(この記事は、第89号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、110年前のスタインウェイピアノがある大田黒公園(おおたぐろ こうえん)のお話です。

大田黒公園は、JR中央線の荻窪駅から少し歩いたところにある杉並区立の公園で、日本の音楽評論の草分け的存在である大田黒元雄さん(1893~1979)の自宅跡地に、1981年(昭和56年)に作られました。

お屋敷跡ということもあり、公園の入り口には昔ながらのヒノキの歌舞伎門があり、立派な風格が漂っています。

2679平方メートル以上の広大な敷地の中には、樹齢100年を超える銀杏の並木があり、それだけでも都心とは思えない静寂な雰囲気を作り出しています。

数寄屋造りの茶室や、書斎として使っていた記念館、休憩所などの建物もあります。

レンガ色のような記念館は、仕事部屋として使われていた西洋風の建物で、窓が多く、外の景色が楽しめて、日の光が差し込む素敵な雰囲気です。

大田黒元雄さんの父・大田黒重五郎は、芝浦製作所(現在の東芝)を再建し、東京電力や九州電力の前身の1つでもある水力電気会社を設立した実業家で、大田黒元雄さんは、そのとても裕福な家庭に育ちました。

19歳から2年ほど、経済学を学ぶためにイギリスのロンドン大学に留学しますが、その時に足しげくコンサートに通い、フランス音楽で有名なフォーレ自身の演奏も聴いていたようです。

そして、この留学中に聴いた音楽や様々な体験を元に、帰国後、音楽だけではなく色々なジャンルで執筆活動を始めます。

特に、銀座にある山野楽器の依頼を受けて「バッハよりシェーンベルヒ」を執筆し、「月の光」などで有名なドビュッシーや、「春の祭典」などが代表作であるストラビンスキーを日本に初めて紹介しますが、この本がきっかけとなり一躍有名になりました。

その後は、紫綬褒章や勲三等瑞宝章、文化功労者なども授与されています。

大田黒さんが生前書斎として使っていた記念館には、木目の美しい茶色いピアノが置かれています。

学生時代からピアノを習っていた大田黒元雄さんが、生前に愛用していたもので、現在でも高級ピアノとして大変有名なスタインウェイ社のピアノです。

1900年にドイツのハンブルグ工場で製造されたBタイプのもので、イギリスのロンドンで販売されたものだそうです。

大田黒さんは、自宅で毎月コンサートを開いていたそうですが、その時にも使われていました。

大田黒さんの死後、このピアノは杉並区に寄贈され、展示物として飾られたまま演奏されることはありませんでしたが、2000年に修復されました。

その年には、ピアニストでありフランス音楽の演奏や執筆で大変有名な 青柳いづみこさんのコンサートが行われました。

青柳さんのお話では、タッチが軽くドビュッシーやフォーレ、シベリウスの作品が特に合うピアノだそうです。

現在でもコンサートで使用されており、この貴重なピアノの音色を聴くことができます。この音色を守るために、区内在住の音楽家や区民によって「大田黒公園のピアノを守る会」という修復運動も行われています。

このような歴史のあるピアノが残っているだけでも驚きですが、修復してまた当時の音色が聴けるのは、貴重ですし嬉しいですね。

ぜひ一度、110年前に作られたスタインウェイの音色を聴いてみたいものですし、叶うなら弾いてみたいものです。

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