(この記事は、2023年9月25日に配信しました第381号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、ピアノオーディション合格者のコンサートのお話です。
夏休みの時期に行われたピアノオーディションの合格者のコンサートが、先日行われました。
未就学児から大学生までが対象のオーディションですが、年々参加者が増えてレベルも上がり、審査員をしている立場としては、いつも驚いています。審査員としては、一学年しか関わっていませんが、幅広い年代の演奏を聴くことができますので、今年の合格者はどんな演奏をするのか、ワクワクしながらホールへ向かいました。
コンサートでは、通常一人2分くらいのリハーサルの時間を設けていますが、今回は非常にタイトなタイムスケジュールだったためリハーサル時間が全く取れず、初めての参加者と年齢の低い生徒さんのみ、椅子や足台、補助ペダル設置の確認をするのみで終わりました。
私の生徒さんも姉妹で参加しましたが、ここで思わぬアクシデントが発生しました。妹さんの方が、普段のレッスンと同じように椅子の高さを合わせて座ったところ、足が床に届かないというのです。私も、すぐ近くの舞台下で見ていましたが、まさかの出来事にドキッとしてしまいました。幸い、若干椅子を低めに設定するのみで、本番の演奏も支障なく難を逃れましたが、出番直前のアクシデントに生徒さんも動揺している様子で、申し訳ないことをしてしまったと反省しました。
この原因ですが、ドレスのパニエ(ドレスの裾を膨らませるためのペチコート)の影響で、座った際に着座位置が上がったことや、ステージ用の靴の靴底がかなり薄かったこと、ピアノのメーカーが普段と異なったため、床から鍵盤までの高さが変わったことなどが重なって起きたものと思われます。これまでの舞台での演奏では、一度も起きたことはありませんが、足台の使用を卒業して間もない生徒さんの場合は、万が一に備えて足台を用意しておくと安心かもしれません。
舞台上での椅子の確認などが終わると、すぐに開演となりました。
一番最初の生徒さんは、おそらく初めての参加と思いますが、緊張している様子も全くなく、堂々とした様子で、練習の成果を存分に発揮した演奏をされました。
その次に登場したのが、先程のアクシデントに遭遇した生徒さんです。大丈夫かなとかなり心配していましたが、気持ちの切り替えもできているようで、表情も普段と変わらず、集中もできている様子で登場しました。椅子に座った体勢も、全く違和感がなく、出だしから良いテンポ感で演奏ができていてホッとしました。レッスンで、いつも少し音が強くなってしまう所も、かなり気を付けて自宅で練習をしていたようで、本番でも弱く弾く事ができていました。一番心配だった、左手の音域の広い箇所の手の移動は、少し音がはまらなかったのですが、どんどん音楽を先に進めていき、次に出てくる両手での広い音域の移動では、きれいに音もはまり、乱れることなく最後まで弾ききることができていました。
そして、数人後には、今度はお姉さんの出番となりました。お姉さんは、前回のオーディションでは残念な結果となり、妹さんの本番を客席から聴いていましたが、今回は見事に合格することができ、お姉さん自身も演奏者として舞台に上がる事が出来ました。普段レッスンを担当している私としては、それだけで本当に嬉しく思っています。
本番前の、舞台上での椅子の高さを調整する時の立ち位置が、客席から見るとあまり適切でなかったので、アドバイスをしましたが、本番では、アドバイスに従ってきれいに見える場所で行っていて、舞台マナーも整っていました。
普段のレッスンでは、曲の各場面ごとの変化を感じて弾けていたのですが、曲の冒頭部分のロマンチックに弾く箇所で、どうしても少しテンポが速くなってしまい、緩やかな美しい曲想になるはずが、少し軽快さを感じてしまうところが一番の課題でした。レッスンで、一緒に練習をすると直せるのですが、最初に1回通して弾いてもらいますと、どうしても少し軽快さが出てしまうので、自宅で練習する際に、弾く前に必ずメトロノームを使用して、速度感を確認してから練習するようにと伝えていました。
本番ですが、曲の冒頭部分のテンポが、予定通りに演奏できたので、ロマンチックでゆったりした最初の場面の世界観が存分に表現できていて、練習の成果が発揮できよかったと思いました。冒頭部分の曲想がきれいに決まったので、その後のいろいろな場面も、それぞれの特徴がより鮮明に表現でき、オーディションやその後のリハーサルの時よりも、格段に磨かれた演奏が披露出来ていて、大成功だったと思います。
休憩中に、生徒さんに声を掛けますと、お二人とも自分の演奏に満足している様子でしたが、生徒さん以上にご両親が感無量といった表情をされていたのが、とても印象的でした。
その後、中学生、高校生、大学生の生徒さん方が演奏されましたが、熱のこもった演奏が披露され、かなり聴きごたえのあるコンサートになりました。指導されている先生の特徴も出ていましたし、良く指が動くなあと感心させられたり、この年齢でこの難曲を弾くとはと驚くこともあり、勉強させられることも多かった気がします。
これまで何回もオーディションや今回のようなコンサートを聴いていますが、久しぶりに「何か良いものを持っている」と感じる出演者もいました。オーディションの合格者のコンサートですから、すべての出演者が上手ではあるのですが、表面的なテクニックが凄いとかではなく、内にある音楽性なのか個性なのか、「何か」という言葉でしか表せないのですが、惹きつけられる魅力を感じました。この「何か」が今後磨かれてどんな花が開くのか、面識のない生徒さんではありますが、陰ながら応援していきたいと思いました。
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