(この記事は、2024年7月8日に配信しました第401号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、嫌われている大作曲家のお話です。

毎週土曜日に放送されている「題名のない音楽会」で、「嫌われている大作曲家を特集!」とありましたので見てみました。好きな作曲家ですと、モーツァルトやショパンなどと答える方が多そうですが、苦手な作曲家は、聞かれること自体ありませんし思い当たる作曲家もいないので、かえって興味をそそられました。

さて、誰の事かというと、ブルックナーでした。

ヨーゼフ・アントン・ブルックナーは、オーストリアの作曲家で、交響曲ばかりを作曲していましたから、ピアノを弾いている方には馴染みが少ないかもしれません。番組では、いきなり「苦手な作曲家ランキング」を紹介していましたが、音楽雑誌で大変有名な音楽の友社が2011年、2014年、2018年、2021年と4回の調査を行い、常にトップ2にブルックナーが入っていたのだそうです。

「常に上位にランクイン!」とのアナウンスも入り、いかにブルックナーが好まれていないのかを紹介していました。しかし、一方で、近年ブルックナーの曲は演奏会で取り上げられる事も急増しているそうで、実は今では大人気の作曲家でもあるようです。こうなりますと、人気なのか苦手なのか矛盾していて、ますます興味を持ってしまいました。

ブルックナーは、今年生誕200年を迎えた作曲家で、世界中でお祭りムードになっているようです。番組では、ブルックナーをこよなく愛する指揮者として、沼尻竜典さんがゲストとして参加されました。沼尻さん曰く、ブルックナーは、最近コンサートで演奏されることが多く、お客様もたくさん来てくださるようになり、ブルックナーの熱狂的なファンは「ブルヲタ」とも呼ばれているそうです。

この「ブルヲタ」の特徴として、男性ファンが多く、一人で鑑賞するそうです。コンサートでは、男性トイレに行列ができ、「ブルックナー行列」と呼ばれているのだそうです。司会者が、「本当ですか~?」と聞き、オーケストラのメンバーはクスクス笑っていましたが、沼尻さんは真面目な顔で話をしていて、本当なのか冗談なのか判断が難しいですね。

「なぜ、人気者なのに苦手な人が多いのか?」という質問に、沼尻さんは大きく3つの理由があると説明していました。

その1として、「メロディーが口ずさめない!」と話した瞬間に、会場もオーケストラのメンバーも噴き出して笑い声をあげていました。「例えば、ベートーヴェンの第9(交響曲第9番)だと、♯ファ~ソララソ♯ファミレ…と歌いながら今日のコンサートは良かったなあと思いながらお家に帰るわけですけれど、ブルックナーは、そういう感じではないんですよね。音楽を聴いていただいて、口ずさめるのかどうか、お客様に判断して頂いた方が良いかと…」と言って、ブルックナーの交響曲第5番の演奏が少し披露されました。

司会者が、「ほほほ…」と少し困ったようなリアクションをして、「確かに、これは口ずさめないです」と感想を話しますと、「これは、跳躍進行と言って、隣の音より離れた音に飛んで進行するので、人間の声ではコントロールできないところまで音が飛んでいて、音域が広いので、オーケストラだけにしかできない音域のサウンドが楽しめるという事なんですね」と解説をしていました。

その2として、「音楽が重い!」を挙げていました。オーケストラの編成も多く、たくさんの楽器によって音の厚み・音圧がでます。オーケストラの全楽器が同じメロディーを演奏して、重厚感を増す効果があり、ブルックナー・ユニゾンと呼ぶのだそうです。重くないとブルックナーじゃないとも言われているそうで、「アドレナリンが出るんです!」とも話されていました。

