(この記事は、2024年4月15日に配信しました第395号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、小学1年生の生徒さんのお話です。

今月入学式を終えて、新1年生になった生徒さんが2人いらっしゃいます。1人は昨年の春に入会された生徒さんで、もうすぐ1年が経とうとしています。先に小学生のお姉さんがヴァイオリンを習っていて、下の子には違う楽器を習わせたいとのご家族の意向でピアノを始めることになりました。大人しい感じの生徒さんですが、前に説明したことをよく覚えていて、「この曲の〇〇って、前にやった曲に出てきた~」と言ってそのページを探し、「ほら、ここに書いてあるよ」と、すぐに教えてくれたこともありました。音読みも、あてずっぽうではなく一音ずつ順番に数えて読んでいるので、丁寧に音読みができているなあと感心しています。

先月、まだ幼稚園生の時ですが、これまでで一番長い曲を練習していた時、どうしても途中で他の箇所の音と混ざってしまって、すっきりと最後まで弾けない時がありました。間違えてしまう箇所の音に丸を付けたり、指番号に違う色で丸を書いたり、部分練習をしたりと、いろいろと対策を取って弾くわけですが、どうにも途中で間違えてしまうのです。負けず嫌いな面もあるようで、一人で何回も最初から弾き始めるのですが、それでもなかなかうまく弾けず、ポタッ、ポタッと涙を流しながら、「難しい。ばぁー、ばぁー」と言い始めました。

指示がなくても一人で繰り返して弾き始めていたので、そのまま弾かせていたわけですが、「今日はここまでにして、また今度弾いてみましょうね」とストップさせておけばよかったかなと思いつつ、「この曲、難しいね。また今度…」と話し始めたところで、またレッスン室のドアを指して、「ばぁー、ばぁー」と言うのです。ドアの向こう側に、送り迎えのおばあ様が待っていらっしゃるので、おばあ様のところに行きたいという事なのかなあと思い、ドアを開けておばあ様に事情をお話しました。

「今、これまでで一番難しい曲を弾いていまして、なかなか思ったようにうまく弾けなくて、悔しいようでして…」とお話しますと、おばあ様は、「あらまあ、ご迷惑をおかけしてすみません」と頭を下げられました。「私も、もう少し様子を見ながら、対応していきますので、お時間までもうしばらくお待ちください」とお返事をしました。

その間、生徒さん本人はというと、おばあ様に用事があるわけではなく、おばあ様が預かっていた自分のリュックサックをレッスン室に持っていき、中から水筒を取り出して少し飲み、幼稚園の連絡帳を取り出して、「幼稚園の先生がね、書いてくれた」と、かわいいイラストを見せてくれました。「〇〇先生と言うのね。先生の絵は上手ね」「他にもあるよ」と言いながら、何個かイラストを見せてくれました。そして連絡帳を自分でリュックサックにしまい、おばあ様にリュックサックを預け、レッスン室に戻り、なんとまた先程の難しい曲を弾き始めました。何回か弾いたところで、これまで大苦戦していたことが嘘のようにスラスラと弾けたのです。「あーっ。出来た!合格!凄いねえ。よく頑張ったね」と拍手しながら声を掛けますと、少しほっとしたような表情と笑みを浮かべていました。

そして、ちょうどレッスンの時間も終わりましたので、レッスン室のドアを開けて、待っていたおばあ様にお話をしました。「あれから幼稚園の連絡帳に書かれているイラストを見せてもらって、その後すぐに自分からピアノに向かって曲を弾いていて、めでたく合格をとなりました。本当によく頑張りました!」と話しますと、「まあ~、ありがとうございます」とおばあ様も笑顔で喜んでいました。

当時、まだ幼稚園生だったわけですが、行き詰って悲しい感情が溢れても、なんとか自分の気持ちを立て直そうと、自分のお気に入りの物を眺めて気持ちを落ち着かせ、そして、また先程の難題に再チャレンジして克服するという、なかなか大人でも実行することが難しい事を、自分の力だけで行っていることに、本当に驚いて凄いなあと思いました。今後も、この素晴らしい力を伸ばせるように、タイミングや声掛けなどを工夫していきたいと思いました。

もう一人の新1年生の生徒さんは、ピアノを始めて半年くらいの生徒さんです。お兄さんが先にピアノを始めていたのですが、スポーツに力を入れていて、その時間帯と重なってしまうという事で退会される際に、「妹がピアノをやりたいと言うので、来月から妹を通わせたいのですが」とお話をいただき、レッスンを始めました。お兄さんのレッスン中に、お母様が妹さんを保育園から引き取り、お兄さんのレッスン終了と共に3人で帰宅されるという流れでしたので、妹さんはよく見かけていました。小柄な体格で愛嬌があり、初めてのピアノレッスンでもあまり緊張しないようで、度胸もあるようです。毎回、「ピアノのレッスン、楽しかった~」とお母様と話しながら帰る姿を見ていて、よかったなあと思っています。

この生徒さんは、先程の生徒さんのような、黙々と弾くタイプではなく、間違える度に「あ~っ、間違えた~」と言っては一瞬がっかりした表情をして、でもすぐにカラッとした表情で「最初からまた弾くね」と言って、弾き始めるタイプです。音読みも、「この音なんだろう?」と聞きますと、「ド?あっ、レ?あれ~?なんだっけ?ミかな?」と苦笑いしながら答えています。慎重に読むというよりも勘で読んでいる節があり、「なんだか、いろんな音を言っているけれど、結局何の音かしら?数えてみましょうよ」と、その都度音の読み方を話しています。勘で音を読むのは、今の段階ではお勧めしない方法なので、面倒でも正しい数え方で読むのが先決です。促すと正しく音が読めるので、この調子で進めていければ自力で音を読めるようになるかなと思っているところです。このように音読みは、若干気を付けないといけないのですが、音が読めてしまうと、曲のコツが掴めるので、あっという間に両手ですらすらと弾きこなしてしまいます。

何か、感覚的に掴むことに長けているなあと思っていたのですが、先日のレッスンの際に、「今度の週末に、ボウリングに行くんだーっ」といつものように元気よく話していました。「ボウリングに行くの?ボウリングの球ってすごく重いじゃない?あの重いボールを使うのね、凄いわねえ~。」「うん、もう何回か行っているよ」とやり取りをして、レッスン後に迎えに来られたお母様に、レッスンの様子についてご報告してから、「今度、ボーリングに行くのが楽しみと話していました。先日もアスレチックジムに行かれていましたし、アクティブですね」とお話しますと、お母様が「この子、小柄ですけれど、運動神経は抜群なんです」とお話されていました。「あ~、そうなんですね。運動神経抜群だからだと思いますが、ピアノも曲のコツが掴めると、すぐに弾けるようになるんです。あ~、なるほど。腑に落ちました」と私も答えました。そして、生徒さんに「ボーリング、楽しく行ってきてね」と声を掛けて見送りました。

全くタイプの異なる新1年生の生徒さん方ですが、今年は揃って発表会にも初参加します。初めての発表会でも、普段のレッスンの成果が発揮できて、楽しかったと思ってもらえたり、さらに自信が持てるように、今後もそれぞれの特徴を踏まえたレッスンをしていきたいと思います。

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