(この記事は、2023年3月20日に配信しました第368号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、お子様の発表会に向けた練習の様子です。

だんだんと気温が上がり桜も開花し始めて、冬から春へ季節が大きく変化している今日この頃です。それでも、急に寒い日もあったりしますので、大人の生徒さん方とも、「何を着たらちょうどよいのか、よくわからないですね」とお話しています。

今年に入って、お子様の生徒さんが、相次いでグレード試験(ヤマハ音楽能力検定試験)にチャレンジされました。全ての生徒さんの試験に立ち会い、指導者として、また一人の観客として演奏を聴きました。普段のレッスンや自宅での練習の成果を全て出し切れるように、エールを送りつつ、祈るような気持ちで緊張さえしてしまいました。きっと、ご家族の皆様方も同じような心境だったことでしょう。

グレード試験を終えて、やれやれと一息つきたいところですが、今度は、毎年恒例のお子様の発表会に向けた準備が始まります。事前に生徒さん方に、発表会で弾きたい曲を聞きつつ、たくさんの楽譜を引っ張り出しながら、生徒さん一人ずつのレッスンで扱っている曲やこれまで発表会で弾いた曲、持ち味などを考慮しながら、発表会で弾く曲目の候補を4、5曲ほどピックアップしています。それを、生徒さんにお伝えしながら、それぞれの曲の注意事項などを説明して、ご自宅で曲を聴いていただき、最終的には生徒さんに決めてもらいます。

生徒さんによって反応はまちまちで、ある生徒さんは、迷うことなく「これ」と決められました。先日、その曲の2回目のレッスンだったのですが、「ここまで両手で弾いてきた~」と早速話してくれたので、弾いてもらいました。発表会できれいな曲というと、すぐに名前が挙がるような有名な曲ですが、左手が若干曲者で、オクターブで弾く音を含んだ3連符の連続という伴奏の形です。そのため、オクターブで弾く事に気を取られ過ぎて、次の音を弾くタイミングがずれ、リズムが崩れてしまうという事が練習の初期の頃によくみられます。

しかし、この生徒さんは、最初から音だけでなく、リズムもしっかりと把握して正確に弾いていて本当に驚きました。「この曲を、正しいリズムで最初から弾けた人って、〇〇ちゃんが初めて。よくできたね~。すごいね~」とお話しますと、本当にびっくりした表情から満面の笑みに変わり、大人しい生徒さんなのですが「やった~!」と大喜びしていました。

レッスン後に、生徒さんのお母様にも、「この曲は、左手のリズムがおかしくなってしまう事が物凄く多いのですが、最初から正確に弾けた生徒さんは、〇〇ちゃんだけです。素晴らしいです」とお話しますと、生徒さんと同じく笑顔で、「ホントですか~!」と喜んでいて、「よかったね。よかったね」と生徒さんに声を掛けていました。本番に向けて、良いスタートが切れていますので、この調子で進めていければと思っています。

2曲弾きたい曲があり、「先生、どうしましょう~」とご連絡をくださった生徒さんもいました。「積極的で大変喜ばしいことです。2曲同時に練習するのは、なかなかボリュームもありますから難しいとは思いますが、とりあえず、これは絶対に発表会で弾きたいという曲の方から練習を始めてみましょう」と、なんとか弾きたい順番を決めていただき準備を始めました。「すっごくかわいい曲で好き」と、譜読みの段階から楽しそうに弾いていて、和音によって「すごい音だね」とか「かっこいい」など、いろいろな音の響きにも耳を傾けられているようで、順調そのもののようです。

別の生徒さんは、お友達が発表会で弾いていた曲を弾いてみたいと、以前からお話をされていましたが、いちおう他の候補の曲目もお伝えしました。それから暫く連絡がなく、少し心配していましたが、レッスンの際にお母様が、「何が何だか分からなくなる程、家族で何回も候補の曲を聴きました。主人は〇〇。私は△△。子供は、やはりお友達が弾いていた曲が良いと家族で意見が分かれています」と苦笑しながらお話されていて、横でお子様もニコニコしながら頷いていました。お子様の晴れの舞台で弾く曲を、ご家族みんなで聴き比べをされている、とても仲の良い様子が伝わってきました。「そうなんですね。それぞれ、みなさん好みがありますからね」と話しつつ、私もとても嬉しくなりました。

