教材を使っていて、どちらも楽しそうにピアノを弾いていたのですが、教材の進み具合を見ますと、妹さんのほうが、だいぶ先の曲を弾いていました。

その後どうなったかといいますと、進みが速かった妹さんは中学受験を機にピアノをやめてしまいました。一方で、あまり弾けていなかったお姉さんは、受験でもやめることなく続けられ、大学受験の時期にも、変わらず教室に通われていました。結局、お姉さんの方が、ピアノを楽しんでいたようです。

中学生・高校生は、小さい頃からピアノを習っていて現在でも続けている方と、受験で一旦ピアノをやめて、再開した方に分かれます。

再開された方の中には、保育士や幼稚園教諭を目指すことになり、それが「きっかけ」となり復帰された方もいました。

また、受験でもピアノを続ける方は、ピアノを弾くことでストレス解消ができるという意見が多いようです。

大学生は、小さい頃からずっと続けている方に加えて、保育士や幼稚園教諭の資格取得のために、初めてピアノを習う方も時々いらっしゃいます。

保育士や幼稚園教諭の資格には、バイエル終了程度のピアノ演奏技術が必要なのですが、小さい頃からピアノを習っていると、おおよそ小学生のうちに資格取得に必要な演奏技術は身につきます。

しかし、保育士や幼稚園教諭を目指して、大学入学と共に初めてピアノを習う方にとって、バイエル終了というレベルは、かなりハードルが高く苦労も多いものです。

学校の授業では、次々と課題の曲が出され、定期的に演奏の試験もあります。弾くだけでなく、童謡などの弾き歌いがあったり、作曲が課題になることもあるようで、切羽詰まった状況でいらっしゃる方も少なくありません。

それでも通われた方は、みなさん無事資格を取得しているので、小さい頃からピアノを習っていないと、保育士や幼稚園教諭になれないという事はなさそうです。

大人の方は、実にさまざまな「きっかけ」でピアノ教室に来られます。

ピアノに憧れていたけど、なかなか習う機会がなく、その後両親などの介護が始まり、看取って時間が持てるようになりやっと始められた方や、小さい頃にピアノを習っていて、受験や就職、結婚や子育てなどでブランクの後に、一段落して再開された方、お子様にピアノを習わせていたけど、成人になり独立されピアノだけが残り、「じゃあ、今度は自分が弾いてみようか」と思って始められた方、定年退職後に「ピアノが弾けたらかっこいい」と始められた方、ご近所さんに勧められた方もいらっしゃいます。

先週からピアノ教室に通われている方は、先日定年退職され、「暇になったので何か刺激が欲しくて…」とおっしゃって入会されました。

自由な時間が持てるようになって、すぐに新しいことに挑戦する行動力は素晴らしいと思いました。体験レッスンを始める前から、既にピアノを習う意志を固めていたそうで、先日の第1回目のレッスンも大変スムーズに進みました。

以前は、お子様をピアノ教室に通わせていたそうですが、独立され、自宅にピアノだけが残っていたそうです。ご自身では、ピアノを弾いたことがなく、若かりし頃フォークソングが流行っていた時に、少しだけギターを触った程度とおっしゃっていました。

利き手と反対の手を使って弾く部分は、少し苦戦されていましたが、それでも笑顔でピアノを弾いていました。

定年退職を機に、小さい頃習っていたピアノを再開された方は、昔弾いたことがあるけど上手に弾けず、あまり良い思い出がないとおっしゃっていたショパンの曲を再び弾くことを決断され、練習に励んでいます。長いブランクの後レッスンを再開され、もう何曲も仕上げてきて、以前のように指も動くようになってきたので、もう一度リベンジしたいとの事でした。

曲を弾きこなして、昔の自分を超え、良い思い出として塗り替えることができたら、素敵だなあと思っています。

ご近所さんに勧められて通われている方は、小学生の頃1、2年ほど習っていた後、集団疎開となり、その後空襲でピアノが焼けてしまい、上手にピアノを弾いていたお姉さんがとてもがっかりしていたというお話をよくされています。

お姉さんと一緒にピアノレッスンに通われていましたが、お姉さんが弾いている間、火鉢にあたりながら順番を待っていたそうですが、ぽかぽかと温かく、お姉さんの上手なピアノの音を聴いて気分がよくなり、いつもウトウトと居眠りをしていたと懐かしそうに話していました。

それから半世紀ほどのブランクの後、思いがけずピアノのレッスンを再開することになったそうで、ご自身でも驚かれていました。

毎回、「この年で、ピアノが弾けて嬉しい」とおっしゃっていて、毎晩1時間ピアノを弾くことが日課になっているそうです。

どのような「きっかけ」で始めても、ピアノを楽しく弾き続けていただけたら、こんなに嬉しいことはありません。これからも、生徒さんの毎回のレッスンを大切に、上達だけでなく、楽しいレッスンを心掛けていきたいと思っています。

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