(この記事は、2023年10月9日に配信しました第382号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、暑い夏が終わり秋を迎えたピアノ教室の様子です。

大人の生徒さんの発表会まで、1ヵ月を切りました。参加される生徒さん方は、いつにも増して練習に熱が入っています。

当初、2曲弾かれる予定だった生徒さんは、コーラスの本番も同じ時期に何個かぶつかってしまい、本番で演奏する曲を1曲のみに絞り、しっかりと仕上げて完成度の高い演奏を目指すことになりました。美しい曲想を踏まえて、いつも優しい音で弾けていますから、雰囲気はバッチリできているのですが、微妙に和音が変化していくところに、なかなか苦戦を強いられていました。しかし、入会当初からコツコツ練習を積まれているので、安定してきたように思います。

先日のレッスンでは、テンポについて少し不安があるというお話をされていました。少し遅いのではないかと、ご自身では思っているとの事でしたが、全体的にゆったりとした雰囲気が欲しい曲なので、特に早く弾く必要もなく、このままで大丈夫とお伝えしました。「むしろ、場面が変わるところで、もっとゆっくり弾いたり、たっぷりめに間を取ると、音楽の移り変わりがより美しく表現できるので素敵ですね」と、お手本として演奏しながら説明もしました。「おそらくですが、コーラスでも、たっぷりと息継ぎをして演奏するところがあると思うのですが、それと同じような感じですね」とお話をしますと、直ぐにピンときたようで、「あ~、溜めるってことですね」とご自身の言葉で表現されていました。

生徒さんにとっては、多忙な芸術の秋になりそうですが、成果が発揮できる実りある秋になると良いなあと思っています。

2年ぶりに発表会に参加される方は、大のフランス音楽好きな生徒さんです。これまで、ドビュッシー、サティなどの作曲家の有名どころの曲を次々にチャレンジして弾いてきました。20年以上もレッスンに通われている生徒さんで、入会されてから初めてピアノを弾き始め、当初はキーボードで練習をしていました。正に一からピアノを始めた訳ですが、練習を進めるうちに、楽譜を指しながら、「うちの楽器(キーボード)には、この音の鍵盤がないんだよね~」とおっしゃり、「あら~、それは大変ですね。せめて、88鍵ある楽器を用意されたらいかがでしょうか」とお話をしていました。

それから時が経ち、フランス音楽の大家であるドビュッシーが愛用していたピアノメーカーである、ベヒシュタイン社のピアノをご用意されたという経緯があります。ヤマハのクラビノーバなどの電子ピアノから、同じヤマハのアップライトピアノへ買い替えるという事は聞いたことがありますが、キーボードから世界の3大ピアノでもあるベヒシュタインのピアノへ買い替えるとは思わなかったので大変驚きましたし、今でも大変印象強い思い出の一つです。

この生徒さんは、今年の発表会では、ラヴェルの作品に初挑戦しています。キラキラと美しい、透明感のある響きが魅力的なラヴェルですが、譜読みがとにかく大変ですし、細かい音がたくさん出てくるので、テクニックもとても高度で大変な作曲家です。譜読みが大変というのは、例えばドビュッシーの時代から、ハ長調とかト短調などのような調性がなくなるので、正しい音なのか、自分が誤って弾いている音なのかが、判別しにくいという事が挙げられます。曲に慣れると、もちろん判別は出来るわけですが、そこまでが大変で、生徒さんも迷いながら弾いていたり、いつも違う音を弾いてしまって間違えてしまうという事もありました。

しかし、さすがフランス音楽好きなので、曲のイメージは、はっきりと持っていらっしゃいますし、先日は「ラヴェル自身の録音の演奏を聴いたけれど、テンポが全く異なっていて本当に驚いた」というお話もされていました。大人になってから、初めてピアノを学び始めて、ドビュッシーやラヴェルも弾けるようになるとは、コツコツと努力を積み重ねてきたからこそで、素晴らしいなあと感じます。

普段は、月に2回のレッスンですが、「発表会前だから、毎週来てもいい?」とおっしゃる程、発表会に向けてとても意欲的にレッスンに通われていますので、ラストスパートで、更に演奏に磨きがかけられるといいなあと思っています。

