(この記事は、2021年12月6日に配信しました第336号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ピアニスト反田恭平さんのお話です。
「情熱大陸」というテレビ番組で、ピアニストの反田恭平さんを取り上げていたので見てみました。
反田恭平さんは、以前から人気のピアニストではありましたが、今年(2021年)10月に開催されたショパン国際ピアノコンクールで、「51年ぶりの日本人の快挙」として、すっかり有名人になりましたね。51年前の1970年に、内田光子さんがショパンコンクールで第2位になったわけですが、反田さんは、この内田光子さんと並ぶ第2位で、歴代の日本人で最高位となります。
ちなみに、内田光子さんは、モーツァルトやシューベルトの演奏が世界的に大変評価が高く、日本芸術院賞、文化功労者、大英帝国勲章を授与され、エリザベス女王から称号を授かったり、高松宮殿下記念世界文化賞、グラミー賞を2回受賞されるなど、世界の巨匠ピアニストの一人です。
番組では、ショパンコンクール中の反田さんの密着映像がたくさん流れ、コンクールでの演奏だけではわからない舞台裏をたくさん知ることができて、大変興味深いものでした。
ファイナルでのピアノ協奏曲第1番の演奏から番組はスタートしました。しなやかな指運びと、オーケストラとの共演を誰よりも楽しんでいるような表情で演奏され、反田さんが最後の音を弾き終わると、オーケストラの演奏がまだ終わらないうちに拍手喝さいで、スタンディングオベーションが起き、会場中が大盛り上がりになっていました。
審査結果発表では、名前の発音が聴き取りにくかったせいか、反田さんはよくわからないような反応をしていましたが、周りのコンクールファイナリストたちから声をかけてもらうと、「えっ? 私が2位? 本当?」と言っているかのようなリアクションをされていて、本当に思いがけない高評価に驚かれている様子でした。
冒頭でも書きましたが、反田さんは既に人気ピアニストですから、ショパンコンクールの参加者リストに反田さんの名前が書いてあった時には、本当に驚きました。コンクールは、これからピアニストとしてやっていきたい人達が、箔を付けるためのものですから、反田さんにはもう必要ないと思えたからです。
もちろん、良い結果が出れば、人気だけではない実力の証明となりますが、3次予選どころか1次予選で敗退にでもなれば、コンクールへの参加は逆効果となり、ピアニストとしてやっていけなくなる可能性すらあります。反田さんの場合、おそらくファイナリストになったくらいではダメで、3位以内くらいでないと良い結果とは見てもらえない感じさえしました。これは、相当なプレッシャーとなりますが、それを乗り越えての第2位は素晴らしいですし、本当に日本中が沸き立ち、コロナ禍で暗かった空気を一変させるような嬉しいニュースとなりました。
舞台に出た瞬間からインパクトを与えられるような人にならなくてはと思い、日本人だからサムライと呼ばれるようにヘアスタイルを決めたり、ショパンの故郷であるポーランドに4年前から留学し、なるべく長くピアノが弾ける物件を探して、隣の部屋の人達には「ショパンコンクールに出るので」と伝えて、長時間の練習に理解が得られるように努めたり、ショパンの音楽をより美しい音で奏でられるように、一回り体を大きくし、歴代の入賞者の演奏を分析して、ショパンの研究書も読み込み、入念な準備をされてきました。
3次予選の演奏を終え、楽屋に戻る反田さんの映像では、少し笑顔を浮かべた後、弾き切ったという達成感ではなく、「やってしまった」というような曇った表情を浮かべていました。その後のインタビューでは、「気持ちも指も空回りしてしまった。いつも弾けていたのに…。コンサートでも20回以上弾いていたから、寝ていても弾けるのに、本番になった時だけ弾いている感覚が全くなく、演奏が終わってしまい、終わった…」と話していました。後悔の残る演奏だったので、号泣していたそうです。
ショパンコンクールの少し前、6月にベルギーで開催された「エリザベート王妃国際音楽コンクール」で第3位になった、反田さんの大親友の務川慧悟さんの前で、ショパンの練習曲を1フレーズ弾いた反田さんが、「弾けるんだよ。でも、コンクールじゃ弾けないんだよ」と話すと、務川さんが笑って、「そんなもんだよ」と答えている所も印象深いシーンでした。
また、ゲン担ぎの勝負パンツの話もしていました。集中できるパンツと、楽しく弾けるパンツというものがあるのだそうです。「ファイナルでどちらを履くべきか。楽しいパンツを履くと、本当に楽しかった、やったーで終わると思うけれど、たぶん、集中できるパンツよりも順位は下になっちゃうと思う。集中できるパンツは年季が入っちゃって、自分で縫って補修しているの。2枚履くか…」。ピアノが上手なだけではない、反田さんの面白い性格が垣間見えた気がしました。ちなみに、ファイナルでは、集中できるパンツを履いたそうです。
生徒さん方や、私もそうですが、練習ではすらすら弾けていたのに本番に限ってミスをしたとか、調子がイマイチだったという事がありますが、このような人気ピアニストでさえ、同じような事が起こるんだなあと大変印象に残りました。これを励みに、今後の発表会やコンサートの本番も臆することなくチャレンジしたり、緊張してコントロールが効かなくなっても、何とかなるだけの実力が付くように、日々の練習やレッスンを行っていきたいと思いました。
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