(この記事は、2021年5月10日に配信しました第322号のメールマガジンに掲載されたものです)
前回に続き今回も、「題名のない音楽会」というテレビ番組のお話です。
少し前に放送されたものですが、ヴァイオリニストの葉加瀬太郎さんがプロになりたい若者をレッスンする「題名プロ塾」という企画を見てみました。
昨年4月に実施された企画の第2弾で、以前の合格者は、既にデビューを果たし活躍されているのだそうです。
今回は、芸大の学生さん、桐朋学園大学の学生さん2人、医科大の学生さん、社会人の合計5人が集まりました。
冒頭、葉加瀬さんが、「プロとは、音楽だけで食べていけるということですから、現場でヴァイオリンを使って仕事が出来るようになるという事が大事です。みなさんは、クラシック音楽をずっと勉強してきたと思いますが、今の時代ですと、ポップスが弾けないと食べていけません。今日は、食べていけるためのヴァイオリンの弾き方をお教えしたい」と話されていました。
レッスンの課題曲は、葉加瀬さんの代名詞ともいえる「情熱大陸」です。今や誰もが聴いたことがある曲と思いますし、ピアノ用にアレンジされた楽譜もありますので、レッスンや発表会などで弾いたことがある方も少なくないかもしれません。
ポイントとなるところは、Aメロという一番最初に出てくるメロディーの速いラテンのリズム、続くBメロという2番目に出てくるメロディーの情感豊かな表現です。
通常のクラシック音楽には無い演奏方法を伝授するレッスンが始まりました。
最初に、葉加瀬さんがお手本として演奏しましたが、さすがという言葉がピッタリで、アップテンポでも心地よいリズムのノリで終始演奏され、表情豊かに演奏されていました。ついつい一緒になって音楽に乗ってしまう演奏で、塾生の皆さんも体を揺らしながら聴き入っていました。
この後、一人ひとり塾生さんのレッスンが行われましたが、印象に残った部分を書いておきます。ヴァイオリンのレッスンではありますが、ピアノの演奏でも活かせると思います。
まず、芸大の学生さんのレッスンでは、「Aメロの1、3拍目であるオンビートに意識が向きすぎている。もう少し2・4拍目を感じて弾くように。どんな音楽でも、4拍子の時には必ず意識するとよい」とアドバイスされていました。
クラシック音楽では、4拍子の曲を演奏する場合、1、3拍目にアクセントがくるのですが、ポップスの音楽ですとリズミカルな感じなどグルーヴ感(高揚感)を出すために、2、4拍目に意識を向けるのです。この拍の捉え方を意識しないと、ポップスを弾いているのに、クラシック風の演奏になってしまうというわけです。2、4拍目を特別強く弾くわけではないのですが、2拍目の音楽の流れの続きに3拍目があり、同じように4拍目の音楽の流れの続きに次の1拍目があることを感じながら弾くと良さそうです。
拍の捉え方を直して演奏すると、硬さがほぐれて、広々とした自由な雰囲気の音楽に様変わりしました。演奏した塾生さんも、「全然違う」と驚いていました。
桐朋学園大学の1人目の学生さんには、フレーズの取り方を指摘していました。葉加瀬さんが、この塾生さんの弾き方を真似されて、「これだと、1フレーズで物語が終わっちゃう。4小節や8小節を大きく捉えて演奏する」とアドバイスされていました。木を見て森を見ずにならないようにということですね。
「細かい譜割りなんだけど、大きく捉えると全ての音楽に乗っかれるから、曲を使って自分の気持ちを伝えるのが音楽なんだからね」と話されていました。
社会人の塾生さんには、フレーズの区切り目について指摘していました。「メロディーの持っているテンポで演奏しているんだよね。クラシックだとフレーズの区切り目は、みんなが合わせてくれるのでいいんだけれど、ビートのある音楽だと、すぐに次のフレーズを弾かなければならないんで、グルーブの上にメロディーが乗っからなければならないから、油断してはいけない」とアドバイスされていました。
確かに、クラシック音楽では間を大切にしますから、ソロの場合、フレーズの区切り目で間を多めに取ることもできますし、合奏の場合には待ってもらったり、合わせてもらえます。しかし、ポップスでは常にリズムが鳴っていて、その流れを重要視しますから、フレーズの区切り目だからといって、いちいち待ってもらったら音楽が途切れ途切れになってしまいます。リズムに乗ることが、大変重要になるわけですね。
「基本は、インテンポでテンポをずっと一定にさせるんだけど、だからと言ってメトロノーム通りかというとそうではない。フィジカルに求めるグルーブでなくてはならない。まずは、ダンサブル(リズミカルでダンスに適している)を意識して、ピアノ伴奏のリズムの上を楽しみながらヴァイオリンを弾てみて」とアドバイスされていました。
桐朋学園大学の2人目の学生さんには、16分音符の弾き方をアドバイスしていました。Bメロ部分の歌のようなメロディーでは、長く伸ばす音と4分音符以外に、細かい16分音符がところどころ出てくるのですが、毎回似通った弾き方をしていてもったいないというのです。
葉加瀬さんが、いろいろな表情の16分音符の弾き方を演奏し、「この16分音符の部分は、どのように演奏してもいいんだけれど、聴いている人たちの心を揺さぶる演奏でないと」とアドバイスされていました。
アドバイスを聴いて、塾生さんが再度演奏すると、「全然違うよね。情熱的に弾いたら、ピアノ伴奏の方が新しい音などを入れて反応する。それが音楽なんだよね。この部分にはそういうきっかけがあるんだよ」と葉加瀬さんが話されていました。
司会者の方は、「レッスンの良いところって、その場で吸収して変化していけるところなんですよね。言われて、すぐにできるというのは大きなことですね。プロとして求められる一番大事な条件ですね」と感想を話していました。
葉加瀬さんの実践的はアドバイスとお手本の演奏を交えながらのレッスンは、テレビで見ていても面白くて、かつ自分のピアノ演奏や生徒さん方のレッスンにも大いに生かせる学びがたくさんありました。
また、ここからどのように塾生の方が成長していくのか、また合格してプロデビューするのはどなたなのか、楽しみです。
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