先日は、大人の生徒さんの体験レッスンも行いました。大人の方は、いろいろとご予定が詰まっている事が多いので、体験レッスンの日程を組むときに、思ったよりも少し先の日程になる事も少なくありませんが、この方は、本当に急でしたので少し驚きました。体験レッスンを終え、その場で入会されることになり、第1回目のレッスンも行いました。

体験レッスンでは、ショパンのエチュードを何曲も弾かれましたので、びっくりしました。子供の頃からピアノを弾いていて、音大進学も考えていたそうですが、スポーツの道に進むことにしたとお話されていました。その後も独学でピアノを弾いてきたそうですが、定年退職となり時間も取れるようになったので、ピアノ教室に通う事にしたそうです。

第1回目のレッスンは、一番響きの良いレッスン室で行ったのですが、とにかく響く空間とピアノにとても感激されていて、弾き終えるやいなや、満面の笑みで「いや~、凄くいいですね~」「すっごく響くので、どうやって弾こうか本当に戸惑っちゃいました」と何回もおっしゃっていました。「このレッスン室は、一番響くので、体験レッスンの時よりも、のびのびと弾かれていましたね」と私もお話をしました。レッスンを終えて、「いろいろと課題も見つかりましたし、いやー、本当に良かった」と満足そうに帰られましたので、私も良かったなあと嬉しく思いました。

これからも、レッスンに来てよかったと思っていただけるように、日々精進していきたいと改めて感じました。

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(この記事は、2023年9月25日に配信しました第381号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回は、ピアノオーディション合格者のコンサートのお話です。

夏休みの時期に行われたピアノオーディションの合格者のコンサートが、先日行われました。

未就学児から大学生までが対象のオーディションですが、年々参加者が増えてレベルも上がり、審査員をしている立場としては、いつも驚いています。審査員としては、一学年しか関わっていませんが、幅広い年代の演奏を聴くことができますので、今年の合格者はどんな演奏をするのか、ワクワクしながらホールへ向かいました。

コンサートでは、通常一人2分くらいのリハーサルの時間を設けていますが、今回は非常にタイトなタイムスケジュールだったためリハーサル時間が全く取れず、初めての参加者と年齢の低い生徒さんのみ、椅子や足台、補助ペダル設置の確認をするのみで終わりました。

私の生徒さんも姉妹で参加しましたが、ここで思わぬアクシデントが発生しました。妹さんの方が、普段のレッスンと同じように椅子の高さを合わせて座ったところ、足が床に届かないというのです。私も、すぐ近くの舞台下で見ていましたが、まさかの出来事にドキッとしてしまいました。幸い、若干椅子を低めに設定するのみで、本番の演奏も支障なく難を逃れましたが、出番直前のアクシデントに生徒さんも動揺している様子で、申し訳ないことをしてしまったと反省しました。

この原因ですが、ドレスのパニエ(ドレスの裾を膨らませるためのペチコート)の影響で、座った際に着座位置が上がったことや、ステージ用の靴の靴底がかなり薄かったこと、ピアノのメーカーが普段と異なったため、床から鍵盤までの高さが変わったことなどが重なって起きたものと思われます。これまでの舞台での演奏では、一度も起きたことはありませんが、足台の使用を卒業して間もない生徒さんの場合は、万が一に備えて足台を用意しておくと安心かもしれません。

舞台上での椅子の確認などが終わると、すぐに開演となりました。

一番最初の生徒さんは、おそらく初めての参加と思いますが、緊張している様子も全くなく、堂々とした様子で、練習の成果を存分に発揮した演奏をされました。

その次に登場したのが、先程のアクシデントに遭遇した生徒さんです。大丈夫かなとかなり心配していましたが、気持ちの切り替えもできているようで、表情も普段と変わらず、集中もできている様子で登場しました。椅子に座った体勢も、全く違和感がなく、出だしから良いテンポ感で演奏ができていてホッとしました。レッスンで、いつも少し音が強くなってしまう所も、かなり気を付けて自宅で練習をしていたようで、本番でも弱く弾く事ができていました。一番心配だった、左手の音域の広い箇所の手の移動は、少し音がはまらなかったのですが、どんどん音楽を先に進めていき、次に出てくる両手での広い音域の移動では、きれいに音もはまり、乱れることなく最後まで弾ききることができていました。

