(この記事は、2021年7月19日に配信しました第327号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、お子様の生徒さんのピアノ発表会のお話です。
梅雨は、しとしとと雨が降り続くものでしたが、近年では線状降水帯が突如発生し、強風、豪雨、落雷が同時にやってくるようになりました。そのような危険な天候が終わったかと思うと、今度は毎日猛暑続きで、マスクを付けながら熱中症にも気を付けなければならない夏がやってきています。
そんな中、お子様のピアノ発表会が開催されました。前回の発表会から半年しか経っていないわけですが、それでも生徒さん方は発表会本番に向けて準備を進めてきました。
今年もコロナの影響で、1回のステージに出演する生徒さんの人数を大幅に減らし、お客様についても、生徒さん1人につき2人まで付き添い可能と限定し、何かあったときに連絡が出来るようにお名前も記入していただきました。
出演する生徒さん方も、手の消毒はもちろん、集合時間も明確に決めず、記念品は事前に配布したり、舞台袖からの舞台への登場や事前待機も、密を避けるために止めて、客席から直接舞台に上がってもらうようにしました。
また、ピアノソロの場合は、舞台上のみマスクを外して良いことにし、演奏が終わるごとに鍵盤や椅子を消毒することで、少しでも気持ちよく行えるように配慮しました。
発表会当日は、朝から照り付けるような日差しと暑さでしたが、生徒さん方が会場にやってきました。夏らしいさわやかなワンピースを着た姉妹が一番乗りでした。妹さんの方は、元気よくいつもと変わらない様子でしたが、お姉さんの方はだいぶ大人しく、少々不安そうな様子でした。
さりげなく話をしてみますと、暗譜が少々不安との事です。レッスンでは暗譜で弾いていたので、大丈夫と思っていましたが、あまり強く言ってしまうとかえってプレッシャーになるので、「レッスンでは暗譜で弾いていたから、大丈夫かなとは思うけれど、もし不安だったら楽譜を見てもいいわよ。本当に見ながら弾くかは別として、楽譜が置いてあるだけで安心するかもしれないしね。開演前までに決めてくれると嬉しいな」と話をしました。
お母様も、横で頷いて聞いていました。妹さんは、いつものケロッとした感じで「暗譜で大丈夫じゃな~い?」と言っていて、ご家族の様子に励まされたのか「暗譜で弾く」と小さい声で答えてくれました。
自分で決断したのは立派だと思いますが、その後も少々気になっていました。しかし、開演前まで時間があり、妹さんやご家族と話しているうちに、すっかり気持ちも落ち着いたようで、いつもの笑顔が見られるようになり、少しホッとしました、
小学2年生の男の子は、ピシッとアイロンの効いた白シャツとベスト、短パンというおしゃれな装いで会場に現れました。「かっこいい洋服を着て来たのね」と声をかけますと、「うん」と答えてくれました。「今日はね、お辞儀をする目印が、凄くちっちゃいのよ。ほら、ここから見えないでしょ。だから今、一緒に見て来ようね」と話しますと、「え~~、ちっちゃいの?ホントだ、見えな~い」と言いながら、舞台まで目印を見に行きました。そして、「本番では、思いっきり楽しく弾いてね。楽しみにしているよ」と声を掛けますと、「うんっ!」と大きく頷いてくれました。
今年の春から私のクラスに移動してきた小学生は、本当にいつもと変わらない様子で会場に来られました。レッスンでマスクをして弾く事にすっかり慣れていて、本番でもマスクのままで弾くというので、「いいわよ~。マスクをして弾くのって、いつものレッスンと同じだもんね」と声をかけました。普段のレッスンでは、お母様が送り迎えをされているので、お父様にお目にかかるのは2回目くらいでしたが、ご挨拶をすることができホッとしました。
小学生と中学生の姉妹は、お母様と会場に現れました。中学生のお姉さんは制服姿で、妹さんはピンク色のドレス姿です。「まあ、○○ちゃんステキなドレスね。お姫様みたい」と声をかけますと、はにかんだ笑顔を見せていました。お辞儀の目印のテープを確認しようと話しますと、少し緊張しているのか、舞台に近づきたくない素振りを見せていました。お母様に促されると、お姉さんの腕をつかんで「◇◇ちゃんと…」と言い、すかさずお姉さんが「一緒に見に行こうね」と優しく声をかけていて、お姉さんを頼りにしている妹さんと、妹さんを常にフォローしている優しいお姉さんという仲の良さを改めて感じました。
開演時間になりました。