番組では、実際にオーケストラが少し演奏をしていましたが、沼尻さんが「かっこいいでしょ!」と話していて、「音圧が、ぐわ~っとくるわけですよ。その後に休みがあったでしょ。それを、ブルックナー休止って言うんです」と続けて話していました。全部の楽器が演奏を休止して、音量や音圧にメリハリを出して、余韻を味わうのだそうです。「だんだん、ブルックナーが好きになってきたでしょ?」と司会者に問いかけていました。他にも、トレモロという、全部の弦楽器が弓を短く反復する演奏で、重厚感を増す効果があるということも紹介をしていました。「みんなで、うわああ~っと、弓を素早く反復して動かして演奏していますけれど、疲れるんですか?」と司会者が演奏後の客員コンサートマスターに聞きますと、「いや~、もう痛いです。人生の中でも指折りの痛みだと思います」と大真面目に答えていました。「一番疲れた頃に、弦楽器のトレモロをやらなきゃならないんです」と沼尻さんも話していて、ブルックナーは演奏者にとって大変ハードな曲を書いているのだなあと思いました。

その3として、「曲が長すぎる!」を挙げていて、司会者も会場の聴衆も思わず声を上げて笑っていました。ブルックナーの交響曲は、1曲で約60分から80分くらいかかるそうで、あまりに長いため、後に削って改訂した曲もあるのだそうです。「なんで、ブルックナーの曲って、長いものばっかりなんでしょうね」と司会者が質問しますと、「曲を作っているうちに、長くなっちゃうんじゃないかと思うんですけれど、例えば、サグラダファミリアやケルン大聖堂なども何百年かけて作られたらしいですけれど、材料を積み上げていくうちに、どんどん長くなってしまったんじゃないかと。それから、緩徐楽章というゆっくりなテンポの楽章があって、これが長いんです。例えば1小節演奏するのに、5、6秒かかるわけですから、8小節演奏すると50秒とかかかるわけです」と沼尻さんが説明しますと、司会者が苦笑した後に、ハッとした顔をして「8小節で?? 50秒?? これは聴いてみたいですね」と話して演奏が始まりました。

「美しい曲じゃないですか。大型客船に乗って、す~っと航海しているようなそんなイメージもありましたけれど、眠くなりそうなテンポ感ですね」と司会者が感想を話しますと、「いつまでも釣り糸を垂らして、いつお魚が来るんだろうって思いながら、私は今、海と繋がっているんだと言う釣り人のような心境ですね」「悟りの境地みたいになってきましたね」と会話が続き、会場のお客さんからも笑いが起こっていました。

「ブルックナー自身は、苦手だと言われている事を聞いたら、どう思うのでしょうね」と司会者が聞きますと、「いや、なんとも思わないでしょうね」と沼尻さんが即答していて少し驚きました。司会者も、「本当ですか?」と不思議そうに聞きますと、「だって、別にお客さんのために曲を作っている訳ではないんです」「えっ?じゃあ誰のために…?」と司会者が聞きますと、即座に「神様。神様のために曲を書くわけですから、先程の跳躍進行は、教会の屋根が空に向かって真っすぐ伸びているでしょ。それと同じように、音楽も出来るだけ神様のところに近づきたいから、3オクターブも音が跳躍しちゃうわけです。また、ブルックナー自身はオルガニストでした。なのでオルガンの重厚な音がぶわ~んとなるんです」と沼尻さんが解説をしていました。

ブルックナーは、幼少時から教会のオルガンで、オルガニストだった父親から音楽の手ほどきを受け、その後オーストリアのリンツ大聖堂の専属オルガニストとして活動をしていました。そのため、ブルックナーが作る音楽も、オルガンの重厚な音をイメージしているのだそうです。

ブルックナーの作った曲が長いという理由も、人間の叡智を超えた神へ捧げる曲だからなのだそうです。また、ブルックナー休止も、音を切った時に、教会でオルガンを演奏すると残響が7~10秒ほどあるので、教会のオルガンの残響をイメージしているというお話もされていました。

実際にブルックナーの演奏をたくさんされている指揮者の解説を聞きますと、ブルックナーの音楽の神髄を解き明かしてくれたようで大変勉強になりました。「段々クセになる」「1度はまると抜けられない」と言われているブルックナーの音楽を、たっぷり時間をかけて聴いてみたいものです。

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