(この記事は、2023年4月3日に配信しました第369号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、初めてのパイプオルガンの発表会のお話です。
昨年からオルガン(パイプオルガン)のレッスンを受けていて、先月初めての発表会がありました。「まさかオルガンを習うとは」と自分でも驚いていて、「ピアノを弾いて、チェンバロにも興味があって家に欲しいと話していて、それで今度はオルガンを始めるとは、本当に鍵盤楽器が好きなんですね」と友人に言われ、そこで初めて確かにそう見えるなと、自分でもますます驚いている次第です。
発表会には、ピアノでは数えきれないくらい参加してきましたが、オルガンの発表会はもちろん初めてなので、いつもとは異なる緊張をしていました。お客さんの前で弾くという点では、ピアノもオルガンも変わらないのですが、ピアノの場合、本番で初めてホールにあるピアノを弾くので、ホールの大きさや響き、ピアノのサイズや弾き心地などが、普段のレッスンで使用しているものと異なる事が緊張に繋がっている気がします。
今回のオルガンの発表会の場合、普段のレッスンでも2000人くらい収容できる大ホールでレッスンをしていましたので、楽器の大きさや音の響き、鍵盤の弾き心地などは、いつもと変わらないことになりますが、なんといっても、足鍵盤への不安が大きかったように思います。オルガンを習い始めて、一番苦労している所が足鍵盤です。ピアノでは、音を響かせるときに主にペダルを踏むくらいですが、オルガンでは、大抵両手+足鍵盤というスタイルで演奏することになります。2オクターブほどの足鍵盤を両足を使って踏みつつ、両手でも鍵盤を弾き、曲や使用する音色によっては、左右で使用する鍵盤も異なるので、これが緊張したらどうなるのか未知の世界でした。
以前から習っている方は、「手で弾く所は覚えて、足鍵盤を見て演奏している」とおっしゃっている方もいるくらいです。ちなみに、先生曰く「慣れると、足鍵盤を見なくても弾けるようになる」とのことですが、なかなか1年習ったくらいでは難しいものです。
11月くらいから発表会の曲の練習を始め、だいぶ弾けるようになってきたのですが、先生に「先日、録音をしてみたら、想像以上に酷い出来で…」と話したところ、「練習室のオルガンで録音しました? あそこは響きがないので、みなさん同じような事をおっしゃるんですが、ちゃんと弾けてますから大丈夫ですよ」と励ましてくださいました。このセリフ、私がピアノのレッスンの時に、生徒さんにお話ししている事ととてもよく似ていて、びっくりしましたが、私もオルガンでは生徒という立場なので、普段のピアノの生徒さんの気持ちが、よくわかるよう気がしました。
普段のレッスンとは別に、本番前には2回ほど大ホールでの自主練習を行い、1日前には大ホールでリハーサルがあり、そして発表会本番の日を迎えました。
朝からゲネプロ(最終リハーサル)があったのですが、既にホールのスタッフさんが慌ただしく、いろいろな箇所のセッティングをしていたり、舞台袖にはタイムスケジュール表が張り出され、名前、曲目、使用する音色、演奏開始時間、演奏終了時間などが書かれていました。全ての演奏者が全部異なる音色で演奏することになっていて、「楽器の王様」とも呼ばれるオルガンの多彩な音色に早くも驚きました。
ゲネプロでは、本番用のスポットライトが当たっていたのですが、これがまたピアノの発表会とは大きく異なりました。ピアノの場合、客席に対して横向きで演奏しますので、右側からスポットライトが当たるのですが、オルガンの場合、客席に対して後ろ向きで演奏しますので、背中からスポットライトが当たります。なので、自分の頭の影が、楽譜の右端などに映るのです。そんなにたいしたことではない気もするのですが、本番当日に初めて分かったことなので、他の方と「ビックリするよね」と話していました。
ちなみに、譜面台についてもピアノとは異なり、ピアノの場合には、アップライトピアノよりもグランドピアノの方が、譜面台が高い場所にあり、しかも遠くにあります。オルガンの場合には、手鍵盤の数が多いと、その先に譜面台があるのでかなり遠くに感じます。今回の大ホールのオルガンは、手鍵盤が4つありましたので、グランドピアノの譜面台よりさらに遠くに譜面台があり、近眼の私には、かなり楽譜がぼやけて見にくかったです。なので、楽譜を拡大コピーしたとおっしゃる方もいました。
一日前のリハーサルは、なんだか緊張して散々たる演奏でしたが、ゲネプロではまずまずの演奏ができ、これなら本番はちゃんと弾けるかもと思ったのですが、ゲネプロの演奏後に先生が「もっとたっぷりと」とおっしゃるので、慌てて楽譜を広げながら「どの箇所ですか?フェルマータの箇所でしょうか?」と聞きますと、「お辞儀です」とおっしゃり、演奏以前のステージマナーについて指摘されるという大変恥ずかしい思いもしました。
先生方も、合間を縫ってゲネプロで演奏したのですが、その時には次々と生徒が集まり、舞台袖にかぶりついて聴いていました。なかなか普段、オルガニストの先生の演奏をこんなに近くで聴くことがないので、ますます興味津々でした。
ゲネプロが終わり、いよいよ本番です。私は出番が早めでしたので、開演前から楽屋で準備をして控えていました。みなさん、堂々と演奏をされていましたが、演奏を終えて楽屋に帰ってくるなり「う~ん、なんとも言えない演奏だった」と感想を漏らしている方もいました。
いよいよ、次は自分の出番です。
ピアノの発表会と同じような流れで、アナウンスの後にオルガンの鍵盤がある演奏台に向かい、お辞儀をして演奏を始めました。楽譜を見て弾くのは安心ではありますが、なにしろ足がちゃんと動くのかが最大の心配ごとでした。
何箇所かミスが出てしまいましたが、練習してきたものは、ある程度は出せたかなという出来になりました。最大の心配ごとであった足鍵盤については、若干隣の鍵盤をかすってしまったところはありましたが、大体はちゃんとできたと思いました。ピアノを弾くときと同じように、次々と音を出して「横の流れと響き」を大事にしつつ、両手と足が同時に音を出した時の「縦の響き」を何回も確認して練習をしたので、ミスが出ても、この箇所で全てのパートの音を揃えて弾くということはできたので、その個所で立て直すことができ、大きなミスにならなかったのかもしれません。
とはいえ、「普段は、もうちょっとマシに弾けたのになあ…」という思いが強く残り、終演後に、隣のクラスの先生が開口一番に「演奏に不本意だった人も…」と話されていて、思わずドキッとしてしまいました。
まだ1年ほどしかオルガンを習っていませんが、同じ鍵盤楽器であるピアノと比べて、いろいろな違いがあり、楽器演奏は面白いものだなあと改めて感じました。オルガンを弾く事で、ピアノの楽器の素晴らしさにも改めて目を向けることができました。野球の大谷翔平選手ではありませんが、ピアノとオルガンの二刀流ができたら…と夢も膨らむ一日にもなりました。
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