(この記事は、第280号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、ヤマハの幼児科音楽基礎グレードについてのお話です。
子供にピアノを習わせようかと思った時、真っ先に名前が挙がるのが、ヤマハ音楽教室ですね。
幼稚園や保育園にお子様が通うようになって、そろそろ何か習い事をさせようかというときに、ピアノは、体操や水泳などと並んで、現在でも人気のある習い事の一つです。
なお、ヤマハ音楽教室では、幼稚園や保育園に入園前の1歳から3歳まで(年少まで)を対象とした、「ドレミぱーく」(1回完結) や「ドレミらんど」(継続レッスン)、「すまいるシアター」(映像プログラム) などのプログラムも用意されています。個人のピアノ教室では、4歳以上から通えることが多い中、1歳から通えるというのは驚きですね。
ヤマハでは、グレード試験というものも行われています。正式には、ヤマハ音楽能力検定制度(ヤマハグレード)と呼ばれるもので、総合的な音楽表現を身に着けて、創造的で豊かな音楽表現に取り組むことを目指して制定されたものです。1967年に制定され、日本国内だけでなく、世界30か国以上で行われ、これまでに延べ1000万人以上が受験しています。
ヤマハグレードは、初心者を対象にした13~11級、音楽の学習者のための10~6級、音楽の指導者やより高度な演奏力を目指す5級~2級(1級は、制度としてはありますが、実際には実施されていないようです)まであります。
ヤマハ音楽教室の先生や、ヤマハ系楽器店の音楽教室の先生は、このヤマハグレード5級や4級以上が、採用試験の受験資格として必要になっています。
先日、幼児科音楽基礎グレードを見学しました。ヤマハグレードとは、別のものですが、ヤマハグレードへの入り口という位置づけになっています。
幼児科音楽基礎グレードは、ヤマハ音楽教室の幼児科修了生を対象としたもので、幼児科2年間のレッスンで身に着けた音楽の基礎力と成長を確認し、今後の学習目標を明確にするためのものです。
試験内容は、「これまでに習った曲の中から1曲歌う」、「メロディーを聴いて歌う」「連続して3つ弾かれた和音を聴き取る」、「レッスンで使用した教材4種類の中から自由曲を2曲弾く」、「弾いた自由曲の楽譜を見て、指定されたフレーズの音を読む」「レッスンで習った曲(事前に1曲指定されている)に伴奏をつけて弾く」です。
音楽総合教育を謳っているので、いろいろと種類はあるのですが、全部で10分程度で終わりますので、結構あっという間という印象です。
普段レッスンを担当している先生が歌の伴奏を弾いたり、試験の問題を出し、もう一人別のクラスの幼児科の先生が審査をして、最後に講評を伝えます。結果は、1カ月後くらいに、書面で渡されるようです。
歌の音程が多少ずれてしまっていても、最後まで元気よく歌えたことを評価したり、和音を聴き取る項目で、わからなくても、単音で音を弾いたりしてヒントを与えてくれますし、小さいお子様にありがちな、音の高さを間違える(1オクターブ低く弾き始めてしまうなど)ような事でも、弾いていて途中で気が付いたことを、むしろ評価しているようにさえ感じました。
伴奏をつけて弾く項目でも、正しく音楽の和音進行ができているのか、メロディーの雰囲気に合った伴奏がつけられているのかを見るというよりも、生徒さんのオリジナリティーも大切にしているように感じました。
歌唱や自由曲の演奏も、暗譜はしなくてよいらしく、レッスンの先生が楽譜を用意していました。あくまでも、2年間のレッスンでの成長を見るためのものなので、完成度を見るだけではないようで、音楽に対する姿勢や意欲なども見ている印象がありました。
グレードなどの試験では、初めて見る審査員の前で一人で試験を受けるものですが、この幼児科音楽基礎グレードは、普段のレッスン室で、普段のレッスンの先生がいて、生徒さんのご家族も同席することができますので、普段のレッスンとほとんど変わらない雰囲気で、お子様もそれほど緊張することなく受験することができるように感じました。
小さいお子様が、やや神妙な面持ちで、それでも一生懸命に歌ったり、弾いたりしていますと、応援したくなりますし、今後の可能性を感じずにはいられません。半年後、1年後に、どのようになっているのか想像するだけでもワクワクしますし、逆に、半年前、1年前と比べて、こんなに進歩したと練習の成果や成長を嬉しく感じるのではないでしょうか。
ご家族と一緒に、お子様の成長を見ることができるのが、ピアノ講師という仕事の醍醐味の一つであることを、再認識させられたひと時でもありました。
