(この記事は、2021年11月22日に配信しました第335号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、コロナが落ち着いた後のピアノ教室のお話です。

気が付けば、11月も下旬となりました。コロナもだいぶ落ち着き、今年のクリスマスは各地でイルミネーションが再開されるという情報も耳にしました。生徒さん方とも、レッスンの度に今年の残り少なさを共に嘆いて、焦っているような状況です。

ピアノ教室では、お子様のグレード試験や、大人の生徒さんの発表会も終わり、すっかり日常のレッスンに戻っています。

お仕事をされている生徒さん方は、年末が見えてきていることもあり忙しくされているようで、しばらくレッスンのお休みが続いている生徒さんもいらっしゃいました。

その生徒さんから先日、「今日は、ちょっと遅れるかもしれませんが、レッスンに行けます!」という連絡を頂き、久しぶりにレッスンに来られました。この生徒さんは、私が音大を卒業してピアノ講師を始めた年に入会された方で、もう何十年も通われています。「お忙しそうでしたが、ようこそいらっしゃいました。お元気でしたか?」と挨拶をしますと、「はい」という返事の後に、おもむろに話し始めました。

「忙しかったのもそうなんですけれど…、ほら、昨年息子が結婚しましてね。やっと、来月結婚式が出来ることになったんです」と、少し照れながら嬉しそうにお話をされました。「まあ、そうだったんですか。おめでとうございます。もう少しで来月ですから、何かと準備もあって忙しいでしょうね」と話しました。

同じく昨年結婚された私の知人も、結婚式を取りやめ、新婚旅行もなかなか行けずで気の毒に思っていました。コロナも落ち着き、ハレの日を迎えられるとのことで、久しぶりにおめでたい話題で嬉しくなりました。

その一方で、コロナが流行し始めたときから、「コロナが怖い」ということで、ずっとピアノをお休みされている生徒さんがいます。ご高齢というだけでなく、過去に大きな手術をされたので大変警戒されていました。これまで何回となく、お手紙や電話で連絡を取ってきましたが、日が経つにつれて少しずつ間が空いていき、先日久しぶりにご連絡を頂きました。

その内容は、もうずっとピアノを弾いていなくて、弾く気持ちになれないというものでした。そして、ピアノよりもずっと長く続けていた水泳も止めてしまったと綴られていました。

その方は、マンションで一人暮らしをされていて、1回目の緊急事態宣言あたりから外出を控えて、電車にも乗らない生活をされていました。すぐ近くに息子さんご一家が住んでいるとはいえ、しょっちゅう行き来をしたり連絡を取っているわけでもなさそうです。いろいろな意味で、大変心配になりました。

コロナ禍で、直接人々が交流する機会は減っても、LINEやメール、フェイスブックにインスタグラムなど、いろいろなツールで連絡が取り合える方々がいる一方で、それらを使いこなすことが難しい方々は、この生徒さんのような状況になってしまっているのではないかと心配してしまいます。買い物がてら近所には出かけても、コロナ以前のようにお友達やお仲間と活動されたり、お茶をしながらおしゃべりをする事もないまま、自宅にこもった状況が1年半以上続いていることになります。

この生徒さんは、水泳と同じくらい長いこと絵画教室にも通われていて、以前はお教室の方々とスケッチ旅行に出かけたり、思い立ったらすぐにお一人で電車に乗って結構遠くまで足を延ばして絵を描いてくることもありました。ピアノのレッスンの時にも、その時の絵やご自宅で制作されている絵本を持参して見せていただいたこともありました。元々は、アクティブな方だったのです。

それが、いつの間にか絵画を止め、コロナの影響でピアノも水泳も止めてしまい、以前は「ピアノだけは絶対に止めない。これを止めてしまったら私、何にもなくなっちゃうから。もし足が悪くなってお教室に通えなくなったら、先生に家に来てもらえばいいんだし」とお茶目な表情でお話をされていただけに、今の状況は本当に心配で、コロナの本当の恐ろしさを見てしまったような気がしました。

