(この記事は、2022年3月7日に配信しました第342号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ピアノの魅力のお話です。
以前撮りためていた、「クラシックTV」という番組を見てみました。歌手でモデルの鈴木愛理さんとピアニストの清塚信也さんが進行を務める番組ですが、ピアノの魅力について語るエピソードで、ジャズピアニストの小曽根 真さんがゲストとして登場していました。
小曽根さんは、ジャズピアニストでありながら、その枠にとらわれず、クラシックの演奏などにも定評のあるピアニストです。
ピアノは、どんなところが凄い楽器なのか?という問いかけに、ヴァイオリンなどの弦楽器やトランペットなどの管楽器は、最初はなかなか音が鳴らないのに、ピアノは鍵盤を下げるだけで簡単に音が出せるところや、ピアノは「楽器の王様」と呼ばれていることなどを取り上げていました。
番組では、ピアノの歴史について話が進み、ピアノが発明される前の鍵盤楽器であるチェンバロと、ピアノの比較をしていました。弦をツメでひっかいて音を出すチェンバロは、音の強弱を出すことが難しい楽器です。ここで、小曽根さんの意外なエピソードが飛び出しました。プロのピアニストとなりますと、一般的に3歳くらいからピアノを習い始めることが多い中、小曽根さんは、12歳からピアノを習い始めたのだそうです。だいぶ遅いスタートに驚きましたが、レッスンも大変ユニークだったそうです。
ピアノで曲が弾けるようになるとマルをもらい、次にチェンバロで同じ曲を弾いてマルになると、次にパイプオルガンのタッチになっているオルガンで同じ曲を弾いてマルをもらうという、3つの鍵盤のタッチを指に覚えさせるというレッスンだったのだそうです。
このようなレッスン自体、初耳でしたので、本当に面白いなあと思いました。番組では、小曽根さんがチェンバロでバッハの演奏を始め、それがジャズアレンジになり、そこへ清塚さんがピアノで参加してセッションが始まるという、なかなか見られない楽しいシーンも流れました。
その後、イタリアでのクリストフォリがピアノを発明した話や、当時新しかったピアノの音の出し方の解説などに話が進みました。弦を叩いて音を出すという、今では当たり前のようなピアノの音の仕組みが、音の強弱を生み出せることになったので、クリストフォリは、発明したピアノに「クラヴィチェンバロ・コル・ピアノ・エ・フォルテ」(小さい音と大きい音が出せるチェンバロ)という名称を付けたのです。このとても長い名前が、年月とともに段々と縮められ、現在の「ピアノ」という名前になったのですね。
清塚さんは、「バッハは、当時チェンバロで曲を作っていたこともあり、バッハの曲をピアノで弾くときに、強弱をどうすべきかという問題が起こるわけですが(ちなみに、楽譜にはほとんど強弱は書かれていません)、今はピアノで強弱を付けて演奏できるのだし、バッハが生きていたら、きっと強弱を付けて弾いたはず」とお話されていて、そうだなあと思いました。
そして、バッハのイギリス組曲第3番の一部を、清塚さんがエモーショナルな解釈で演奏された後、番組では、ベートーヴェンのピアノソナタから、ピアノの歴史が見えるという話に移っていきました。
ベートーヴェンが活躍していた時代、ピアノの鍵盤数が61鍵盤から73鍵へと増えて、出せる音域が広がっていきました。ベートーヴェンは、この鍵盤数を目一杯使用して作曲をしました。番組のスタジオには、ピアノとチェンバロの他に、鍵盤楽器が所狭しと並び、ベートーヴェンも使ったという61鍵のピアノや、チェレスタ(鍵盤で弾く鉄琴)、ハモンド・オルガン(歯車が音源になり、レバーの操作でいろいろな倍音を組み合わせて音色を変えられ、足鍵盤もある楽器)、ローズ・ピアノ(スーツケースピアノとも呼ばれ、温かい音色を出せる電気楽器)などが紹介され、実際に小曽根さんと清塚さんが演奏をして、それぞれの音色の違いなども紹介されていました。このようないろいろな鍵盤楽器を一堂に揃えて、音も聞けるという事はないので、とても興味深かったです。
小曽根さんが、「いろいろと鍵盤楽器を見せてもらったけれど、ピアノはやはりオールマイティですね」と、感想をお話されていましたが、まさに同感でした。
その後、音楽家たちが求める理想の音色というテーマで、ショパンが用いていたという「第2響板」の話が紹介されていました。通常の響板(弦の下にある大きい板)の他に、弦の上に折り畳み式の小さな響板を下すことで、音の響きの角が取れて、まろやかな音が出せる仕組みです。まるで、ピアノの蓋が2枚あるような感じで、中音域から低音域に被さるような構造になっています。よく低音の伴奏の音が出過ぎてしまうというお悩みを抱えている方がいますが、この機能が付いていたら、一気に解消されそうですね。私も欲しいくらいです。
ちなみに、番組の中で、音色を作るために大事にしている事は?という問いかけに、清塚さんは「和音のバランス」と答えていました。全部の音を同じ強さで弾くのではなく、それぞれの音の強さを工夫することで、音楽の輪郭がはっきりしてくると話していました。そして、音楽家たちもそれを意識していたことが読み取れるということで、ベートーヴェンのソナタ「悲愴」と、ショパンの練習曲「革命」の楽譜を並べて解説していました。どちらも同じハ短調の作品ですが、ベートーヴェンは低音部の和音をよく使用していて迫力のある音を求めていて、ショパンは和音を分散させて一音ずつ並べて使用して、繊細でクリアな音を求めていたのだそうです。
一方で、小曽根さんは「ペダル」と答えていました。ペダルを使用することで、弾いた音が波紋のように広がり、音に潤いが出てくるというのです。その美しさが小曽根さんは大好きだそうで、コンサートでもお客さんと共有できるところが生の楽器の良さでもあると話していました。
お客さんの前での演奏は緊張するものですが、そのような視点を持つことで、本番でも変に緊張せず、楽しんで演奏できるのではないかとも思いました。ピアノの奥深さを、改めて感じた番組でした。
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