(この記事は、第279号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回は、夏休み後の生徒さんの様子です。
夏休みも終わり、ピアノ教室も普段通りに落ち着きを取り戻しています。
毎年8月に夏休みがありますが、休み明けのレッスンは少々ドキドキするものです。というのも、休みの間、自宅でのピアノの練習が思うように進まず、仕上げの予定だった曲が終わらなかったり、すっかり忘れてしまい、むしろ弾けなくなってしまう事も多く見受けられるからです。
しかし、今年はいつもと違って、口では「すみません、練習が全然できていなくて…」と言いつつも、レッスンを始めてみると、次々と曲が仕上がった生徒さんもいらっしゃいました。
残っていた曲を全部仕上げて、しかも併用しているワークも残り全部をやってきて、一気に教材が2冊終わった幼稚園生もいました。合格したら教材にシールを貼るのですが、その時間を割愛しないと、練習してきた曲を見る時間がないという状況でしたので、急遽シール貼りを宿題に回して対応しました。
入会当初からピアノのレッスンに積極的な小学生からは、夏休み前のレッスンで、「もっと宿題出して~」と何回も懇願されました。こんなに宿題を出して、大丈夫かなと思いつつ、「できるところまででいいよ」とフォローしながら宿題を出したのですが、夏休み明けのレッスンでは、きっちりとこなしていてびっくりしました。しかも、どの曲もすらすらと手慣れた様子で弾いていて、夏休み中もよく練習しているなあと感心しました。
この生徒さんの妹で、幼稚園生の生徒さんには、小さいお子様が手を叩いて、音符の長さやリズムを練習する「リズム打ち」という練習を、初めて宿題にしたのですが、こちらも危なげなく、すらすらと上手に行っていてびっくりしました。レッスンに同席されているお母様が「リズム打ちは、とっても楽しいようで、喜んでやっていました」とお話されていて、なるほどと思いました。
別の幼稚園生の生徒さんも、普段以上に曲が仕上がり、お母様もビックリされていました。
大人の生徒さん方は、夏休みが普段以上に忙しい方も少なくありません。娘さんや息子さんが一家揃って泊まりに来るという方もいらっしゃいますし、毎年恒例で、お孫さんを連れてディズニーランドに泊りがけで行くという方もいらっしゃいます。
「暑いし、混んでいるしね…」と少々うんざり気味な様子でしたが、それでもお孫さんが楽しみにしていることが嬉しいようでした。
その他にも、お孫さんを迎えに、毎日学童や保育園に行かれる方もいらっしゃいます。「大変ですね」とお話をしますと、「良い運動になりますよ」と笑顔でお話をされていました。
11月末に出産を控えている大人の生徒さんは、9月に発表会、10月にグレード受験が控えています。つわりだけでなく、体も段々重くなってきますので、「発表会やグレード受験の参加は大丈夫ですか? 無理はなさらないでくださいね」とお話しましたが、「大丈夫です」というお返事で、参加することになりました。毎回様子を見ながら、週2回のレッスンで準備を進めています。
先日は、「出産しても、ピアノは続けたいんです。12月は、ちょっと来れないかなとは思うんですけれど…」と、早くも出産後のレッスン復帰のお話まで出てきて驚きました。「どうぞどうぞ、是非いらしてください。私が抱っこしながらレッスンしますよ」などとお話をしましたが、ピアノへの強い思いを感じて、凄いなあと思いました。
11月の発表会に参加される大人の生徒さん方は、夏休みが終わると、段々と本番が近づいてきたという実感が湧き始めたようです。幸い、今年は大人の方の発表会が2週間ほど遅い日程なので、じっくりと準備が出来そうです。
「発表会の曲を決めました」と勢いよく話された生徒さんもいらっしゃいました。何の曲かと思って聞きますと、小さい頃にピアノの発表会で弾いた曲だそうで、その時はちょっと大人っぽい曲だと感じてあまり好きではなかったとのことですが、今回改めて、弾いてみたいとおっしゃっていました。「そうだったんですね。是非発表会で演奏して、良い思い出に変わるといいですね」とお話をしました。
本番で弾く曲を選ぶ時に、いろいろな曲を聴いて、一番好きな曲を選ぶという方法もありますが、先程の生徒さんのように、昔弾いた曲をもう一回弾いてみるという選び方もあるのだと、改めて思いました。「曲は生き物だ」という言葉がありますが、弾くたびに新しい発見があります。また、以前は苦労した部分が、今弾くと難なく弾けたりすることもあり、あの頃よりは上達したのかなと実感もできます。