この生徒さんがピアノに再び向かう日は、だいぶ先になりそうですし、もしかしたら、そのような日が来ることはないのかもしれませんが、しかし、この生徒さんが、いろいろな事に対して以前のような前向きな気持ちが取り戻せるように、私に何か出来ることはないのか模索しているところです。

今度は、お子様の生徒さんのお話です。

小学生の生徒さんですが、先日ヤマハのグレード試験を受けました。夏の発表会が終わった後、ほっとする間もなくグレード受験という目標を見つけ、課題曲を片っ端から聴きまくって、曲を決めて練習を始めていました。だいぶ前に弾けるようになりましたが、細かい音符の粒を揃えるところや、バロック期特有のポルタ─トという一音ずつノンレガートで弾いていく奏法を時々忘れてしまうところを修正して本番を迎えました。

本番前のレッスンでは、思わぬところで暗譜が抜けてしまう事もありましたが、本番ではそのような事もなく、かなり良い評価で見事に合格することができました。

後日、評価を付けたアドバイザーのコメントを持ってレッスンに来られましたが、その時には、もう次のグレードに向けて課題曲の選定をしていて、またまたびっくりしました。とても大人しい生徒さんで、毎日頑張って練習をしていますという様子を一切表に出さないのですが、次々と目標を見つけて行動に移していて、小学生ながらリスペクトしてしまいます。

レッスン後に、レッスンの解説や自宅での練習についてお話をした際、お母様から、「うちのピアノが重いって言うんです。軽く出来るんでしょうか?」とご相談を頂きました。

「ピアノが重いという事は、実際の鍵盤が重いという事で軽くすることも出来ると思いますし、ピアノの音が重く感じるという音色の影響で、鍵盤が重く感じるという事もあるようです。いずれにしても、調律で調整できると思いますから、ご相談されるとよいかと思います」とお返事をしました。

そうしますと、「うちのピアノが重くて弾きにくい。ピアノ教室のレッスン室のピアノの方が弾きやすいって言うんですよね。うちはアップライトのピアノなんですが、ショパンとかを弾くようになると、もうアップライトじゃ弾けないですよね」と、続けてお母様がおっしゃいました。

「そうですね。グランドピアノは、鍵盤を下げてハンマーが弦を叩いて音を出した後、重力でハンマーが元に戻りますから、自然の力で元に戻るんです。アップライトピアノは、ピアノの弦を縦に張っていますから、ハンマーが弦を叩いた後に、引き戻すものが付いていますから、どうしても限界があるんです。なので、○○ちゃんがレッスン室のグランドピアノが弾きやすいという事は、ごもっともなんです。ショパンくらいというよりも、本当はもっと前のソナチネアルバムくらいで、既に細かい装飾音符などが出てきますから、結構厳しいのです。グランドピノの方が断然弾きやすいですから、一度アップライトピアノが弾きにくいと思ってしまうと、練習もなかなかはかどらなくなりますしね。私も昔そうでしたから、毎日学校のグランドピアノで練習していました」と答えますと、お母様も、なるほどという表情で頷いていました。

「レッスン室のグランドピアノは、ご自宅に置くピアノとしては一般的なサイズですが、これよりも小さいサイズもありますから、ピアノに詳しい担当者に連絡をしておきますので、ご相談されてはいかがでしょう」と、続けてお話をしました。

その後、担当者が相談に乗ることになり、あれよあれよという間に、1週間後にはピアノと防音室を用意するという事になりました。あまりに早い展開で本当に驚きましたが、お子様のためにとご家族が素早い決断をされ、お子様に対するお気持ちの強さに感動すら覚えました。

来月にはグランドピアノがご自宅に来るそうです。休みの日には、一日中ピアノを弾いているくらいピアノが好きな生徒さんですから、ますますピアノ好きに拍車がかかりそうです。ピアノが好きという気持ちを更に伸ばせるよう、そして、次のグレード試験という目標がクリア出来るように、私も全力でレッスンに臨みたいと思います。

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