そして、数人後には、今度はお姉さんの出番となりました。お姉さんは、前回のオーディションでは残念な結果となり、妹さんの本番を客席から聴いていましたが、今回は見事に合格することができ、お姉さん自身も演奏者として舞台に上がる事が出来ました。普段レッスンを担当している私としては、それだけで本当に嬉しく思っています。

本番前の、舞台上での椅子の高さを調整する時の立ち位置が、客席から見るとあまり適切でなかったので、アドバイスをしましたが、本番では、アドバイスに従ってきれいに見える場所で行っていて、舞台マナーも整っていました。

普段のレッスンでは、曲の各場面ごとの変化を感じて弾けていたのですが、曲の冒頭部分のロマンチックに弾く箇所で、どうしても少しテンポが速くなってしまい、緩やかな美しい曲想になるはずが、少し軽快さを感じてしまうところが一番の課題でした。レッスンで、一緒に練習をすると直せるのですが、最初に1回通して弾いてもらいますと、どうしても少し軽快さが出てしまうので、自宅で練習する際に、弾く前に必ずメトロノームを使用して、速度感を確認してから練習するようにと伝えていました。

本番ですが、曲の冒頭部分のテンポが、予定通りに演奏できたので、ロマンチックでゆったりした最初の場面の世界観が存分に表現できていて、練習の成果が発揮できよかったと思いました。冒頭部分の曲想がきれいに決まったので、その後のいろいろな場面も、それぞれの特徴がより鮮明に表現でき、オーディションやその後のリハーサルの時よりも、格段に磨かれた演奏が披露出来ていて、大成功だったと思います。

休憩中に、生徒さんに声を掛けますと、お二人とも自分の演奏に満足している様子でしたが、生徒さん以上にご両親が感無量といった表情をされていたのが、とても印象的でした。

その後、中学生、高校生、大学生の生徒さん方が演奏されましたが、熱のこもった演奏が披露され、かなり聴きごたえのあるコンサートになりました。指導されている先生の特徴も出ていましたし、良く指が動くなあと感心させられたり、この年齢でこの難曲を弾くとはと驚くこともあり、勉強させられることも多かった気がします。

これまで何回もオーディションや今回のようなコンサートを聴いていますが、久しぶりに「何か良いものを持っている」と感じる出演者もいました。オーディションの合格者のコンサートですから、すべての出演者が上手ではあるのですが、表面的なテクニックが凄いとかではなく、内にある音楽性なのか個性なのか、「何か」という言葉でしか表せないのですが、惹きつけられる魅力を感じました。この「何か」が今後磨かれてどんな花が開くのか、面識のない生徒さんではありますが、陰ながら応援していきたいと思いました。

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(この記事は、2023年9月11日に配信しました第380号のメールマガジンに掲載されたものです)

今回の「たのしい音楽小話」は、生誕150年を迎えたラフマニノフについてのお話です。

先日、「東大新聞オンライン」の記事で、音楽家のラフマニノフを取り上げていたので読んでみました。こちらの記事です。

【東大音ひろば】ラフマニノフ~ピアノで魅せるロシアの巨匠~

東大新聞オンラインは、東京大学の学生が独自の目線で執筆・編集している学生新聞だそうです。教授のインタビューや科学のニュース、東大の研究やスポーツ速報、学生主催のイベントなどの情報を発信しています。

「学生目線が他のメディアにはない強みです」と書かれていましたが、東大生がクラシック音楽を語るという時点で少し不思議な気もします。しかし、東大大学院卒のピアニストもいますし(ショパンコンクール・セミファイナリストであり、YouTube で、Cateen かてぃん として活動されている角野集斗さん)、東大生が子供の頃に楽器を習っていた割合は、一般的な小学生が楽器を習っている割合の倍以上というデータもあります。また、40年以上の歴史と現在も220人以上の在籍者がいる「東京大学ピアノの会」というサークルがある事などを考えますと、決して意外な事ではないことがわかります。