これから発表会を迎える生徒さん方が、しっかりと準備ができて、本番で満足できる演奏ができるように、私もより良いレッスンを心掛けていきたいと思います。
(この記事は、第278号のメールマガジンに掲載されたものです)
今回の「たのしい音楽小話」は、チャイコフスキーコンクールのお話です。
チャイコフスキーコンクールは、4年ごとに開催されますが、これまでにピアノ部門では、ヴァン・クライバーンや、 ウラディミール・アシュケナージなどが優勝し、一躍ピアノ界のトップスターに上り詰めています。日本人では、ショパンコンクールで入賞歴のある小山実稚恵さんが第3位、2002年に開催した第12回では上原彩子さんが優勝しました。
今年開催された第16回は、ピアノ部門が6月17日~29日に、モスクワ音楽院大ホールで行われました。
応募総数は、世界58か国954人だそうですが、今年は開催日程が短縮され、ピアノ部門の参加者は25人に絞られました。そのほとんどが、これまでに国際コンクールでの入賞歴がある方で、いかにレベルが高いかがわかります。
第1次予選では、バッハの平均律クラヴィ─ア曲集から1曲、ハイドンやモーツァルトなどの古典のソナタ1曲(全楽章)、チャイコフスキーの作品1曲、ショパン、リスト、ラフマニノフの練習曲から1曲。第2次予選では、ラフマニノフやロシア5人組、チャイコフスキーなどのロシアの作曲家の作品を1曲以上入れて、自由な選曲で50~60分以内のプログラム。最終予選では、チャイコフスキーのピアノ協奏曲を含む2曲のピアノ協奏曲という課題が出されていました。
日本人の参加者は、ピアノ部門で藤田真央さん、ただ1人でしたが、なんと第2位という、素晴らしい成績を収めました。これは、上原彩子さん以来の日本人入賞者で、日本人男性ピアニストとしては、第1回大会で第7位に入賞した、故 松浦豊明さん以来の快挙となります。
藤田真央さんは、現在、東京音楽大学ピアノ演奏家コース・エクセレンスに在学中の20歳のピアニストで、東京音大学長でピアニストの野島稔さんに師事しているそうです。18歳の時に、 第27回クララ・ハスキル国際ピアノコンクールで優勝されました。
以前から、国内外で演奏活動をされていますが、モスクワ音楽院の大ホールで弾きたかったので、今回のコンクールに参加したのだそうです。順位はあまり期待していなかったそうで、第2位という結果に驚いているとインタビューで答えていました。
コンクールの模様は、インターネットで視聴することができます。最終予選のピアノ協奏曲を聴いてみましたが、とにかく驚くべき素晴らしい演奏で感激しました。
International Tchaikovsky Competition: Final Mao Fujita
どこが素晴らしいかというと、表現の幅がとてつもなく広く、リズム感がものすごく良いところです。
オーケストラの大音量に負けないパワフルさがありながら、勢いなどで弾くという粗さがまったくなく、全ての音を完全にコントロールして、隅々まで表現して弾いている印象を受けました。
最初に演奏したチャイコフスキーのピアノ協奏曲が、こんなに味わい深い音楽だったのかと、改めて楽曲の素晴らしさを感じさせ、とても聴かせる音楽を奏でていました。
音階なども、とにかく滑らかで、音の粒が全てきれいに並んでいて、一音づつ全て聴こえてきて、とても美しかったり、曲の中の場面の移り際が、とても自然なグラデーションのように表現されていて、惹きつけられました。
まだ、あどけなさの残る顔立ちからは、想像できないほどの完成度の高い演奏で、コンクールの会場にいた聴衆が、大きな歓声とスタンディングオベーションで拍手しているのも納得という感じがしました。
2次予選では、拍手が鳴りやまず、次の課題曲がなかなか演奏できなかったり、全ての演奏後には嵐のような拍手と歓声で、カーテンコールが3回も行われたりしたそうです。
ちなみに、今年の優勝者は、フランスのアレクサンドル・カントロフさんで、藤田真央さんと同じく2位には、ロシアのピアニスト、第3位は3人という珍しい結果でした。特にこのような大きな国際コンクールで、3位が3人というのは聞いたことがなく、この点からも、参加者のレベルがとても高かったと言えます。
既に国内外で活躍している藤田真央さんですが、今後はさらに活躍の場が広がりそうで楽しみですね。
ちなみに、来年の秋には、ショパンコンクールが開催されますが、もし藤田さんが参加されるとしたら、日本人悲願の第1号の優勝者になるかもしれませんね。これからも、大注目の若手ピアニストだと思います。
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