(この記事は、2025年3月24日に配信しました第418号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、他の先生から引き継いだ生徒さんのお話です。
ピアノ教室で、新しい生徒さんを見させていただく場合、大きく2つのパターンがあります。新たにピアノ教室に入会された生徒さんの場合と、他の先生から生徒さんを引き継ぐ場合です。
楽器店などのある程度の規模でピアノ教室を行っている場合、ピアノ教室を退会することなく、習う先生が変わることがあります。生徒さんのご都合で、先生が変わるケースとしては、生徒さんの進学や進級で学習塾の時間割が変わることに伴うものが一番多いと思います。
塾は、一般的に2月に新学年に切り替わり、学年が上がるごとに通う日数が増え、授業時間も長くなってきます。そのため、これまでの曜日でピアノレッスンに通えなくなり、曜日が変わると、これまでの先生がレッスンをすることができなくなり、他の先生に変わるという流れです。特に、中学受験をするお子様が多い地域では、小学校入学と共に塾通いというお子様も珍しくなく、2月にレッスンの曜日や時間の変更を希望される生徒さんが非常に多いため、前月の15日までに申請書を提出していただくことを徹底しています。
逆に先生の都合で変わるケースもあります。先生の引越や、出産・体調不良などによる休職や退職の場合などです。
少し前に、この引継ぎという形で、新しい生徒さん方をレッスンすることになりました。このような引継ぎは何度も経験がありますが、久しぶりなので、ちょっと緊張しながら初レッスンを行いました。事前に前の先生から、生徒さん方が使用されているテキストや進め方、生徒さんの性格や前回の発表会の様子、グレード受験のことなどをお聞きしていました。
生徒さん方は、普段通りというわけにはいかなかったかもしれませんが、段々と打ち解けてくれているような気がします。第一印象から大人しい感じの生徒さんも、少しずつ学校や塾の話などもしてくれるようになったので、少し安堵しているところです。
小学2年生の男の子は、まだまだ少し幼いところもありますが、先日はレッスンが始まる前に、ルービックキューブの全面を何秒で完成できるのか熱心に挑戦していました。「こんなのでばっかり遊んでいるんです」とお母様が話されていましたが、なんと58秒で完成させていて大変驚きました。物凄い速さでガチャガチャと回転させていて、かなり手慣れた手つきで、1面くらいしか出来ない私からしますと、神業みたいに見えるので「すごいね!」と声をかけたのですが、その子にとっては、その速さで完成させることは特別という事でもなかったようで、一瞬ニコッとはしましたが、その位のリアクションで終わってしまいました。
ピアノは好きなようで、レッスン室に入って楽譜の用意をしますと、真っ先にブルグミュラーのアラベスクを弾き始めるのです。こちらも手慣れた手つきで、さ~っと最後まできれいに弾くので、「この曲、前のグレード受験で弾いたみたいだけど、今でも忘れずによく弾けているね」とお話しますと、レッスンに同席されているお母様が、「小学校の同じクラスの子で、とてもピアノが上手な子がいて、その子が前にこの曲を弾いていて、それで自分も弾きたいという事で弾いた曲なんです」とおっしゃっていました。ブルグミュラーのアラベスクは、私も小学生の時に弾きましたが、その前段階となるバイエルなどの練習曲とは異なり、グッと音楽的な作品で、同じ練習曲というタイトルでも、弾いていて楽しかった記憶があります。
この生徒さんは、憧れの曲が弾けるようになって、その曲でグレード受験も合格して、ますます弾いていて楽しいのかもしれません。今でもレッスンの最初や最後に弾いていますが、「いつでも弾けるというお気に入りのレパートリーを持つことは、とても良いですね」とお母様にもお話しています。
この生徒さんは、パターンを読むことに長けていて、練習曲なども結構短期間で慣れて、弾けるようになるところが凄いところです。ただ、「大して難しくない、むしろ簡単」と思っているがゆえに、うっかりミスをする事が時々あるのが惜しいところです。先日も、そのようなうっかりミスが続いていましたので、「今よりゆっくりでいいから、絶対に間違えないように、お家で練習してみてね。それで間違えたら、そこから弾きなおすのではなく、最初から弾き直してね」とアドバイスをしますと、「え~っ、最初からまた弾くの~?」と答えるので、「そうよ、最初から弾き直すの。もう少しで終わるのに~という時でも間違えたら、最初に戻るのよ。そういうルールで練習するわけ。でも、それって、がっかりでしょ。だから間違えないように気を付けて、お家で練習してみてね。」
一応わかったという返事はしていましたが、納得はしていない表情でした。横に座っているお母様は、うんうんと頷いていらっしゃいました。引継ぎの先生からも、「お母様自身もピアノが好きなようで、レッスンにもとても協力的です」というお話を伺っていましたが、レッスン後に「曲のことをよく理解していて、素晴らしいです。せっかく分かっているのに、うっかりミスをしているところが勿体ないので、そのミスをなくすために、今回はノーミスを目指すという練習方法をお話ししました。気を付ける箇所は、この様なところで、最後まで油断せず気を付けて弾けば、〇〇君ならノーミスで弾けると思います」とお話をしました。お母様も、お子様がご自宅で練習している時の演奏の粗さが気になっていたようで、ご納得されたようでした。
そして1週間後にレッスンをした時には、別人のように丁寧に弾けていて、目標のノーミスの演奏も達成でき、晴れてその曲は合格となりました。「とてもきれいに弾けていて、1週間よく頑張ったわね」とお話をしますと、「終わった~!」と、とても喜んでいました。レッスン後にも、お母様に「早速ご自宅でも気を付けて練習をしてくださったようで、とってもきれいに弾けるようになったので終わりにしました」とお話をしますと、物凄くホッとされた表情で、よほどご自宅での練習が難航したのかなとも思ったのですが、どうもそうではなく「思った以上に早く終わって、次に進めたので嬉しいです」とお話されていました。
どういう事なのかと思い尋ねますと、「以前は、1曲に4カ月くらいかかっていたんです」と思いがけない答えが返ってきました。「4カ月もですか?」と驚きながら、これまで終わった曲の楽譜を見てみますと、全部の曲ではないですが、確かに4カ月かかって仕上げた曲がいくつもあったのです。よくよく見ますと、いろいろと細かい指示があり、かなり丁寧に指導をされていたようです。
ピアノ指導の一番難しい所でもあるのですが、どこまで弾けて良しとするか、その合格ラインの設定が思った以上に私とは違っていて驚きました。生徒さんのお母様には、「以前の先生は、これまでとても丁寧にご指導をされていたようですね。私は、もう少し短い期間で先にどんどん進みながら、曲の完成度を徐々に上げていきたいと考えています。まずは、今回ノーミスで弾くという目標を達成しましたので、合格という事にしました。今後は、もちろん段々と目標を高くしながら、演奏の完成度も引き上げていきたいと思っています」とお伝えして、お母様も頷いて答えてくださいました。これから、どのように成長してくのか、ますます楽しみです。
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