ちなみに、東大生が子供の頃に通っていた習い事については、以前、東洋経済オンラインの記事に掲載されていましたが、ランキングで第2位がピアノ、第7位にはヴァイオリン・エレクトーン・その他音楽教室系が入っていました。音楽系ということでまとめると6割となり、個人的には想像以上に多いという印象を持ちました。お父様お母様の立場で見たら、勉強もできて、楽器も演奏できてと理想的なお子様像に見えるかもしれません。

この東大新聞オンラインの「東大音ひろば」というコーナーの第1号で、ラフマニノフが取り上げられました。記念すべき第1号にベートーヴェンやモーツァルトなど、誰もが知っている音楽家ではなく、ラフマニノフを取りあげたところも若干捻っているというのかマニアックな感じもしますし、このご時世に、わざわざロシアの音楽家を取り上げなくてもとも思いましたが、単に今年生誕150年を迎えた作曲家として取り上げたようです。

出生と名字の由来から話は始まり、10代後半に作曲を本格的に学び、早い段階でチャイコフスキーなどから高い評価を受けたこと。交響曲第1番の初演で失敗したこと、その後作曲が出来なくなり、ピアノ協奏曲第2番で大成功を収めたことなどが書かれていました。ラフマニノフを語る時には、よく出てくる有名な話です。

18歳で、モスクワ音楽院のピアノ科を主席で卒業し、翌年には同じ音楽院の作曲科を主席で卒業したのですから、どれほど音楽的な才能を持っていたのかが伺い知れますね。ちなみに、ラフマニノフのピアノ曲で「前奏曲 嬰ハ短調 作品3-2 鐘」という有名な曲があります。2010年のバンクーバー冬季オリンピックで、フィギュアスケートの浅田真央選手が、この曲に合わせて演技を行い銀メダルを獲得して、一気に曲の知名度が上がりました。実際に、ピアノ教室の生徒さん方からも、弾いてみたいというお話を聞きましたし、私も講師演奏でこの曲を弾きました。この「鐘」は、ラフマニノフが作曲科を卒業した年に書かれた作品です。

また、交響曲第1番の初演の失敗については、ラフマニノフ本人にとってはかわいそうなくらい有名な話ですが、その理由については東大新聞に書かれていませんでした。指揮者のグラズノフが酔っ払っていて酷い指揮をしたとか、初演した場所が当時ラフマニノフが属していたモスクワ楽派と対立関係だったことが影響したとも言われています。その他にも、スコア(指揮者が使用する、全部の楽器のパート譜をまとめて書かれている楽譜)とパート譜(個々の楽器の楽譜)の不備がかなり多かったこと、初演時に他にも新曲がいくつかあり、オーケストラの練習が不足していたこと、初演前にラフマニノフの師匠に聴いてもらったところメロディー自体にダメ出しをされ、リムスキー=コルサコフにも、「この音楽は全く理解できない」と酷評されていて、音楽が時代よりも先に進んでいたため、聴衆に受け入れられず失敗となったことなども理由として挙げられるようです。

まだ24歳だったラフマニノフには、この失敗はかなりダメージが大きく、作曲活動が出来なくなるくらい精神的に追い詰められますが、精神科医のサポートなどもあり、27歳の時にピアノ協奏曲第2番を発表し、今度は大成功を収めて見事に復活しました。

東大新聞オンラインでは、この作品について「二重らせんを成すかのように整然とした調和」「ラフマニノフの高貴な出自をうかがわせるかのような華やかな宮殿風のメロディー」などの言葉が並び、なかなか高尚な雰囲気を漂わせる解説でした。そして、ラフマニノフのピアノ曲の難易度の高さから、全ピアノ作品を収録したピアニストが少ない事や、この記事を書いた筆者のお勧めのピアニストの収録についても書かれていました。

記事は、東大生の文才を感じるような文章で、最後まで興味深く読む事ができました。第2回目が、早くも楽しみです。

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