(この記事は、第80号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、6月14日から行われた「第14回 チャイコフスキー国際コンクール」についてです。

チャイコフスキーコンクールは、1958年に創設されて、4年に1度開催されています。
ピアノ、ヴァイオリン、チェロ、声楽の4部門がありますが、ピアノに関しては、ショパンコンクールと並ぶ世界最高峰のコンクールです。

これまでに、ヴァン・クライバーン、ウラディミール・アシュケナージなど、トップスターも数多く輩出しています。

日本人の活躍もめざましく、上原彩子さん(ピアノ)、諏訪内晶子さん(バイオリン)、神尾真由子さん(バイオリン)、佐藤美枝子さん(声楽)が、これまでに優勝しています。

今回のチャイコフスキーコンクールは、これまでと大きく変わったことでも注目を集めました。

これまでは、モスクワで開催されていましたが、今回は、モスクワとサンクトペテルブルグの2都市開催になり、また、ロシア人の音楽院教授などが多かった審査員も、過去の優勝者や現役のピアニストを多く起用しました。

「審査員を務める教授に習っていないと、良い成績が得られない」などの噂もあったので、今回の改革で、審査の公平性は随分高くなったと言えます。

どの部門も、事前にDVD選考をして、応募者の4分の1だけが第1次選考に進めるという、かなり厳しい選考にもなったようです。

ピアノ部門では、第2次予選が2つある2段階方式になり、今回のコンクール用に作曲されたロシア人作曲家の現代曲が課題曲になったり、ファイナル(最終選考)では、これまでコンチェルト(ピアノ協奏曲)を2曲続けて演奏していましたが、1日1曲づつ(2日後にもう1曲)演奏するようになりました。

そして、今回のチャイコフスキーコンクールのピアノ部門では、20歳のダニール・トリフォノフさんが見事 優勝されました。彼は、モーツァルト協奏曲最優秀演奏者賞、聴衆賞にも選ばれました。

トリフォノフさんの名前に聞き覚えがあったり、ピンときた方もいらっしゃると思います。昨年ワルシャワで行われた「ショパン国際ピアノコンクール」で第3位になったピアニストです。

この時のガラコンサートでは、フレッシュな生き生きとした演奏と、とても繊細な表現力が素晴らしく、まだ19歳でしたが、彼が10年20年と経った時に、どんな演奏をするのか、将来がとても楽しみなピアニストでした。以前、「たのしい音楽小話」で紹介しています。

ところが、わずか8か月で、世界最高峰のコンクールで優勝するほどの進化をしていたとは驚きです。

国際コンクールに参加するには、膨大な数のピアノ曲を練習して、完成させておかなければなりません。

例えば、今回のチェイコフスキーコンクールでは、第1次予選で、ハイドンやモーツァルト・ベートーヴェンなどのソナタ、チェイコフスキーの作品、自由曲を組み合わせて1時間弱のプログラム(リサイタル形式)をこなします。

第2次予選のフェーズ1では、課題曲(コンクール用の新しい現代音楽)と自由曲(第1次予選で弾いていない曲)を組み合わせて、1時間のプログラム。第2次予選のフェーズ2では、指定されたモーツァルトのピアノコンチェルトの中から1曲を弾きます。

ファイナルでは、チャイコフスキーのピアノコンチェルトと、自由に選んだピアノコンチェルトを弾きます。

これらを全て完成させてから参加するわけですから、かなり長い時間をかけて練習を積む必要があるのです。

ショパンコンクールから8か月しかなく、しかも今年5月に行われたルービンシュタイン国際ピアノコンクールにも参加していて(見事に優勝しています)、コンクール後は演奏ツアーもあります。そんな多忙なスケジュールの中で、今回のコンクールの練習までしていたとは、「すごい」の一言しか言葉が思い浮かびません。

音楽ジャーナリストや、審査員のコメントなどを読みますと、トリフォノフさんの演奏は誰もが絶賛していて、第1次予選の段階で早くも優勝を予感した人もいたそうです。

演奏した曲目を見ますと、第1次・第2次選考の自由曲では、ショパンの舟歌やエチュード(練習曲)を、ファイナルでは、他の参加者がチェイコフスキーと同じロシアの作曲家ラフマニノフのコンチェルトを選んでいる中、ただ一人ショパンのコンチェルトを選んでおり、ショパンコンクールで得たものを確実に次に繋げているようです。

第2位にはソン・ヨルムさん、第3位にはチョ・ソンジンさんと、韓国のピアニストが選ばれました。ソン・ヨルムさんは、2009年に行われたヴァン・クライーバーン国際ピアノコンクールで辻井伸行さんが優勝した時に第2位になった方です。チョ・ソンジンさんは、まだ若干17歳という若さです。

韓国は、声楽部門では、女声・男声共に優勝しており、今回は大躍進だったのではないでしょうか。

日本人は、ピアノ部門で第1次選考に進めたのは一人だけで、その方も残念ながら第1次予選で敗退しています。

来月には、優勝者のガラコンサートが日本で開催されます。どんな演奏が聴けるのか、とても楽しみにしています。

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