プログラム1、2番の生徒さんは、他の先生の生徒さんで、先生と連弾で演奏していました。ピンク色でフリルの付いたドレスを着た生徒さんと、曲に合わせてカウボーイ風の衣装の生徒さんと、どちらも落ち着いて弾いていて、先生と息の合った演奏をしていました。
生徒さんの使用している楽譜をよく見ますと、これまで見たこともないものでした。購入した楽譜を使用する場合、楽譜自体が分厚かったり、次のページに曲の続きがある場合などに、楽譜をコピーして使用することがありますが、その場合、そのまま使用すると折れ曲がったり、空調で飛ばされたり、注意などの書き込みがやりにくいことがあります。
そのため、台紙に貼ったり、ファイルに入れるのですが、ファイルに入れると照明の反射で見にくくなったり、書き込みのたびに楽譜を出し入れする手間がかかります。この生徒さんが使用していたものは、楽譜の上下部分をはめ込んで使用するファイルで、楽譜部分には何もないので、楽譜そのものを直接見ることができ、楽譜の入れ替えも簡単で何回でも使用できる優れものでした。発表会本番で、このような便利グッズを知ることになるとは思ってもみませんでした。
私の生徒さんの演奏ですが、本番前のレッスンで、「もう少しテンポを速めにして弾いたら、ワクワク楽しい雰囲気が出るね」とアドバイスした生徒さんは、そのアドバイスをした時には、「(いつもの)このテンポで弾く~!」と頑なに拒否していましたが、本番では、軽やかなテンポで弾いていて、強弱や転調している部分も良い感じで弾けていました。
大人しく不安そうで、それでも暗譜で弾く事を決断したお姉さんは、それまでの様子とはガラッと変わり、普段通りの様子で舞台に上がりました。弾き始めから順調そのもので、テクニック的に少し苦労していた部分も見事に乗り切り、昨年の倍くらいの長さの曲でしたが、しっかりと暗譜で美しく弾ききることができました。
かっこいい洋服を着て来た男の子の生徒さんは、終始3連符の伴奏でメロディーは8分音符という、正しいリズムを把握するのが大変な曲を弾きました。片手のリズム練習からスタートして、両手でリズムをマスターするも、楽譜通りに弾くとリズムが崩れてしまったり、ゆっくりなテンポでは正しく弾けても、テンポを少し速くするとリズムか崩れるという難局も乗り越えてきました。また、3連符も音や指番号の組み合わせによって、弾きやすい3連符と弾きにくい3連符があり、なかなか一定に弾く事にも苦労していました。本番では、これまでの苦労を何も感じさせず、とてもきれいに整った3連符や両手のリズムで弾けていて、ペダルのタイミングもとてもよく、生徒さん本人も大満足の演奏だったようです。
今年の春から移動してきた生徒さんは、淡くはかなげな曲を、レッスンの時よりもきれいに弾いていました。強弱なども良く配慮して弾いていましたが、最後の2小節あたりで左手の音を間違えてしまい、続きが弾けなくなってしまいました。これまで1回も間違えたことのない部分でしたので、少し動揺してしまったかなと思いましたが、なんとか曲を終わらせて、2曲目を弾き始めました。2曲目はテンポが速く、16分音符がたくさん出てくる曲で、レッスンでは前後の16分音符がくっついてしまったり、テンポが揺らいでしまう事もありましたが、1曲目の動揺を引きずることなく、音の粒のそろった16分音符を流れるように弾いていて、曲の勢いもあり、とてもよく健闘したと思います。
最後に演奏した中学生の生徒さんは、バロック期のバッハの作品を弾きました。これまでロマン派や近現代の曲を好んで弾いていましたので、バロック期の曲は初めてのチャレンジになります。「かっこよくて、ものすごく好きだけど難しそう」と曲決めの時から、少し躊躇していましたが、コツコツと根気強く練習を重ねてきました。本番では、最後近くの聴かせどころ部分でミスが出てしまいましたが、その他はレッスンの時のように安定して、さすが中学生という落ち着いた演奏をしていました。
全員の生徒さんが、本番まで本当によく頑張って練習をし、本番に臨み、それぞれの個性ある演奏が披露できたと思います。発表会の曲選びの段階から、楽しく行うことができ、もちろん緊張はしたと思いますが、充実感を味わえたのではないでしょうか。
まずは、これまでの頑張りを自分自身で褒めていただき、疲れを取って、また新しい気持ちで楽しくピアノを弾いてもらいたいと思います。
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