演奏するのは生徒さんですので、最終的には、生徒さんが弾きたいという曲に決定しました。曲のレベルとしては、実はレッスンで弾いている曲より一つ前の難易度になる旨をお伝えしたうえで、同じ曲でもう少し難易度を高くしたアレンジの楽譜を使用する事にして、早速練習に取り掛かっていただいています。メロディーに装飾音符がたくさん付いている曲ですが、先日のグレード試験の練習でも、指を速く動かす練習をしたので、指はよく動くようになり、練習を始めたばかりなのに、既に装飾音符の付いたメロディーを弾きこなし、かなり速いテンポでも弾けていました。元々テンポが速い曲ですから、いずれテンポを上げる必要があると思っていましたが、予想以上に早い段階で速く弾けていて少し驚きました。

レッスンでは、「結構速いテンポで弾けているのね。この速さで発表会本番も弾いたら、かっこいいよね。本番で緊張しても手堅く弾けるように、まずは土台をしっかりと作っておきましょう。今の演奏は、速いテンポで弾けているんだけれど、ちょっと危うい感じがするの。家を建てる時って、まずは基礎の土台を作って、それから柱を立てて、壁を作って、屋根を作って…っていう順番じゃない。それに例えると、今は土台を作っている最中なんだけど、その土台が完成していないのに、既に柱を立てて屋根をのっけちゃっている感じなのよ。そういう家だと、たとえ立派な屋根を乗せたとしても、台風とか地震とか来たら全部倒れちゃって、ちょっともったいないよね。ピアノの場合、土台は、ゆっくり弾いたら、いつでもきちんと弾けるって事なのよ。ゆっくりだったら、いつもバッチリ自信を持って弾けるという事をまずは目指してほしいのよ」とお話をしました。

「まあ、そうはいっても、曲のイメージというものもあるし、いつもゆっくり弾くだけだと、気が滅入るかもしれないから、時々は好きな速さで弾いて、気分よく発表会本番ではこの速さで弾くぞって思う事も大切かもしれないわね」とも話をしました。同席されていたお母様も、クスっと笑ったり、頷いたりしていました。いつも、きれいに弾くタイプの生徒さんなので、かっこいい曲をどのように本番弾くのか楽しみなところです。

別の生徒さんは、もう発表会を何回も経験していて、バロックから近現代まで幅広い年代の作品を弾いてきました。「そろそろ、リストに挑戦してみない? 例えば、○○はとても有名で大定番だけれど、長さも手頃だし・・・」とお話をしますと、「あ~、知ってます!その曲好きです!弾いてみたいです!」と、すぐにお返事をいただき、「こんなに早く発表会で弾く曲を決めてしまっていいのかしら」と思う程、あっという間に曲が決まりました。楽譜も既に持っているとのことで、誰よりも早く練習を始めていました。

少し恥ずかしがり屋で、普段はそこまで意見を言うタイプではないのですが、弾いてみたいと言って決めた曲をいざ練習してみますと、とても進みがよくて驚いているところです。美しいメロディーを、細かい伴奏の音に埋もれることなく、引き立たせて弾いていて、よく弾き分けができていますし、見せ場の一つである即興的な部分でも、大変細かい音を丁寧に、しかもほとんどミスすることなく音も把握できていて、たくさんの音数があるにも関わらず正確に弾けていました。

「この部分ね、同じような音がたくさん並んでいるから、多くの人が、大体このくらいの数の音を弾いておけばいいかなという感じで弾くらしく、弾くたびに音が多かったり少なかったりする事も多いのに、ちゃんと音の数が合っていて、すごいわね」と話すと、声を上げて笑いつつ、嬉しそうな顔をしていました。

いつも、弾きたい曲を率先して見つけてきてくれる生徒さんは、今回も曲を決めてきたので、私の方で、その楽譜を探しました。オリジナル曲がピアノ曲ではないので、いろいろなアレンジと難易度の楽譜がたくさんあるのですが、生徒さんにピッタリなものがなく、迷った挙句に一つの楽譜をご紹介しました。その楽譜でレッスンを始めたのですが、「もっと難しいものが弾きたい」と意欲満々でしたので、もう一つ難易度を上げた楽譜を使う事になりました。

生徒さんのやる気は、本当にすごいパワーで、「ちょっと難しいかな」と思われるものも最終的には乗り越えて、弾きこなしてしまう程です。もちろん、その陰には、日々生徒さんの練習を促したり、励ましたりされているご家族の支えがあってのことで、大変ありがたく思っています。

全体的に大変良いスタートを切れているので、この先も順調に進められるように、私も注意深くレッスンをしていきたいと思っています。

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