(この記事は、2023年11月20日に配信しました第385号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、食通な音楽家たちのお話です。
だいぶ秋が深まってきました。街中でも紅葉している木々を見かけるようになってきました。11月なのに気温が25度を超えて、100年ぶりの夏日と報道されたかと思うと、かなり冷え込んで「暖房のスイッチを入れちゃいました」とお話された生徒さんもいらっしゃいました。寒暖差が大きいので、少し体調を崩してしまった生徒さんもいて、心配しているところです。
今回は、「秋と言えば…」という事で、グルメと音楽について取り上げようと思います。
ピアノのレッスンでは、生徒さん方に練習している曲の上達をお手伝いしていますが、それだけではなく、曲の時代背景や作られた経緯、楽譜について、作曲家の人となりなど、様々な角度から曲の理解を深めたり、ピアノや音楽にもっと興味を持って楽しんでいただけるようなお話をしています。クラシック音楽の作曲家は、かなり昔の時代の異国の人達なので、あまりリアルに感じられないところもあると思います。それが、ちょっとしたエピソードを知ることで、生きている時代は違えど、同じ人間だと感じられて、親近感さえ感じてしまうのですから面白いものです。
「おとなの週末Web」に、先人たちの食への情熱ぶりを綴った歴史グルメ・エッセイ「美食・大食家びっくり事典」が掲載されていましたので、読んでみました。
先人たちを扱っていますので、様々なジャンルで活躍をした人々が登場しますが、その中に作曲家たちも当然ですが登場します。
シュットという作曲家は、作曲で得た収入を何に使ったかというと、自分専用のパン工場を作ってしまったそうです。それだけではなく、次は畑を作って野菜を育て、その次は牧場を作って家畜を飼って、とうとうマスが釣れる川まで敷地にしたそうです。また、開発したポタージュスープは、パリの食通たちにも人気だったそうです。食へのこだわりが凄いですね。
幼少期から素晴らしい才能を開花させていた神童モーツァルトは、華やかなイメージがあると思いますが、下ネタ好きの少年の心を持ち続けていたような人柄でした。ある伝記作家は、モーツァルトの事を、地味で気弱な男であったと書き記したそうです。結構意外な感じがしますね。でも、食事中はひたすら黙々と目玉焼きを6個食べるだけだったり、スープも好物だったそうですが、やはりひたすら黙々とすすっていたそうですから、華やかさとは真逆の性格の持ち主という気もします。先程のシュットのあくなき探求心という食へのこだわりとは、だいぶ異なる食へのこだわりですね。
グルメな音楽家と言うと、最初に名前が挙がる人は、ロッシーニではないでしょうか。フランス料理のメインメニューにも登場する「牛フィレ肉のロッシーニ風」という、フォアグラとトリュフを組み合わせた料理で大変有名な音楽家です。次々と大ヒットのオペラを発表して、32歳の時に「フランス国王の第一作曲家」という称号と終身年金を得て、さっさと音楽家を引退して、好きだった食への道へ進んだ音楽家です。ロッシーニは、音楽と料理の基本が同じであると話したり、自分の結婚披露宴で、料理女を妻にすることは一石二鳥というような趣旨の話をしたりと、いかに食との関りが深いのかを想像させる話ですね。
難聴にも負けず、次々と名曲を生み出したベートーヴェンは、料理についてはだいぶ苦労をしたようです。当時の食通であるルプーという人が料理本を出版した時に、ベートーヴェンに進呈しているのですが、そこにはベートーヴェンの手料理を食べたら食中毒で半殺しになったというような内容が走り書きで残されているのです。どのような料理を作って提供したのかわからないのですが、非常に危ない事を引き起こしてしまっていたようです。ちなみに、ルプーは、「きみは、シンフォニーを作るほうが、うまい料理を作るよりはるかに易しいと、素直に認めたまえ」と続けて書かれていて、ベートーヴェンの作曲家としての才能を賛辞しつつ、料理を作ってご馳走することを、やんわりと拒否している所が興味深いところです。
「美しき水車小屋の娘」や「魔王」など、ドイツ歌曲などでも有名なシューベルトは、裕福な家庭ではなかったので、お金には大変困っていた作曲家です。一説には、作曲する五線紙を買うお金もなく、裕福な友人たちからもらっていたという話もあるくらいです。それでも、時たまお金が手に入ると、得意料理である「グーラシュ」というスープを作って、友人たちに振舞っていたそうです。グーラシュは、ハンガリーの伝統的なスープですが、ドイツやオーストリアなどにもあるようで、見た目はビーフシチューに似ていますが、パプリカパウダーを使用している所が特徴的なようです。シューベルトは、料理の最後に仔牛の肝臓と腎臓を入れて、コクを出していたそうです。シューベルトの作曲する音楽の様に、派手さはないけれど、奥深さを追求した結果なのかもしれません。
フランス音楽の大家ドビュッシーは、デザート作りが得意で、洋酒を使ったクリームを詰めた焼きリンゴを披露しているそうで、「何となくドビュッシーらしい」と、このエッセイに書かれています。美しいものや繊細なものが大好きだった音楽家らしいデザートで、確かにドビュッシーらしいと言えるかもしれません。
短いエッセイで、気軽にあっという間に読めてしまいますので、面白さ満点という謳い文句にも納得という感じがします。もう30話を超えているようですし、今後もクラシックの音楽家たちが取り上げられるかもしれませんから、目が離せませんね。
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