(この記事は、第284号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、クラシック音楽を題材にした映画のお話です。
日ごとに寒さが増してきました。本格的な秋の到来を感じる今日この頃です。
今年の秋は、先日お話した「蜜蜂と遠雷」という映画の他に、「パリに見いだされたピアニスト」という映画も上映されています。こちらの映画も見てきました。
「パリに見いだされたピアニスト」は、仲間と共に強盗を繰り返すマシューという少年が、国際コンクールで演奏するまでの心の成長や葛藤、周りの人々や家族との交流を描いたものです。
いわゆる不良少年で、何度も補導されているわけですが、そんなマシューの意外な一面が、ピアノを弾くことが好きな事でした。
日本でも、街中に自由に弾けるピアノを置くイベントが開かれていましたが、マシューが、パリ北駅に置かれているフリーピアノを見かけ、バッハの平均律を演奏するシーンから映画は始まります。これがまた、ちょっと弾けるというレベルではなく、とても上手なのです。
駅にいる人々は、全く気にかけていない様子ですが、その中に一人だけ、演奏に心を奪われ、釘付けになっている男性がいました。パリ音楽院のディレクターをしているピエールです。
ピエールは、マシューの才能を見抜き、なんとかパリ音楽院でレッスンを受けさせるべく、懸命に勧誘するのですが、当の本人は全く乗り気ではなく、立ち去ってしまいます。
マシューは、自分の演奏を凄いと言ってくれるピエールのことなどお構いなしに、また仲間と強盗をするために邸宅に忍び込むのですが、その家に置かれているグランドピアノに惹かれ、気持ちよく演奏する妄想に没頭してしまい、補導されてしまいます。
最終的に逮捕は免れますが、その代わりに社会奉仕活動をすることになり、ピエールの働きかけにより、パリ音楽院で掃除をすることになります。
マシューの才能に惹かれているピエールは、音楽院の中で「女伯爵」と呼ばれているエリザベスのレッスンを毎日受けるように指示し、レッスンを受けないと、社会奉仕活動の掃除の契約を破棄するというのです。半分脅しのような感じですが、それだけ本気で彼の才能を伸ばそうとするのです。
マシューは気が乗らないまま、エリザベスのレッスンを受けるのですが、音階練習など基礎的な練習をやらされて、うんざりしてしまい、1回目のレッスンが終わると直ぐにピエールのもとへ行き、さんざん文句を言うのです。
エリザベスも、マシューの才能こそ評価はしますが、それ以外については他の先生と同様に認めません。それでも、ピエールの情熱に押されて、レッスンは継続することになります。
レッスンに気が乗らないマシューと、反抗的なマシューにうんざりしているエリザベスでしたが、2人を結びつけるピエールの努力もあり、段々とレッスンは進んでいきます。
ピエールは、マシューのさらなる向上を求めて、国際コンクールに唯一の学校代表として、マシューを半ば強引に自分の進退と引き換えに登録してしまいます。反対する学長とは、険悪な中になりますが、ピエールの情熱がとてもよく伝わってきます。
マシューは、「無理だ、出たくない」と言い張るのですが、恋人の応援もあり、エリザベスと共にコンクールを目指してレッスンに明け暮れるのです。
エリザベスが、マシューのレッスンに情熱を注ぐ中、マシューもエリザベスに尊敬の念を持ちようになり、お互いに信頼関係が生まれていきます。エリザベスは、昔自分が参加したコンクールの映像を見せて、感情を込めて弾かなかったために優勝を逃したことを話し、同じ過ちを犯さないようにと諭したり、演奏するうえで、いかに楽譜を正しく読んで、深く理解することが大切なのかを教えます。
ピエールは、白血病で亡くした息子の部屋を無償で貸し、学校では、ホールの舞台でレッスンができるように環境を整えます。
コンクールが近づくにつれて曲も仕上がり、マシューは心身ともに充実し、エリザベスとピエールは手ごたえを感じていきます。
しかし、終盤、唯一の学校代表のはずなのに、ライバルの学生もコンクールの課題曲を練習していることを知り、ピエールとの関係にひびが入り、恋人との関係もこじれ、マシューをよく思わないピエールの妻にさんざん嫌みを言われて部屋から飛び出し、昔の仲間の元へ戻りますが、元のさやには戻れず、次から次へと負の連鎖が始まります。
コンクールがもうすぐという状況で、レッスンを無断欠席する日々が続き、そして、コンクール当日には、一緒に暮らしていた弟が、事故で大けがをして生死をさまよいます。しかし、「弟のために、コンクールに出て」と母親に言われ、ピアノへの情熱を思い出し、コンクール会場へと急ぐのでした。不良仲間も、マシューを応援すべく、開場まで車を走らせて協力します。
コンクール開場では、ピエールとエリザベスが、マシューの到着を信じて待ち続けていました。
学長がマシューの代わりにコンクールに出そうとしていたライバルの学生が、会場入りしないマシューの代わりに舞台に上がった時、マシューが会場に到着し、なんとか演奏をできることになります。
ピエールとエリザベスが見守る中、そして、その傍らには、幼い頃ピアノを教えてくれていたジャック先生の気配も感じながら、これまでのいろいろな思いを胸に、マシューは演奏を始めます。
そして、演奏が終わると、エリザベスやピエール、恋人、マシューをよく思っていなかった学長やライバルの学生、会場の他の聴衆も、惜しみない拍手を送り会場中が感動に包まれるのでした。
荒削りの天才を発掘したときの驚きと喜びを忘れず、なんとか才能を開花させようと情熱を傾けるピエール、才能があるのにやる気も努力もしないマシューにうんざりしつつも、熱心にレッスンを行い、徐々にマシューと心を通わせていくエリザベス、周りからの叱咤激励に少しずつ心境を変化させ、自分を快く思わない人々に傷つけられながらも立ち直っていくマシューなど、いろいろな人間ドラマを描いた映画でした。
自分は、ここまで情熱を傾けてレッスンをしているだろうか、ここまで情熱を傾けて深くピアノと向き合っているだろうかと、自分を振り返る良い機会にもなりました。
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